児童ポルノのブロッキングに、原口総務大臣「通信の秘密は重い」


 原口一博総務大臣は16日、閣議後の記者会見で、児童ポルノのブロッキングを認める場合の条件について総務省としての見解を述べた。

 児童ポルノのブロッキングとは、あらかじめ用意されたリストに基づいてWeb上の児童ポルノをISPが遮断する手法。最近ではインターネット上の児童ポルノ流通というと、Webだけでなく、P2Pのファイル共有ネットワークも問題視されているが、ユーザーの多いWebにおける児童ポルノの流通防止が見込まれるとして、日本でもブロッキングの導入を求める動きもある。

 ただし、インターネットユーザーがアクセスしようとしている先のホスト名やIPアドレス、URLなど、通信内容の一部を機械的とはいえ加入者の同意なく検知して判定する仕組みのため、通信の秘密を侵害することになる。安易に導入されてしまってよいものではなく、通信の秘密との関係で、ブロッキングが認められる条件について法的側面から議論されている。

 原口大臣は会見の中で、ブロッキングを認める場合の考え方について、2通りあることを説明した。原口大臣によると、警察庁は「法令又は正当な業務による行為は罰しない」とする「正当行為」(刑法第35条)に含まれるのではないかとの考え方だという。

 これに対して原口大臣は、「正当行為だけ言い切るには、通信の秘密というのは、もっと重いのではないか」とコメント。総務省としては、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰しない」とする「緊急避難」(刑法37条)との考え方を示した。

「緊急避難」だと、ブロッキングは限定的?

 民間協議会の「安心ネットづくり促進協議会」は3月、「児童ポルノ対策作業部会」のもとに設けたサブワーキンググループでの検討結果をまとめた報告書を発表。緊急避難としてならば児童ポルノのブロッキングが認められる余地があると結論付けた。ただし、緊急避難にあたる条件として、児童ポルノのあるサーバーが海外にあり、管理者が海外にいる場合あるいは不明な場合など、検挙や削除が困難な場合に限定されることになる。

 一方、別の民間協議会の「児童ポルノ流通防止協議会」も3月、「ブロッキング検討委員会」がとりまとめた「ブロッキングに関する報告書」を発表。ブロッキングが認められる法的側面について検討したが、正当行為にあたるかどうかについては意見が分かれ、緊急避難にあたるかどうかについてはさらなる議論が必要だとし、「引き続き検討が進められることが適当」と結論付けた。

 これらの報告書は協議会ごとに別々にとりまとめられたものだが、実際のところは重複している検討メンバーも多く、会合を合同開催したこともあった模様だ。しかし、通信の秘密との兼ね合いについては異なる結論を出したかたちだ。

 なお、安心ネットづくり促進協議会は、通信・ネット分野をはじめとする民間企業や各種業界団体、保護者団体、消費者団体、教育関係者、学識経験者などで構成。総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」が2009年1月にとりまとめた最終報告で示された方針のもと、民間によるインターネット環境の整備に向けた活動を推進している。

 一方、児童ポルノ流通防止協議会は、警察庁の「総合セキュリティ対策会議」の2008年度報告書の提言を受けて設立された。こちらにもネット企業や通信業界団体、学識経験者らが参加している。今回のブロッキングに関する報告書についても、同会議の2009年度の取り組み状況についての広報資料にも一部添付されている。

 16日の会見で原口大臣は、通信の秘密は絶対に侵してはならないものだとした上で、「そことの法益の考慮ということで、検討を今しているところ」と説明している。前述の2つの報告書では、検挙や削除で対応できない児童ポルノの割合やブロッキングによる流通抑止効果など、導入実績があるとされる諸外国における統計データには触れていないが、「法益」を検討するにあたっては、そうした効果などきっちりと示す必要もありそうだ。

 インターネット上の児童ポルノ対策については、内閣府の「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」が6月上旬をめどにとりまとめる総合対策案に盛り込まれ、7月までに「犯罪対策閣僚会議」で決定する予定。


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(永沢 茂)

2010/4/19 17:28