人名などの異体字もデータ交換可能に、MSなどが「IVS技術促進協議会」発足


「IVS技術促進協議会」の理事ら。6日の設立総会後に開かれた記者会見で

 アドビシステムズ株式会社、イースト株式会社、株式会社ジャストシステム、大日本スクリーン製造株式会社、マイクロソフト株式会社、株式会社モリサワの6社が6日、「IVS技術促進協議会」を発足させた。

 IVS(Ideographic Variation Sequence)とは、例えば人名に使われる「渡邊」の「邊」の字など、漢字のさまざまな異体字を表現するための技術。Unicode(ISO/IEC 10646)が定める字形選択子(Variation Selector)という仕組みに基づいており、Unicodeの一部としてすでに規格化されている。

 こうした異体字は通常、文字コード上は同じ文字としてみなされ、同一の文字コードで表される。IVSでは、文字コードは同じままで、そのバリエーションとして異体字を扱う仕組みだ。どの異体字を指定するかという情報を添えることで、IVSに対応したフォントやアプリケーションがあれば、異体字を入力・表示したり、そのデータをやりとりして異体字をきちんと再現できるようになる。

 国際標準化機構で文字コードを扱う委員会(ISO/IEC JTC1/SC2)の議長も務める、長岡技術科学大学教授の三上喜貴氏が、IVS技術促進協議会の会長に就いた。三上氏によると、Unicodeでは国際標準として約10万字に文字コードを割り当てており、そのコードを指定すれば世界中で同じ文字を表すことができるようになった一方で、日本では、特に人名や出版物で使われる漢字において、それだけでは表せない異体字の問題がまだ残っているという。それに対する解決策が、IVSだとした。


 協議会の副会長を務めるマイクロソフト業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏は、例えば自治体ではまだ使われていることの多い大型コンピューターでは、戸籍などに使われる異体字を「外字」として扱っており、自治体間でデータを引き継いだり、別のシステムで運用しているさまざまな公共サービスと連携できないと説明する。自治体ごとに外字を登録・管理するコストも発生する。

 また、電子書籍のソリューションにおいても、書き手が書いている文字をそのまま読み手に届けるためには、JISで規格化された漢字だけでは足りず、やはり、外字として処理するソリューションが一般的だという。外字は画像データとして扱われるため、アクセシビリティの面でも問題があると指摘する。


IVS技術促進協議会の会長に就いた、長岡技術科学大学教授・ISO/IEC JTC1/SC2国際議長の三上喜貴氏協議会の副会長に就いたマイクロソフト業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏

 協議会では、IVS技術の情報交換や技術者交流、普及・啓発を図るとともに、フォントやOS、アプリケーションにおけるIVSへの対応促進を図りながら、業界として早い時期にIVS技術を使えるようにしていく考えだ。

 なお、IVS用の文字集合としては、アドビシステムズによる「Adobe-Japan1 collection」や経済産業省による「Hanyo-Denshi collection」がすでに登録されているという。Hanyo-Denshi collectionは、7年間にわたり人名に使われる漢字を調査してとりまとめたもので、戸籍に使える文字や住民票登録に使われている文字など、文字コード換算で約2000種、字形ではその2倍強の数の字が含まれており、さらに現在作業中のものも含めると、5000字形がIVSに入る可能性があるとしている。

 また、加治佐氏によれば、IVSの仕組みそのものはすでにWindows 7で動くようになっており、AppleのMac OS X(Snow Leopard)も同様だという。今後、IVS対応フォントの普及とともに、入力手段も拡張されなければならないと述べ、IMEベンダーとして、マイクロソフトもジャストシステムとともに取り組んでいきたいとした。

 一方、フォントベンダーとしては、大日本スクリーン製造メディア&プレシジョンテクノロジーカンパニー副社長の鶴谷佳憲氏が、できるだけ早く対応したいと述べるとともに、出力するシステム側の対応も必要だとし、製品間・システム間における相互運用性の検証を進めることの重要性を指摘した。モリサワ代表取締役社長の森澤彰彦氏は、フォントメーカーとして協議会に参加すると同時に、電子書籍リーダーや組版ソフトでの対応もできるだけ早く進めるとした。

 協議会では、広く会員を募る方針。発起人メンバー6社以外からもすでに非公式の申し込みがあるとしており、当面、20~30社の参加を予定している。


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(永沢 茂)

2010/12/6 14:48