伊集院静氏の提唱で電子書籍レーベル設立、第1弾「なぎさホテル」を発売


伊集院静氏

 株式会社エムアップは17日、電子書籍レーベル「デジタルブックファクトリー」を設立し、第1弾として伊集院静氏の作品「なぎさホテル」を発表した。

 エムアップでは、伊集院氏の「電子書籍にしかできないことはまだまだたくさんあるはず」という提言から電子書籍レーベルの設立に至ったと説明。第1弾の「なぎさホテル」は、伊集院氏が作家としてデビューするまでの日々を描いた自伝的エッセイで、写真家の宮澤正明氏が取り壊し直前のなぎさホテルを撮影した写真を提供。さらに、井上陽水氏が作品の主題歌「TWIN SHADOW」を提供し、活字と音楽、写真、インタビュー映像などを融合させたコンテンツとして販売する。

 コンテンツの提供形態はiPhone/iPod touch/iPad用のアプリで、App Storeで1000円で販売。今後、Android版など他のプラットフォーム向けにも展開していく予定。

iPhone/iPod touch/iPad向けアプリとして販売伊集院静氏と宮澤正明氏

 伊集院氏は、「遊び心がないと電子書籍は広まらないだろう」と語り、活字や音楽、写真、映像を融合させたと説明。7年前に米国の大学を訪問した際に学生が紙の本を持たずにデジタルで資料を参照していたことなどから、いずれ電子書籍の時代が来ると感じ、「電子書籍の時代が来た際には、なるべく早く注目されるコンテンツを出しておこう」と思っていたが、宮澤氏からエムアップを紹介されたことで、今回の話がまとまったとした。

 エムアップは、着うたやデコメなどの携帯コンテンツや、公式ファンサイトの運営などをメインの事業として展開しており、今回の伊集院氏の電子書籍販売を契機に、電子書籍レーベル「デジタルブックファクトリー」を展開していく。

エムアップの美藤宏一郎氏

 エムアップの美藤宏一郎代表取締役は、文字だけでなく映像や音楽など複数のアーティストが参加するコンテンツを想定しているため、印税率を最大55%に設定し、収益を分配できるようにしたと説明。コンテンツの販売価格については、「まだ手探りの状態なので、1000円が高いか安いかはわからない。読者の反応を見て今後を決めていきたい」としたが、「ただし、本来は今の5倍売れたとしても、印税率は20%程度出せるかどうか」という現状だとして、印税率を高く設定したのは将来への期待を含めてのことだと語った。

 伊集院氏は「僕は500円でも300円でもいいと言った。印税率のこともあると思うが、おそらく電子書籍で儲かっている作家はまだいない。記者会見にはこれだけ集まっていただいたが、たぶんそんなに売れないですよ」と笑いを交えて語り、「でも誰かが始めなければいけないわけで、村上龍先生は本当に偉い」と、2010年に電子書籍の新会社「G2010」を設立した村上龍氏を賞賛。伊集院氏も村上氏の電子書籍「歌うクジラ」を読み、「ここに映像もあればさらにいいと感じた」として、宮澤氏に写真の提供をお願いしたと語った。

 今回の作品に提供された井上陽水氏の楽曲は、既にCDとして発売されているアルバムの中の1曲で、こうした楽曲を電子書籍に入れるのは初の試みになるという。こうした楽曲の利用については、JASRACと協議して7%を支払うことが決まったという説明に対して伊集院氏が「最初の試みなんだから、1~2%にしなければ広がっていかない。そういうところが駄目だ」と文句をつける一幕もあった。

 「デジタルブックファクトリー」レーベルでは今後、伊集院氏の次回作「男の流儀入門」や、大衆演劇の女形・早乙女太一やアイドルグループSKE48の写真集などを販売していく予定。


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(三柳 英樹)

2011/2/17 19:54