IIJ、松江データセンターパークとコンテナ型データセンター「IZmo」を公開


 株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は13日、データセンター「松江データセンターパーク」を報道陣向けに公開した。同データセンターは、すでに稼働しており、同社のサービス「IIJ GIOプライベートHaaS」などで利用されている。

松江データセンターパークとは?

松江データセンターパークの外観。コンテナ型のデータセンターだが、従来型データセンターと同じくフェンスがあるなど、セキュリティは変わらない
サービス本部 データセンターサービス部 副部長の久保力氏

 松江データセンターパークは、松江市の中心部の北に位置するソフトウェア関連の工業団地「ソフトビジネスパーク島根」内に設置されたデータセンター。最大で216ラックが収容でき、IIJの大阪NOCと2重化された10Gbpsの回線で接続されている。IIJ GIOを利用した場合、従来のサービスと比べてコストは30%、電力は13%削減できるとしている。

 サービス本部 データセンターサービス部 副部長の久保力氏は、松江“データセンター”ではなく、「松江データセンターパーク」と名付けた理由として、従来型データセンターは建設後の設備の更新や大容量化は困難であったが、松江データセンターパークは、自由にできる点が異なるためだとしている。

 例えば、従来型データセンターでは建物は30年、電気や空調設備は10年から20年、IT機器は2~3年など、それぞれライフサイクルが異なる。従来型データセンターの問題として、「IT機器は進化が早く消費電力が多くなっているが、電源や空調設備が追いついていけない」という点を挙げた。

 松江データセンターパークでは、これらの問題を解決するために電気や空調設備も交換しやすいようにモジュール化を行っている。松江データセンターパークでは、IIJ GIOなどクラウド型のサービスの提供を想定。「クラウドを展開する上で、従来型データセンターだけではリスクがある」(久保氏)として、松江データセンターパークのモジュール化を決めたとしている。

外気冷却に対応したコンテナ型データセンター「IZmo」

 松江データセンターパークの最大の特徴は、IIJが開発したコンテナ型データセンター「IZmo」(イズモ)を採用していることだ。運送がしやすい大きさ、充実した遠隔管理システム、外気を利用した冷却装置、送電ロスを最大限に抑える「2次元MISP」などの技術を盛り込んでいる。

 IZmoは、コンテナ型のモジュールデータセンター。静岡県にてIZmoのコンテナを製造、福島県にてサーバーを設置し松江データセンターパークに輸送している。IIJでは、今のところ46U×9ラックが設置できる「IZmo W」と、42U×9ラックの「IZmo S」の2種類を用意している。

 IZmo Wは、幅3メートル、長さ8.7メートル、高さ3.1メートルあるため、サーバーなどの通信機器は一般的なデータセンターと同じように配置ができる。

 一方のIZmo Sは、幅2.3メートル、長さ9メートル、高さ2.7メートルとIZmo Wよりも一回り小型化している。サーバーを斜めに置いて幅を狭めたほどだ。


「IZmo S」の概略図。幅をなるべく狭くするために、ラックを斜めに配置している

 一般的に考えると、大きさは統一した方が効率がいいが、「IZmo Sは幅が2.5メートル以下のため、通常の大型トラックで輸送できる」(久保氏)という特長がある。運送用トラックの幅が2.5メートルを超える場合、輸送のたびに申請が必要となる。IZmo Sは、幅が2.5メートルを超えないため申請を行わずに運搬ができるというわけだ。

 またIZmoは、サーバーなどを設置するための最小限のスペースしかないこと、機器の障害など重大な事故以外は人が立ち入らないこと、などの条件を満たすため建築物に該当しない。そのため、IZmoを増設する場合、建築基準法に基づく届け出や審査などが不要で迅速な増設が可能だ。

 IZmo内に人が立ち入らなくても運用ができるように、監視システムは従来のデータセンターよりも充実している。IZmoの運用にあたり「IZmo管理システム」を開発。サーバーの遠隔操作だけではなく、各所の温度、消費電力、機器のLEDの状況、電源供給の制御、IZmo内の画像監視など、ファシリティ関連の監視もできる。このように、遠隔での監視や操作が自由に行えるため、松江データセンターパークに常駐するのは8人程度で済むのではないかという。

 コンテナ型データセンターであるため工場で事前に組み立てを行い現地での作業を最小限にとどめられ、輸送や建築基準法に基づく申請などや審査も必要ないため「1000台程度のサーバーも受注から3カ月程度で設置できる」(久保氏)としている。


IZmoの内部。この中での作業は想定されていないので、非常に狭いIZmoの外見。右側がサーバーなどのIT機器が収納されているスペース。左側は空調。1つのIZmoに1つの空調が独立して設置されている

3つのモードで行う外気冷却

 外気冷却は、外気やIZmo内の温度と湿度により3つの運転モードに切り替える。消費電力が少ないのは、単純に外気をIZmo内に吹き込ませる「外気運転モード」だ。ファンを回すだけなので消費電力は非常に少ない。

 外気が冷えている冬の期間も外気運転モードで行えると思われがちだが、実はそうでもない。機器が結露する可能性があるからだ。その場合は、サーバーの排熱と外気を適切に混合して冷却に使う「混合運転モード」に切り替わる。こちらもファンを回すだけなので消費電力は少ない。

 これら2つは外気冷却だが、外気温が高い夏は、さすがに通常のデータセンターと同じくクーラーを使う「循環運転モード」に切り替わる。

 なお、IIJは外気冷却に関して2010年8月に実験を行っている。この際、従来のデータセンターと同じ循環運転モードではIT機器の消費電力は56kW、空調は14kWで、合計70kWとなった。

 同じ機器で、外気運転モードに切り替えた場合、空調の消費電力は4kWとなり、合計60Kwに減少すると想定していた。しかし実験を行ったところ、空調の消費電力は4kWに減少したものの、IT機器の消費電力が62kWに増加した。これは、通常よりもIT機器のファンの回転数が上がり、それに伴い消費電力が増えたことによるものだ。

 現在は、空調の仕組みによる電力消費の削減を行っているが、久保氏は「サーバー側の対応も必要」としている。例えば、現在は25度を超えるとファンの回転数が上がる設定を、30度に変更するというものだ。

送電線の最適化による損失の削減

松江データセンターパークの外見イメージ。中央の長細い建物が電源設備。そこに接続されている長細い建物がIZmoだ

 IZmoでは電力消費の削減を行うとともに、その配線による損失も最小限に抑える技術「MISP」を採用している。従来のビル型データセンターは、電力会社から受電した電気を地下の設備で受けて、各フロアに送電している。その場合、送電線の距離が長くなるため損失が多くなる。また空調は、屋上に室外機を設置して各フロアの空調機に配管しているためここでも多くの損失が発生する。

 しかし松江データセンターパークでは、中央に長細い電力設備を設置し、その両脇にIZmoを設置することで送電線の距離を短くしている。また空調設備は、IZmoに1つずつ設置することで、配管を短くしている。

 松江データセンターパークでは、2つの受電系統から2000kAVを受電。バックアップ電源として、10分間作動できるN+1のUPSとディーゼル発電機が設置されている。ディーゼル発電機には約24時間発電できる重油を備蓄しており、非常時には松江市内の石油会社から優先的に調達できる体制を整えている。

 なお、しばらくは全国的に原子力発電所の停止による電力不足が懸念される。しかし、松江データセンターパークに電気を供給している中国電力は、総発電量に占める原子力発電量は、1割にも満たない。ほかの地域と比べ、消費電力削減の要請や計画停電などのリスクは低いと思われる。

「データセンターパーク」をさらに推進

 IIJでは松江データセンターパークを皮切りに、「データセンターパーク」を推進していく方針だ。松江データセンターパークはその1世代目の考えを具現化したものだ。2世代目では、実効電力20KVAのラック、電気設備などのさらなるモジュール化とインターフェイスの標準化、自然エネルギーの採用、複数のデータセンターパークを建設して互いを連携させて「ネットワークそのものがコンピュータになる日」を目指しているとした。


将来的に松江データセンターパークの拡張を見据えて隣の敷地もIIJが確保している先日、IZmoを松江データセンターパークに運び入れた様子。一般的なトラックに積み込み、クレーンでつり上げフェンスを乗り越え搬入する

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(安達崇徳)

2011/7/14 06:00