Yahoo! JAPANはIPv6にシステム対応済み、ホワイトリスト的に実験提供も
6月6日、世界規模で「World IPv6 Launch」が開催されるのを前に、「Yahoo! JAPAN」におけるIPv6対応について説明するページをヤフー株式会社が公開した。同社では2011年からIPv6の普及・推進のための取り組みを継続しており、IPv6プロトコルへのシステム対応はできているというが、残念ながらWorld IPv6 Launchへの参加は見送ったとしている。
Yahoo! JAPAN IPv6への対応 |
World IPv6 Launchとは、Internet Society(ISOC)が提唱して実施されるイベント。これに参加するウェブ事業者は6月6日以降、実験サイトやミラーサイトではなく、メインサイトにおいてIPv6に恒久的に対応すること(もしくは、すでに対応しており、以降も継続すること)が求められる。これには、GoogleやFacebook、米Yahoo!などが参加表明済み。ウェブサイトが標準でIPv6/IPv4デュアル対応になれば、IPv4接続ユーザーは従来通りIPv4で利用できる一方で、IPv6インターネット接続環境にあるユーザーからはIPv6で参加各社のサービスに接続できることになる。
ヤフーは今回、World IPv6 Launch不参加の理由、すなわちシステム面では対応していながらも実際のサービスではIPv6の標準対応を見送った理由について、「現時点でIPv6プロトコル対応を行った場合、Yahoo! JAPANを利用する日本国内の一部のお客様に少なからず影響が発生することが確認されているためです。影響を受けるお客様に負担をかけない回避策が現在ないため、今回の不参加を決定いたしました」と説明。「IPv6-IPv4フォールバック」問題が背景にあることを示唆している。
この問題は、日本の「フレッツ 光」の環境からIPv6/IPv4デュアル対応サイトにアクセスしようとした際に発生するアクセス遅延などだ。標準でIPv6に対応したOSでは、IPv6/IPv4両方のアドレスが割り当てられている場合、IPv6接続を優先する。しかし、フレッツ 光のユーザーに割り当てられているIPv6アドレスは網内用であり、IPv6インターネットには到達できない。IPv6によるアクセス試行がタイムアウトしてからIPv4でアクセスし直すことになり、ウェブサイトの表示に時間がかかってしまうというわけだ。
IPv6-IPv4フォールバック(「Yahoo! JAPAN IPv6への対応」より画像転載) |
ヤフーがBBIX株式会社と共同で行った実験では、IPv6に対応したYahoo! JAPANの実験サイトに対して、実際にフォールバックが発生する経路でアクセスした場合、おおむね3秒の遅延が発生することがわかったという(代表的なOS、ブラウザーを使用)。また、Yahoo! JAPANへのアクセスのうち、20%以下の割合のユーザーが影響を受けるとしている。
●ソフトバンクBB、AAAAフィルター有/無DNSサーバーを用意
フォールバック問題については、NTT東西とISPが共同で回避策を進めることになっている。具体的には、ISP各社がフレッツ 光の加入者向けに設置している自社キャッシュDNSサーバーにおいて、DNSの応答からIPv6アドレス(AAAAレコード)を取り除いてしまう「AAAAフィルター」という手法だ。ユーザーのアクセス先がIPv6/IPv4デュアル対応サイトだったとしても、ユーザーにはDNSからIPv6アドレスが返って来ないため、IPv6でのアクセス試行があらかじめ防げるという仕組みだ。
ソフトバンクグループのソフトバンクBB株式会社でも1日、World IPv6 Launchに向けた対応について発表し、同社が運営する「Yahoo! BB 光 with フレッツ」「Yahoo! BB 光 フレッツコース」およびIPv4ローミング接続サービスを対象に、DNSサービスにAAAAフィルターを適用することを発表した。
その一方で、AAAAフィルターをかけないIPv6専用DNSサービスを新たに用意。ユーザーがこの専用DNSサーバーのアドレスを追加設定すれば、IPv6でも通信を行えるようにする。提供開始は、6月5日正午からの予定。
なお、AAAAフィルターなどフォールバック対策を実施するその他のISPの情報は、社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)のウェブサイトにある「World IPv6 Launchについてのご案内」のページでもまとめられている。
●BBIX、ウェブ事業者と共同で「DNSホワイトリスト実験」
さらにBBIXでは、コンテンツサービスプロバイダー(ウェブ事業者)におけるIPv6対応を目的とした「DNSホワイトリスト実験」を実施することを、5月30日に行われた総務省の「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」の第19回会合で報告している。
これは、IPv4接続ユーザー向けのDNSサーバーと、IPv6接続ユーザー専用のDNSサーバーの2種類をBBIXが設置。ウェブ事業者は、IPv4向けDNSサーバーにはAAAAレコードを返さず、IPv6専用DNSサーバーに対してのみAAAAレコードを返すように、自社サービス側で区別して設定できるようにするというものだ。これにより、IPv4接続ユーザーにフォールバックが発生しないようにする一方で、IPv6接続ユーザーは、IPv6対応サイトにきちんとIPv6で接続できるようになる。
ウェブ事業者側で自社サービスに対するIPv6での接続の可否をコントロールする手法は、すでにGoogleがWorld IPv6 Launchを見据えて導入する方針を示している。これは、フォールバックによる遅延が発生するような「問題のあるネットワーク」のDNSをリストアップし、それらからのDNSクエリーに対してはAAAAレコードを返さないよう制限することで、フォールバックの発生を防ぐ仕組みだ。Googleではこのリストを誰でも活用できるよう公表するとしている。
Googleの手法が、自社サイトでIPv6を標準的に有効化する一方で、「問題あるネットワーク」のみIPv6での接続を行えないようにする“ブラックリスト”的な考え方であるのに対し、BBIXの実験は、フォールバックが発生しない「問題ないネットワーク」に対してのみウェブ事業者側がIPv6を有効化する仕組みということで、逆に“ホワイトリスト”と表現しているわけだ。
BBIXでは、このDNSホワイトリスト実験を、ヤフーと共同で実施するという。
●World IPv6 Launch参加は見送ったが、Yahoo! JAPANはIPv6推進
ヤフーではこのほか、ウェブビーコンを用いてフォールバックを回避可能か調査する共同実験をIPv6普及・高度化推進協議会と共同で実施することも明らかにした。また、ソフトバンクモバイル株式会社とも共同実験を行い、現在の問題解決のほか、次世代モバイルネットワークにおけるIPv6対応を推進していくとしている。
ヤフーは同社の技術系ブログ「Tech Blog」においても、IPv6対応への取り組みやスタンスを詳しく説明。「今行うべきは現状のIPv6と呼ばれるものそのものの問題を変に煽られず誰かのせいにするのではなく正しく認識し、きちんと向かい合いながら将来のIPv6での解決とそこまでに結び付く現実的な回避策の両方を模索するものと考えています」(Tech Blogの5月23日付記事)とも述べている。
AAAAフィルターなどの対策は、フォールバック問題を発生させないために重要な取り組みだが、あくまでも一時的な回避策であり、根本的な解決にはIPv6インターネット接続サービスの普及が必要との認識は、NTT東西やISP各社など関係者で一致していることは、すでに本誌でも何度か報じた通りだ。ヤフーでも同様の認識を示し、World IPv6 Launchへの参加は見送ったが、日本国内のIPv6普及・推進の取り組みは継続していくとしている。
関連情報
(永沢 茂)
2012/6/4 18:20
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