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来年16Tbpsで運用開始
アジア各国を結ぶ光海底ケーブル「SJC」陸揚げレポート


 日本と東南アジア各国を結ぶ新たな光海底ケーブル「SJC(South-East Asia Japan Cable)」の敷設作業が始まり、陸揚げ2013年の運用開始を目指して進められている。今回、北九州から光海底ケーブルを積んできた海底ケーブル敷設船「KDDIパシフィックリンク」が千倉に着き、陸上のKDDI千倉海底線中継センターまでケーブルを引き込む作業が報道陣に公開された。

 今回陸揚げ作業を担当した船は「KDDIパシフィックリンク」。KDDIの100%子会社、国際ケーブル・シップ(KCS)はこの「KDDIパシフィックリンク」と「KDDIオーシャンリンク」の2隻を所有するが、「KDDIパシフィックリンク」が主に敷設を、「KDDIオーシャンリンク」は保守・修理を担当する。

陸揚げの様子

 船は沖合に停泊し、光海底ケーブルを繰り出し、沖合約1kmくらいからダイバーが光海底ケーブルを海岸の所定の位置に上がるよう誘導する。昔は引き込む局の直線上の所定の位置に船が停泊するのは難しかったが、現在は高性能GPSと2つのスクリューによって決まった位置に停泊し続けることが容易になったという。

KDDIパシフィックリンクは沖合に停泊し、船から光海底ケーブルを繰り出す 先行するロープの先に光海底ケーブルがある。光海底ケーブルの先端には浮き輪と風船が括りつけられている。浮き輪の中央にはシャンパンボトルが
光海底ケーブルの先端が海岸に到着 ケーブルは重機で引き、括りつけた浮き輪やブイは外して回収する
黄色い部分が光海底ケーブルの先端 SJC Cable Systemの字が見える

 陸揚げ後、浮き輪に括りつけられて到着したシャンパン2本がKCS社長 矢田部 亮一氏からKDDI執行役員 ネットワーク技術本部長 湯本敏彦氏と、NEC執行役員常務 手島俊一郎氏に手渡され、ケーブル先端にシャンパンをかけるセレモニーが行なわれた。

 陸上に到着した光海底ケーブルは2台の重機を使って引き揚げるが、方向転換や位置の修正などは人が作業する。約700メートルほど引き揚げ、停泊している船はその後、沖合の方に光海底ケーブルを繰り出しながら40kmほど敷設。そこから先は米TE Subcomが担当。米TE Subcomの光海底ケーブル敷設船が来て、アジアから敷設してきた光海底ケーブルと船の中のクリーンルームで接続する。沖合40kmまでの敷設は、ケーブルを埋める工事も合わせてNECが担当。12月上旬くらいまでかかる見込みだという。

 陸揚げした光海底ケーブルは千倉のKDDI局舎に引き込まれる。海岸線と直交する形でまっすぐ地下の管路を通して局舎の裏側に引き込み、いったん裏庭で8の字に巻いて余長をとって、局舎に引き込む。直線方向に引くのは重機で引っ張れるが、それ以外の方向に引いたり円形にとり回したりはすべて人手で行う。

沖合40kmまでの敷設は12月までかかる見込み 陸揚げした光海底ケーブルを重機で引き上げていく
セレモニーのためにいったんビニールシートの上に光海底ケーブル先端部を置く。シートの向こうに余長を取るための8の字が見える 浮き輪に載せられてきたシャンパンがここで登場
KCS矢田部社長からKDDI湯本氏にシャンパンが手渡される シャンパンをかけるNEC手島氏

 陸揚げされた光海底ケーブルは、局舎の反対側まで引き込んでそこで8の字に巻いて余長を取る。そこから局の管路を通して局舎内に引き込み、接続する。

局舎に取り付けられた赤い目印は、屋上と局舎のすぐ外側の2つ。沖合の船から、局舎から直線上にいるかを確認するためのもの 局舎の白い鉄塔はauの携帯基地局が収容されている
海岸から千倉局舎まで地下の管路を通ってケーブルが引き込まれる 道路をわたって局舎側
局舎の反対側(バックヤード)。光海底ケーブルの先につながっているピンクのロープを重機で引っ張っている 光海底ケーブル部分が見えたところ
さらにウインチで引っ張る ピンクのロープを光海底ケーブルから外す
光海底ケーブルをウインチで引っ張る ウインチで引っ張る先は人海戦術の手作業。左の方の白い丸は、余長を取るための8の字
かなり重そう 8の字に余長を取る。この後、局舎に引き込む

 見学会では、KDDI千倉海底線中継センターの施設見学会も合わせて行われた。

 千倉局舎では、東京電力変電所から2系統、常用と予備という形で引き込む。2系統は別のケーブルで引き込んでいる。2系統がともに止まっても、自家発電装置を持っており、自家発電が切り替わるまで20〜30秒間かかるが、その間はバッテリー給電で無停電で稼働できる。バッテリーは8時間から9時間、長いものは10時間程度持つという。

 ガスタービンが起動するとガスタービン発電に切り替わるが、自家発電装置の燃料の軽油は2つのタンクに備蓄しており、56時間くらい持つ。ちなみに、東日本大震災の際は、東電からの給電は止まらず、安定した電圧が供給されていたという。電力関係の設備をはじめ、すべての機器はN+1ないしN+2の冗長構成が取られている。

端子盤がならぶ通信機室。局舎の心臓部だ 日米間の通信を担うUnityのケーブル。右の白いひもは、SJCの光海底ケーブルを引き込むためのワイヤー
受電盤。手前は予備 ガスタービン発電装置


SJCは初期16Tbit、需要に応じてさらに増速

KDDI執行役員 ネットワーク技術本部長 湯本敏彦氏

 KDDI執行役員 ネットワーク技術本部長 湯本敏彦氏は、「千倉の中継所ができたのは1989年だが、当時は衛星と海底ケーブル半々でなんとかまかなえる状況だった。1990年代後半にインターネット普及が進み、同時に海底ケーブルの技術革新が進んだ結果、世界のトラフィックの大半は、現在海底ケーブルが運んでいる。」と海底ケーブルのおおまかな歩みをまず説明した。

 KDDIが共同出資の形で持っている海底ケーブルは、日米をつなぐ2001年開通のJAPAN-US、2001年開通の日本とアジアを結ぶAPCN2、2008年開通の日本とロシアをつなぐRJCN、2010年開通の日米をつなぐUnityがある。日露をつなぐRJCNについては、ナホトカからシベリアを横断し、ヨーロッパまでつながっており、ロンドンまで最小の遅延時間を誇るという。

 海底ケーブル敷設には巨額の費用が必要になるので、1社だけで敷設することはほとんどなく、関係地域の各国オペレーターと共同出資で行うことになる。今回新たに敷設するSJCは、日本からシンガポールまでをつなぐ総延長約9000kmの光海底ケーブルで、総建設費は約4億米ドルに上る。初期設計容量は16Tbps。光海底ケーブルは12芯で、2本1ペアとして使用する。DWDM(高密度波長多重分割方式)技術により需要増大に伴ってさらに多重化することで増速する。Unityは初期5Tbps程度で運用を開始したが、現在は20Tbpsとなっている。

 共同出資するのは、KDDI(日本)、Globe Telecom(フィリピン)、SingTel(シンガポール)、PT Telkom International(インドネシア)、China Telecom(中国)、China Mobile(中国)、Donghwa Telecom(香港)、BIG(ブルネイ)、TOT(タイ)など各国通信キャリアと、米Googleでコンソーシアムを組む。GoogleはUnityにも出資している。海底への敷設工事はNECと米TE Subcomに発注する。

 2013年4月までには敷設を完了し、その後2カ月ほどかけてDWDMなどのテストを行い、2013年6月ごろの運用開始を見込む。

 SJCの陸揚げ地となった千倉は、2012年に日米を結ぶUnityを陸揚げしたほか、JIHという国内通信の主要幹線となるケーブルも陸揚げしている。今回SJCが敷設され、Unityと接続することで、米国から東南アジアまでがほぼ直線、最短距離で結ばれることになる。この最短距離に一番近いのが房総半島で、距離を短くするのはコストの問題はもちろんだが、遅延を最小にしたいという理由も大きいという。

 日本国内のトラフィックは年間1.2倍増と言われているが、アジアの増加はおよそ1.35倍でトラフィックの伸びが大きいという。こうした需要を受け、過去に敷設したAPCN2が2.56Tbpsから5Tbpsなのに比べ、今回初期16Tbpsで約4倍の通信容量になる。

 敷設ルートについては、台湾沖はかなりケーブルの密度が高く、また震災などで海底土石流の影響を受けやすいという。2006年には台湾沖で震災があり、土石流により20カ所近く海底ケーブルが切断したことがあったため、台湾沖より南寄りのルートを取った。東南アジアでは海底ケーブルが切れたという話は聞いたことがないので、自然災害の影響も少ないと考えられるという。

KDDIが出資する代表的な国際海底ケーブル 2010年に運用を開始した日米を結ぶ海底ケーブル「Unity」の概要
千倉はアジアと米国を結ぶ直線上にある要衝 地球儀で見ると、房総半島が米国と東南アジアを結ぶ直線上にあることがわかる
SJC成立の背景 SJCでは、地震や土石流の影響を避け、より安全なルートを選択
SJCの概要 KDDIは各国事業者と連携して太平洋・アジア域の保守運用にあたる

NEC執行役員 常務 手島俊一郎氏

 また、NEC執行役員 常務 手島俊一郎氏からは、NECの海底ケーブル事業についての説明があった。手島氏はまず、「海底ケーブルは1万kmを超える長距離国際通信に用いられ、最大8000mの深海に敷設され、800気圧という高い水圧環境下で25年間継続的に利用できることが求められている。従って、海底ケーブルにおいては世界最高水準の光伝送技術と高信頼性の確保が非常に重要になる」と海底ケーブルの概要を説明。

 NECはこうした海底ケーブルシステムを過去40年間提供してきたが、この間に通信容量は飛躍的に増加、20年前と比べると約3000倍の伝送能力を実現している。40GbitのDWDM技術により、テラビット級の大容量伝送が実現可能となっており、今回のSJCではこの最新技術が適用されている。

 NECは光海底ケーブルの機器を国内で製造。海底ケーブルはOCC海底システム事業所(福岡県北九州市)で、海底中継器と分岐装置をNEC山梨でそれぞれ製造する。海底ケーブルシステム供給においては、世界3大ベンダーの1つで、これまで敷設してきたシステム総長は20万kmに及ぶという。

 今回のSJC敷設でNECは、千倉の陸揚げのほか、フィリピン沖からシンガポールまでの本線と、各国への陸揚げ部分、合わせて4400kmの敷設を担当。なお、NECはUnityの建設も請け負っている。


局舎の廊下に展示されていたNEC製の海底中継器(Repeater)
海底ケーブルシステムの図解 NECの海底ケーブル建設実績と適用技術
NECが関わった直近の海底ケーブルプロジェクト SJCのNEC担当区間



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(工藤 ひろえ)

2012/11/22 14:16