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Androidスマホ30台をWiFiで数珠つなぎ、2.5kmの距離でデータ伝達に成功

 東北大学大学院情報科学研究科は21日、スマートフォンのWiFi機能だけを使い、仙台市内の約2.5kmの市街地区間でデータを伝達する実験に、加藤寧教授・西山大樹准教授らの研究グループが成功したと発表した。

スマートフォンのWiFi機能だけでメッセージリレーを行ったルート。西公園(画像左下)の端末から、仙台駅前(画像右下)の端末宛てに送信した

2つのネットワーク形成技術を自動的に切り替え

 スマートフォン端末のWiFi機能を数珠つなぎのようにしてネットワークを形成し、マルチホップでデータを送信できるようにしたもの。端末の状況に応じて、モバイルアドホックネットワーク(Mobile Ad hoc NETwork:MANET)と、遅延許容ネットワーク(Delay Tolerant Network:DTN)という2つのモードを自動的に切り替える点が特徴だ。

 MANETでは、経路を形成した上でデータを転送するため、すぐに到達するという利点がある半面、端末の接続関係・位置関係がほぼ一定の環境でないと利用できないという欠点がある。一方DTNは、受け取ったデータを各端末が一定時間保持しておくことができ、次の端末に接続できるようになった時点でデータを渡す仕組みだ。端末の接続関係・位置関係が激しく変化する環境でも利用できるが、いわばバケツリレーのようになるため、データが到達するまでに時間がかかるという欠点がある。

 研究グループは、これら異なる性格を持つ2つのネットワーク形成技術を補完するようなアルゴリズムを開発し、試作アプリに実装した。スマートフォンの加速度センサーからの情報を利用して移動が激しくなったのを検知するとDTNモードに切り替わるほか、周辺に他のスマートフォンが存在しない場合もDTNモードになる。また、今回採用している方式ではDTNモードの方がMANETモードよりも電池の消費が少ないため、スマートフォンの電池残量が少なくなった場合もDTNモードとなる。

 ユーザーが操作することなく、これらのモードを自動的に切り替えるとともに、MANETモードとMANETモード、MANETモードとDTNモード、DTNモードとDTNモードという3通りの組み合わせすべてでスマートフォン間の通信を行えるようにしている。

 実験では、各スマートフォンに固定IPアドレスを割り当て、このIPアドレスによるアドレス帳を用意。送信されるメッセージは、宛先スマートフォンのIPアドレスの情報に基づいて、MANETとDTNとが融合したネットワーク上でリレーされていくことになる。

 宛先IPアドレスまでの間に、DTNモードで通過しなければならない区間がある場合は宛先までのホップ数が不明だが、宛先までMANETモードのネットワークが形成されている場合は、複数経路あるうちのホップ数(中継端末数)の少ない経路を自動的に選択するアルゴリズムも備えている。

WiFi電波やスマホの混雑エリアでも利用可能

 研究グループが2月18日に行った実験では、メッセージの送信元となるスタート地点のスマートフォンから宛先となるゴール地点のスマートフォンまで約2.5kmの道のりに、スマートフォン30台を用意。このうちゴール寄りの10台が比較的近い間隔で配置され、MANETモードでネットワークを形成している。一方、スタートから20台はDTNモードとなっており、そのスマートフォンの保有者が必要に応じて次のスマートフォンに向かって移動しながらデータを受け渡ししていった。送信から受信まで5分以上かかったが、メッセージの伝達に成功した。

メッセージの送信端末(左)、リレー端末(中)、受信端末(右)

 今回のルートは、仙台市中心部の大通りや交差点、アーケード商店街やオフィス街などを通過するルートが設定された。すでに2月8日には大学構内での実験に成功していたが、WiFiアクセスポイントやスマートフォンユーザーが密集しているエリアでは、マルチホップによるデータ伝達が困難との懸念があったのだという。こうした環境の市街地でもマルチホップ通信が可能であることを実証できたとしている。

 なお、DTNモードについてはオープンソースの実装を用い、端末がデータを保持(遅延を許容)する時間は24時間に設定されていた。また、実験ではほぼ1列にデータの受け渡しを行ったが、実際は複数の端末が周辺に存在する状況もあるため、すべての端末にDTNモードでデータを渡してゴールまでの到達可能性を少しでも上げるのか、あるいはデータを渡す端末の台数を制限してトラフィック増加を抑えるのかといった効率面での調査も必要だとしている。

災害時でも有効、1〜3年後の実用化を目指す

 今回の実験は、総務省の受託研究事業である「災害に強いネットワークを実現するための技術の研究開発」の一環として行ったもの。携帯電話の基地局が被災したエリアや電波圏外のエリアで応急的なネットワークを構築できるほか、そこでデータを受け取った1台のスマートフォンがインターネット接続可能なエリアに移動した際に、保持していたデータを宛先に送信することも可能になる。今回の実験ではスマートフォンのWiFiで構築したネットワーク内でのデータ伝達だったが、試作アプリではインターネット宛にメールを送信する機能も備えているという。

 研究グループでは、これまでに技術の理論・基礎についての検討が完了したとしており、今後、基礎技術や応用技術を確立しながらシステムの最適化や大規模実験を行い、1〜3年後に自治体や法人での実用化を目指す。

 なお、実験で使ったのは市販されているAndroidスマートフォン「GALAXY S III」で、これに試作アプリをインストールしたもの。ただし、Androidスマートフォンでは現時点でWiFiのアドホックネットワークに対応していないため、ルートを取得した上でインストールするかたちだった。一般ユーザーにおける実用化に向けては、AndroidスマートフォンにおけるWiFiアドホックネットワークの標準化なども前提になるとしている。

(永沢 茂)