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楽天・三木谷社長、Amazon対抗策や堀江氏、アベノミクスを英語で大いに語る

 新刊洋書「Marketplace 3.0」を執筆した楽天の三木谷浩史社長が2日、東京・有楽町の外国特派員協会で会見し、同書で紹介している「次世代マーケットプレイス」像を語るとともに、3月28日に仮釈放となった旧ライブドア社長の堀江貴文氏や、最大の競合となるAmazonへの優位点、「アベノミクス」への期待などについて英語でスピーチした。

 以下、主な発言をまとめる。

楽天が描く「次世代マーケットプレイス」

 Marketplace 3.0は、我々の世界での位置付けを再考するために執筆した。コンセプトは「ルールを書き換える(rewriting the rules)」。出版社は「ルールを破壊する(breaking the rules)」にしたかったようだが、日本では攻撃的すぎると判断してこのテーマに落ち着いた。

 いずれにしても、Marketplace 3.0というタイトルにあるように、本書では我々の組織が外国のIT企業と全く性質が違うことを伝えている。楽天市場のモデルはユニークで、哲学的にも概念的にもグローハルな競争相手と異なるということを踏まえた内容だ。

 それでは、Marketplace 3.0とは何か。我々は中小規模の店舗に対して、いかに力添えできるかを考え続けてきた。インターネットを使ってビジネスを「壊す」のではなく「支える」。楽天はコラボレーションを重視し、店舗を中心に据えている。

Marketplace 3.0とは

「バザール」の楽天と「自販機」のAmazon

 これに対して、競合他社のビジネスモデルはどうか。特に欧米各社のサービスは自動販売機のようなモデルだと考えている。利便性が高く、競争力もあるが、どこかに冷たさがある。商品の購入段階では、人と人のかかわりをほとんど感じることがない。

 楽天はバザールのような体験をもたらしている。店舗ごとに明確な特徴があり、差別化された商品が展開され、店舗と利用者の間には対話がある。店舗は単に商品を提供するだけの存在でない。私達は、店舗と利用者の巨大なネットワークを確立している。

 これこそがMarketplace 3.0だ。これまでのネットショッピングは、効率性ばかりを重視してきた。いかに発送を潤滑にするか、いかに安く商品を販売できるかなどだ。これらはネットショッピングの一部でしかなく、もっと猛烈な体験があるべきだ。

 だからこそ我々は店舗の育成にも力を入れ、本物さながらのショッピングアーケードを確立した。その結果、住宅地にあるような小さな店舗も出店し、Amazonと比べても商品が安い。楽天はAmazonと十分戦えるプラットフォームを展開している。

社内英語化が「次世代マーケットプレイス」を支える

 それでは、どのようにMarketplace 3.0を実現するか。その一環として、社内公用語を英語に切り替えた。経団連からの批判もあるが、正直「放っておいてくれ」というのが本心。私たちは英語化を進めた結果、企業文化も変わった。今では、日本で採用した技術者の半分は外国人だ。

 英語でコミュニケーションが図れるようになれば、ステージを1つ上げられる。こうしたことから、若い社員だけでなく年上の社員も英語を勉強するようになり、社員7000人のTOIEC平均スコアが200点以上も上がった。これは驚異的な成果だが、まだまだ改善できる。ちなみに、新卒採用社の平均スコアは827点だ。

楽天社員のTOEIC平均点の推移

 楽天では創業当初から、グローバル展開を視野に入れてきた。いつか巨大企業が日本に進出して競合になると考えていたし、実際にそうなりつつある。我々としては、グローバルで実現可能なビジネスモデルをまず日本で確立し、それを世界で展開する。そうすれば、GoogleやAmazonが来ても成長し、シェアを獲得し続けられる。

 我々は「楽天経済圏戦略」として、ECだけでなくクレジットカード、オンライントラベルなど、1人の顧客に対して複数のサービスを提供し、「楽天スーパーポイント」を通じてクロスセルを実現している。グローバル化という意味では、マーケットプレイスに加えて、アフィリエイトや電子書籍など新たな事業領域も各国で展開中だ。

企業買収のルールも書き換える、最大の失敗はTBS

 楽天は企業買収のルールも書き換えてきた。過去の買収では成功したものもあるし、そうでなかったものもある。一番うまくいかなかったのはTBS、失敗したのは認める(笑)。私たちは従来の放送局のビジネスモデルを刷新し、魅力あるコンテンツやサービスを提供できると信じていた。ただ、やはり失敗だったかもしれない。

 こうした失敗はあるものの、国内ではオンラインバンキングやオンライントラベルを買収し、全体の95%の買収は成功した。その要因は「企業文化の共有」だ。楽天は買収した企業には、必ず私達のところに来てもらい、フェイスツーフェイスでコミュニケーションを図っている。買収先企業の社員にも、「一楽天社員」と感じてもらうためだ。

 企業買収時には戦略やビジネスモデルはもちろん重要だが、我々がいかに個性的な企業であるかを伝えるようにしている。例えば、火曜朝には社員が会社を清掃していて、私もデスクやイスを拭いている。もちろん清掃会社にも頼んでいるが、これは我々の神聖なしきたりのようなもの。

堀江貴文氏の仮釈放は「喜んでいる」が、法的に許されないこともある

 楽天では、「企業文化を書き換えるためのルール」として5つを掲げている。

 1つ目は、「常に前進する、常に改善する」ということだ。日本の「カイゼン」という考え方は非常に強烈なコンセプト。特にIT業界にとっては重要と考えている。1つのサービスを改善することが、結果的に全体的なサービスの質の向上に伝播するためだ。

 2つ目は「プロ意識を持つこと」。IT業界では最近、堀江貴文氏が仮釈放されたニュースが話題になったが、個人としては喜んでいる。というのは、彼が受けた刑罰は重すぎると感じていたから。いずれにしても、プロ意識を高く持たなければならない。インターネットサービスに境界はないが、法的に許されることと、許されないことの境界があいまいだ。とはいえ、高い倫理意識は持たなければならない。

 3つ目は「仕組み化」。つまり、PDCAのサイクルだけでは不十分だということ。新しい体系が必要だ。4つ目は言うまでもなく「顧客満足度を最大化すること」、そして5つ目は「スピードを保つこと」だ。

 Marketingplace 3.0の最終章では、「新しいコミュニティへの関与の波」ということについても触れている。私は福島の原発事故の後、10億円あまりを寄付した。楽天グループも数十億ドル相当の寄付をした。消費者も楽天スーパーポイントを使うなど独創的なやり方で寄付してくれた。我々はソーシャルな活動も必要という考え方。ちなみに、Marketingplace 3.0の印税はすべて被災地に寄付することにしている。

企業文化を書き換えるための5つのルール

アベノミクス「競争力強化」はやり方次第で大きな危険も

 アベノミクスについて私が感じていることを話したい。まずは、何をやろうとしているのかというと、3本の矢として「金融緩和」「財政出動」「競争力強化」が挙げられている。その中でも3番目、つまり競争力を高めることが一番大変だろう。

 やり方は2つある。まずは伝統的な日本のやり方だが、政府が多額の予算を助成金として付けること。次は、規制緩和。市場を開放し、世の中のイノベーションを促すやり方だ。特定分野に予算を投じる前者の方法には、大きな危険をはらんでいる。結果的には、モラトリアム的な状況を発生しかねないので、私としては規制緩和を強く擁護している。

 昨日、インターネットを活用したコミュニケーションを再定義する書簡を政府に提出した。日本にはインターネット活用を妨げる非公式なガイドラインをいくつも設けている。その代表的なのがネット選挙。安倍さんも賛同しているが、今年夏の選挙にはネット選挙が導入されると思う。

 また、日本では遠隔医療が禁じられているなど、非公式なガイドラインが存在することでインターネットが十分に活用できない状況。こうした分野にこそ大きな潜在力があるにもかかわらず、いわゆる古典派の人は躊躇している。安倍首相に対しては、インターネットが対面あるいは書式に代わるコミュニケーションの方式と認めてもらいたい。

大学入試や国家公務員試験にTOEFL導入を

 以下は報道陣との質疑応答。

――海外からの企業誘致についてはどう考える?

 外国企業の誘致は必要。証券分野でも日本進出を考えている企業は多い。企業誘致によって世界中から日本に有能な人材を集められるが、そこで一番大きな課題となるのが日本人の言語能力だ。この問題を解決するには、まずは大学入試や国家公務員試験にTOEFLを導入する必要がある。

――市販薬のネット販売をめぐっては最高裁判所が1月、厚生省による規制は違法と判断した。今後、オンラインでの医薬品販売の規制緩和をどう進めていくべきか。

 市販薬のインターネット販売に関する規制は、意味を成さない馬鹿げた枠組み。最高裁の判決内容を見ると、厚労省がもう一度裁判に持ち込むことはないと思うが、馬鹿げたことがこの国では起きているのでわからない。こちらとしては、可能な限りプレッシャーをかけ続けたい。

――日本で企業買収を成功させるためには何が必要か。

 我々が多くの外国企業を傘下にできたのは、楽天が日本企業ではなく、日本に誕生したグローバル企業だから。例えば、特別なキャリアパスの人物しかトップになれないこともない。その点、かつてのソニーはオープンで、多くのメーカーも後に続いた。しかし、過去20年間は国内が内向きで保守的。今こそ多様性を取り込んで、この動向を変えるべき。多様性は人種だけではなく、女性のエグゼクティブも必要だ。本当の意味での多様性を歓迎してきたからこそ楽天は成功した。

――為替変動は楽天のビジネスに影響があるのか。

 1ドル78円の時代では海外企業を安く買収できた。今は94円に近づいているので、海外資本の売却に投じる資本も増えるが、逆に見返りも大きくなる。従って、安定さえしてくれればいい。経済が潤えば楽天のビジネスは伸びるが、たとえ経済が悪化しても影響はない。不景気時に消費者は価格に敏感になる。我々は価格競争力があるため、リーマンショック後も売り上げが落ち込まなかった。

日本人起業家がグローバルで成功する証になりたい

――三木谷氏が経団連を脱退した理由は?

 最終的な決定打となったのは電力問題。日本では発電から送電まで1社が独占している。
本来は発電、送電、配電を切り分けるべきだが、この考えに経団連は強く反対したり、やみくもに原子力発電を支持する姿勢もあった。経団連は大企業を保護する立場にあり、すべてが保守的。私たちは起業家精神を持っているからこそ、新経済連盟を組織することになった。

――安倍首相はデフレ脱却に注力しているが、楽天市場のビジネスモデルは価格破壊を起こしていないか。

 インターネットは間違いなく需給制御に最適なツールで、本当の実需要を生み出している。実店舗で「100円で1つ」とECで「90円で3つ」なら後者を選ぶ。名目上の需要では意味がなく、ECは消費者市場を活性化すると思っている。

――楽天CEOとしての最終的な目標は?

 非常に難しい質問。楽天は利益を出しているが、社会に対して良い行いができる企業になりたい。楽天はマーケットプレイスのビジネスモデルを確立し、中小企業の事業を促進している。これが我々の理念の基本だ。もしかしたら、Amazonを完全に打ち負かすことはできないかもしれないが、できる限りの手を打ちたい。また、日本の起業家がグローバルでも成功できる証になりたいとも思っている。

(増田 覚)