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衆議院を通過したネット選挙解禁法案、メールは部分解禁でややこしい点も

 インターネットを使った選挙運動を解禁する公職選挙法改正案が、12日の衆議院本会議で可決された。選挙運動で使用できる文書図画としてウェブサイトなどを追加するもので、候補者や政党だけなく、第三者である一般有権者もSNSやブログなどを使って自身の応援する候補者への投票を呼び掛けるなど、ネット上での選挙運動あるいはその逆である落選運動を行うことが可能になる。一方で、電子メールについては今回、第三者には解禁されず、候補者と政党のみに限定された。

 ネット選挙解禁にあたって政治家などが懸念していた誹謗中傷に対しては、ネット上の選挙運動用文書図画に情報発信者の連絡先の表示を義務付けることで対処する。連絡先としては、メールアドレスのほか、インターネットで連絡可能な手段が該当し、例えばFacebookなど、SNSでは自身のアカウントで投稿していれば自動的に連絡先を示しているかたちになる。

 ただし、ウェブサイトなどにおける連絡先の表示義務は、違反しても罰則はない。表現の自由を考慮した上で、ネットユーザーに責任ある情報発信を促す意図があるという。

 一方で、プロバイダー責任制限法に特別規定を設け、候補者などからプロバイダーに対して、名誉毀損に当たる情報の削除を求める申し入れがあった場合、対処を迅速化できるようにする。申し入れを受けたプロバイダーは、その情報の発信者に対して削除依頼に同意するかどうか照会する手順をとるが、通常であれば情報発信者から7日間回答がなかった場合に、プロバイダーはその情報を削除しても免責されることになっている。これを、公職選挙法改正の特別規定で2日間に短縮することで、限られた選挙運動期間中にできるだけ削除対応できる環境を整える。あわせて、メールアドレスなどの表示義務に違反している情報も、同意照会なしにプロバイダーが削除しても免責される。

 もちろん、候補者などが名誉毀損だと申し入れた情報がすべて削除されるわけではない。情報発信者から回答があっても、名誉毀損ではないから削除に応じないと主張することも当然ながら考えられ、その場合は裁判所に判断を求めなければならない可能性もある。また、海外のプロバイダー経由で行われた情報発信では、日本のプロバイダー責任制限法を適用するのが難しいという面もある。

 このほか、やはりネット選挙解禁にあたって懸念されているなりすましへの対策としては、現行の虚偽表示罪の対象として、インターネットを使った虚偽表示行為も追加する。罰則は、禁錮2年・罰金30万円以下。

 電子メールによる選挙運動については、送信元として候補者および政党のみが認めらる。電子メールは密室性が高く、誹謗中傷やなりすましが横行しやすいと判断した。一方、送信先は、受信者が自ら選挙運動用メールの送信を求めたメールアドレスなどに限定される。第三者による使用や、勝手に送り付ける行為は違反となり、禁錮2年・罰金50万円以下の罰則がある。

 また、候補者や政党が送る選挙運動用電子メールには、選挙運動用メールである旨や送信者の氏名、送信拒否を行う際の連絡先などを表示する義務がある。違反は、禁錮1年・罰金30万円以下の罰則。

 なお、ここで言う電子メールとは、広告メールなどを規制する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」での定義にのっとる。具体的には「その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式」または「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」(同法に関する省令より)。前者はSMTP方式、後者は電話番号方式あるいはSMS(Short Message Service)方式と呼ばれる。

 今回、第三者の選挙運動についてウェブサイトなどが解禁され、例えばTwitterやFacebookなどのSNSが使えるようになると言われているが、SNSで提供しているメッセージ機能には注意が必要のようだ。公職選挙法改正案を審議した「衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」の審議でも指摘された。

 例えば、Facebookで提供している「Facebookメッセージ」では、「ユーザー名@facebook.com」形式で外部との送受信が行えたり、Facebookメッセージをメールに転送しているユーザーもいるだろう。Facebook上では他の投稿などと統合されて見えるため、送受信したメッセージが電子メールに該当するかどうかあまり意識されることはないかもしれない。うっかりメッセージを送信したり転送したりすると、公職選挙法違反という可能性も考えられるわけだ。

 さらには、そもそもFacebook側が技術情報を公表していないことから、Facebookメッセージが「その全部又は一部において」SMTPを用いているかどうか不明との指摘もあった。

 このほか、選挙運動用サイトのURLだけを記したメールは選挙運動用メールに該当するのか、候補者・政党が送信する場合でもメール配信業務を行う担当者や秘書が送信する場合は第三者に該当するのかどうかなど、疑問も多い。改正法の施行に向けては、一般有権者および候補者・政党がインターネットを使った選挙運動・落選運動を行うにあたって注意すべき点や判断材料となる指針をFAQとしてとりまとめる予定だ。

(永沢 茂)