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DMM、秋葉原をハードウェアスタートアップの聖地にする開発・検証施設を解放
5軸CNCマシン、1GHz対応オシロなど、総額5億円のすごい設備が使える
(2014/10/31 17:39)
株式会社DMM.comは、ハードウェアスタートアップを対象とした開発・検証・オフィススペースを備える施設「DMM.make AKIBA」を11月11日に開設する。実際に大手メーカーなどで使われている装置・機器など総額5億円の設備を開放。10月31日より利用者の募集を開始した。
DMM.make AKIBAは、富士ソフト秋葉原ビル内の3つのフロアに設けられており、合計で2000平方メートルの敷地面積を有する。ビル10階には、ハードウェアの開発から、環境試験、量産試作、小ロット量産までを行う「DMM.make AKIBA Studio」、12階には、シェアオフィスやイベントスペースを提供する「DMM.make AKIBA Base」、11階には、資金面から開発まで幅広い相談に応じる「DMM.make AKIBA Hub」を設置する。
Studioには、目的別に14の部屋を用意しており、3Dプリンター、3DCAD(CATIA V5/Rhinoceros)、5軸CNC(コンピュータ数値制御)切削加工マシン、生基板から電子部品を実装するマウンターなどの最新の開発機材に加え、熱衝撃や恒温恒湿、荷重破壊、水圧試験、電波暗室などの各種試験設備、技術基準適合やHDMIの試験を行える試験機、塗装やシルク印刷機などを設置。そのほか、PSEやEMC、技適などの各種認証向けプリテストもでき、量産を目的としたハードウェア開発に必要な機材約150点を設置している。
専属スタッフが常駐し、操作に一定の知識や技術が必要な設備についてはスタッフがサポートする。また、操作に関するワークショップを受講し、ライセンスを取得することで、設備を利用者自身が操作することもできる。もし、機材を破損してしまった場合でも、利用費に保険が組み込まれており、故意の破損以外は補償される。利用は、時間帯別に予約可能で、1週間程度の長時間予約も可能。
Baseでは、開発者のためのオフィススペースを用意しており、登記や所在表記、郵便受取などの法人業務に対応する。スペースは、3人用、6人用の個室を用意。また、最大80人ほどが同時に利用できるフリーアドレスエリアを設けており、情報交換のためのコミュニケーションスペースとしても利用できるほか、各種イベント/セミナーのためのスペースとしても使用できる。
イベントスペースには、60人が着席できるスペースとプロジェクターを完備しており、セミナーや新製品発表会を開催することができる。また、イベントスペースには、バーカウンターを備え、飲食を交えたコミュニケーションの場としても活用できる。正式オープン後には、スペース内で飲食提供するサービスを予定している。
Hubは、オリジナルのハードウェアを開発するにあたって相談したいという利用者向けにコンサルティングを行う窓口。3Dプリント設備を活用した造形コンサルティング、部品の選定や工場の選定などの製造コンサルティング、プロトタイピング資金や起業資金の調達相談など、ハードウェアビジネスを展開するために必要なノウハウを利用者に提供する。Hubは、ほかの施設と比較して外に向いており、会員でなくても予約するだけで相談することができる。
料金(税別)は、Studioのみの利用で初期費用3万円、月額料金は1万5000円となっている。Baseは、フリーアドレスで初期費用4万円、月額料金2万。3人用の個室は、初期費用24万円で月額12万円、6人用の個室は初期費用48万円で月額24万円となっている。また、StudioとBase(フリーアドレス)のセットの場合、初期費用は6万円、月額料金は3万円となる。なお、11月10日までの事前登録に申し込むと、初期費用と2015年1月までの月額利用料が無料となる。
CerevoとABBALabがDMM.make AKIBAに移転
DMM.make AKIBAへの入居企業第1弾として、株式会社ABBALab、株式会社Cerevoが10月31日に移転した。あわせて、DMM.make AKIBAと共同で、ハードウェアスタートアップ支援を展開する。
ABBALabは、IoTハードウェア分野のスタートアップ企業やエンジニア向けに支援プログラム「ABBALab Farm プログラム」を提供する。プログラムの対象者は、製品のプロトタイピングや適量生産モデルの開発など、必要な資金、活動拠点、スキル教育などの支援を行う。そのほか、製品プロモーション目的のデモイベントや大量生産時の大規模メーカーとのアライアンスもサポートする。また、プロダクトを作れる人を「フェロー」として認定し、スタートアップへの調査協力や技能教育を実施。作りたい人と作れる人のマッチアップを行う。
なお、ABBALabはIoTを主眼としているが、ほかの支援プログラムもスタート予定で、DMM.make AKIBAとしては、ほかのプログラムにも声がけしたり、新しいプログラムを立ち上げる予定。IoT以外にもさまざまなハードウェア開発に利用できるとしている。
Cerevoは、DMM.make AKIBA導入機材の技術監修を実施。Cerevoの開発機能をDMM.make AKIBAに移転し、導入設備を活用することで、製品開発の品質向上や開発期間の大幅な短縮を見込んでいるという。DMM.comが施設や機材を提供、起業する際の資金はABBALabが提供し、製品の製造ノウハウをCerevoが担う。また、造形設備をDMM.comが運営し、電子機器設備はCerevoが運営する。
DMM.comは、ハードウェアスタートアップが2020年に向けて最も急激に成長する市場と見込み、3Dプリントサービス「DMM 3D プリント」、ハードウェア開発に関する情報コミュニティ「DMM.make」などを展開してきた。DMM.make AKIBAの開設により、ハードウェアスタートアップにとってハードルの高い高価な設備や資金・技術面での支援など、ハードウェア開発に必要な環境をトータルで提供することで、日本のものづくりにおける開発プラットフォームとして展開するとしている。
ハードウェアスタートアップを躊躇する人の言い訳をすべて潰せた
DMM.comは31日に記者発表会を開催。株式会社DMM.com 3Dプリント事業部企画営業プロデューサーの吉田賢造氏が登壇した。吉田氏は、5億円ほどの設備を整備した理由として「採算度外視の面もある」としつつ、ハードウェアスタートアップの成長性をにらみ、中途半端な施設を作るより、最初から最大規模の施設を設置することで、ハードウェアスタートアップを目指す人を囲い込む狙いがあるという。DMM.comとしては、スタートアップの製品を自社の流通網を使って提供するなどビジネス面も見すえるが、5年後にエースクラスのスタートアップが2~3出てくるのが最大の期待値とした。
株式会社ABBALab代表取締役の小笠原治氏は、日本にはいろいろなものを作れる人がたくさんいるのだが、実際に作るというところに一歩足を進める人が少ない現状に対して「作らない言い訳をなくす」をテーマにしている。小笠原氏は、「電子工作で終わらせないでください」として、「せっかくの技術を職場で、務めているところでとどめないで欲しい」とコメント。いろいろな試作を積み重ねた商品でも出荷されずに終わってしまうこともあり、DMM.make AKIBAで発露してほしいとした。
小笠原氏は、ウェブ界隈やスタートアップベンチャーが集う「awabar」のオーナー。DMM.make AKIBAも、定期的に開かれるイベントなどで、自分で作ったガジェットを見せびらかしたり「たまり場」としていろいろな人に来て欲しいとした。
株式会社Cerevo代表取締役社長の岩佐琢磨氏は、秋葉原をハードウェアスタートアップの聖地にできないかと、小笠原氏や吉田氏に相談していたところ、興味を示して実現に至ったという。また、Apple製品を見ても、ゼロからパーツを作るのではなく、既存のパーツを組み合わせていかに世に中にない製品を作ることができるかが重要としたが、組み合わせるには、試験機器や計測機器などの設備が必要で、ハードウェアスタートアップの障壁になっていた。
また、世の中のハードウェアスタートアップを支援している施設でも、本職エンジニアの人が見ると「オシロスコープのクロックが低い」「スペクトラムアナライザーのクロックが……」などといった言い訳を聞くことがあるという。DMM.make AKIBAでは、その言い訳を潰せるだけの設備をそろえた。スマートフォンの基板のような超高密度での実装も可能なほか、数百台の量産ならできてしまう設備をそろえているとしている。
なお、DMM.make AKIBAの構想が出たのは今年2月からで、実際に動き始めたのは5~6月と急ピッチでの準備となったようだ。秋葉原を選定したのは、電子パーツを確保しやすく、最新のガジェットも集まるほか、そういったハードウェアに詳しい、興味のある人が集まりやすいからという。また、富士ソフト秋葉原ビルを選定した理由として、スタジオなど機材が置きやすく耐荷重の許容幅も大きいことや、富士ソフトが今回の事業に理解があったからだとした。また、利用者が増えた場合などスペース拡充も今後検討していくという。