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「VLC PlayerでDVDを見たら違法」となる恐れも、TPPに伴う著作権法改正で

 一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)は23日、TPP協定に伴う著作権法改正に関して文化庁に提出した意見書を公表した。著作物の利用を管理するための技術的手段としてDVDやデジタル放送などに用いられている“アクセスコントロール”について、これを回避する行為自体を著作権法で規制することがTPPで求められていることに関し、「国民の情報へのアクセスや表現の自由の毀損につながる恐れがある」と指摘。下記のような行為については、権利者に不当な不利益を及ぼさないアクセスコントロール回避行為として例外規定を設けるよう求めている。

  • オープンソースソフトウェアなどを用いた情報アクセスのための回避行為
    - LinuxやVLC PlayerでのDVD/Blu-ray視聴
  • 視聴を目的とした複製のための回避行為
    - DLNAなどのネットワーク経由での視聴
    - スマートフォンやタブレットでの視聴
  • 引用や批評、二次創作を目的とした回避行為
    - テレビ放送、DVDやBlu-rayのキャプチャ
  • 機器やソフトウェアの安全性チェックを目的とした回避行為
  • ユーザーが自分の機器で自由なソフトウェアを動作させるための回避行為
    - jailbreakingやrootingのような管理者権限取得行為
  • 技術の互換性や相互運用性を保つための回避行為
  • 解除技術が提供されなくなったコンテンツやソフトウェアを利用するための回避行為
  • 不正告発のための回避行為

 MIAUによると、日本の現行の著作権法にあるアクセスコントロール回避規制は、あくまでもアクセスコントロールを回避して行う「複製」に対してのもの。例えば「DVD Decrypter」を使い、DVDのアクセスコントロールを回避してMP4ファイルなどに書き出すことがこれに該当。私的目的の複製として認められる範囲からは除外され、違法とされている(複製権の侵害)。いわゆる“DVDリッピング違法化”として、2012年の著作権法改正で追加された規制だ。

 これに対し、「VLC Player」を使ってDVDを視聴することは、複製ではないために違法とはならない。また、現行の著作権法では、著作物を見たり聞いたりする行為そのものは規制できないという。著作権の分類の中に、それに対応する支分権(複製権、演奏権・上演権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権など)は設定されていないためだ。すなわち、アクセスコントロールを回避する行為自体は支分権侵害に当たらない。

 しかし、TPPでは、そうした支分権が存在しないにもかかわらず、アクセスコントロールを回避する「行為」を規制することが盛り込まれており、複製の有無は問わない「単純回避規制」となっている。

 「そのままだと、VLC PlayerでDVDを見ることは、正式にライセンスされていないdeCSSを使ってアクセスコントロールを回避することになるため、規制の対象になる。つまり、VLC Playerを使ったDVD視聴行為は著作権法違反になる。」(MIAU)

MIAUの意見書(一部)

 一方で、TPPに伴う著作権法改正の制度整備のあり方について議論している文化庁・文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会では、「著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備については、研究開発など一定の公正な目的で行われる、権利者に不当な不利益を及ぼさないものが制度の対象外となるよう、適切な例外規定を定めること」との方針を示している。

 MIAUでは、DVDをVLC Playerで見ることなどは「権利者に不当な不利益を及ぼさないもの」であると主張。文化庁に対して、上記のような「権利者に不当な不利益を及ぼさない」行為について、アクセスコントロールの単純回避規制の例外規定として定めるよう求めたかたちだ。

コンテンツの批評や引用など、著作権法で認められた用途においても、アクセスコントロールによって著作物を利用することができない状況を解決する必要があります。また、技術進歩は急速であり、今後自動車や家電など、従来はそう見なされていなかった機器でもコンピュータ化、ネットワーク化、ブラックボックス化が進んでいます。また技術革新に伴って、コンテンツの新たな用途や利用形態が開拓されることも想像に固くありません。これらに伴い、アクセスコントロール回避の新たな形態が求められるようになる可能性は非常に高いと考えられます。その上では例外規定を制定する上では、個別規定ではなく、包括的な一般規定を定めることが適当です。

 意見書ではこのほか、TPPに伴う著作権法改正の項目が権利保護の強化につながるものばかりであることから、著作物の利用を促進する側面でバランスをとる規定を国内立法で同時に整備する必要があるとも指摘。フェアユース(権利制限の一般規定)の導入を訴えている。

(永沢 茂)