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“デジタル教科書”の課題とこれから〜デジタル教科書教材協議会のシンポジウムより

 “デジタル教科書”と言われるが、その定義や位置付けはまだ決まっていないことをご存じだろうか。東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏は、同氏が座長を務める「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」のミッションについて、「まず、デジタル教科書の位置付けに関する検討会議にどういう検討が必要か検討し、その後、専門家集団に委ねていくこと」と表現する。同氏も参加して2月22日に行われた、デジタル教科書教材協議会(DiTT)によるシンポジウム「教育のグランドデザイン2045〜成果発表会」の模様をレポートする。

(左から)DiTT事務局長/NPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏、DiTT専務理事/慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏、DiTT参与/日本教育情報化振興会の片岡靖氏
(左から)東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏、ベネッセ教育総合研究所の新井健一氏

デジタル教科書の制度化にかかわる、これまでの主な方針・提言

  • 「学校に置いて多様な情報端末でデジタル教材等を利用可能とするため、デジタル教材等の標準化を進める」(第2期教育振興基本計画(2013年6月14日閣議決定))
  • 「いわゆる『デジタル教科書』の位置付け及びこれに関連する教科書制度の在り方について専門的な検討を行い、来年中に結論を得る」(「日本再興戦略」改訂2015 - 未来への投資・生産性革命 -(2015年6月30日閣議決定))
  • 「著作権の在り方などの課題について専門的な検討を行う」(これからの時代に求められる資質・能力と、それを培う教育、教師の在り方について(2015年5月14日教育再生実行会議第七次提言))
  • 「デジタル教科書・教材の位置付けや、これらに関連する著作権を含めた制度に関する課題を検討し、必要な措置を講ずる」(世界最先端IT国家創造宣言(2015年6月30日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部全部改定))
  • 「デジタル教科書・教材の位置付け及びこれらに関連する教科書検定制度の在り方について、有識者会議において専門的な検討を行い<後略>」(知的財産推進計画2015(2015年6月19日知的財産戦略本部決定))
  • 「デジタル教科書・教材の位置付け及びこれら関連する教科書検定制度などの在り方<後略>」(規制改革実施計画(2014年6月24日閣議決定))

山積する課題と進む議論

 検討会議におけるこれまでの議論は、広範に及ぶ。まず、デジタル教科書の使用による効果・影響についてだ。デジタル教科書は、紙の教科書にはない動画・音声が使えるほか、拡大や書き込みができるため、学びの充実が期待できる。一方、書く力・考える力の習得につながらない可能性や、長時間利用による依存の心配、視力や脳の発達等に悪影響はないのかなど、保護者からの不安の声を含め議論してきた。「学びの充実も認めつつ、悪影響を心配する保護者も多い。学校外でゲームやスマホを使っていることと、学内で端末で学習することを混同しているのでは」(堀田氏)。

東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏

 デジタル教科書とは、コンテンツ、ビューアー、OS、ハードウェアのうち、コンテンツのみを指すのか。コンテンツ、ビューアーの標準化は必要か。これも、デジタル教科書の位置付けが決まっていないがゆえの課題だ。

 デジタル教科書の内容と検定の問題もある。そもそも、紙の教科書とデジタル教科書の内容は同一であるべきなのか。細かいところでは、写真・画像の拡大、文字色の変更、音声読み上げ、リフロー機能などを加えても、内容が同一なら改めて検定を経る必要はないか。英語の音声教材の必要性は高いが、動画・音声の検定は困難ではないか。教科または単元などの学習内容の特性によって、デジタル教科書の普及の優先度に差を付けるべきか、という問題もある。

 検討会では、少なくとも当面は紙の教科書との併用制とすることが適当と考えているという。では、現在は紙を主たる教材として利用しているが、今後は紙とデジタルのどちらが主になるのか。発達段階によって紙とデジタルの割合を変えるべきかについても議論してきた。

 「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」では、「義務教育諸学校において使用する教科書の無償給与」「一定期間(4年間)における同一の教科書の採択義務」「教科書発行者の指定」とされており、無償で同一の教科書を給与しなければならない。しかし、紙とデジタルの両方を無償措置とすることは困難であり、デジタルの費用が保護者負担となる場合は、特に低所得家庭において何らかの予算上の措置を検討すべきか、という問題もある。同様に、デジタル教科書の制作者は紙の教科書の発行者のみと考えるべきかどうか。著作権の権利制限のあり方として、掲載保証金制度の適用/配信による供給などに対応するための著作権の権利制限が必要か、という問題もある。

 導入時に情報端末とネットワーク環境が整備されているかも大きな課題だ。供給方法は、DVDなど配信方法、デジタル教科書の価格など、決めていかねばならないことが山積みだ。

ポイントは法の改正

 DiTT専務理事/慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏は、2015年のDiTT提言が「教育情報化推進法の制定を」だったと説明。「関連法などを改正してデジタル教科書を正規化し、1人1端末、無線LAN、全教科のデジタル教科書の整備などを施したい」という。同時に、クラウド/ソーシャル/ビッグデータの利用を推進すべきと考えている。具体的には、インフラを整備し、セキュリティ対策した上でクラウドを利用したり、教育SNSを利用するイメージだ。ポイントは法の改正だという。なお、教育情報化推進法案要綱は、シンポジウム後にサイト上に全文公開されている。

教育情報化推進法案要綱(PDF)
http://ditt.jp/office/DiTThouan_201602.pdf

 DiTT参与/日本教育情報化振興会の片岡靖氏は、学校における個人情報について解説。東京都の「事業活動と個人情報」によると、個人情報とは「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含みます」とある。ただし、独立行政法人等法および都条例では、照合に際して「容易」かどうかは問わないとある。「自治体と教育委員会や学校における情報セキュリティポリシーも異なるため、取り扱いの難しさにつながっている」と説明した。

 中村氏は、「現在のタブレットやクラウド、SNSなどのスマート教育を進めて、いずれはIoT教育にまで進めていきたい」という。スマート教育のインフラ整備と先導の両方をしなければならないと考えるが、インフラ整備のためには、中古パソコンの流通、教材の配信機構、今の著作権法を前提にしても問題なく使える著作権処理機構を作りたい考えだ。

 コストがかさむが、「電波利用料で賄えないか」と考えている。電波利用料はこれまで地デジ整備に使われてきており、すでに集まっている700億円のうち余剰の300億円を使えないかと考えているというわけだ。ただし、それにも法改正が必要となる。

 ベネッセ教育総合研究所の新井健一氏は、「『クラウドはセキュリティ上の不安から利用は控える』など、普及を阻んでいることはほぼ都市伝説」とした。

 デジタル教科書においては、検討すべき点は多数ある。著作権など、法を改正するのは簡単ではない。すぐにできることは何で、慎重に考えなければならないことは何かを考えているところだ。「デジタル化は遅れてるが、学力は一定の基準にある。教育力の強みは生かしながらデジタル化もしていく」(堀田氏)。

DiTT参与/日本教育情報化振興会の片岡靖氏
ベネッセ教育総合研究所の新井健一氏

最先端のIoT教室を作りたい

 最後に、DiTT事務局長/NPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏が、先日行われた「2045年 未来の学びを考えるアイデアソン」で出てきた学びのアイデアを紹介。小1から中3までの子供たちから、20〜60代の大人までのさまざまなユニークなアイデアが並んだ。

 大人は現実的なものも多かったが、子供たちからは、「有名人と勉強できる」「昔の人と学べるからやる気になる」「他の人と意見共有できる」などのほかに、「学校に行かなくても家が学ぶ環境になればいい」「家庭教師したり一緒に遊んだりしてくれるロボットを1人1台持つ」という夢のある話が多く出たという。

 DiTTが始まって5年、世の中もIoTなどと言い出してきた。中村氏は、「子供にとってはロボットもIoTもドローンも当たり前だが、学校はコミュニケーションの場として必要という。彼らにそのような場を用意して委ねればいいのでは、最先端のIoT教室は作れるのでは、と考えている。2020年デジタル教育特区として、開発したら技適マークがなくてもすぐに使え、普通では扱いづらい教材も使えるといいのでは」とまとめた。

DiTT事務局長/NPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏
DiTT専務理事/慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏

(高橋 暁子)