自然災害とIT活用に関する国際会議「Big Tent 2012」仙台で開催

ソーシャルメディアとオープンデータのさらなる活用が議題に


 Googleの主催による、自然災害とIT活用に関する国際会議「Big Tent 2012」が2日、宮城県仙台市で開催された。

宮城県仙台市で開催された自然災害とIT活用に関する国際会議「Big Tent 2012」

 昨年発生した東日本大震災では、Googleが開発・提供した「パーソンファインダー」が安否情報確認に利用されたほか、様々な企業や団体によるIT技術を利用した災害救助が注目を集めた。「Big Tent 2012」は、こうしたIT技術を活用した被災地における支援の計画と管理、安否情報へのアクセスなどをテーマにした国際会議で、国内外の有識者により講演やパネルディスカッションが行われた。

 午前中のセッションでは、情報を実際の救援活動に活用した事例として、ニュージーランドのクライストチャーチ地震で学生ボランティアチームの指揮管理にFacebookやGoogleマップを使った例や、東日本大震災で被災地が必要としている救援物資をAmazon.co.jpの「ほしい物リスト」を使って募集した例、ヤマト運輸株式会社による被災地への物資輸送の状況などが紹介された。

 アマゾンジャパン株式会社渉外本部本部長の渡辺弘美氏は、当初は県庁と話をして物資を届けようとしたが、県の単位では各地で必要としているものを完全には把握できておらず、各避難所などに直接必要としているものを尋ねてリストを作成する形に切り替えたと説明。リストを作ったことをツイートしたところ、秒単位でほしい物リストのアイテムが購入済みになっていったことに本当に驚いたと語った。

 また、平等性の問題から「ほしい物リスト」を使うことをためらった事例もあったことを紹介し、平等性よりも緊急性の方が重要であることをもっと強調すべきだったかもしれないと説明。また、災害時においては、競合企業同士も協力しあえばさらに効率的に支援ができるのではという会場からの問いかけには、「理想としてはそうだが、現実には難しい。支援でもある意味、各社が競争しあっていたような状況だった」「各企業がどのような活動を行っていたのかといった記録を、政府のような機関が一元的に残しておくことで、後で役に立つかもしれない」といった意見が挙がった。

(左から)MITメディアラボ副所長の石井裕氏、アマゾンジャパンの渡辺弘美氏、クライストチャーチ・スチューデント・アーミー創設者のサム・ジョンソン氏、ヤマト運輸の田中従雅氏

 災害時のソーシャルメディア活用について考えるセッションには、Twitter日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、ウシャヒディのコミュニティエンゲージメントディレクターであるヘザー・レーソン氏、株式会社ソーシャルカンパニー代表取締役の市川裕康氏、インターニュース・ヨーロッパのエグゼクティブディレクターであるマーク・ハーヴェイ氏が参加。被災者支援ポータルサイト「Sinsai.info」にも用いられた、情報の可視化を行う地図アプリケーション「ウシャヒディ」に関する説明や、震災当日のTwitterの状況の紹介、ソーシャルメディアが果たすべき役割についての議論などが行われた。

(左から)ロイターのジェレミー・ワグスタッフ氏、ウシャヒディのヘザー・レーソン氏、ソーシャルカンパニーの市川裕康氏、Twitterの近藤正晃ジェームス氏、インターニュース・ヨーロッパのマーク・ハーヴェイ氏

 午前中のセッション終了後に行われた記者会見で、Googleのパブリックポリシーコミュニケーション担当上級副社長を務めるレイチェル・ウェットストーン氏は、「午前中のセッションでは、データへのアクセスを災害時の救済にいかに役立てるかということが多く話題に上った」と振り返り、「世界的には、データへのアクセスは例えば政府によって統制されている国などもある。こうした状況を変えていくためには時間がかかるということも理解しているが、そのための活動を行なっている」とコメント。データをいかに公開・共有していくかが、災害時のIT活用では重要だと語った。

 基調講演を行った国連事務総長特別代表防災担当のマルガレータ・ワルストロム氏も、オープンデータの活用の重要性を強調。インド洋津波災害以来、関係各国や国連などにより津波の早期警戒態勢が構築され、死亡数を減らすことができたとして、「人々の災害時における知識や経験はとても役に立つものであり、オープンデータの活用はその価値をさらに押し上げていくもの」と語った。

 Twitter日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏は、「今回のBig Tent 2012はたいへん重要な会議。これだけネットが普及した国で、この規模の災害が起きたのは初めてのことではないかと思う。その中で、IT技術を防災にどう役立てていくかのかは、我々に課せられた重要な役割だ」とコメント。政府のIT戦略本部に設置された「IT防災ライフライン推進協議会」に近藤氏もメンバーとして参加していることを紹介し、「日本の教訓をガイドラインとして、今後の防災対策に反映していくとともに、世界の防災に貢献できることに期待している」と語った。

Googleのレイチェル・ウェットストーン氏国連事務総長特別代表防災担当のマルガレータ・ワルストロム氏
Twitter日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏会場内では、被災前・被災後のGoogle Earthの衛星写真をマルチスクリーンで見ることができる装置の展示や、パーソンファインダーのデモなども行われた

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(三柳 英樹)

2012/7/3 11:43