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Evernote連携アプリ開発コンテストのキックオフイベント開催

~「それを開発することで少しでも生活を良くするもの」を

 Evernoteが主催するアプリ開発者向けのイベント「Evernote Devcup 2013 Kick off in Tokyo」が、4月17日に都内で開催された。Evernote連携アプリ開発コンテスト「Evernote Devcup」に関する説明会という位置付けで、2011年から始まった同コンテストの開催は今年で3回目。米Evernote本社のCEO フィル・リービン氏らが来日し、コンテストの目的や連携アプリ開発のポイントなどを丁寧に解説した。

 なお、すでに4月1日から作品の応募を受け付けており、締め切りは6月28日。優秀作品には賞が贈られるほか、コンテストのファイナリストに選ばれた開発チームはサンフランシスコにあるEvernote本社での無償援助のもとプロジェクトに専念できるという特典も用意されている。

「Evernote Devcup 2013 Kick off in Tokyo」イベント開始前の会場の様子。さまざまな展示物が会場を彩る

当たり前にやっていることを少しでも改善するようなアイディアを

 最初に登壇したのはEvernote Japanのジェネラルマネジャーである井上 健氏。今回のキックオフには事前に700名の応募があり、抽選の結果参加が認められたのはその半数以下となる300名ほどとのことで、Evernoteの人気とコンテストへの注目度の高さが伺えた。簡単な挨拶の後、Evernote CEO フィル・リービン氏が登場し、イベントの本格的な開幕となった。

Evernote CEO フィル・リービン氏
Evernote Japan ジェネラルマネジャー 井上 健氏

 デベロッパーやパートナーと会うために世界各国を飛び回っているというフィル氏だが、「日本に来ると家に帰ってきたように思う」とやや持ち上げ気味に切り出しつつ、参加者である日本の開発者たちにコンテストの目的、アプリ開発にあたっての重要な考え方などを語った。

 まず、自身が経験したEvernoteの立ち上げについて、「起業するということは旅に出るようなものである」と表現。Evernoteによって世界は賢くなり、世界が賢くなっていくということは、1人1人の個人にとってもう1つの頭脳ができあがるということを意味するという。日常生活においても、仕事においても、いずれはEvernoteを第2の頭脳として活用できるようにするのが目標であるとし、その目標に向かって数多くの開発者やパートナーと一緒にEvernoteを取り巻く世界を作り上げていきたい、と話した。

 現在のEvernoteのユーザー数は世界で5000万人超。そのうち日本国内のユーザーは500万人で、毎日10万人ずつ増えている状況という。10万人という数は、「世界で最も大きなスタジアムでも収容しきれないほどの規模。そんな大勢の人たちが毎日使い始めているというのはエキサイティングだ」と語り、その多くのユーザーが何をしたいのか、何を望んでいるのかを考えた時、単に今あるEvernoteそのものではなく、その将来性やポテンシャルに期待しているはずであって、その期待に応えるためには開発者やパートナーの力が必要だと訴えた。

 なお、5000万人のうちの500万人ということは、世界全体の10%を日本国内のユーザーが占めている計算になる。しかも全アクティブユーザーの20%が日本のユーザーとなっており、非常に高い割合で日本のユーザーがEvernoteを利用しているようだ。日本のユーザーから得られる1人当たりの平均売上金額も、アメリカやその他の国と比べて約2倍に達しているという。

 このように積極的にEvernoteを利用するユーザーが多い日本では、関連アプリや製品の開発で成功する確率も高いということが言える。その日本で受け入れられるプロダクトを作ることができれば、世界においても通用するはずだと太鼓判を押した。

 次に、同氏は今回の「Evernote Devcup 2013」における賞や特典について説明。ファイナリストの勝者は9月にサンフランシスコで開催される「The Evernote Conference」で発表されるが、それ以外にも、さまざまなカテゴリー別の賞や、「Evernote Accelerator Program」という特別なプログラムも用意していることを明らかにした。

 「Evernote Accelerator Program」では、コンテストのファイナリスト6チームを選出し、およそ1カ月間、サンフランシスコにあるEvernote本社の実践的な環境でアプリ開発を進めることができるというもの。必要な旅費、生活費、移動にかかる費用などはすべてEvernoteが負担し、実際にEvernoteの社員が仕事をしているのと同じスペースで活動できる。プロジェクトを進める中で必要になれば、Evernoteのエンジニアやデザイナ-、マーケティング担当者らに意見を求めることができ、ベンチャーキャピタルとの交渉や、日々Evernoteの社員らが交流している多くの起業家たちとも出会いもある。アイディアを存分に発揮してプロジェクトを完遂するだけでなく、起業家としての“旅のスタート”を切るチャンスにも恵まれた場所であるとしている。

 最後に、「Evernote Devcup 2013」に応募するアプリのアイディアがまだ思いついていない人に向けて、「全く新しいオリジナルのものを考えなければならないと思いがちだが、それは事実ではない」と釘を刺した。Evernoteを開発しようとした際も、物事を記憶しやすくし、活用するという仕組みは昔から他にもあったことを引き合いに出し、オリジナルでなくても、「それを開発することで少しでも生活を良くするもの」であればいいという。

 そして、これから1週間は日常生活で自分が何をやっているか観察し、他の人が当たり前のようにしていることにも注目してほしい、と注文した。多くの人々がその行為自体を好んではいないが、毎日やっているようなことを考えて、それが少しでもよくするアイディアがないかどうか考えるべきだとし、結果的に今回のコンテストへの応募を通じ、Evernoteが人々の生活をより賢く、よりよくするための手助けをお願いしたいと語り、講演を締めくくった。

ユーザーインターフェイスやAPIの使いこなしが評価のポイントに

Evernote パートナーリレーション担当ディレクター 佐藤 真治氏

 次に登壇したEvernote パートナーリレーション担当ディレクターの佐藤 真治氏は、応募や開発の参考になる内容としていくつかの情報を公開した。EvernoteのAPIを他のアプリから利用するためのキーの発行数は現在2万ほどとなっており、実際に2000種類ものアプリが稼働しているという。

 また、他のクラウドサービスでは公式アプリ向けにはクローズドなAPIを、一般アプリ向けにはそれとは異なる公開用のAPIを別に提供している場合があるが、Evernoteでは自社アプリ・コンテンツであっても一般アプリと同じAPIを使っているとのこと。これにより、APIになんらかの問題があった際には即座に気がついて改善できるとしている。

連携アプリのための2万のキーが発行済み。2000ものアプリが実際に稼働している
技術情報やSDKの提供サイトのほか、他の開発者と議論できるコミュニティサイトも紹介

 「Evernote Devcup 2013」では、最優秀賞として表彰されるゴールド賞、シルバー賞、ブロンズ賞という3つの他に、カテゴリーごとの賞として特定のライフスタイルに焦点を当てた賞も用意。Best App for Business、Best App for Design/Inspiration、Best App for Developer/Technicalなど、計12種類のカテゴリーがあり、さらにその中からファイナリストが選ばれ最優秀賞が決定することになる。

 ファイナリストの6チームは「Evernote Accelerator Program」に参加し、サンフランシスコのEvernote本社で1カ月間活動できる機会が与えられ、広範なサポートを受けながらプロジェクトを進められる。

最優秀賞はゴールド賞、シルバー賞、ブロンズ賞として計3つのアプリに授与
12のカテゴリーごとの賞も用意される

 コンテストの審査では、「デザイン」、「Evernoteプラットフォームの効果的な利用」、「利便性」、「コンセプトの面白さ」という4点が重視されるという。1つめの「デザイン」については、そのアプリが問題を解決するためにどれだけスマートな設計、見映え、使い勝手になっており、高い完成度に仕上がっているかがポイントとなる。審査する側としては、“ユーザーにとってものすごく意味をもつ”ユーザーインターフェイスやユーザーエクスペリエンスを気にしているという。

 2つめの「Evernoteプラットフォームの効果的な利用」においては、EvernoteのAPIをいかにうまく使いこなしているかで判断される。Evernoteでは常に新しいAPIを追加しており、それらを有効活用しているかどうかも評価の対象になるようだ。

 3つめの「利便性」については、これがなければ生きていけない、と思えるような便利に感じる部分があればあるほど評価が高く、最後の「コンセプトの面白さ」では、問題の解決方法がいかにユニークで、これまでにあったものと差別化を図れているかが重要になる。

「Evernote Accelerator Program」では一切の費用負担、条件なしにさまざまなサポートを受けながら開発できる
審査基準の柱となるのは、デザイン、プラットフォームの効果的な利用、利便性、コンセプトの面白さの4つ

 過去の受賞作品なども参考例として提示。2012年の受賞作品として「Everclip」、「Beesy for iOS」、「Bubble Browser」の3本を挙げ、それぞれが受賞することになった理由などを解説した。また、2011年には「Notable Meals」というアプリが受賞候補となったが、最優秀賞としてはあえて選ばず、別枠でプロジェクトを詰めていき最終的に「Evernote Food」として公開するに至ったことも紹介した。

第2回受賞作品の「Everclip」
同受賞作品の「Beesy for iOS」
同受賞作品の「Bubble Browser」

 このことから、必ずしも受賞することが唯一のチャンスではなく、それ以外でも可能性は無限にある、と佐藤氏。「開発者のみなさまがすばらしい製品を作ってもらうことがゴール」と話し、3回目の開催となる同コンテストへの参加を強く呼びかけた。

グローバルパートナー2社が決定。開発者からのアドバイスも

 引き続き佐藤氏がナビゲーターとして進行し、コンテストやEvernote Accelerator Programにグローバルパートナーとして協賛するベンチャーキャピタル2社を紹介した。1社はNTTドコモの100%出資会社であるドコモ・イノベーションベンチャーズで、もう1社はホンダの研究開発部門の1事業であるHonda Silicon Valley Labとなっている。

ドコモ・イノベーションベンチャーズとHonda Silicon Valley Labの担当者

 ドコモ・イノベーションベンチャーズの担当者は「Evernote Accelerator Programを通して開発者とどのように協業していくのがよいのかしっかり学び、ドコモにとっての第2のEvernoteも発見したい。それが日本企業だったら最高」と発言。一方のHonda Silicon Valley Labの担当者は「クルマの中や外で使って、クルマがどんどん楽しくなるアプリを一緒に考えたい」とし、自動車がもともと備えているスピードや振動などを検知するセンサーの情報を得られるAPIとEvernoteのAPIを組み合わせることで、次世代の新しいサービスを創造したいと意気込んだ。

 最後に一般の開発者4名を壇上に招き、アプリ開発における気構えなどを対談形式でざっくばらんに聞く形となった。コンテストに応募するうえでの考え方として開発者らからは、「多くのユーザーはシンプルなものを求めているので、そこを重視すべき」という意見や、「コンテストだからといって奇をてらわない方がいい」というアドバイス、あるいは「誰のためのアプリなのかをよく考えてデザインすること」、「最初から完璧を求めないこと」、「自分のイメージしているものと、実際にできたものとの差異をしっかり把握すること」といった実経験に基づいた貴重なアドバイスも飛びかった。

開発者4名と佐藤氏との対談形式で、来場者にアドバイス

 同コンテストの今後のスケジュールとしては、締め切りとなる6月28日の後、8月2日にカテゴリー賞の発表、8月16日にファイナリストの発表、9月に最優秀賞が発表され、10月には「Evernote Accelerator Program」が実施される運び。これから応募するとした場合でも2カ月以上の猶予がある。アプリ開発や起業、Evernote本社でのプロジェクト遂行に興味のある人は応募を検討してみてはいかがだろうか。

Evernote関連製品を販売しているパートナー企業の展示も多数

(日沼 諭史)