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選挙の候補者が名誉毀損情報の削除をISPに依頼する際の書式を用意

 公職選挙法が改正され、インターネットを使った選挙運動用文書図画の頒布が解禁されることを受け、通信業界団体などで構成する「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」は8日、ウェブ上における候補者の名誉毀損情報の削除(送信防止措置)手順などをまとめたガイドラインを公開した。候補者や政党がプロバイダーに対して、自身の名誉毀損にあたる情報の削除を求める際の書式も用意している。

 公職選挙法の改正では、候補者に対する名誉毀損情報への対策として、プロバイダー責任制限法に特例を設け、プロバイダーによる削除対応が迅速に行えるようにした。従来、一般的な名誉毀損やプライバシー侵害などについては、被害者から削除要請を受けたプロバイダーが、その情報の発信者に対して削除に同意するかどうか照会する際、7日間の回答期間が設定されていた。期間内にプロバイダーに対して回答がなかった場合は、発信者の同意を得ずに該当情報を削除しても、プロバイダーは発信者に対する損害賠償責任を免れる。

 これに対して選挙運動用(あるいは落選運動用)にかかわる文書図画に関しては、7日間を待っていては選挙が終わってしまうことも考えられることから、特例により回答期間を2日間に短縮した。

 また、インターネットで選挙運動用文書図画を頒布する際には、電子メールアドレス等のインターネットで連絡を取れる連絡先の表示が義務付けられている。これが正しく表示されていない名誉毀損情報については、候補者などから削除要請を受けたプロバイダーが該当情報を削除したとしても、発信者に対する損害賠償責任を免れる。

 協議会が今回公開したガイドライン「『公職の候補者等に係る特例』に関する対応手引き」は、従来よりある名誉毀損・プライバシー関係情報の削除手順などをまとめたガイドラインの別冊にあたるもの。削除要請を受けた際に、それが公職選挙の候補者(または代理人)であることや、削除を要請している情報が選挙運動用文書図画に該当することなどを確認するステップが追加されている。

 例えば、選挙運動用文書図画とは、選挙の公示・告示日から投票日の前日までの期間に頒布された情報とされているため、削除要請のあった情報がこの期間中にウェブに公開されたものか否かを、SNSなどの書き込み日時やタイムスタンプなどの情報をもとにプロバイダーが確認しなければならない。

 選挙期間前に掲載した情報が選挙期間中にもそのまま継続して公開されていたとしても、選挙期間中に頒布したことにはならないが、これを更新したり引用するなどした場合は、選挙期間中に頒布したものと考えられるという。このあたりは、プロバイダーにとって明確に判断できない場合も出てきそうだ。

 このほか、電子メールアドレス等が正しく表示されていない名誉毀損情報だとして削除要請があった場合は、プロバイダーが実際にその情報のURLにアクセスした上で確認する必要があるとしている。

 一方、プロバイダーに削除要請を行う候補者や政党は、具体的にどの選挙に立候補しているのか、名誉毀損情報が掲載されている場所(URLなど)、掲載されている名誉侵害情報の内容、名誉が侵害されたとする理由(被害状況など)を記載した通知書をプロバイダーに送信する必要がある。また、電子メールアドレス等が表示されていない場合はその旨を、正しく表示されていない場合は、例えば「記載された電子メールアドレス(xxxx@abc.ne.jp)に2日にわたり何度か送信しても、その度に『Host Unknown』のメッセージが戻ってきました」というような状況も説明する必要がある。

 なお、削除要請した名誉毀損情報が特例の対象となる要件をすべて満たしたとしても、それがすべてプロバイダーによって削除されるわけではない。情報の発信者から削除要請を拒否するとの回答があった場合は、当事者間で裁判所に判断を求めなければならない可能性も出てくるため、必ずしも選挙期間中の迅速な対応が行われるわけではない。

 また、サーバーが海外に設置されている場合や、検索エンジンのキャッシュが残っている場合など、従来から削除要請への対応が難しい事例については、公職選挙法の改正・特例によって解決されるものではなく、依然として難しい状況にあることに変わりはないとしている。

 協議会に参加している通信業界4団体は、改正公職選挙法の概要や今回策定した手引きに関して、通信事業者向けの説明会を5月27日に東京で、6月10日に大阪で開催する。また、4団体のうちの1つである一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会は、特別講演会「インターネット選挙運動解禁で選挙はどう変わる」を6月1日に東京で開催する。現在、参加者の申し込みを受け付けている。

(永沢 茂)