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“すまいのIoT”でLIXILと坂村健教授がタッグ、2017年にコンセプトハウスを建設
(2015/12/3 06:00)
株式会社LIXILは2日、住生活におけるIoTの活用に向けた「LIXIL IoT House プロジェクト」を開始すると発表した。
東京大学大学院情報学環ユビキタス情報社会基盤研究センター長の坂村健教授の協力のもと、実証実験施設となるコンセプトハウスを2017年に施工予定。プロジェクトでは、社員モニターを活用した実生活での検証や、理想モデルに基づく実証実験施設での検証などを通じて、住まいにおけるIoT活用を模索するとしている。
同プロジェクトでは、一度設置することで30~40年使用されることの多い住宅用設備や建材と、日進月歩のIoT関連テクノロジーを組み合わせ、陳腐化すること無く、適切なメンテナンス下で長く使い続けられる、センサーを組み込んだ建材の実用化を検証する。また、IoT住宅に住む人のプライバシーの保護、災害などの非常時でも使用できること、設置・使用が容易に行えることを目指す。
プロジェクトの第1フェーズとして予備実験や検証実験を実施。20棟の社員モニターで、センサーを設置する箇所の最適化や、データ取得・分析方法、IoTに関連する機能やサービスの検討などを行う。また、既存の設備を利用してIoTの研究・実験棟を設置する。ここでは、センシング技術の開発や、IoT建材の開発と検証、住環境制御の研究を行う。
第2フェーズとして、坂村氏のIoT住宅の理想モデルに基づいたコンセプトハウスを建設し、実証環境を構築する。また、LIXILのコンセプトを広く発信し、考え方に賛同してくれるパートナーを募り、リフォームを見越した他社の建材との接続性も検証する。第3フェーズとして、IoT Houseの機能やサービスの拡充と、実証実験によるIoT Houseの有効性を検証する。
LIXILでは2009年より、研究施設「U2-Home(ユースクウェアホーム)」において、センサーを使用した生活シーンからの情報収集のノウハウや、建材への適切なセンサーの設置手法、情報を活用した住環境制御などを研究している。これらの研究から得られたデータは、IoT Houseプロジェクトに活かされるという。
なぜ、LIXILがIoTに取り組むのか
LIXILが研究・実験棟やコンセプトハウスを作ってまでIoTに注力する背景として、LIXIL取締役代表執行役社長兼CEOの藤森義明氏は「物だけ作っていていいのか?」という危機感が根底にあるという。
藤森氏は、現在の世界的な潮流として、ITやIoTなどデジタルをベースにした新しいビジネスモデルの登場により、既存ビジネスの破壊が進んでいると指摘。LIXILの現在の競合相手は、同業種の建材メーカーがほとんどだが、10~20年後にはデータベースやビッグデータを抱える、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせたGoogleのような新しいビジネスモデルを持つ企業に取って代わる可能性が高いとしている。
こうした、10~20年後への危機感からIoT Houseの立ち上げに至ったという。外部から既存ビジネスのディストラクター(破壊者)が現れるよりは、LIXIL自身からディストラクターを生み出して共存する道を探る。LIXILでは、IoT住宅そのものではなく、IoT住宅の要素技術や仕組み作りを重要視しており、その技術はオープンアーキテクチャー化を見据え、さまざまなものとの接続を考慮している。また、建材のIoT化など、家から得られるビッグデータを活かしたビジネスモデルを構築できるか、人々の生活が変わるのかを見ていきたいと述べた。
LIXILのIoT House プロジェクトには、「TRONプロジェクト」の提唱者である坂村健氏も参加している。坂村氏はスマートハウスに対する取り組みを30年近く前から実施しており、1989年には、住宅関連メーカー18社と共同で「TRON電脳住宅」プロジェクトを開始した。また、2004年にはトヨタ自動車株式会社の中央研究所にて「トヨタ夢の住宅PAPI」を構築している。これらのプロジェクトで初めて採用された技術の一部は、現在、一般的に普及しているものもある。
プロジェクトのコンセプトは同じでも、実装技術は年を追うにつれ進化している。TRON電脳住宅プロジェクトでは、各建材に内蔵されたセンサーなどを集中管理するコンピューターに、サンマイクロシステムズ製のワークステーションを30台弱配置していたほか、センサーとコンピューターを繋ぐメタル線が家中に張り巡らされていた。時代が進むごとに、コンピューターの処理能力の向上や低価格化が進むとともに、光ファイバーといった高速網が発展。IoT Houseプロジェクトでは、無線での実装も可能となり、スマートハウスを現実的な価格で提供できる下地が揃ってきている。
また、ローカル接続が一般的だったセンサーの接続も、インターネットに直接繋がる(6LoWPANなど)ようになり、クラウドと連携可能になった。こうした技術変化は、未来の住宅に対する考え方も変え、単純にコントロールするだけだった建材から、データを収集して解析する視点も出てきた。これにより、住宅の状態や「尿や便から健康状態を測定するトイレ」など、住んでいる人の状況を把握し、住宅パーツの協調動作によって環境全体が連携し合う住宅の構築が可能になるという。坂村氏は、こうした相対的なコンピューターのモデルを「アグリゲートコンピューティング」と呼んでいる。
そして、LIXILとプロジェクトを立ち上げた理由として、IoT住宅設備や建材の普及を挙げた。いわゆる“未来の家”が高額なのは、機材や部品を特注しているからであり、住宅用部品メーカーがインターネットに接続できる建材を大量生産するかが普及の鍵となる。今回の取り組みは、ほとんどの住宅設備や建材を手がけているLIXILだからこそ実現可能になることだと坂村氏は強調した。