レビュー
発売前の本の“ゲラ”を読んで評価できる「NetGalley」ベータ版を使ってみた
2017年6月26日 14:50
株式会社出版デジタル機構は26日、発売前の本の“ゲラ(galley:校正紙)”データを読んでその本を評価できるウェブサービス「NetGalley(ネットギャリー)」の日本語ベータ版を開始した。米国では300社以上の出版社が参加し、年間2万点の本が掲載され、月間5万件以上のレビューが投稿されている、本のPRサービスだ。
日本ではまだ参加出版社が7社に限定されているが、書店員・図書館員・教育関係者・メディア・レビュアー会員はベータ版から広く募ることとなった。本稿では、アルファテストからレビュアーとして参加していた筆者が、本サービスの機能についてレポートする。
本を応援する人なら誰でも無料で登録可能
NetGalleyへの会員登録は、18歳以上であれば誰でも可能だ。ただし、発売前の本がゲラの状態とはいえ無料で読めるというサービスの特性から、「プロフェッショナルな読者」であることが求められる。つまり、レビューや評価といったフィードバックを行う必要があるのだ。義務ではないのだが、会員の評価に繋がると捉えると分かりやすいだろう。
会員はNetGalleyを通じて、出版社へゲラの閲覧リクエストを送ることができる。出版社は管理画面で、リクエストしてきた会員のプロフィールを見て、承認するかどうかを決める。つまり、リクエストが承認されるかどうかは、出版社の判断次第なのだ。
例えば、フィードバック率が低い会員は、恐らくリクエストが承認される率も低くなるだろう。自己紹介文がいい加減な会員や、レビューを投稿しているブログが存在しない会員なども、あまりリクエストを承認したいとは思われないだろう。あくまで出版社は、本のPRを目的にしているということを念頭に置こう。
会員タイプは〈レビュアー〉以外に、〈書店関係者〉〈教育関係者〉〈図書館関係者〉〈メディア関係者〉に分かれている。出版社はこの会員タイプに基づき、本の公開範囲を制限したり、ウィッシュのみ可に設定したり、公開期限を設定したりできる。熱心にフィードバックしてくれる会員だけをリストアップし、リクエストが即時承認される特別優待にするようなことも可能だ。
なお、フィードバックする内容には「表紙デザインの評価」「星の数による評価点」「出版社への非公開コメント」「一般公開されるレビュー」などがある。レビューはTwitterやFacebookなどへ投稿することも可能だ。拡散し、販売促進に繋がると、著者や出版社が喜ぶだろう。
ゲラは決して読みやすいとは言えない
リクエストが出版社に承認されると、「会員の本棚」からゲラのデータがダウンロードできるようになる。ただし、発売前の本のデータということもあり、再配布可能な生データが配信されるわけではない。ファイルフォーマットは基本的にPDFだが、Adobe IDによる認証が必要(つまり、Adobe IDを取得しておく必要がある)で、設定された期限を過ぎると閲覧不能になる。
また、下図のような周囲にトンボの付いたファイルである場合も多く、決して読みやすいとは言えない。ただ、出版デジタル機構の担当者によると、最近はトンボなしの単ページPDFをオススメしているそうなので、今後は改善されていくだろう。
なお、本の制作工程のどの段階のファイルを登録しているかは出版社次第だが、商品として完成した版に比べたら内容は劣るだろう。しかし、従来であれば本を発売前に読めるのは、著者および出版社の関係者だけだったことを考えると、大きく前進していることは間違いない。
Windows PCまたはMacで推奨されているビューアーアプリは「Adobe Digital Editions」だ。「Adobe Acrobat Reader DC」などの一般的なPDFビューアーに比べると、見開き表示ができないなど機能的に劣っているのが難点。Adobe IDによる認証が必要なので、選択の余地がない。
また、AndroidとiOSでは「Bluefire Reader」アプリが推奨されている。同じく、Adobe IDによる認証が必要だ。縦書きの本は、ページめくり方向が逆になっている場合があって、若干難渋した。ただ、出版デジタル機構の担当者によると、これは出版社の入稿したPDFが「左綴じ」設定になっていることに起因しており、縦書きの本は「右綴じ」設定でとお願いしているそうなので、こちらも今後は改善されていくだろう。
このほか、出版社を「お気に入り」に追加したり、バッジを獲得したりといった機能もある。もっとも、本サービスの最大の特徴は、発売前の本を読んで評価できること。つまり、本の応援団になれるのだ。
まだベータ版なので、正直、細かい不満を挙げればキリがない。しかし筆者は、この新しいサービスに大きな可能性を感じる。これから参加出版社が増え、登録される本が増え、会員も増えてきたら、本のプロモーション方法が大きく変わるはずだ。大いに期待しよう。