レビュー
クラウドと連動した最強の申告ソフト? 「やよいの青色申告15」レビュー・後編
「スマート取引取込」を使ってみる
(2015/2/20 06:00)
前編では、青色申告ソフトで重要な初期設定を中心に紹介した。今回はスマート取引取込による記帳や手入力による記帳からゴールとなる確定申告書の作成まで紹介しよう。
確定申告の作業は、初期設定、記帳、固定資産、按分、申告書・決算書作成というのが大まかな流れとなる。初期設定は最初の年だけ、固定資産は数が少ない、按分も毎年変更する必要はないと考えると、記帳と申告書・決算書作成が毎年行う作業の大半を占めることになる。個人的な印象では作業の9割が記帳、1割が申告書・決算書作成だと思っている。
従来の青色申告ソフトでは記帳の大半が手入力だった。1年分をまとめて記帳するズボラな筆者は、領収書の束を見ながら黙々と入力作業をこなすのを2日、3日と続けるのが普通だった。
この記帳作業をどれだけ自動化できるかが、アグリゲーション機能の価値だ。もし半分が自動化できれば、全体の作業量もほぼ半分となる。7割・8割が自動化できれば、3日の作業だったものが、1日あれば余裕で終わる可能性もある。自動取り込みできる数が多く、取り込んだ取引を自動仕訳する精度が高ければ楽になると言うことだ。
アグリゲーション機能により記帳作業の流れは変わった。銀行取引、クレジットカードなどはスマート取引取込で自動取り込みをして、自動化できなかった現金で支払った領収書などを手入力することになる。まずはスマート取引取込による自動取り込みを試してみたい。
スマート取引取込とは?
スマート取引取込の仕組みを簡単に説明しておこう。「やよいの青色申告15」がアクセスするのは「YAYOI SMART ENGINE」というクラウドシステムで、YAYOI SMART ENGINEが外部の金融情報取り込みサービスなどから取引データを入手し、自動仕訳などを行って、「やよいの青色申告15」に仕訳データを記帳する。この仕組み全体は「YAYOI SMART CONNECT」と呼ばれている。
ユーザー登録のところでも説明したが、スマート取引取込を使用するには弥生IDを取得してマイページにアクセス可能なこと、あんしん保守サポートに加入することといった条件がある。これにより「やよいの青色申告15」と「YAYOI SMART ENGINE」の接続が可能となる。
次に準備するのは外部アプリケーションだ。現在、口座情報などを取り込むサービスは「MoneyLook」「Zaim」「Moneytree」の3つが用意されている。「やよいの青色申告オンライン」のレビューではMoneyLookを使用したので、今回はMoneytreeを使用してデータ取り込みを行ってみたい。
MoneytreeはiOS向けのサービスなのでiPhoneアプリをダウンロードし銀行口座、クレジットカードの取引データを取り込めるように設定した。各口座の取り込みは、インターネットバンキングやクレジットカード会社のWEBサービスのログインIDやパスワードが必要なので、それらの情報を用意してから準備を始めたい。取引データがMoneytreeに取り込めたら準備は完了だ。
「やよいの青色申告15」に戻り、取引の「スマート取引取込」をクリックしよう。もし「スマート取引取込」がないときは、アップデートするとアイコンが表示される。外部アクセスが始まり弥生IDの確認が表示されたら「今すぐ使ってみる」をクリック。「やよいの青色申告15」はここから待機状態となる。
Webブラウザーが立ち上がりマイページのログイン画面が表示されたら、弥生IDでログインしよう。マイページのトップ画面ではなく、外部サービスの連携画面が表示されるので、使用するサービスと連携しよう。Moneytreeのログイン画面が表示されたら、登録済みのメールアドレスとパスワードでログインすると、Moneytreeで設定した口座の一覧が表示される。初期設定はすべての口座の主な用途が事業用となっているはずだ。
一応筆者の口座環境を説明しておこう。屋号のアイピーアール名義の銀行口座は三菱東京UFJの法人・事業主口座で、これだけが事業専用口座となっている。独立したころは法人・事業主口座のインターネットバンキングは有料で、年間数万円が必要だったこと、振り込みが月末に数社なので日々の入金確認は不要ということで、現在もインターネットバンキングは使用していない。そもそも三菱東京UFJの法人・事業主口座は外部アクセスを受け付けていないので、自動的に入金データを取ることはできない。機能限定の無料サービスが始まっているため、試してみようとは思いつつ放置状態だ。
それ以外の個人の三菱東京UFJの口座は事業使用と個人使用が混在。クレジットカードは主にビュー・スイカ(Suica)カードとUFJカード(MUFGカード)を使用していてどちらも事業と個人が混在している。ビュー・スイカカードがやや事業より、UFJカードは名古屋の自宅の水道光熱費やETCカードなどで使用している。
ハッキリ言ってアグリゲーションには不向きな口座環境だ。とは言え法人・事業主口座以外は独立前から使用しているもので、クラウド会計なるものへの対応など当時は考えることも不可能だった。あきらめモードを持ちつつ、口座環境の見直しも思案中だ。
口座の主な用途が事業用か個人用で、その後の仕訳に影響が出る。筆者の場合は混在使用なので個人用を選択した。「取り込みを開始」をクリックするとMoneytreeからデータ取り込みが開始される。取り込まれたデータは「履歴から特定された取引」「他の事例から推測された取引」「科目の選択が必要」の3つに分類され円グラフで表示される。今回は「履歴から特定された取引」が1件もなかったが、同じMoneytreeから昨年12月にレビューした「やよいの青色申告オンライン」に取り込んだ際は3つに分類されたので、使い込んで学習効果が出ると円グラフの赤や黄色が減ると思われる。実際「やよいの青色申告オンライン」の方は仕訳内容も補助科目までビシッと学習効果が出ていて気持ちよかった。
今回スマート取引取込を試すため「やよいの青色申告15」側で5つほど事業所を作成し、条件を変えながら同じデータを取り込んでみた。導入設定では銀行口座名による違いや口座なしで取り込みをしたらどうなるかを検証したように、口座の主な用途が事業用か個人用でどうなるのかも確認してみた。
事業用に設定すると勘定科目、補助科目が記帳された厳密な仕訳となった。個人用に設定するとすべて事業主借という、筆者が日ごろ使っている「やや手抜き」な仕訳となった。事業用はその口座の取引が事業で使われたという前提で仕訳し、個人用は個人の財布から事業用の支払いをしたという判断のようだ。筆者としてはとてもウェルカムな結果となった。もし筆者が自動取り込みが可能な法人口座を開設したら、その口座だけ事業用に設定すれば、得意先からの振り込みは「普通預金/○○銀行 売掛金/インブレス」と仕訳されるのでうまく使い分けができそうだ。
現在の状態はYAYOI SMART ENGINEに取り込まれたデータが表示されていて、まだ「やよいの青色申告15」には取り込まれていない。この状態で勘定科目を確認し正しく仕訳をすると、次回の取り込みから学習効果で正しく仕訳されるし、「やよいの青色申告15」側で修正する必要がなくなる。
取り込んだ直後は日付でソートされているが、各項目でソートが可能だ。例えば摘要でソートすると、同じ取引先が並ぶので作業効率が上がるだろう。「絞り込み」をクリックすると特定の取引だけ表示することもできる。水道光熱費で絞り込むと、勘定科目が水道光熱費と自動仕訳された取引だけ表示することが可能だ。
「やよいの青色申告15」の初期設定が反映されていて、水道光熱費の下の補助科目も選択することができる。水道光熱費で絞り込み、さらに摘要でソートすると水道代、ガス代、電気代と連続して補助科目の設定が可能となるので、手際よく仕訳をすることができる。科目の文字はコピペも可能で同じ科目に変更する場合は、プルダウンから探すより張り付けた方が早い。修正が完了したら右上の「送信する」をクリックすると、表示されている取引をまとめて「送信する」に変更できる。修正なしのページなら「送信する」をクリックするだけで次のページに進めるので、数秒で仕訳の確認が終了する。
送信が完了する水道光熱費の18件が、円グラフの中の「送信済み/待ち」にカウントされ、取り込み直後の174/199が156/181に変更された。
自動仕訳の精度も確認しておこう。全体的な印象では精度はまあまあ高めで、時々「なぜそうなる」という仕訳もある。クラウドシステム全体の精度は徐々に向上するし、自分の分は学習効果もあるので使い込めば精度は向上すると思われる。
少し仕訳例を見ると、さくらインターネットは旅費交通費となったが、サーバー代とドメイン代なので通信費が正解、イートレンドは消耗品費が正解、SBI損保は自動車保険なので車両費か損害保険料が正解だろう。
笑えた仕訳はオオタさんへの振り込みが地代家賃となったことだ。これは川崎のオフィスの家賃なので正解。「オオタさんは有名なのか」と思ったが、他の個人名も地代家賃となっていたので個人名=地代家賃という判断のようだ。このあたりもAさんは地代家賃、Bさんは外注工賃と仕訳を続けていると、学習効果で正しい自動仕訳がされると思う。
オオタさんの下に18万円の振り込みがあり旅費交通費となっている。これはカメラの購入費なので固定資産の工具器具備品に修正した。他社も含め固定資産に自動仕訳されたケースは見たことがない。もしかするとAmazon、ヨドバシといった有名どころで10万円以上だと固定資産と判断されるのかもしれない。
最後はツクモとビッグカメラ。どちらも未確定となった。これは消耗品費と判断してほしかった。他のクラウド申告サービスも苦手としている飲み屋系は、センネンノウタゲ、トウホウケンブンロクともに判断できなかったようだ。
一通り仕訳の修正、確認をしたら「やよいの青色申告15」にデータを送信する。右下の送信をクリックするとダウンロード画面が表示される。そのままファイルを開くと、ずっと待機中だった画面が切り替わり、取り込みの確認画面となる。取り込まれたデータは「生成元」の欄に[スマ]と表示され、記帳が完了した。摘要など細かな修正は「やよいの青色申告15」側で作業しよう。ちなみに、ダウンロード画面で間違って保存を押した場合は、保存したファイルを待機中の画面にドラッグ&ドロップすると、データ取り込みを継続することが可能だ。
今回、Moneytreeから取り込めた取引数が199件。そこから個人使用や年金、保険など記帳不要なものを除き120件が「やよいの青色申告15」に取り込まれた。ビュー・スイカカードは約半年分のデータが取り込めたが、銀行とUFJカードは12月分しか取り込めていない。1年を通して使用すればビュー・スイカカードは倍、それ以外は12倍のデータが取り込める計算だ。最も経費に関係するビュー・スイカカードが半年取り込めているので、最終的には今回の120件が400件から500件くらいになるような気がする。これだけの記帳が自動化できれば、かなりの作業が軽減できそうだ。
簡単取引入力
すべての取引をデータで取り込めれば手入力に必要はなくなるが、現実はそうはいかない。切手や割り勘の飲み代など、クレジットカード払いができず領収書を見て手入力を必要なケースは少なくない。特に、これから準備を始める人には悲しいお知らせをしなければならない。例えば筆者が使用している三菱東京UFJ銀行の個人口座は、インターネットバンキングで入出金履歴が取れるのは前月の1日からだ(Eco通帳を除く)。2月に取れるデータは1月1日以降となるので、今まさに確定申告に必要な2014年のデータは、1つも取ることができない。
ジャパンネット銀行は過去5年分のデータが取れるので、これからでも2014年のすべてのデータを取得できる可能性がある。ただし今回使用したMoneytreeで試したところ、2014年2月以降のデータが取得できたので、Moneytree側の仕様で取得期間の制限があるようだ。
このようにクラウドサービスと金融機関には相性がある。使用している銀行口座やクレジットカード会社とMoneytree、MoneyLook、Zaimとの相性を確認することも必要だ。結果としてデータ取り込みができなかった取引は手入力を必要となる。
運悪く2014年のデータ取り込みができない方もいるだろう。「データが取れないとクラウドの意味ないじゃん」と言うことなかれ。今からデータ取り込みを開始しなければ、来年の確定申告でスマート取引取込を生かすことはできない。とにかく1日も早くデータ取り込みを開始していただきたい。
2014年の1月に時間を戻して、銀行やクレジットカード会社を変更することはできないので、可能な限りデータ取り込みを行い、それでも取り込めなかった取引や現金払いをした取引は手入力をするしかない。「やよいの青色申告」には初心者向けの入力機能として「簡単取引入力」がある。これを使用して記帳をしてみよう。
最初は現金で消耗品を購入したときの記帳だ。簡単取引入力の画面を開いたら「現金取引」「経費支払」「備品(10万円未満)を購入した」を選択し、摘要に買ったものを記入、日付と金額を記入したら「登録」をクリックすると1つの記帳が完了する。右下の「入力確認」をクリックすると自動的に複式簿記で記帳されていることが分かる。
次は銀行引き落としの記帳だ。電気代が口座から引き落とされた場合は、「預金取引」をクリックするとプルダウンメニューが表示されるので「普通預金」「銀行名」を選択しよう。この銀行名は導入設定を行った銀行が表示される仕組みだ。「経費支払」「電気代を支払った」「電気代」と選択する。
「電気代を支払った」の選択肢が表示されるのは15ページの取引設定を行ったからだ。灯油やプロパンガスもチェックを付けてあれば、この事例に表示される仕組みだ。最後の「電気代」は補助科目の設定をすると表示される。日付、金額を記入したら「登録」をクリックしよう。初期設定したことにより、自動的に選択肢が表示されたことにお気づきだろう。時間を掛けて初期設定をすると入力を助けてくれるのが「やよいの青色申告」が初心者に優しいと言われる理由だ。これも確認すると借方の勘定科目が水道光熱費、補助科目が電気代、貸方は普通預金、補助科目に銀行が記帳されている。
次に手入力をするのは売り上げと回収だ。売り上げと回収の流れを再確認したい。法人と取引する場合、商品にせよ原稿にせよ、納品時に現金を受け取ることは少ない。多くの取引が月末締めの翌月末支払いなどとなっているはずだ。これを複式簿記で記帳すると、
借方 | 貸方 | ||||||
日付 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 摘要 |
6月30日 | 売掛金 | A社 | 1万800円 | 売上高 | B銀行 | 1万800円 | ○○代 |
借方 | 貸方 | ||||||
日付 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 摘要 |
7月31日 | 普通預金 | B銀行 | 1万800円 | 売掛金 | A社 | 1万800円 | 掛代金振込 |
となる。売り上げたときと回収したときの2段階で記帳することになる。さらに請求書を出し売り上げを立てた際に売掛金を受け取り、回収時は売掛金と引き替えに普通預金に入金されるという流れは、簿記の知識がないと理解が難しい。
仮に入金のデータが自動取り込みできたとしても、売り上げを立てる部分は手入力をする必要がある。筆者のように法人口座でインターネットバンキングを利用していないと売り上げ、回収はすべて手入力となる。これも簡単取引入力を使って記帳してみよう。
「売掛取引」をクリックすると導入設定で得意先として登録した社名がプルダウンメニューから選ぶことができる。「売上・回収」「掛けで商品を販売した」を選択し摘要欄には商品名やコンサル料など内容を入力、日付、金額も入力すれば売り上げ時の記帳は完了だ。
次の回収の記帳は意外に難易度が高い。売り上げた金額と入金された金額に差異があることは珍しくない。例えば物販の場合は、取引先によっては振込手数料を差し引かれて入金されることがある。原稿料の場合は源泉徴収が引かれて入金される。振込手数料が差し引かれたときの記帳は以下の通りだ。
借方 | 貸方 | ||||||
日付 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 摘要 |
7月31日 | 普通預金 | B銀行 | 1万476円 | 売掛金 | A社 | 1万476円 | 掛代金振込 |
7月31日 | 支払手数料 | 324円 | 売掛金 | A社 | 324円 | 振込手数料負担 |
売り上げに対し入金金額が数百円少ない場合は、振込手数料が差し引かれたと思って間違いないだろう。先方から324円引きますと連絡をくれる会社はないので、推測するしかない。これを「簡単取引入力」で記帳してみよう
「売掛取引」「売上・回収」「売掛金が普通預金に振り込まれた」「銀行名」と選択する。金額が売上額と異なっているので、続けて「売掛取引」「売上・回収」「振込手数料が売掛金と相殺された」を選択し差額を入力する。
仕分けられた結果を見ると2つの伝票が複式簿記で記帳されたことが分かる。売掛帳で確認すると売上金額に対し回収金額が2つ記帳され残高が0円になったことも確認できる。
次に源泉徴収された場合のは以下のように記帳する。
借方 | 貸方 | ||||||
日付 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 勘定科目 | 補助科目 | 金額 | 摘要 |
7月31日 | 普通預金 | B銀行 | 9779円 | 売掛金 | A出版社 | 9779円 | 原稿料振込 |
7月31日 | 事業主貸 | 源泉徴収 | 1021円 | 売掛金 | A出版社 | 1021円 | 源泉徴収 |
源泉徴収された1021円は出版社が代行して納税をするので、確定申告時に所得税額から納税済みの源泉徴収分を差し引くことができる。ここでの事業主貸は「もう税金を払いましたよ。貸しですよ貸し」といった感じだ。ちなみに源泉徴収額の計算方法は以下の通り。
- 税込売上=1万円+800円(消費税8%分)
- 源泉徴収額=税抜売上×10.21%=1万円×10.21%=1021円
- ※10.21%のうち、0.21%は東日本大震災の復興特別税で純粋な所得税分は10%
これは「簡単取引入力」だけでは記帳できない。売り上げと入金は普通に記帳し、仕訳日記帳で手入力をしよう。おそらくこのあたりまで操作していれば自力で簡単な複式簿記の記帳はできるようになるだろう。
毎日、毎週記帳する方はこれくらいの記帳は難しくないと思われるが、確定申告のときに1年ぶりに「やよいの青色申告」を操作する人はスッカリ忘れている可能性がある。「簡単取引入力」は自分で登録することができるので、源泉徴収された場合の記帳を登録してみよう。
「簡単取引辞書」をクリックし取引名に「掛代金から源泉徴収税が引かれた」と入力する。取引分類は「売上・回収」を選択。借方に事業主貸、貸方に売掛金、摘要に源泉徴収税と記入し登録しよう。こうすれば「簡単取引入力」の際の選択肢に「掛代金から源泉徴収税が引かれた」と表示されるので日付、金額を記入するだけで複式簿記の記帳ができる。
カード式Suicaはどうする
利用件数が多いのにデータ取り込みができないものの代表は、カード式Suicaだと思われる。Suica、PASMO、TOICA、ICOCAなどは利用履歴の取得が難しい。モバイルSuicaを使用すれば取り込みは可能だが、日本はiPhoneユーザーが多いので、モバイルSuicaへの対応ができない方も多いと思われる。筆者もその1人だ。
筆者が昨年から行っているカード式Suicaの取り込み方法を紹介しよう。これがベストとは思えないが参考にはなるだろう。実は2007年ごろにSuicaのデータを読み込むためにパソリ(カードリーダー)を購入した。当時は名古屋在住で、東京出張中のSuica履歴を取り込むつもりだった。カード式Suicaは駅の券売機ならセンターアクセスし50件の履歴を印字することができるが、カード単体には20件しか残らないことを知ったのはパソリを買ってからだった。
実戦投入をしてみると、あっと言う間に履歴は20件を超え2泊もすると出張中の履歴をすべて残すことができなかった。役に立たないことが分かり即お蔵入りとなった。結局、券売機で印刷したものを見ながら、○○駅から△△駅 160円、190円、150円……と計算をしながら記録を残していた。
一昨年関東にオフィスを移し、さらに昨年の消費税8%導入により1円単位の電車賃を記録するためにパソリを復活させることにした。50歳を過ぎたオッサンには1円単位の暗算は不可能だった。現在は外出から戻ったら毎日(時々忘れるが)パソリでデータを読み取りCSVファイルで保存する。そのデータを目視で重複がないようにつないで、チャージ分は行削除する。コンビニなどでSuicaを利用することは避け、交通費のみが記録されるようにしている。
ここまでできればサラリーマン時代の交通費や出張旅費の精算と同じだ。CSVファイルを1月分、2月分……と月単位の交通費精算とし別途明細を用意。記帳は1月分交通費などと1行で済ませても問題はないだろう。ちなみにSuicaを1つ1つ厳密に記帳すると大変なことになる。現金でチャージした場合は「仮払金 現金」。使用すると「旅費交通費 仮払金」+「事業主貸」と記帳しなければならない。クレジットカードでチャージするとさらに未払金の処理も加わるので注意しよう。筆者は1カ月分まとめて手抜きな「事業主借」で処理している。
データ取り込みにより効率アップできるのは繰り返し利用する取引だ。特に現金払いをしているものをデータ化できれば、その効果は絶大だ。筆者が同じもので現金払いをしているのはメール便、宅配便だ。企業のように集荷に来る規模で発送していれば請求、振り込みの取引ができるが、個人事業主でたまに持ち込む程度ではそれも難しい。とは言え月に5件発送すれば年間で60件の取引となる(メール便廃止で減りそうな予感はあるが)。
ヤマト運輸はSuica、nanaco、WAONなどの電子マネーは使用できるがクレジットカードでの支払いはできない。いろいろ実験をしてみるとSuicaは物販としか表示されず、WAONの公式サイトはCSV出力などの機能がない。試行錯誤の結果、Zaimからスマート取引取込に取り込むとヤマト運輸と社名が表示され、荷造運賃と仕訳されることが分かった。1年以上使ったことのなかったWAONカードはヤマト専用カードとして活躍しそうだ。わずかなことだが荷物を発送しに行くのが楽しみになった。
固定資産と減価償却
記帳の最後は固定資産だ。ITガジェットや事務用品などで10万円未満のものや、使用可能期間が1年未満と判断されるものは少額減価償却資産として、消耗品費で全額その年の経費にすることができる。これに対し10万円以上の機械、器具、車両、建物などは固定資産となる。例えば車は6年、カメラは5年と耐用年数が決められており、その年数で分割して経費とする仕組みだ。固定資産や償却方法の詳細は「個人事業主の税金を理解し節税しよう・前編 税金の計算方法を理解する(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20141218_680399.html)」を参照していただきたい。
筆者は長年、税金関係の記事を執筆しているので、知り合いのライターさんから確定申告に関する質問を受けることがある。質問内容の筆頭は固定資産と減価償却だ。おそらく多くの初心者がつまずきやすいポイントなのだろう。例えば「買ったときに記帳して、固定資産でも記帳したら重複しないんですか」は定番だ。
固定資産は2段階で記帳することになる。例えば現金で18万円のカメラを購入した場合、現金が減り固定資産を買ったという記帳が第1段階で、この段階では経費とはならない。買ったカメラを5年で減価償却するなら、5年=60カ月で分割し毎月1/60ずつ減価償却費として経費計上するという記帳が第2段階で、ここで初めて経費となる。では実際に記帳してみよう。
たまたま筆者は年末にデジタル一眼レフを買ったので、勘定科目を自分で修正し「工具器具備品」として取り込みされている。同じものを「簡単取引入力」で記帳してみよう。「現金取引」「固定資産」「電気機器を購入した」を選択し摘要、日付、金額を記入する。これで第1段階の購入時の記帳は終了だ。
第2段階は固定資産の登録だ。「固定資産管理」をクリックすると固定資産一覧が表示されるので「新規作成」をクリック。新規登録画面がポップアップしたら名所、勘定科目、数量、取得日、金額などを記入する。償却方法は最も一般的なのが定額法。この場合12月に購入しているので、定額法では1/60の3000円ほどしかこの年の経費にならない。青色申告をしていれば即時償却ができるので、これなら全額を経費にすることができる。
固定資産一覧に登録されたことを確認し、他に固定資産があれば続けて登録。最後に「仕訳書出」をクリックすると振替伝票が表示される。ここで初めて減価償却費として記帳され、登録をクリックすると第2段階も終了だ。
按分
初期設定で説明したように、個人事業主は按分する科目があるはずだ。「家事按分」をクリックすると按分する科目を登録する画面が表示される。勘定科目、補助科目はプルダウンメニューから該当するものを選択する。ここでは水道光熱費の補助科目の電気、ガス、水道。車両費、地代家賃を按分した。おそらくこれ以外に電話などの通信費も按分の必要があるだろう。事業割合と家事割合を記入し、「集計」をクリックすると計算をしてくれる。家事振替額に表示された金額が家事分で経費から差し引かれる。この金額が多い=経費が減る=納税額が増えるので少々ガッカリする作業だ。「仕訳書出」をクリックすると終了だ。
決算書、確定申告書
いよいよ決算書、確定申告書の作成だ。先に作業するのは決算書なので「青色申告決算書(一般用)」をクリック。おそらく警告が出たりするが、それは後から対処するとして、まずは決算書項目への割り当てをしよう。
勘定科目に自分で設定した科目は決算書に項目が表示されていない。表示がない科目の金額は「その他経費」に集計された状態だ。空欄になっているところをクリックすると決算書項目への割り当てへ進むことができる。記入欄に新聞図書費などと入力し、割り当てたい勘定科目にチェックを付け帳票に反映させる。これを繰り返すと科目ごとの金額が表示される。
次は「申告メニュー」の「申告設定」クリック。申告書の提出日や個人情報などを記入していく。取込ボタンをクリックすると初期設定で入力した内容を取り込むことができる。記入が終わったら左側の操作ナビにある「青色申告決算書(一般用)を作成しよう」をクリックすると詳細な流れが表示されるので上から順番に作業を進めよう。
おそらく確認するだけで進んでいくと思うが、「警告の内容を確認しよう」は間違いや記入漏れがあると思われるので対処しよう。ここでは「地代家賃の内訳」の記入漏れが警告された。対処が終わると完成だ。
次は「所得税確定申告書B」をクリック。続いて操作ナビの「所得税確定申告書Bを作成しよう」をクリック。ステップ1の事業(営業等)所得から作業開始だ。手元に源泉徴収された得意先から支払調書が郵送されているはずなので、それを見ながら入力しよう。
ステップ2は控除関係。「入力が必要な項目を診断する」をクリックすると右側に一覧が表示されるので「はい」「いいえ」にチェックする。「はい」を付けた項目がステップ2に表示されるので順番に記入をしよう。今回は代表的な社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除を記入してみた。社会保険料控除は2014年に納めた金額の明細が郵送されているはずなので、それを見ながら国民健康保険、国民年金などを記入する
続いて生命保険料控除。これはサラリーマン時代も年末調整で記入しているのでなじみがあるはずだ。生命保険会社から届いた証明を見ながら新制度、旧制度を間違わないように記入しよう。年末調整より楽なのは、支払額を記入すれば自動的に控除額を算出してくれる。間違いもないし簡単に作業は終了するはずだ。ちなみに青色申告ソフトの中には記入欄だけ用意されていて自分で控除額を計算しなければならないものもある。
次は配偶者控除と扶養控除。配偶者控除は所得を記入すると自動的に控除額を計算してくれる。年収-65万円=所得なので間違わないようにしたい。配偶者特別控除も自動計算されるので、奥さんの源泉徴収票を見て入力すれば間違いないだろう。扶養控除は子供や親の誕生日から控除額を判断してくれるので自分で調べる必要はない。長年シェア1位を取るソフトとあってこのあたりの完成度は高い。
原稿料収入などが主で源泉徴収税額が多い人は税金が戻ってくる。還付を受ける口座を記入したら「所得税確定申告書B」も完成だ。
記帳作業に比べれば申告書作成はそれほど労力は掛からない。特に「やよいの青色申告」の申告書作成に関するガイダンス機能は筆者が知っている中では最も分かりやすい。他社の製品には自動計算もなし、間違いがあってもアラートも出さないといったものもあるので、自分で生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除などの計算ができない人は製品選びの際に注意が必要だ。
完成した申告書は、生命保険の証明などを添付して3月16日までに提出する。特に青色申告特別控除の対象となる方は、遅れると65万円の控除がなくなり、所得税、住民税の追徴課税をされるので遅れないようにしよう。ある税理士さんから聞いた話をお伝えしよう。「遅れそうになったら、完成しなくても期日までに提出し、後から修正すれば65万円の控除を失うことはない」本当なのだろうか。
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「やよいの青色申告15」はスマート取引取込でデータ取り込みが可能となった。口座環境さえ整えば記帳作業は大幅に自動化され、確定申告に掛ける労力は劇的に軽減されそうだ。スマート取引取込に必要な「あんしん保守サポート」に入っていれば、弥生が提供するクラウド式バックアップサービス「弥生ドライブ」を無料で利用できる。これも使えばデータ取り込みもクラウド、データ保管もクラウドとなる。アプリは手元で環境はクラウドというのはスマホのアプリをダウンロードして使うイメージに近い。
会計ソフトは税制の変更にともなうバージョンアップが主で、機能面の変更はそれほど多くない印象が強かったが、スマート取引取込に対応した「やよいの青色申告15」は、大きな変貌を遂げたと言ってよいだろう。クラウド対応による自動記帳は一度体験すると後戻りはできない。記事の執筆中にWAONで宅急便の利用履歴の取り込みに成功すると、「次は何を自動化するべきか」と考えるようになった。行動パターンも変化し、現金で支払っていたパーキングもカード払いをするようになった。そうなると口座環境を細かく見直して、どこまで自動化できるかを模索したくなるほどアグリゲーション機能には魅力があると感じている。