レビュー

個人事業主の確定申告、「MFクラウド確定申告」でどこまで楽できる?

前編:金融口座の取引データを自動取り込み→自動仕訳で記帳作業が大幅軽減!

 今年の確定申告の受付は2月16日から3月16日まで。すでに確定申告期間に入り、そろそろ焦っている方もいるだろう。個人事業主にとって避けては通れない確定申告を楽にしてくれると話題になっているのが、クラウド型の確定申告ソフトだ。アグリゲーション機能により銀行口座、クレジットカード、電子マネーなどの明細をまとめて取り込むことが可能となり、記帳作業を大幅に削減することができる。

 今回は、正統派のクラウド型確定申告ソフトとして評判の高い、株式会社マネーフォワードの「MFクラウド確定申告」を実際に使用して、個人事業主の確定申告書作成を行ってみた。

まずはアカウント登録と初期設定~金融口座、勘定科目、取引先などの設定を

アカウント登録とログイン

 MFクラウド確定申告を使用するには、アカウント登録が必要だ。MFクラウド確定申告のウェブサイト(https://biz.moneyforward.com/tax_return)の「アカウント登録」または「今すぐ無料で試してみる」をクリックしよう。続いてメールアドレス、パスワードなどを入力し、「利用を開始する」をクリックすると、登録したメールアドレスにメールが送られてくる。そのメールに書かれているURLをクリックしてメールアドレスの認証を行うと、MFクラウド確定申告が利用可能となる。

「アカウント登録」または「今すぐ無料で試してみる」をクリック
メールアドレス、パスワードを登録
「利用を開始する」をクリックすると、メールが送られてくるので認証を行う

 MFクラウド確定申告にログインすると、トップページが表示される。初めて確定申告をする人は何から始めてよいか分からないだろう。そのような人はMFクラウド確定申告の使い方ガイド(https://biz.moneyforward.com/howto)や操作ガイドのPDF(https://biz.moneyforward.com/assets/no_auth/howto/pdf/toc.pdf)を見ながら操作をすると全体の流れや各操作を理解しやすい。

ログインしよう
すぐに利用開始できる
まずは初期設定から始めよう

事業所・年度などの設定

 最初に行うのは初期設定だ。何から設定してもよいので、ここでは事業所から設定を開始しよう。右上の設定のプルダウンメニューから「事業所・年度の設定」を選択する。屋号があれば、屋号名を入力。青色申告をする人は、青色申告を選択する。選択部分はマウスポインターを合わせると説明がポップアップするので参考にしよう。おそらく初めて確定申告する人は、大半の選択項目は初期設定のままで大丈夫だろう。氏名、住所などの個人情報もここで入力する。事業年度は、2015年2~3月に確定申告するのは2014年度1~12月分となる。2015年1月以降の記帳をする場合も、ここで年度の切り替えを行う。

事業所の登録。マウスポインターを合わせると説明がポップアップする
個人情報も入力する
事業年度を確認する。2015年2~3月に確定申告するのは「2014年度 1月1日~12月31」の分

金融機関の口座登録

 次は金融機関の口座登録だ。申告に必要な銀行口座、クレジットカード、電子マネー、通販サイトなどをここで登録する。前提条件として、インターネットバンキングなどのウェブサービスを利用している必要がある。それぞれのサービスのログイン情報を入力する必要があるので、それらの情報を用意しよう。

トップページ上段の「口座情報」か、左側の口座の「新規登録」から口座を登録する

 利用可能な金融機関は現在、1800社ほど。銀行系、クレジットカード系、電子マネー、通販系などに分類されている。自分が使用している金融機関を選択し、それらのサービスのログイン情報を入力する。ログイン方法は各社で異なるため、MFクラウド確定申告もそれに対応したログイン情報の入力方法を求められる。

銀行系
クレジットカード系
電子マネー
通販系
三菱東京UFJ銀行を登録中
クレジットカードはMUFGカードとビューカード、通販はAmazonを登録した
登録が完了すると、取得した取引データがトップページに表示される

 各金融機関の取引データの取得について少し説明しておこう。まず、取得できる期間は、それぞれの金融機関のウェブサービスで閲覧可能な期間となる。筆者が使用している口座を例にすると、三菱東京UFJ銀行の個人口座で閲覧可能なのは前月の1日までなので、2015年2月に取得できるのは、2015年1月1日以降となる(Eco通帳を除く)。最近はほとんど利用することのないジャパンネット銀行は5年前まで取得できるので、確定申告に必要な2014年の入出金をすべて取得可能だ。この点では三菱東京UFJ銀行よりジャパンネット銀行の方がクラウド型確定申告ソフトとの相性はよいと言える。

 ビューカードは6カ月前の請求分までだが、利用期間としてはその前々月なので、2015年2月に取得できるのは、2014年の7月利用分以降となる。MUFGカード(UFJカード:旧ミリオンカード)は従来は過去2カ月だったが、2015年1月29日からは最長で過去15カ月分の取得が可能となり、2014年の利用履歴をすべて取得できるようになった。

 この時期にMUFGカードが前年の1年分のデータを取得できるようにしたのは、「MUFGカードは事業用として便利ですよ」という法人や個人事業主へのアピールのように筆者には思える。今後、他の金融機関も同様なサービス拡充の可能性がありそうだ。

 注意点は、このような金融機関側の仕様変更があると、MFクラウド確定申告のようなアグリゲーションサービスもそれに対応する必要があることだ。MUFGカードは昨年12月ごろにログイン方法を1ステップ追加したため、家計簿系サービスや資産管理系サービスは一斉にデータ取得ができなくなった。対応には数日~数週間を要するため、もし確定申告に金融機関のデータを利用したい人は1日でも早くデータ取得だけは済ませて欲しい。

 ちなみに、MUFGカードの取得期間の延長にMFクラウド確定申告は対応済みだ。ただし、対応前にデータ取得をした場合は過去2カ月分を超えるデータ取得は行えない。これは、重複取得を避けるためだ。取得済みのデータを破棄できるなら、口座情報を削除して新規登録すると、最長で過去15カ月分のデータを新たに取得できる。

 このように、金融機関のウェブサービスとその情報を利用するアグリゲーションサービスには相性がある。筆者の場合は、銀行口座もクレジットカードも個人事業主として独立する以前から使用しているものなので諦めモードだが、これから独立する人はこのあたりの相性も考えて口座開設やクレジットカードの選択をしていただきたい。

勘定科目、補助勘定科目、取引先の設定

 次に設定するのは「勘定科目」「補助勘定科目」だ。取引先の設定も補助勘定科目で行うことができる。勘定科目や補助勘定科目という言葉は一般の方には無縁に近いので、簡単に説明しておこう。

 経費の場合、電気代、ガス代は「水道光熱費」、電話や切手は「通信費」、電車やバス、ホテル代は「交通費」と勘定科目に分類して記帳する。勘定科目の設定は自由なので、それぞれの事業に特有な経費は任意の科目を設定することができる。税務署から送られてくる損益計算書の科目は、下の画像の8~24と31の18科目だが、MFクラウド確定申告にはこれ以外に「新聞図書費」「会議費」「車両費」など必要そうなものは最初から科目設定されている。

損益計算書の経費の科目は、8~24と31の18科目

 補助勘定科目設定の注意点は、「按分」という考え方だ。個人事業主の場合、経費の中に事業使用と個人(家事)使用が混在することがある。自宅で仕事をすると、電気代のうち経費として計上できるのは事業用に使用した分だけなので、支払った電気代を任意の比率で分割して事業使用分を算出する。このように経費から事業分を算出することを按分という。

 同じ水道光熱費でもガス代や水道代は、電気代ほど事業使用の比率が高くないと考えられる。電気代、ガス代、水道代を水道光熱費として1つにまとめていると、それぞれの比率で按分することができない。水道光熱費の科目の下に補助科目として電気代、ガス代、上下水道代と分けて記帳しておけば、確定申告の際にそれぞれの比率で按分が可能となる。

 水道光熱費以外にも携帯電話、固定電話、ガソリン代などは按分が必要になることが多い。必要な補助科目は初期設定で作成しておこう。

 勘定科目、補助勘定科目の設定は「設定」のプルダウンメニューから「勘定科目の設定」を選択する。水道光熱費に補助勘定科目を設定する場合、水道光熱費の前の「+」をクリックすると補助勘定科目の入力欄が追加される。ここでは「電気代」「ガス代」「上下水道代」の3つを追加してみた。

補助勘定科目の設定は、「設定」のプルダウンメニューから「勘定科目の設定」を選択する
水道光熱費の前の「+」をクリックする
「電気代」「ガス代」「上下水道代」の3つの補助勘定科目を追加

 続いて取引先の設定をしよう。販売先など、お金をもらう取引先は、売掛金の下に補助勘定科目として登録する。仕入れ先は、買掛金の下に補助勘定科目として登録する。「何じゃそれ」と思われるのが普通で、このあたりは、簿記の知識がなく初めて確定申告をする個人事業主の方には理解できない最初のハードルだと思われる。筆者は9年目の確定申告となるが、開業後数年は全く理解できず、今は「そう言うもの」と割り切っている。

売掛金の下に補助勘定科目として取引先を登録する。必要に応じA社、B社、C社と追加する

開始残高

 初期設定の最後は「開始残高」だ。2013年以前に開業して他の会計ソフトから乗り換える人の場合は、現金、預金、売掛金……などを繰り越す。2014年に起業して個人事業主として初めて確定申告する人は、開始残高を設定する。これも「何じゃそれ」といった感じだが、厳密に記帳したい人は厳密に、適当でよい人は「現金は財布に5万円入っていたことにしよう」と適当な額を入力する。

 実際に入力してみよう。「設定」のプルダウンメニューから「開始残高の登録」を選択する。ここでは現金が50万円、普通預金は1つが事業用、もう1つが個人用と仮定してそれぞれの口座に50万円、計100万円とした。このまま設定を保存すると「借方合計と貸方合計が一致していません。」とアラートが表示される。この場合、「元入金」に合計額を入力する。これも疑問に思われた人は「そう言うもの」と割り切って気にしないことだ。

 これで初期設定は終了。いよいよ記帳作業の開始だ。

「設定」のプルダウンメニューから「開始残高の登録」を選択
現金が50万円、普通預金は2つの口座にそれぞれ50万円、計100万円とした
このまま設定を保存するととアラートが表示される
「元入金」に合計額を入力する

取引データの自動取り込み→自動仕訳で、大幅に軽減される個人事業主の記帳作業

自動仕訳

 数年前までは、銀行の入出金や支払った経費を領収書の束を見ながら1つ1つ手入力で記帳するのが普通だった。アグリゲーション機能を搭載したクラウド型確定申告ソフトの登場により、銀行の入出金やクレジットカードの利用履歴など電子データが取り込める取引を自動的に記帳することで、入力作業の大幅な削減が可能となった。まずはその実力を確認してみたい。

 自動取り込みできる取引の数は、使用者のライフスタイルによる。現金の支払いが少なく、100円の文房具でもクレジットカードで購入するようにすれば、自動取り込みの数は増える。逆に水道光熱費をコンビニで現金払いしていると、自動取り込みはできない。

 使用している銀行やクレジットカード会社との相性もある。継続的に自動取り込みを続けている場合は支障がないが、初めて取引データを取り込む場合は、前述のように履歴の閲覧期間が短いと自動取り込みできる数は少なくなる。

 記帳作業の軽減に影響する次のポイントは、自動仕訳の精度だ。クラウド型確定申告ソフトは、取り込んだデータを「トウキヨウデンリョク=水道光熱費」などと自動仕訳をしてくれる。この自動仕訳の精度が高いと、その後の作業を軽減することができる。

 まずは自動取り込みしたデータを確認してみよう。MFクラウド確定申告に取り込まれたデータは、「入力・仕訳」のプルダウンメニューから「取引入力・仕訳」を選択すると一覧で表示される。一覧には取引日、金融機関(銀行、クレジットカードなど)、摘要(振込先、支払先の社名など)の情報に加え、MFクラウド確定申告が自動仕訳した勘定科目が表示されている。この勘定科目を見ると、正しく仕訳されたもの、間違っているもの、判断できず「未選択」とされたものがある。

「入力・仕訳」のプルダウンメニューから「取引入力・仕訳」を選択
自動取り込みされた取引の一覧が表示される

 筆者の履歴から抜粋した一部を見ていただきたい。ヨドバシカメラは「備品・消耗品費」、三井ダイレクトの自動車保険は「車両費」、ソニー生命は「保険料」、ENEOSは「車両費」、ETCは「旅費交通費」、カインズホームは「備品・消耗品費」、サッポロライオンは「接待交際費」と、おおむね正しく自動仕訳されている。筆者が過去にレビューしたクラウド型確定申告ソフトの中で、MFクラウド確定申告はこの自動仕訳の精度が最も高い印象だ。

正しく仕訳された履歴の抜粋

 とはいえ、100%正しく自動仕訳がされることはない。比較的、自動仕訳の精度が高い通販系の履歴を抽出して見ると、「ツクモネツトシヨツプ エムブイ」「エヌ.テイ.テイ-エツクス ストア」「ビツクカメラドツトコム」「イ-トレンド」(表記は取り込みデータのまま)は「備品・消耗品費」と正しく仕訳されたが、飲み屋系は精度が低く、「東方見聞録」「華の舞」などのチェーン店も「未選択」となった。

 通販系の中でAmazonは、クレジットカードの履歴とは別にAmazonの購入履歴を取り込むことができる。クレジットカードの履歴は「AMAZON.CO.JP」なので「新聞図書費」と仕訳されるが、Amazonの購入履歴では実際に購入した品目が取り込まれるため、品目名を見て自動仕訳が行われる。

 Amazonの品目履歴から自動仕訳された勘定科目を見ると、少し前にネットで話題となったサードパーティ製のiPhoneライトニングケーブルは「備品・消耗品費」(=経費)と仕訳されたが、オーディオ用のUSB-DACと音楽CDは「事業主貸」(=経費ではない私物)と仕訳された。一般的には正しい判断で、「オーッ、鋭い」と思わせる仕訳結果となった。筆者はAmazon依存率は低いが、Amazonで頻繁に購入する人は「Amazon=新聞図書費」だと、書籍以外の購入履歴を大量に修正するのは手間なので、MFクラウド確定申告の自動仕訳は記帳作業の軽減に役立つだろう。余談だが、オーディオ系や音楽系の仕事をしていればオーディオ機器やCDも経費となる。

クレジットカードの履歴は「AMAZON.CO.JP」を見て、すべて「新聞図書費」と仕訳されるが、Amazonの履歴は品目から判断される
品目名から「備品・消耗品費」や「事業主貸」と判断された

※注

金融機関側の仕様変更により、MFクラウド確定申告などのアグリゲーションサービス側の対応に時間がかかることもあるということは前述したが、Amazonも今年1月に仕様変更を行った模様だ。マネーフォワードによると、MFクラウドのユーザーの中には、その後もデータを取得できているユーザーもいれば、想定外で取得できていないユーザーもいるとしており、2月20日現在、同社では対応を進めている状況だという。

 実際の記帳作業は、取り込まれた取引を登録することで完了する。正しく仕訳されていれば「登録」のボタンをクリックするだけだ。自動仕訳が正しくなければ、勘定科目を修正して登録する。私物など事業に関係がない取引は登録をする必要はない。

 MFクラウド確定申告には検索機能があるので、まとめて処理する場合は検索してから登録をすると作業効率が上がるだろう。下の画像は「トウキヨウデンリヨク」で検索し、補助勘定科目を電気代に修正してから登録した例だ。

「トウキヨウデンリヨク」で検索
補助勘定科目を電気代に修正してから登録した

学習機能

 自動仕訳の精度は徐々に高まっていくが、100%になることはないだろう。例えば、取引先の近くの小さな喫茶店を打ち合わせに使用している場合、何年経っても「会議費」と自動仕訳されることはないはずだ。そこで登場するのが、自動仕訳の学習機能だ。MFクラウド確定申告の学習機能は、自動仕訳が正しくないもの、「未選択」と判断されたものを正しい勘定科目に修正して登録・学習させると、次の取引からそれを反映して仕訳を行ってくれる。

 実際に学習例を見ていただこう。1つ目は、このレビュー記事用に新規登録したMFクラウド確定申告のアカウントで自動取得したもの。筆者が「オオタ」さんへ振り込んだものは川崎のオフィスの家賃で「未選択」となっている。「トウキヨウガス」の引き落としは「水道光熱費」と仕訳されたが、補助科目は「補助科目なし」となった。

学習前は家賃は「未選択」、「トウキヨウガス」は「補助科目なし」となった

 2つ目は、筆者が1年前から個人的に使用しているアカウントで自動取得したもの。学習機能によりオオタさんへの振り込みは「地代家賃」と仕訳されている。トウキヨウガスの引き落としは、補助勘定科目も自動仕訳され「ガス代」となった。このように一度学習をさせておけば、頻繁に発生する取引は正しく自動仕訳を行うことが可能となり、記帳作業は大幅に軽減できるはずだ。

学習後は「地代家賃」、トウキヨウガスの補助勘定科目が「ガス代」となった

複合仕訳の自動化

 2015年2月現在、おそらくクラウド型確定申告ソフトでは、MFクラウド確定申告(会計)だけが対応している機能が、「複合仕訳」の自動化だ。簿記の知識がない方は「複合仕訳……なんだそれ」と思われるだろう。まずは複合仕訳について簡単に説明しよう。

 例えば、法人から報酬が降り込まれた際に振込手数料を差し引かれたとしよう。売掛金が1万800円で振込手数料が324円なら、入金金額は1万476円となる。こちらの売上は1万800円なので、このままでは差異が発生する。売上=売掛金=入金金額であれば簡単に記帳できるが、振込手数料や源泉徴収を差し引かれるケースは珍しくない。この場合、差し引かれた振込手数料は、「支払手数料」という勘定科目でこちらの経費として記帳する必要がある。集金代を払ったイメージだ。この取引を複式簿記で記帳すると、以下のようになる。

借方貸方
勘定科目 補助科目 金額   勘定科目 補助科目 金額   
普通預金A銀行10,476円売掛金B社10,800円
支払手数料324円

 この場合は2行に分けて記帳しているが、源泉徴収が加わると3行で記帳することになる。このように、1つの取引を複数行でひとまとめに記帳することを複合仕訳という。

 MFクラウド確定申告では、自動的に複合仕訳をする機能を2014年12月から実装している。例えば、上記のB社から2万1276円の振り込みがあれば、借方に支払手数料の324円を追加し、貸方の売掛金は2万1276円+324円=2万1600円と自動的に複合仕訳の記帳をしてくれる。

 この機能を実際に試してみた。現在、筆者の取引先には振込手数料を差し引く会社がないので架空の取引を行ってみた。筆者の仕事用の銀行口座から私用の銀行口座へ振り込み(振替)した履歴を、架空の売掛金の回収として複合仕訳を行った。

 まず借方に支払手数料の324円を追加し、貸方を「インブレス」という架空の取引先の売掛金とし、金額は実際の金額に振込手数料を加えた額とした。この取引を自動仕訳ルールとして保存。

取引を詳細モードで開き「+行追加」を行う
借方に支払手数料の324円を追加、貸方は「インブレス」の売掛金とし、金額は実際の金額に振込手数料を加えた額とし自動仕訳ルールに保存した

 「設定」のプルダウンメニューから「自動仕訳ルールの設定」を選択し、支払手数料の金額部分のルールを「金額を固定する」に変更し、324円とした。金額部分の選択肢は「自動取得された実際の入出金額」「金額を固定する」「金額を固定しない」から選択することができる。これで設定は完了だ。

「設定」のプルダウンメニューから「自動仕訳ルールの設定」を選択
自動仕訳ルールの設定画面。金額部分のルールを変更できる
支払手数料の金額部分のルールを「金額を固定する」に変更し、324円とした

 この後、実際に仕事用の銀行口座から私用の銀行口座へ9万9676円を振り替えると、借方は支払手数料の324円が自動的に追加され、貸方はインブレスの売掛金が10万円(9万9676円+324円)と自動的に記帳された。

振り込み後の結果は、借方は支払手数料の324円が自動的に追加され、貸方はインブレスの売掛金が10万円と自動的に記帳された

 初めて確定申告する個人事業主の方は「ふ~ん」といった感じかもしれないが、実際に記帳経験のある方はこれがすごい機能だと分かるはずだ。この複合仕訳の自動化は、元金固定の借入金の引き落としや年契約・月額固定コンサル料の源泉徴収などにも使用できる。

 残念ながら、変動する源泉徴収には対応していない。源泉徴収は個人事業主には日常茶飯事の仕訳だが、計算はかなり複雑だ。例えば、売上(売掛金)が原稿料10万円+消費税8000円の場合、源泉徴収額(10.21%)は1万210円で、振り込み額は9万7790円となる。原稿料が20万円になると、売上が21万6000円で源泉徴収額が2万420円、振り込み額は19万5580円だ。振り込まれた9万7790円や19万5580円から源泉徴収額を算出するには、以下のような複雑な計算が必要となる。

入金金額/(消費税分/源泉徴収分-1)=源泉徴収額
97,790円/(1.08/0.1021-1)=10,210円

 2014年のように期の途中で消費税率が変わったり、すべての取引先が月末締め翌月末払いではないことなどを考えると簡単ではなさそうだが、選択肢の「自動取得された実際の入出金額」「金額を固定する」「金額を固定しない」のほかに、「源泉徴収(税別)」「源泉徴収(税込)」といった選択肢が加わり、変動する源泉徴収にも対応をして欲しいものだ。

◇自動仕訳ルールの設定を大幅改善しました。(「MFクラウド会計・確定申告」お知らせ)
https://biz.moneyforward.com/info/feature/automatic-account-journalizing-rule/


 以上、前編では、MFクラウド確定申告にアカウント登録してから、使い始めるのに必要な各種設定と、クラウド型確定申告ソフトの特徴でもある取引明細の自動取り込みと自動仕訳について見てきた。

 とはいえ、個人事業主がすべての経費をカード払いして、明細を自動取り込みできるようにすることは難しい。また、個人事業主の取引では、複式簿記の方法で記帳するにあたって少し知識が必要になる場面もある。

 引き続き後編では、現金払いをして手元にある領収書を手入力する方法や、交通系ICカードでの交通費精算についてのTipsなどを紹介するほか、初めて確定申告を行う個人事業主の方がつまづきそうなパターンをいくつか挙げて解説したい。

奥川浩彦@ アイピーアール