レビュー

個人事業主の確定申告、「MFクラウド確定申告」でどこまで楽できる?

後編:つまずきそうなポイントはこうしてクリア! いよいよ申告書の作成へ

 前編では、株式会社マネーフォワードのクラウド型確定申告ソフト「MFクラウド会計」を使って個人事業主が確定申告書を作成するのに必要なアカウント登録や設定、そしてクラウド型確定申告ソフトの特徴でもある取引明細の自動取り込みと自動仕訳について見てきた。

 引き続き後編では、口座から明細を自動取り込みできない現金払いの領収書の処理や、意外にやっかいな交通系ICカードでの交通費精算、また、複式簿記の記帳方法の基礎など、初めて確定申告を行う個人事業主の方がつまづきそうなポイントを解説。その後、申告書の作成作業に進む流れだ。

現金払いのレシートはアプリで、交通系ICカードの履歴も工夫しだいで効率的に記帳可能

手動仕訳

 ここまでは自動取り込み機能を紹介してきたが、もちろん、個人事業主がすべての経費をカード払いすることは難しい。次は、現金払いをして手元にある領収書を手入力する方法を紹介しよう。

 例えば、82円切手10枚を現金で購入したとしよう。「取引入力・仕訳」の「簡単モード」をクリックし、経費などの支出は「支出から選ぶ」の現金を選択。勘定科目は「通信費」を選択。金額を入力し、日付はカレンダーから選択するか月/日を入力、摘要欄に「切手代」と入力して登録すれば完了だ。つまずきそうな点は、勘定科目の選択だろう。迷った時はインターネットで「切手 仕訳」「切手 勘定科目」などで検索すればすぐに回答が見つかるはずだ。

「取引入力・仕訳」の「簡単モード」をクリック
現金、通信費を選択。金額、日付、摘要欄を入力
記帳が完了した

 次は公共料金の引き落としを記帳してみよう。継続的に入出金を自動取り込みしていれば手入力の必要はないが、初めての確定申告で1年分のデータを取り込めなかった場合は手入力が必要となる。

 「支出から選ぶ」の預金に印を付け、普通預金と引き落とされた口座を選択する。勘定科目は「水道光熱費」を選択し、設定がされていれば補助科目は「電気代」を選択する。金額と日付を入力し登録すれば完了だ。

預金、普通預金、銀行口座を選択。勘定科目は「水道光熱費」「電気代」を選択し、金額、日付を入力する

レシート取り込み

 次はレシートをスマートフォンで撮影して取り込む方法を紹介しよう。MFクラウド確定申告にはレシート読み取りアプリが2つ用意されている。1つはマネーフォワードが提供する領収書・レシート読み込みアプリ、もう1つは「ReceReco」だ。今回は、ReceRecoを使用してみた。ReceRecoはiPhoneにもAndroidにも対応していて単体で家計簿アプリとして使用できる。

 ReceRecoを起動してレシートを撮影すると、レシート詳細が表示されるので、日付や金額に間違いがないことを確認したら保存する。これでReceReco側の作業は終了だ。

ReceRecoでレシートを撮影する
取り込まれた内容を確認する

 続いてMFクラウド確定申告側で、金融機関登録の「その他」にある「ReceReco」を選択。「ReceRecoと連携する」をクリックすると、ReceRecoのログイン画面に移動する。ログイン、アクセス許可を行うと、撮影したレシートの情報をMFクラウド確定申告に取り込むことができる。これに勘定科目を設定すれば記帳は完了だ。

金融機関登録の「その他」にある「ReceReco」を選択
「ReceRecoと連携する」をクリック
ログイン、アクセス許可を行う
レシートの情報をMFクラウド確定申告に取り込むことができる
勘定科目を設定する

カード式Suicaはどうする?

 現在、クラウド型確定申告ソフトのネックと言えるのが、カード式Suicaなどの交通系ICカードだ。モバイルSuicaの履歴は自動取り込みができるが、カード式Suicaは履歴データの開示サービスがないので、MFクラウド確定申告を含め、どこのサービスも取り込むことができない。

 運が悪いと言うべきか、日本は諸外国に比べiPhoneのシェアが異常に高い。筆者もその1人だ。iPhoneユーザーはモバイルSuica対応の端末を別途用意するか、iPhoneがモバイルSuica対応をするのを待つか、カード式Suicaで自動取り込みを諦めるかを選択することとなる。

 ここでは、筆者が行っているカード式Suicaの履歴取り込み方法を紹介しよう。これがベストとは思えないので参考程度にしていただけたらと思う。Suicaのデータを読み込むためにICカードリーダーの「パソリ」を用意し、外出から戻ったら毎日(時々忘れるが)パソリでデータを読み取り、CSVファイルで保存する。そのデータを目視で重複がないようにつないで、チャージ分は削除する。コンビニなどでSuicaで購入することは避けて、交通費のみが記録されるようにしている。

 カード式Suicaの履歴は、駅の券売機ならセンターアクセスして50件の履歴を印字することができるが、カード自体には20件しか残らないので、こまめにデータをCSV化する必要がある。

「パソリ」の読み取りソフト「SFCardViewer」で20件の履歴をCSVで記録する
データをつなぎ、チャージを削除する

 MFクラウド確定申告の「ファイルの入出力」を選択すると、さまざまな形式のファイルがインポート/エクスポートできる。ここから「現金出納帳(勘定科目あり)テンプレート(.xls)」をダウンロードする。SuicaのCSVデータを、このファイルの形式に加工して貼り付け、このテンプレートファイルをアップロードすれば、履歴を一気に取り込むことが可能だ。細かな話をすると、チャージ段階から仮払金と仕訳するべきかもしれないが、筆者は現金払いとして処理している。どちらの勘定科目を使用しても納税額は変わらないのでシンプルな処理方法を選択している。

「ファイルの入出力」を選択する
「現金出納帳(勘定科目あり)テンプレート(.xls)をダウンロード」をクリック
月、日、科目コード、勘定科目、補助科目、摘要、入金、出金、残高の形式を確認
月、日、科目コード、勘定科目、補助科目、摘要、入金、出金、残高の形式にCSVデータを加工する。摘要の部分はセル&セル&……で加工した
加工したデータを貼り付ける。補助科目、入金は空欄。残高は無視
データがインポートされた
記帳が完了

 今回は試しに詳細な履歴を取り込んでみたが、ここまでする必要はないと思われる。サラリーマン経験のある方は、(細かなところは会社ごとに異なるが)出張旅費の精算フォーマットや近距離の交通費精算フォーマットで経理などに申請していたと思う。CSVファイルを1月分、2月分……と月単位の交通費精算とし、別途明細を用意し、記帳は1カ月分を1行で済ませても問題はないだろう。

意外に面倒な売上から入金までの記帳、複式簿記の記帳方法をMFクラウド確定申告でやると……

 売上から入金までの記帳は意外に面倒だ。個人事業主の場合は源泉徴収済みの金額が入金されることも多く、複式簿記の記帳を理解しないと記帳方法が分からないケースも多い。参考程度に、複式簿記の記帳方法を紹介しておこう。

 法人取引の場合、商品や原稿を納めても即日支払われることはなく、月末で締めて翌月末に振り込まれることが多い。仮に5月に原稿を納めて月末に1万800円(税込)の請求書を発送したとしよう。


借方貸方
日付勘定科目補助科目金額   勘定科目補助科目金額
5/31売掛金A社10,800円売上10,800円

 これは右手(貸方)で売上(請求書)を渡し、左手(借方)で来月払いますよという約束(売掛金)を受け取ったイメージとなる。1カ月後に源泉徴収済みの金額が普通口座に振り込まれた場合は以下のように記帳する。


借方貸方
日付勘定科目補助科目金額   勘定科目補助科目金額
6/30普通預金B銀行9,779円売掛金A社10,800円
事業主貸源泉徴収1,021円

 これは右手(貸方)で来月払う約束(売掛金)を渡し、左手(借方)で入金(普通預金)を受け取ったイメージとなる。その際、税別売上の10.21%は源泉徴収されたので、「もう税金を払いましたよ。貸しですよ貸し」といった感じだ。ちなみに源泉徴収された分は、A社が代行して納税する。確定申告時に所得税から納税済みの源泉徴収分を差し引くことができる。

 MFクラウド確定申告で銀行の入金データを取り込んだ場合、記録されるのは借方の普通預金の「9,779円」の部分だけだ。売掛金の回収であることは学習機能で記帳できるが、源泉徴収の部分は自分で複合仕訳などを行う必要がある。請求時の記帳は銀行取引にデータがないので、これも自分で記帳しなければならない。

 原稿料の場合は源泉徴収されるが、商品などを販売した場合は源泉徴収はされないので、記帳は簡単になる。コンサル系の仕事は微妙で、相手の経理や税理士の判断で源泉徴収されたりされなかったりするようだ。

 では、実際にMFクラウド確定申告で上記の取引を記帳してみよう。売上時は、取引入力・仕訳の簡単モード「収入から選ぶ」の「その他」にチェックを入れ、「売掛金」「取引先」を選択する。デフォルトで「本業の売上」となっているので変更は不要、金額を入力する。続いて日付と摘要を入力する。連続して記帳する場合は「入力内容を残す」にチェックを入れると記帳内容がそのまま残るので、次の記帳は日付、金額などを微修正するだけでよい。

売上時の記帳

 次は入金時の記帳だ。自動取り込みされていれば「普通預金」「A銀行」「97,790円」の部分は入力済みだ。源泉徴収の部分は行を追加して「事業主貸」「源泉徴収税」を選択、「売掛金」「インブレス」を選択し、左右の金額が同じであることを確認したら登録して終了となる。

入金時の記帳

 MFクラウド確定申告だけで完結する場合は上記の方法となるが、請求書サービス「MFクラウド請求書」(https://invoice.moneyforward.com/)を使用すると、請求書の発行に連動してMFクラウド確定申告に売上時の記帳を行ってくれる。請求先の数が多い場合は郵送サービスにも対応しているので、個人事業主の方は利用を検討するとよいだろう。

最後に固定資産の登録、記帳が完了したら確定申告書・決算書の作成へ

固定資産の登録

 最後は固定資産の登録だ。10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産は、消耗品費で全額その年の経費にすることができる。これに対し10万円以上の機械、器具、車両、建物などは固定資産となる。

 固定資産や償却方法の詳細は、本誌2014年12月18日付記事「個人事業主の税金を理解し節税しよう・前編 税金の計算方法を理解する」を参照していただきたい。

 実際に固定資産の登録を行ってみよう。固定資産に該当する製品を銀行振り込みで購入したとしよう。消耗品であれば「備品・消耗品費」に仕訳するが、今回はカメラを購入したので「工具器具備品」とした。

18万円のカメラを銀行振り込みで購入
購入品目を記入(実際には機種まで記入)、科目は「工具器具備品」とした

 この段階では経費にはなっていない。固定資産に該当するものを買い、普通預金から支払ったことだけ記帳されたことになる。

 次に「決算・申告」のプルダウンメニューから「固定資産台帳」を選択する。ここで固定資産の追加を行う。「(必須)」と書かれた項目を記入しよう。固定資産の減価償却の方法は選ぶことができる。今回は、最も一般的な「定額法」、3年で均等割する「一括償却」、1年で償却する「即時償却」の3つの方法を比較してみた。

 定額法では5年=60カ月で償却するので、12月に購入した18万円(分かりやすくするため端数を切り捨てた)のカメラは1カ月分の3000円が今期償却額となった。一括償却では3年で割るので6万円、即時償却は全額の18万円が今期償却額となっている。儲かっていると仮定して、ここでは即時償却を選択した。

「決算・申告」のプルダウンメニューから「固定資産台帳」を選択
固定資産を追加する
「(必須)」と書かれた項目を記入しよう
下線は共通、四角枠が償却方法により異なってくる。定額法では3000円しか経費にならない
一括償却では6万円が経費となる
即時償却なら18万円全額が経費となる

 固定資産の一覧に戻ると、経費算入額が18万円になっていることが分かる。その経費は下段の仕訳のように、12月末日に減価償却費として経費計上されている。即時償却は青色申告を行う人の特典で、摘要欄に「措置法28の2」と記入する必要がある。「編集」をクリックし記入しよう。

固定資産の一覧に登録された
即時償却した場合は摘要欄に「措置法28の2」と記入しよう
これで固定資産の登録は完了

家事按分

 日々の経費も記帳、売上も記帳、固定資産も記帳……ここまで来れば、確定申告はゴール間近だ。次は家事按分の設定。初期設定で行った補助勘定科目の設定がここで生きてくる。補助科目を設定した水道光熱費の電気代、ガス代、上下水道代をそれぞれの比率で按分する。これ以外に地代家賃と車両費も按分を行った。この作業により、それぞれの経費から家事使用分が差し引かれる。最後の最後に経費が大幅に減る(=税額が大幅に増える)作業なのでガッカリすることが多い。

勘定科目、補助科目を選択し事業で使用する比率を入力する
該当するすべての科目の事業費率を入力する
一括仕訳登録をすると、これも12月末日に家事按分のための仕訳が登録された。

確定申告書の作成

 すべての記帳が終了したら、いよいよ確定申告書、決算書の作成だ。「決算・申告」のプルダウンメニューから「決算・申告書」を選択する。縦に長いページが表示されるが、記入するのは該当する部分だけなので、特別な理由がなければそれほど多く記入する必要はないだろう。

「決算・申告」のプルダウンメニューから「決算・申告書」を選択
確定申告書の詳細を記入していこう

 ここでは、多くの人が該当するところだけ紹介しよう。基本事項の編集はほとんどの項目は初期設定が反映されているので記入済みのはずだ。確定申告書を提出する日を記入しよう。「【確定申告書B】第一表 基本情報の編集」も、担当する税務署を記入しよう。

提出日を記入
税務署を記入

 次は控除関係の記入だ。控除を増やすと納税額が減るので、漏れのないように記入したい。まずは社会保険料、その次は生命保険料だ。どちらも手元に1年分の支払額の明細が郵送されているはずなので、それを見ながら記入しよう。MFクラウド確定申告は生命保険の自動計算機能がないので、自分で控除額を算出しよう。

 その際の計算式については、本誌2014年12月19日付記事「個人事業主の税金を理解し節税しよう・後編 “節税の肝”各種控除を理解する」に掲載したを参照いただきたい

 配偶者や扶養親族(子供)がいる人は配偶者控除・扶養控除を記入する。控除額は配偶者の年収や子供の年齢によって異なるので、同じく「個人事業主の税金を理解し節税しよう・後編 “節税の肝”各種控除を理解する」を参考にしていただきたい。

該当する項目を記入する。社会保険、生命保険は多くの人が該当するはずだ
配偶者や扶養親族を記入

 次は所得の内訳を記入しよう。源泉徴収された取引先から「支払調書」が郵送されているはずだ。取引先が代行して納税した源泉徴収の金額が記載されているので、それを参照して記入しよう。

所得の内訳を記入

 家賃や月極駐車場の支払いがある人はここに記入。按分する必要がある時は忘れずに按分しよう。これでおおむね作業は終了だ。このページの上にある「確定申告書B」「所得税青色申告決算書」をクリックするとPDFが表示されるので印刷し、確認が済めばすべて終了となる。

地代家賃を記入
印刷すれば完了だ
確定申告書B 第一表
確定申告書B 第二表
所得税青色申告決算書は、損益計算書や貸借対照表などが印刷される

レポート機能

 MFクラウド確定申告には、業績を把握するためさまざまなレポートを表示する機能がある。すべては紹介できないので、キャッシュフロー、収益、費用(経費)のグラフを参考に見ていただきたい。

キャッシュフロー
収益
経費

クラウド型確定申告ソフト+少しの税金知識で、個人事業主の確定申告がすいぶん楽に

 手入力で確定申告を行った時代は、経費と売上の記帳までが労力の9割。按分、固定資産、確定申告書の作成が1割――というイメージだった。その9割の部分が、アグリゲーション機能によって大幅に軽減されるのがクラウド型確定申告ソフトの魅力だ。9割が半分になるか、2割になるかは、それぞれの口座環境や運用方法によると思われる。

 とはいえ、何の知識もなく誰でも簡単に青色申告ができるというほど簡単ではない。簿記の資格を取る必要はないと思うが、青色申告に関する書籍は数多く出版されているので、起業を考えている人、起業したばかりの個人事業主の方は一読すると確定申告の作業はグッと楽になるはずだ。幸いインターネットにも情報は多数掲載されているので、何かしらの勉強をすることが節税の近道にもなると思われる。

 MFクラウド確定申告は自動仕訳の精度が高く、記帳作業の軽減に大きく貢献するだろう。反面、申告書作成の部分はもう少し改良が望まれる気がするが、そのあたりについても、少し税金関係の知識があれば問題はないと思う。クラウド型確定申告ソフトが効率を上げてくれる部分と、自分自身が知識を付けて効率よく作業をする部分が噛み合うと、個人事業主の確定申告はずいぶん楽になりそうだ。

奥川浩彦@ アイピーアール