特別企画

ストックフォトとは何か? どのような場合にどういったライセンスが必要なのか? 「Adobe Stock」のライセンス形態と使用できる範囲

デジタル時代において、イメージ画像はマーケティング、コミュニケーション、広告などに欠かせない存在となっています。脳が瞬時に反応するような、アイキャッチ画像が必要で、しかも、定期的に更新していかないと飽きられてしまいます。そんなときに低価格で必要な画像、イラスト、ビデオなどのライセンスを購入できるのが、ストックフォトサービスの強みです。すでに利用されている方も多いと思いますが、「ストックフォトを使っていればどのように使ってもよい」というわけではありません。ストックフォトとは何か? どのような場合にどういったライセンスが必要なのか? フォトストックサービス「Adobe Stock」の活用例とともに、アドビシステムズ株式会社の青野薫子氏に解説していただきます。

ストックフォトサービスの2つの形態

 ストックフォトというビジネス自体の歴史は浅いわけではありません。かつてはレンタルポジと呼ばれ、露出計算が難しいポジティブフィルム(スライド)の貸出が行われていました。フィルム代や現像代などのコストのほか、発生する使用料は使用用途やサイズ、部数次第で高額になることもあります。独占契約や買取となればなおさらです。

George Bailey / Adobe Stock

 そんな中、インターネットおよびデジタルカメラの普及により、新たなストックフォトの分野が2000年ごろから出現し始めました。画像素材の購入希望者と販売希望者、両者のニーズに合った新しい形態の“マイクロストック”フォトです。

 新しい形態のストックフォトの出現により、旧来型のストックフォトが“マクロストック”と呼ばれるようになりました。マクロストックは“ライツマネージド”、一方、マイクロストックは“ロイヤリティフリー”のライセンスを提供しています。

 ロイヤリティフリーとは、規約の範囲内であれば、追加使用料が発生しないという意味です。もちろん、無料で使えるという意味ではありません。簡単に言うと、使用地域・使用期限に制限がなく、複数の媒体に利用可能ということです。ライセンス料は非常に廉価に設定されていますが、世界のどこかの国で同じ画像が別の使用用途で使われる可能性もあるわけです。

 これに対してライツマネージドは、使用期間、サイズ、媒体などの使用形態によりライセンス料が異なるほか、同業他社の利用に対しての制限もかけられます。ただし、その分ライセンス料は高くなります。

ストックフォトの“マクロストック”と“マイクロストック”の違い
マクロストックマイクロストック
ライセンスライツマネージドロイヤリティフリー
メリットコントロールがきく、料金はかかるが独占契約も可能、使用用途によってライセンス料が決定低価格・経費削減、エージェンシーとの価格交渉が楽、素材の種類が豊富
デメリット価格交渉が面倒同業他社を含む別のところで同じ価格が利用される可能性あり

「Adobe Stock」のライセンス形態と使用できる範囲

 ストックフォトサイトで、素材購入の手順に従って画像のダウンロードを行うと、“その画像自体”を買った気になりますが、厳密に言うと、“画像を使用するためのライセンス”を購入したに過ぎません。著作権自体は画像の制作者にあります。

 ライセンスにも種類があります。Adobe Stockでは、「通常ライセンス」と「拡張ライセンス」の2種類を提供しています。「通常ライセンス」は、50万部未満の販促用のちらし、ポスター、書籍内の挿絵などに利用できるライセンスです。「拡張ライセンス」は、例えばマグカップやTシャツなどに印刷して商品として販売する場合、50万部以上の販促物、商品パッケージに利用する際に必要なライセンスです。

Adobe Stockの「通常ライセンス」と「拡張ライセンス」の違い
通常ライセンス拡張ライセンス
権利の共有同一の法人内制限なし
使用期間制限なし制限なし
地域の制限制限なし制限なし
ウェブサイトの挿絵制限なし制限なし
ソーシャルメディア制限なし制限なし
印刷文章50万部以内制限なし
電子文書50万部以内制限なし
ビデオ、TV、映画50万視聴者以内制限なし
ソフトウェア、アプリケーション50万個以内制限なし
再販用のテンプレート使用不可制限なし
再販用の派生的製品(グッズ等)使用不可制限なし
オンデマンド印刷サービス使用不可制限なし
コンテンツごとの法的保護(規約の範囲内の利用法で画像を使用して、何か問題が起こった際に補償する額)1万ドルまで1万ドルまで

 購入方法は、単品購入、サブスクリプション(定額制)があり、使用頻度にあったプランを選択できます。通常ライセンスでは、画像単品購入の場合1180円、1カ月あたり10点なら月額3480円(年間プラン)または5980円(月々プラン)、750点までなら月額2万4980円(年間プラン)など、購入点数に応じたオプションを用意しています(価格はすべて税別)。

「通常ライセンス」の購入オプション

 ライセンスは1社1ライセンス制です。自社用もしくはクライアント1社に対して使用する場合には、ウェブ、ちらし、ポスターなどの複数の媒体で使用することができます。

 例えば以下のレモンの画像を使用する場合、スーパーのチラシに使用、かつ印刷部数が50万部未満なら「通常ライセンス」、50万部以上のチラシや商品パッケージなら「拡張ライセンス」が必要です。もし、この画像をTシャツに印刷して商品として販売する場合、枚数に関係なく「拡張ライセンス」の購入で利用できます。使用用途にあったライセンスを購入することで、さまざまな用途に利用可能です。

olllinka2 / Adobe Stock

 拡張ライセンスの場合、印刷部数には制限はありませんが、何にでも使えるというわけではありません。例えば性風俗関係への人物画像の使用は、拡張ライセンスであってもNGです。

 また、ウェブに関しては、50万という制限は対象になりません。ブログやSNSといったウェブ上での使用の場合、50万以上の閲覧があっても通常ライセンスで使用可能です。ブログの記事内で挿絵として使用するような場合には、著作権表記が必須ですが、背景やウェブデザインの一部として利用する場合、著作権表記は任意です。

 画像の加工については、トリミング、文字を加える、フィルターがけ、反転などは問題ありません。一方で、過去に人物画像を加工して美容整形のビフォー/アフターに使用したケースが問題になったこともありますので、人物画像の加工については注意が必要です。

 インターネット上には多種多様な画像が溢れています。容易に希望通りのイメージが見つかることもあるでしょう。あるいは、偶然目にした画像から制作物へのインスピレーションを受ける場合もあるかもしれません。しかし、そのような画像を許諾なしに使用することは、大きな問題に発展するリスクをはらんでいます。昨年のオリンピックに関連したデザインの一件は、記憶に新しいところです。ストックフォトサービスを利用すれば、こうした不安要素を抱えることなく、センスの光る人目を引く画像やプロカメラマンが撮影した高品質画像を堂々と自分のブログや仕事のプロジェクトに用いることが可能です。実際のところ、ライセンス料を支払った上で、安心して画像を使用しようと考える方は増えています。

提供画像は5500万点以上、「Photoshop CC」「InDesign CC」などのソフト上からも利用可能

 サービスをグローバル展開し、世界中からコントリビューター(写真やイラストなどの素材の提供者)が参入しているAdobe Stockは、2016年6月時点で5500万点以上の画像、120万点のHDビデオ、10万点の4Kビデオが提供されているマーケットプレイスで、毎日、世界中から4万点ほどの新しい素材がサイトにアップされています。

 ガイドブック用の写真のために、わざわざフォトグラファーを海外に派遣しなくても、世界各地の観光名所はもちろんのこと、空撮や現地の食べ物など、その土地や文化を知り尽くした現地の人々がさまざまな切り口の素材を紹介してくれています。

 もちろん、日本人のコントリビューターもたくさんいます。日本人に好まれる季節感あふれる風景や食べ物、人物、介護関連などを提案する人から、世界中で需要があるイラスト、テクスチャーを手がける人までさまざまです。

 例えば、親子丼や秋刀魚定食などの画像の需要はほぼ日本国内ですが、霜降りのシズル感あふれるステーキ、お寿司などの画像は世界中の人が購入しています。多言語に対応しているAdobe Stockでは、コントリビューターが日本語で「ステーキ」というキーワードでアップロードした場合でも、各国の人が自国語で「steak」「bistecca」「stek」などと入力すると、日本語の「ステーキ」も検索にかかる仕様となっており、言葉に悩まされずに検索やライセンス購入をすることができます。また、地域に根ざした展開をしているので、日本の購入者には日本人が好みそうな画像、ブラジルの購入者にはブラジル人が好みそうな画像から検索結果に出てくる仕組みとなっています。

kazoka303030 / Adobe Stock

 Adobe Stockは「Adobe Creative Cloud(CC)」と連携しているため、Adobe CCの会員であれば、「Photoshop CC」「Illustrator CC」「InDesign CC」などのソフト上からも直接ライセンス購入をすることが可能です。制作作業を中断することなく利用できることが、他のストックフォトサイトと大きく異なる特徴です。モバイルアプリとの連携で、外出先などからもライブラリのデータを見ることもできます。

「InDesign CC」をはじめとするAdobe CCの主要ソフトに備わっている「CC Libraries」パネルから直接、「Adobe Stock」の素材を検索・取り込み可能。制作・検討段階では透かし入りの無料画像を貼り付けてデザイン/レイアウト決めをしておき、正式に使用することが決まったら、その画像のライセンスを購入すればよい。配置や加工処理はそのままに、本番画像データに差し替えられる。こうした一連の作業が、Adobe CCソフトとの連携でスピーディーに行える

 Adobe Stockには、毎日続々と新作が追加されているため、あとでまた探せると思っていても、いざ同じようなキーワードで検索したところ見つからない、というケースもしばしばあります。そのため、とりあえずライセンス購入までしてしまう方も少なくありません。画像が廉価であるマイクロストックフォトならではの利用法です。

 また、画像を検索すると類似作品も表示されるため、思いもかけない新たな発見、インスピレーションが沸いてくると思います。検討用の透かし入り画像は無料でダウンロードできますので、ぜひお試しください!

青野 薫子

ロイヤリティフリーのストックフォトが全盛になる前の、ライツマネージドのフォトエージェンシーに勤務。その後、写真の勉強を続けるために渡米し、帰国後、Fotoliaに入社。2015年1月、ストックフォト担当としてアドビシステムズ株式会社の社員となる。