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白色申告だったフリーランスの筆者が青色申告開始手続きしてみました――まずは手堅く10万円控除を目標に

申請期限の3月15日まで残り1週間、面倒な提出書類もサクッと作成

 青色申告にすると税金が安くなる――。フリーランスで働く人なら誰もが一度は聞いたことのあるセリフだ。しかし、これを実践するのは意外と面倒。しかも、その年の確定申告を白色から青色に切り替える手続きの締め切りが、よりによって前年の確定申告の締め切りと同じ3月15日となっている! つまり――まさに今、2016年分の確定申告のために領収書を整理し、ヒィヒィ言いながら電卓を叩いている人が、翌2017年の青色申告開始のための書類作成にまで気が回るわけがない。「青色申告するぞ!」という折角の決意も薄れてしまい、どうしても後回しになってしまう――ということが毎年繰り返されてきたかもしれない。

 そこで今回、これまで白色申告だった筆者が、意を決して「青色申告承認申請書」を税務署に提出してみた体験についてレポートする。今はありがたいことに、青色申告の開始手続きに必要な書類を一括作成できる「開業 freee」(freee株式会社が提供)のような無料サービスもあり、わずか数十分で必要書類を仕上げるのも夢ではない。「今年こそは!」と今年も考えている白色申告者の方は、来週あたり確定申告で税務署に行くついでに、青色申告開始手続きの書類も準備・提出するなんてことも検討してみてはいかがだろうか。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。

「青色申告65万円控除」までの険しい道

 街の青果店や理容室など、いわゆる「自営業者」は毎年の正月明けくらいのタイミングで、必ずといっていいほど暗い気持ちになる。そう、2~3月に所得税の確定申告が控えているからだ。

国税庁のホームページ内にある「確定申告書等作成コーナー」。このページを見ると憂うつになるのは筆者だけ?

 ライター業を営む筆者もまさにその1人。会社は作っておらず、雑務を頼める部下も当然いないので、自分1人で1年分の収入や経費を計算し、所得税の金額を確定させなければならない。この時ばかりは、給与所得者がうらやましい(もちろん、隣の芝生は何とやら、ではあろうが……)。

 さて本題。お客さんにモノを売ったり、頼まれた用事を代わりに遂行することで税法上の「事業所得」を得ている人が、支払う税金を節約するための手段として「青色申告」の制度がある。その特典は種々あるが、筆頭は「青色申告特別控除」。帳簿をつける上で一定の条件を満たすと、所得金額から65万円を控除してくれる(ちなみに、所得税が65万円減るのではなく、税金を計算するためのベースになる額から65万円が引かれるという仕組み)。

 個人事業主にとって、この控除はかなり大きい。新幹線や飛行機の出張なし、作業場は自宅。いくら定番だからといって数万円するMicrosoft Officeすら買いたくない……そんな状態の事業主が年65万円も経費をひねり出せるわけがない。

 ただ、この“一定の条件”を満たすのは、確定申告初心者にとってはかなりハードルが高く、会計ソフトの導入が事実上必須だ(ここでもまたコストが……)。なので、最初のうちは「白色申告」にしておいたほうが何かと無難ではある。実際、筆者はここ10年ほど自分で確定申告を済ませているが、ずっと白色申告。つける帳簿も、自作のExcelの表1枚だけである。

65万円控除の前に、10万円控除があった!

 65万円控除は魅力的だが、諸々の手間を考えるとなかなか踏み切れない。そんな時、たまたま筆者が税務署主催の講習会で教えてもらったのが「10万円の青色申告特別控除を適用させる」という方法だ。というのも、「65万円控除を受けるのが大変」なのであって、「青色申告者」になるのは比較的簡単。所定の期間に書類を1~2枚税務署に送るだけでいい(厳密には、税務署に承認してもらってから初めて青色申告ができる)。

「青色申告特別控除」についての解説ページ。65万円控除に比べるとだいぶメリットは減るが、それでも10万円控除は魅力

 国税庁のホームページによれば「65万円控除の要件に該当しない青色申告者が10万円控除を受けられる」(筆者意訳)。つまり、「青色申告=記帳が難しい」とまで断言はできないのだ。

 もちろん、白色申告の手続きと比べて、10万円の青色申告特別控除を受けるための帳簿記帳の方法は、全く同じというわけではない。「(略)正規の簿記によることが原則ですが、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳のような帳簿を備え付けて簡易な記帳をするだけでもよいことになっています」とあるように、管理すべき帳簿の種類が増えるのは事実だ。

 しかしながら、数年前に白色申告に関するルールが変わり、帳簿の作成、書類の保管義務が白色申告者に対しても課せられた。結果、白色申告と青色申告(10万円控除)のギャップが小さくなり、「ならば青色申告にしようか」という考える人もいるだろう。

今は確定申告で修羅場……それでもとにかく3月15日までに青色申告の届出を

 青色申告の手順については、国税庁のホームページなどにかなり詳細な解説が載っているので、バッサリとカットさせていただく。今回はとにもかくにも、青色申告にチャレンジすると決めたなら、これだけを訴えておきたい。

 3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出(送付)せよ!

 繰り返しになるが、青色申告を行うには、事前の申請が必要なのだが、この締め切りが毎年3月15日までに設定されている(もちろん例外はある)。これを過ぎてしまうと、今年2017年(平成29年)1~12月分の収入・経費を青色申告する権利がなくなってしまい、さらにまた1年待たねばならない。しかし、冒頭でも述べたように、その日はあいにく確定申告の締め切りでもある……。

 ならば! 悩む前に行動して、困ったら後で対処しよう――というわけだ。

「青色申告承認申請書」に必要事項を記入して、所轄の税務署へ提出(郵送可)することから、すべてが始まる

 申請書の作成自体は簡単。国税庁のホームページからPDF形式の「青色申告承認申請書」がダウンロードできるので、そこに書き込めばいい。ウェブサイトのフォームのように入力してから印刷できるので、手書きすら不要。あとはハンコを押して、所轄の税務署へ持参するなり郵送しよう。

 また、これは筆者が勘違いしていたことなのだが、申請書は一度提出すれば、翌年以降も基本的にはずっと有効。毎年出し直す手間はない。

時間がない? 不安? それなら「開業 freee」で書類作成を~開業届も作れます

 このように青色申告の申請自体がいくら簡単とはいえ、それでもやはり不慣れな方にとって、不安は大きいだろう。ましてや提出期限は目前。それより何より確定申告で忙しくて青色申告にまで気が回らない……そんな時こそ「開業 freee」の出番だ。

 このサービスは、職種、収入の目安、従業員を雇って給料を払う予定があるかなどの質問に答えていくだけで、必要な書類を自動で作成してくれるというもの。住所をもとに所管税務署まで調べてくれ、さらにその書類送付先が書かれたラベルまで出力してくれるという親切ぶりだ。

「開業 freee」の利用画面。こんな感じで質問に答えていけばOK

 ところで、開業 freeeでは「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)も同時に作成・印刷できるようになっている。これは本来、白色・青色を問わず、何らかの事業を開始したときに税務署へ届け出るための書類。とはいえ、仕事の規模がごくごく小規模だったりすると、実際は数年来の事業所得があっても、開業届を出し忘れていたりするケースがありうる。

 事業を開始した時点できちんと提出済みであれば、今回の青色申告承認申請書提出のタイミングで改めて届け出る必要はないが、もし開業届をまだ提出していなかった場合、青色申告承認申請書に先立って開業届を提出しておかなければならないのだろうか?(よりによって、この確定申告のタイムリミット直前の時期に……)

 この件に関しては、開業 freeeの開発にあたってアドバイスもしたというアトラス総合事務所(東京都渋谷区)の税理士・田之畑龍一さんに聞いた。

 当初提出されていないのであれば、青色申告承認申請書の提出とは関係なく、速やかに提出された方がよいかと思います。ただし、開業届を一度も提出されていない個人事業主の方であれば、青色申告承認申請書と併せて開業届を提出することは可能です。

 ということなので、開業届も必要に応じて出力して、青色申告承認申請書と一緒に提出しよう。開業 freeeのサービス自体、基本的には質問に答えてプリンターで印刷するだけなので、自分1人で収入を得ている小規模事業者なら数十分、どんなにかかっても1時間あれば、書類を仕上げられるはず。これなら、3月15日の締め切り直前でも何とか時間を作れるかと思う。

 なお、開業 freeeの利用にあたってはユーザー登録が必要だが、様式出力サービスなどは無料。また、登録したアカウントでそのまま「クラウド会計ソフト freee」に移行できるようになっている。

見込み年収を入力すると、確定申告方法の違いでどれくらい節税額に違いがあるが、アドバイスしてくれる
書類はPDFとして出力されるので、あとは印刷してから提出。封筒に貼り付けるための宛名ラベルまで用意してくれる

※「開業 freee」では、「青色申告承認申請書」「開業・廃業等届出書」のほか、家族に給与を支払う場合や家族への給与を経費にする場合の「青色事業専従者給与に関する届出書」なども一括作成可能だ(2016年10月11日付関連記事『個人事業主の開業手続きを簡単にする無料サービス「開業 freee」リリース』参照)。ただし今回は、筆者1人だけであり給与を支払う人はなし、当面の目標も手堅く「10万円控除」であるため言及はしない(これら各種届出によるメリットなど、さらに壮大な青色申告の節税効果については、2017年3月7日付関連記事『申込期限は3月15日 白色申告から青色申告に切り替えて1000万円を節税しよう』参照)。

青色申告の道へ踏み出したら最後、もう白色申告には戻れない?

 最後に、もう1つ気になる点。青色申告承認申請書を提出した後、もし、青色申告の仕組みが難しくて理解できず、帳簿を仕上げられないときはどうすればいいのだろうか?  同じくアトラス総合事務所の田之畑龍一さんにアドバイスいただいた。

 青色申告承認申請書を提出された方が白色申告を提出することが可能かどうかにつきまして、結論から申し上げると可能です。ただし、あくまで問題なく受理されるというだけで、青色申告を宣言されたのであれば、帳簿(最低でも貸借対照表以外)を記帳していただき、青色申告にて申告をされたほうがよいかと思います(10万円の青色申告特別控除も受けられます)。なお、白色申告を提出するために特段必要な手続きや書類はありません。

 つまり、単純に白色申告用の書類を作成・提出すればよい……というわけだ。「やっぱりやーめた!」ができるのは、未体験者にとって結構重要なポイントだと思うので、参考にしてほしい。

 以上、青色申告の第一歩にあたる書類の提出方法について解説した。筆者も本稿執筆に合わせ、青色申告承認申請書を作成し、税務署へ郵送した……のだが、勉強不足な点も多々あり、帳簿を実際にどうつけていくか、不安は拭えない。

 ただ、書類を提出したことで、良い意味で追い込まれたというか、やる気が出てきたのも事実。空き時間を上手くやりくりして、来年の確定申告に備えようと思う。その過程で分かったことがあれば、またお伝えしたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。