特別企画
7月にサポートが終了するWindows Server 2003
移行先としての「Synology DS415+」を検証する
(2015/3/16 06:00)
2015年7月15日にWindows Server 2003のサポートが終了する。ファイルサーバーとして利用している場合、その移行先としてNASは選択肢に入るのだろうか? Synologyの4ベイNAS「DiskStation DS415+」を例に、移行先としての可能性を検討してみた。
移行は待ったなし
昨年(2014年4月)、大きな話題となったWindows XPのサポート終了に続き、いよいよ、今年7月にWindows Server 2003のサポートが終了する。
クライアントOSのWindows XPに比べれば台数は少ないが、現在も企業のファイルサーバーや業務サーバーなどで、現役で稼働しているサーバーOSだけに、サポート終了後の業務の継続性を考えると、そのインパクトはWindows XP以上と言っても過言ではない。
サポートが終了すれば、万が一、OSに大きな脆弱性が発見されても修正される見込みがなくなるため、外部からの攻撃者やマルウェアのターゲットとなれば、サーバー上に保存されている重要な企業のデータが丸腰になってしまう。
企業の生命線とも言える技術情報、外部に漏れることで信頼失墜につながる顧客情報、ライバル企業に知られたくない経営情報、大切な社員の個人情報など、さまざまなデータが危険にさらされれば、企業が被るダメージは計り知れないものとなるだろう。
このため、すでにドメインコントローラーや業務サーバーなど、多くの企業が基幹系のシステムの移行を進めているが、その網に取り残されているサーバーも少なくない。
代表的なのが、中小企業のファイルサーバーだ。移行しなければならないことはわかっていても、移行の手間やコストを考慮すると、なかなか手を付けられずに、そのまま残ってしまっているケースが多い。
そこで検討したいのがNASへの移行だ。中小企業や大企業の部門単位のファイルサーバーの場合、運用の手間やコストなどを考慮すると、さまざまな意味でリーズナブルなNASへの移行も1つの選択肢となる。
Synologyの4ベイNAS「DiskStation DS415+」を例に、移行先としての可能性を検討してみよう。
検証1:コストはどれくらいか?
企業で導入する場合、コストは重要な要件の1つだ。多くのコストをかけられないうえ、10万円を超えるかどうかが決裁時や購入後の資産処理の1つの基準になる。
以下の表は、DS415+と一般的なPCサーバーを購入した場合の費用の比較だ。PCサーバーは、大手サーバーメーカーのいくつかの製品を参考に中間となる価格(税別)で算出した。
DS415+ | PCサーバー(25台以下) | PCサーバー(25台以上) | |
本体 | 8万5000円 | 8万円 | 8万円 |
HDD(2TB×4台) | 4万円 | 24万円 | 24万円 |
サーバーOS | 0 | 6万5000円 | 11万円 |
CAL | 0 | 0 | 15万円 |
合計 | 12万5000円 | 38万5000円 | 58万円 |
※1:PCサーバーはCeleron搭載のエントリーモデルを想定
※2:HDDはDS415+がWD20EFRX(1万円前後)、PCサーバはメーカー純正(6万円前後)を想定
※3:PCサーバーのOSは25ユーザー以下がWindows Server Essentials 2012 R2、25ユーザー以上がWindows Server 2012 R2 Standard Editionを想定
※4:CALはWindows Server 2012 R2 5デバイスCAL 2万5000円×6(30ユーザー)を想定
PCサーバー本体は、ホワイトボックスPCなどを調達したり、型落ちの製品を利用することで、さらに低価格に入手することも可能だが、今回はメーカーのエントリーモデルを想定し、HDDも純正オプションを選択したため、かなり高額な結果となった。
もちろん、HDDをDS415+と同等の市販製品を選択することも可能だが、その場合、メーカーのサポートがどの範囲に及ぶのかを事前に検討しておく必要があるだろう。
これに対してDS415+は、本体のみで8万5000円前後、HDDを別途購入しても12万5000円前後の価格となり、コスト的にはかなり有利だ。
サーバーOSの費用もかからないうえ、Windows Server 2012 Standardでは必要なクライアントアクセスライセンス(CAL)も、利用するユーザー数を問わず不要となる。この部分は、利用する企業の規模が大きくなるほど効いてくる。
ファイルサーバーとして利用することを想定すると、市販のエントリー向けサーバーはオーバースペックな印象で、Windows Server 2003からの移行先としての敷居が低いとは言えないところだ。
もちろん、だからといってDS415+の性能が劣っているという意味ではない。以下はネットワーク上のPCからCrystalDiskMark 3.0.3を実行した際の値だ。SynologyのNASはパフォーマンスの高さに定評があるが、市販のPCサーバーに比べても、その実力はかなり高い。ハードウェアやソフトウェアをファイルサーバーに特化させた結果と言える。
このため、サポート切れのWindows Server 2003搭載サーバーが、社内に複数台存在する場合でも、これらを無理なくDS415+に統合できる。複数部門のファイルサーバーを統合して、コストダウンや管理の手間を軽減するといった意味では、単体のコストが低いこと以上の価値があると言っていいだろう。
検証2:管理のしやすさは?
Windowsに慣れたユーザーにとって、WindowsのUIをベースにしたWindows Serverの管理体系は確かになじみやすい。
しかし、Windows Server 2003のユーザーインターフェイスと、最新のWindows Server 2012 R2のユーザーインターフェイスの違いを考慮すると、果たして本当になじみやすいと言っていいのかに、多少の疑問が残る。
そういった意味では、DS415+に移行したとしても、ユーザーインターフェイスの違いに慣れるまでの期間に、そう大きな違いはないだろう。
そもそもDS415+に搭載されているDSM 5.1は、ウィンドウ表示に対応したグラフィカルなユーザーインターフェイスとなっており、初めてのユーザーでもすぐに使いこなせるように工夫されている。
コントロールパネルからユーザーやグループ、共有フォルダを簡単に管理できるので、社内の人事異動などでユーザーの追加やアクセス権の設定変更が発生しても、迷わず、スピーディーに対処できる。
ユーザーやグループの設定画面から、速度制限(アップロード速度やダウンロード速度を制限できる)をかけるといったWindows Serverにはない機能も設定できるようになっており、今まで設定方法がわからなかった高度な機能も気軽に使いこなせるようになっている。
もちろん、移行したばかりのときは多少違和感を抱く可能性はあるが、すぐに慣れ、使いこなすことができるようになる敷居の低さは大きな魅力だ。
検証3:容量拡張に対応できるか?
業務の拡大や人員増などで、ファイルサーバーの容量が足りなくなることは、決して珍しいことではない。
しかし、低価格のサーバーの場合ホットスワップに対応していなかったり、HDDの装着が面倒だったり、そもそも拡張するためのベイがなかったり、既存のデータを損なわずに運用したまま容量を増やすことが困難だった。
これに対して、DS415+では、空いているベイにHDDを装着したり、既存のHDDを入れ替えるだけで容量を拡張できる。もちろん、NASを運用したまま、極端な話、業務中でも容量を拡張できる。
Windows Serverでも記憶域スペースを利用すれば同様のことが可能だが、ホットスワップなどハードウェアに依存する部分もあるので注意が必要だ。
IoTの登場やSNSの活用など、今後、企業が扱うデータが増えていくことは確実となる。そうなった場合でも、安心して容量を追加できるのがDS415+のメリットと言えるだろう。
検証4:低消費電力で自然や経営にやさしいか?
PCサーバーの低消費電力化が進んでいるとは言っても、構成によってはその消費電力が100W近くに達することも少なくない(HDDを4台搭載したタワーサーバーを想定)。
24時間365日、休みなく稼働させる必要があるサーバーの場合、いかに消費電力を低くするかは、エコの観点はもちろんのこと、企業の経理上も重要な課題と言える。
では、NASの場合はどうかというと、DS415+の消費電力はアクセス時で32.64W、夜間などでアクセスがなくなりHDDが休止した状態では14.78Wまで消費電力を押さえることができる(WD10EFRX×4フルロードの状態)。
前述したように、古くなった複数台のPCサーバーを1台に統合するだけの実力もそなえているので、サーバー統合も進めれば、より高いエコとコスト削減効果も見込めるだろう。
検証5:いろいろな用途に使えるか?
Windows Serverは、ファイルサーバーとしてだけでなく、役割を追加することでディレクトリサーバーとして利用したり、会計ソフトなどをインストールして業務サーバーとして利用したりすることができる、自由度の高いOSだ。
これに対して、DS415+も、Windows向けの業務アプリケーションを動作させることこそできないものの、Webサーバー、メールサーバー、VPNサーバー、ディレクトリサーバーなどとして動作させることができる、多機能なNASだ。
ビジネス、セキュリティ、マルチメディアなど、さまざまなジャンルの機能がパッケージとして提供されており、無料でインストールして機能を拡張できるようになっている。Windows Serverでは、サーバーの構成が難しい機能も少なくないが、DS415+では、設定画面からパッケージを選んでインストールすれば、すぐに使えるようになっている。
どのようなパッケージが提供されているかは、こちら(https://www.synology.com/ja-jp/dsm/app_packages)で参照できるので、購入前にチェックしておくといいだろう。
検証6:いろいろな端末で使えるか?
最近では、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットを業務に活用する企業も増えてきている。このような状況を考えると、業務に欠かせないデータを多く抱えたファイルサーバーもマルチプラットフォームに対応していなければ使い物にならない。
そういった意味では、基本的にWindowsクライアント向けとしてスタートしたWindows Serverよりも、当初からマルチプラットフォームを前提に開発されたNASの方が有利だ。
実際、DS415+では、AndroidやiOS端末向けに、さまざまなアプリが提供されており、「DS file」を利用して外出先からスマートフォンを使ってNAS上のファイルにアクセスしたり、「DS cloud」を使ってスマートフォン上のデータを自動的にNAS上に同期させたり、「DS video」や「DS audio」を使ってタブレット端末でNAS上の映像や音楽を再生することなどが手軽にできる。
中でも同期の機能は、マルチプラットフォームで同じデータを使いたいというニーズに応えられる使い勝手の良いソリューションだ。DS415+側でCloud Stationと呼ばれる同機能を有効化し、PCやスマートフォンにアプリをインストールすると、DS415+経由でPCとスマートフォンのフォルダを同期させることができる。
PCとスマートフォンの両方に、常に同じデータが存在する状態にすることはWindows Serverでは難しいが、DS415+であれば手軽にできるというわけだ。Android、iOS、さらにWindows Phoneと幅広いプラットフォーム向けに提供されたアプリで、異なるデバイス、異なるOS間でのデータ連係ができるのは、ほかのソリューションにはないSynologyならではのメリットと言えるだろう。
PCでの利用に関しても、WindowsのSMBだけでなく、Mac OS X端末のAFP、LinuxのNFSに対応しており、さまざまなクライアントからアクセスできるうえ、Mac OS XのTimeMachineに対応するなどバックアップソリューションとしても活用できるようになっている。
Windows Server 2003から移行することで、利用できるクライアントの幅が広がるというのもNASに移行するメリットの1つだ。
検証7:安心して使えるか?
企業の重要なデータを保管することを考えると、安心して使えるかどうかも重要な判断基準の1つとなる。
データの信頼性に関しては、RAIDなどのストレージの冗長性も重要だが、ネットワーク、さらにはサーバー本体の冗長性にも配慮する必要がある。
ネットワークの二重化は、Windows Serverでは、PCサーバー導入時にNICを追加するなど事前に対応が必要になるが、DS415+では標準のままで対応できる。最初からLANポートが2つ用意されているため、ケーブルをつなぐだけでネットワークを冗長化できる。
NAS本体の故障という最悪のシナリオにも備えたいのであれば、クラスタ構成を検討するといいだろう。DS415+には「High Availability」という機能が標準で搭載されており、簡単な設定をするだけで、2台のNASでクラスタを構成することができる。
もちろん、クラスタ構成はWindows Serverでも利用できるが、設定の手軽さやコスト面を考えると、小規模な環境では導入しづらい。これに対して、PCサーバー1台の価格でDS415+を2台用意することも不可能ではないうえ、手軽に設定できるため、小規模な環境のファイルサーバーでもクラスタ構成を導入しやすい。
このほか、遠隔地に設置したDS415+同士でデータを同期したり、OneDriveなどの各種クラウドサービスとデータを同期することなども可能なため、災害対策も手軽にできる。
また、安心という意味では、そもそもOSがフリーで提供される点も大きい。今回のWindows Server 2003のサポート期限切れのように、Windowsでは一定期間ごとに有償でOSを更新していかなければならないが、DS415+なら、この費用がかからない。
年2回程度の大きなアップデートはもちろんのこと、搭載されている機能の各種脆弱性(SSL 3.0のPOODLEなど)も迅速に修正されるため、安心して利用できるだろう。
検証8:移行は簡単か?
恐らく、現状、Windows Server 2003を利用しているユーザーが最も気になるのは、異なるプラットフォームであるNASに「問題なくデータ移行することができるかどうか?」だろう。
特に、共有フォルダに対して設定されたアクセス権が移行できるかどうかは、経営情報や人事情報など、社内に対しても機密性が高いデータを移行する上では非常に重要な問題となる。
移行に関しては、環境による違いもあるため確定的なことは言えないが、Synologyのサイトではナレッジベースとして「ACL権限をSynology NASにマイグレートするには(https://www.synology.com/ja-jp/knowledgebase/tutorials/491)」といった文書も公開されており、具体的な移行方法がきちんと紹介されている。
既存のWindows Server 2003がActive Directoryのドメインコントローラを兼ねている場合は、事前にドメインコントローラの移行が必要になるため、話はそう単純ではないが、すでにWindows Server 2012 R2などにドメイン環境が移行済みなら、ファイルサーバーのみの移行は手軽にできる。
DS415+からActive Directory上のアカウントを利用できるうえ、PCからWindowsのアクセス権をDS415+上の共有フォルダに対して設定することもできるため、移行後の運用に苦労することもないだろう。
もちろん、データが大量に存在する場合は移行に時間がかかることはあるが、事前に環境を整え、しっかりとした方法で移行すれば、さほど苦労することなく移行できるはずだ。
Windows Server 2003からの移行先の有力な選択肢
以上、間もなくサポートが終了するWindows Server 2003からの移行先として、SynologyのDS415+の可能性を検証した。
移行に関しては若干の工夫も必要だが、多機能、かつ多様なクライアントに対応した統合的なファイルサーバー環境を構築することができるため、企業のシステムをPCサーバーに比べてコストを押さえつつ、より利便性の高い環境へと刷新することができると言えそうだ。
Windows XPの移行の際は、直前になってから移行を検討した企業も多く、移行が間に合わなかったり、需要増でPCが入手できない場合もあった。同様に、これから新年度を迎え、NASの需要も増えてくることが予想されるので、ぜひ早めの対策を検討したいところだ。