「完全体」に進化したロゼッタストーン、塩濱社長が魅力を語る

ロゼッタストーンを使ってみた<第3回>

 「ロゼッタストーンTOTALe 英語(アメリカ)」体験記の最後として、疑問に思ったことなどを、ロゼッタストーン・ジャパン社長の塩濱剛治氏に直接うかがった。なぜロゼッタストーンは"Hello"から入るのか、オンラインサービスはどう使いこなせばよいか、インターネット上の英会話学習サービスと比べてどうなのか、など。ロゼッタストーンの製品や社風に魅力を感じて経営コンサルタントから転身し、日本法人の立ち上げから携わってきたという塩濱氏が、ざっくばらんに答えてくれた。

子供のように直感で外国語を体得する「ダイナミック・イマージョン」

塩濱社長は、ロゼッタストーンの製品や社風に惹かれ、2006年の日本法人立ち上げ当時から携わってきた

――ロゼッタストーンの最大の特長である「ダイナミック・イマージョン」について、トップの塩濱社長からご説明をお願いします。

 「イマージョン(没頭)」は、学習したい言語だけを使ってその語を身に付けるというメソッドです。

 言語学習は、その言語が話される国でその言語だけにどっぷり浸るのが基本的に効果的だということは、経験則で誰しもわかっていますよね。幼稚園くらいの子供は、その言語環境に投げ込まれれば、言葉が通じようが通じまいが、現地の子供と一緒に遊んで、何カ月かすれば、そこの言葉でけんかもするというくらい身に付けてしまうと言われています。そういう本当のイマージョン環境が年齢が若いほど有効なのは、各種調査でも実証されているところです。

 でも大人は子供とは違って、いきなり海外に行けばいいかというと、1年間海外に行ってきたが話せない、という人がいるのも確かです。行けば何とかなると思って海外に行っても、どうにもならない。そうするとだんだん現地の人とのコミュニケーションが億劫になったり、日本人のコミュニティに入り浸りになったりしかねない。

 それは結局、日本語が全くできない外国人にいきなり、「さあ、イマージョンだから、あなたはここにいなさい」と言って、我々が今ここで話しているような会話に日本語でついてこられるかというと、1日そばにいても、たぶん1カ月いてもついていけない、それと同じことなんですね。

 小さな子供はコミュニケーションに必要なレベルと、今話せるレベルに大きな差がありません。「遊ぼう」とか、「いやだ」とか、そんな話なので、直感的にできてしまいます。でも大人はそうではない。今我々が話している内容は、それなりの言語レベルまで習得していないと話せない、理解できないことが多いのです。

――大人にはイマージョンは難しいということですか。

 大人にとってもイマージョンは効果的なんですが、適切なプログラムが必要なんですね。

 日本語を間に挟んで学習するのは、やはりあまり効果的でないと思います。というのは、日本語で考えると、コミュニケーションや思考がそこでいったんストップしてしまいますが、会話はある程度テンポがよくないと成立しないからです。英字新聞を読むなら、好きなだけ辞書を開いて構文を考えて、「ああ、やっとわかった」でいいですが、会話はそうはいかない。その場で理解して、自分もその場で返事を返さないといけないんですね。

 つまり、大人のコミュニケーションをするためのレベルまで素早く引き上げてくれる、きちんとした階層的なプログラムを持つイマージョンが必要だということです。

――イマージョンは言語教育用語として一般的に使われていますよね。

 確かに、語学スクールの中にも以前からこのメソッドで高い評価を得ているところがあります。そこでは英語であれば分厚いテキストに英語しか書かれておらず、レッスンでも一言も日本語を使いません。その学校は教師と生徒のフェイス・トゥ・フェイスでのイマージョンプログラムを行っているわけです。

 ロゼッタストーンが開発した「ダイナミック・イマージョン」は、そういうきちんとした構成を持つイマージョンのプログラムを、もっと、どんな人でもどこにいてもできるようにした。それがダイナミックということなのです。

 「ダイナミック・イマージョン」は、ロゼッタストーンのソフトを開発した米国人2人が80年代から構想を練っていたものです。このコンセプトは、彼らがドイツやフランスに留学した際に、事前に米国で勉強していた現地語が通じず苦労した体験から生まれています。1人がコンピューターサイエンスの博士号を持っていたので、コンピューターテクノロジーを使う発想が自然と生まれ、テクノロジーがなんとか構想に追いついてきたところで90年代前半に製品化したのです。

新機能のオンラインサービスでロゼッタストーンが「完全体」に進化

プログラムの進ちょく度に連動して、ネイティブスピーカーの講師(ロゼッタストーンではネイティブコーチと呼ぶ)による会話レッスンを受けられる「Rosetta Studio」の画面
世界中のユーザーとゲームやチャットを行える「Rosetta World」が提供するゲーム「BuzzBingo」。読み上げられるストーリーの単語の中から表示されているものを見つける

――ダイナミック・イマージョン方式によるロゼッタストーンのプログラムの概要については、すでに体験記で読者に伝えていますが、塩濱社長のユーザーとしての体験をお聞きしたいです。中国語を学習していらっしゃるそうですが。

 10分くらいやっていると、中国語の頭になっているという気がしますね。ボキャブラリーなどなくても一生懸命、中国語で考えている感じです。

 それと関連しますが、日本でロゼッタストーンを発売開始して間もない頃、幼児から小学生までのお子さんとそのお母さん方を招いて、体験イベントを行ったことがあるんですね。そのときはロシア語のソフトを少し使ってみていただいたあと、ロシア語の問題のどちらが正解かというゲームを全員で行ったんですが、最後まで残った親子に賞品を渡す予定が、3組くらいがいつまでも脱落しないので、最終的には3組全員に賞品を差し上げた、ということがありました。間違いなくロシア語は初めてなのに、こうやってロゼッタストーンを使うとできてしまうんだなと、我々も実感しましたね。

 結局、言語学習を小難しく考えるのは、教科として勉強している影響があるんじゃないかと。文法とか英作文とか英文読解とか、勉強しないといけないという意識はなくていいと思いますね。子供が言葉を覚えるときは、これを覚えなくっちゃとか考えているわけじゃないでしょう。それに大人も近づけるほうがいいんじゃないか、楽しいほうが脳は覚えるということじゃないかと思います。

――楽しさという意味では、TOTALeで、ゲームで遊んだりストーリーを読んだりできるRosetta Worldと、ネイティブコーチとコミュニケーションできるRosetta Studioというオンラインサービスが加わりました。新しいサービスへのユーザーの反応はどうですか。

 反響は非常にいいです。公式TwiiterやFacebookにも、ロゼッタストーンがこれをやってくれるのを待っていたとか、これでロゼッタストーンが「完全体」になったといったコメントを多くいただいています。それから、日本人ユーザーのStudio参加率が他国のユーザーに比べて顕著に高いんですね。明らかに望まれていたサービスだと実感しています。

 ロゼッタストーンではこれまでも、ユーザーが自分から話すアウトプットを重視していたんですが、従来はレスポンスがコンピューターだけだったのが、TOTALeのStudioでは、リアルな人間がレスポンスをしてくれるようになりました。オンライン上ではあるが、本当のコミュニケーションができるようになった効果は大きいと思います。

 市場調査の一環としてTOTALeの体験者にインタビューを行ったときも、前のVer.3のときまでとは全く反応が違いましたね。これまでのユーザーは学習ツールと捉えて他のソフトと比較していましたが、TOTALeを見たユーザーは、「すごい、これはもう会話学校に行かなくていい」と、比較対象が語学スクールに変わりました。これまでも我々は、語学スクールのようにイマージョンができて、しかも通わなてくよくて、いつでもどこでもできると訴求していたんですが、今はもう、我々から言わなくても、自然にわかっていただけるようになりました。

――Skypeなどを使って海外のネイティブとレッスンできるという、比較的安価なサービスもインターネット上にありますが。

 ネット上のサービスにはフリーチャットが多く存在します。会話に慣れることはできるかもしれませんが、きちんとしゃべれるようになるかというとどうでしょうか。先ほど言ったように、ロゼッタストーンは、シークエンスの整ったプログラムにのっとって、きちんと話せるレベルまで進めます。ネット上のサービスでも、一定のクオリティを保つためには教材の開発、人材の教育など、それなりにコストがかかるはずだと思います。

 我々のクオリティは統一されていて、ソフトウェアはもちろんそうですが、Studioについても、コーチの採用や教育面で工夫しています。米国本社でネイティブコーチを採用する際には何百人もの候補を集めて、普通のインタビュー以外に、ある程度の人数を部屋に集めて、どういうコミュニケーションができるかなどテストを行います。合格者にはその後、専門のトレーニングを行っています。

 しかも、もし仮にコーチのレベルに多少差があったとしても、基本プログラムと連動しているため、スムーズに進めるようになっています。ユーザーはすでに基本的な内容をソフトで学んでいますから、ここまではわかっている、じゃあStudioでそれを復習しよう、発展させようというスタンスなんですね。先生でなくコーチと呼ぶのもそのためです。ソフトとオンラインサービスをそこまで作り込むのは、我ながら大変だと思います。

――オンラインサービス部分はユーザーの自由度が高いですが、どう使ったら学習効果が高まるでしょう。

 Studioは、同じユニットのセッションを2、3回受けていただいても構わないので、例えばやってみてよくわからなかったと思えば、もう1回セッションを受けてみてもいいと思います。同じユニットのセッションでは、コーチが代わっても基本的にはやることはほぼ同じなんですが、ネイティブでも人により話し方に特徴があるので、同じ発音・同じフレーズであっても違う人がしゃべるのを聞くのはトレーニングになると思います。ソフトのほうでもそのために、複数の男女の声が入っています。

 それに、1回目は3人参加していたけれども、2回目はたまたま1人でみっちりできたとか、進ちょく状況によって1回目はコースと本当に同じ内容を繰り返して終わってしまったけれども、2回目はそこがスムーズにできるようになっていて、もう少し発展的な内容までいけたというようなこともあります。Studioの内容は柔軟性があって、参加者のレベルに合わせて少しずつ違う内容を出してくることがありますので、毎回楽しんでいただけると思います。

 Rosetta Worldでも、ゲームで正解をパッと選ぶ瞬発力を付けたりとか、いろいろなスキルを身に付けられます。ゲームのレベルもCourseの進み具合によって変わるんです。

 Rosetta WorldのStoryはリスニングと長文読解に非常に適しています。写真やテキストを見ながら、あるいは見ないで想像しながら、何回か聞いていただくと、よいトレーニングになりますね。もちろんCourseも、最初は短い単語から少しずつ文章になって、レベルが高くなるにつれ長い文が出てきますが、基本的に一文ずつトレーニングを行うようになっていて長文読解に特化しているわけではないので、Storyが補完になると思います。

 だから、Courseをある程度やって、Studioでネイティブコーチと会話をして、Worldでゲームを楽しみつつ、Storyで別のスキルを身に付けて、また基本のプログラムに戻ってと、組み合わせながら総合的なスキルを身に付けていただくといいと思いますね。

英語初心者でなくても"Hello"や"A girl"のレベルから始める理由

スピーチ解析機能
"a girl"の音声と文字が表示され、女の子の写真をクリックすると合格となる

――スピーチ解析機能もロゼッタストーンの大きな特長ですが、TOTALeで何か新しくなったでしょうか。

 スピーチ解析機能は、実はオンラインアップグレードを行う際に随時、新しくしています。Ver.3を使っている方でもTOTALeのユーザーの方でも、常に最新のエンジンを使っていただいています。

 スピーチ解析機能は、米国のロゼッタストーンの創業者らが特に力を入れた機能のひとつです。最適な音声認識エンジンを探し求めて、当時研究の進んでいたコロラド大学の研究チームにまるごと参加してもらって、そこのエンジンをコアに独自開発しました。

 テクノロジーの開発と改良には常に力を入れていますが、ユーザーから「正しい発音のはずなのに正解にならない」、あるいは逆に「誤った発音なのに正解になる」という声をいただくこともあります。より完璧な精度を目指し、テクノロジーそのものの改良のほかに、言語ごとの音声サンプルのデータも集めています。こうしたデータベースを利用して、例えばネイティブの英語と日本人の英語の発音はどう違うかなどを研究し、正解のレベルをどこに置くかなどを決めています。

――改良の余地という点では、すべてのユーザーが"Hello"や"A girl"というレベルから始めるのではなく、その人なりの進み方はできないのかと思うこともありますが。

 自分なりの進め方という意味でレベルが用意されているんですが、ただロゼッタストーンは学習法が独特なので、レベルがぴったり合っているところからスタートしてしまうと、何をすればいいのか、わかりにくくなってしまうと思うんですね。簡単なところから始めればメソッドになじみやすく、挫折しにくいです。

 それに簡単なところから始めると、発音などもどんどん練習できるメリットがあります。海外で、基本的な単語の発音が通じなくて理解してもらえないということがありますよね。うちの社員の中にも、「ロゼッタストーンをやって、A girlを30年間正しく発音できていなかったことが実感できました」というコメントをした者がいます。

 最初は"簡単すぎる"と感じる面もあるかもしれませんが、そこで少し努力を重ねていただくと、最終的には得るものが多いと思います。

 もっとも英語の場合、日本人は学校で何年間も学習しているので、「こんなことは知っているよ」という感想が出ることがあるのも確かです。そういう日本人向けに違う形の何かができないかと、米国の製品開発チームとも話し合い、検討しているところです。今の製品とは違う形で、日本人の不得手なところ、例えば発音のほかにも、わかっているフレーズだけど言えない、わかっていることを聞かれているけど詰まって答えが出て来ないという状態になりやすい点などを、もっと集中的に強化することなどを考えています。

――日本人も、ロゼッタストーンでいろいろな言葉を話せるようにしたいところです。

 ロゼッタストーンをやればどこまでしゃべれるようになりますかという質問がよくありますが、最終的には人によります。ロゼッタストーンをやればある意味、地道かもしれないが、必ずコミュニケーションするための基本が身に付きます。例えばレベル3までやれば、海外旅行に行ってもある程度満足のいく会話ができるくらいになるはずです。

 ではそこから先、旅先でコミュニケーションをどれだけ楽しんで旅を豊かにできるかは、ユーザー次第です。外国人がいる環境があれば、自分で飛び込んでいって会話してみるとか、あるいは海外旅行なら、今までならガイドさんが案内してくれるオプショナルツアーに参加していたのを自分で回ってみるとか。

 これまではソフトウェアのあとは、いきなり外に飛び出すことになって、その間の橋渡しがなかったのですが、TOTALeの登場で、オンラインで実際的な練習ができるところまできて、そのブリッジができました。TOTALeで基礎を身に付け練習を積んだら、ぜひ実地のコミュニケーションにチャレンジする楽しみを持っていただきたいと思います。


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(後藤 貴子)

2011/5/23 06:00