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7インチカラー高精細液晶を搭載した「Kindle Fire HD」レビュー

電子書籍・動画・音楽・ウェブも楽しめるAndroidベースのタブレット

 Amazon.co.jpが12月18日に発売した「Kindle Fire」「Kindle Fire HD」は、Amazonの電子書籍サービス「Kindleストア」に加え、さまざまなマルチメディアコンテンツを利用できるAndroid OS搭載のタブレット端末だ。同じくKindleに対応した電子書籍リーダーやAndroidタブレットとの比較を交えながら、電子書籍関連の機能を中心に「Kindle Fire HD」の使用感をレビューする。

Kindle Fire HD

電子書籍に加えて動画や音楽なども楽しめるKindle用タブレット

 Kindle Fire HDは、11月に発売された電子ペーパー搭載「Kindle Paperwhite」と同時発表され、12月中旬に日本で発売されたKindle対応端末だ。Kindle Paperwhiteが電子書籍に特化した電子書籍リーダーであるのに対し、Kindle Fireは電子書籍だけでなく動画や音楽、写真などさまざまなコンテンツを楽しめる点が大きな違いだ。

 OSはAndroidベースだがKindle独自のカスタマイズが行なわれており、KindleストアやAmazon.co.jpの各種サービスを利用できる一方で、Google PlayなどAndroid向け機能は利用できない。アプリに関してはAmazon.co.jpが運営する「Android アプリストア」を利用することで、Google Playより数は少ないものの利用することが可能だ。

 ラインアップは「Kindle Fire HD」「Kindle Fire」の2モデル。どちらも7インチサイズの液晶を搭載しているが、Kindle Fireはディスプレイの解像度が1024×600ドットなのに対し、Kindle Fire HDは「HD」の名の通りHD解像度(1280×800ドット)のディスプレイを搭載。スペック面でもIEEE 802.11aへの対応、ドルビーオーディオ対応、内蔵ストレージ容量の違いなどが異なり、Kindle Fire HDが上位機種という位置付けになっている。

Kindle FireとKindle Fire HDのスペック比較
Kindle Fire HDKindle Fire
画面サイズ7インチ7インチ
解像度1280×8001024×600
オーディオドルビーオーディオ
デュアルドライバ
ステレオスピーカー
ステレオスピーカー
内蔵ストレージ16GB/32GB8GB
本体サイズ193×137×10.3 mm189×120×11.5 mm
重量395 g400 g
プロセッサデュアルコア1.2GHz OMAP4460デュアルコア1.2GHz OMAP 4430
無線LANIEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11b/g/n
バッテリー連続11時間連続8.5時間
マルチタッチ10点マルチタッチ2点マルチタッチ
Kindle Fire HD本体正面
Webカメラは横置き時の上部に配置
背面も横方向にAmazonとKindleのロゴ
側面に電源ボタンと音量ボタン
底面にMicro USBポートとmicro HDMIポート

 本体サイズと重量はKindle Fire HDが193×137×10.3mm、395gで、Kindle Fireが189×120×11.5mm、400g。解像度が高いため縦横はKindle Fire HDのほうがやや大きいが、厚さを比較するとKindle Fire HDのほうが薄い。また、重量は5g程度とほとんど差がない。

左からKindle Paperwhite 3G、Kindle Fire HD、KindleアプリをインストールしたNexus 7
厚さ比較。上からKindle Paperwhite 3G、Nexus 7、Kindle Fire HD

 パッケージの構成はKindle Paperwhiteと同様、各国語で書かれたスタートガイドとMicroUSBケーブルが同梱。ACアダプタは同梱されておらず、充電はPC経由で行なうか、別途ACアダプタを購入する。黒い専用パッケージ、購入時点でAmazon.co.jpアカウントが紐づけられている点もKindle Paperwhiteと共通だ。

パッケージ
パッケージの内容物
購入時のアカウントが紐づけられている
すでに設定済みのソーシャルアカウントを確認
ガイド画面

ホーム画面はスライド操作が主体の独自インターフェイス

 画面のインターフェイスはAndroid OSと比べて大幅にカスタマイズされており、ホーム画面にはKindleストアで購入または「パーソナル・ドキュメント」を利用してダウンロードしたコンテンツを横一列に表示。画面上部はゲームやアプリといったコンテンツごとのメニュー、画面上部には購入履歴に基づいたリコメンドが表示され、いずれも横にスライドして表示を切替えられる。

ホーム画面

 画面上部はAndroid同様タッチ操作でステータスバーが開く仕様になっており、画面の自動回転や音量、明るさ、無線LANのオンオフ、データの同期オンオフなどを選択できる。詳細な設定はこの通知パネルの「その他」から設定が可能。また、右下の星マークは、アプリや電子書籍、Webサイトのブックマークなどを横断して登録できるお気に入り機能になっている。

ステータスバー
ステータスバーの「その他」から詳細な設定が可能
キーボードはQWERTYのほか10キーにも切り替えられる
10キーはAndroid標準
お気に入り機能

 電子書籍購入の流れはKindle Paperwhiteと同様で、本体から「Kindleストア」にアクセスし、気になった本は1クリックで購入できるほか、サンプルを無料でダウンロードすることも可能。他の端末で購入済みのコンテンツを「クラウド」から再ダウンロードする機能や、端末に割り当てられた専用メールアドレスへ送付したファイルを端末に保存できる「パーソナル・ドキュメント」といった、他のKindle対応端末と同様の機能も備える。また、電子書籍に特化したKindle Paperwhiteと違い、Kindle Fireではアプリや音楽、ゲームなどの購入も可能なほか、Amazon.co.jpでのオンラインショッピングも利用可能になっている。

Amazon.co.jpでのショッピングも可能
Kindleストア
購入のほかサンプルもダウンロード可能
1クリックでダウンロード
ダウンロードが完了したらそのまま読み始められる

読書機能もカスタマイズ。読書の補助機能が充実

 電子書籍関連の機能もAndroidアプリとは異なるオリジナルの仕様になっており、作品は著者名、最近使用した順、タイトル順のソートが可能なほか、画面下部のメニューからリスト表示とグリッド表示を切り替えられる。ただしKindle Paperwhite 3Gで搭載されているコレクション機能は搭載されていないため、コミックなどのシリーズ作品を購入した場合などは管理がやや煩雑だ。

端末に保存された書籍の一覧
他の端末で購入した書籍もダウンロードできる

 読書時のインターフェイスはAndroidアプリ、Kindle Paperwhiteどちらとも異なるが、全体的な作りはKindle Paperwhiteに近い。画面の左右タッチがページ送り操作で、画面上部をタッチするとフォントサイズやページ移動、メモ、シェア、ブックマークといった機能が利用できる。

書籍を開いたところ
画面上部をタッチするとメニューが開く
文字サイズや明るさなどをカスタマイズできる
輝度はすべて最高に設定した画面の比較。左からKindle Paperwhite 3G、Kindle Fire HD、Nexus 7
【電子書籍の操作動画】

 書籍の場合、任意の語句を長押しすることでハイライト登録やメモ、ソーシャルメディアへのシェア機能などが利用可能。語句の辞書検索についてはPaperwhite 3GやAndroidアプリの場合別途ダウンロードする必要があるのに対し、Kindle Fire HDではPaperwhiteよりも容量に余裕があるためか、最初からプリインストールされているため辞書を別途ダウンロードする必要はない。

語句を長押ししてハイライト登録やメモ、辞書検索が可能
辞書検索結果。ここからシェアやメモ、ハイライト登録も行える

 また、ソーシャルメディアへのシェア機能についても、Androidアプリは書籍そのものをシェアすることはできるが任意の語句を選択してシェアすることはできず、Paperwhiteは任意の語句シェアは対応するものの設定済みのソーシャルメディアへしか投稿できない。これに対してKindle Fire HDではシェアのたびにTwitterとFacebookどちらへ投稿するかを選択できるほか、今までのシェア履歴や他のユーザーの感想を一覧で閲覧する機能も搭載するなど、細かいながらも機能が使いやすくなっている。

 Androidアプリには搭載されていない、書籍を読み終わった後に5段階の評価やシェアを促す画面が表示される機能も搭載。こちらもPaperwhiteよりも機能が豊富で、ソーシャルメディアへのシェアだけでなくAmazonのレビューを同時に投稿することが可能なほか、同じ著者による別の作品を表示する機能も搭載している。

5段階の評価やソーシャルメディアに加えてAmazon.co.jpのレビューも投稿できる
シェア画面では他のユーザーの感想も一覧できる
シェア機能の比較。左からKindle Paperwhite 3G、Kindle Fire HD、KindleアプリをインストールしたNexus 7

ゲームやアプリは独自ストアで提供。アプリ数は少なめ

 電子書籍以外のコンテンツでKindle Fireから購入またはダウンロードできるのはゲーム、アプリ、ミュージックの3種類。ゲームとアプリはAndroid用ではなくKindle Store用に限定されているためGoogle PLAYとは異なるものの、ゲームに関してはAngry Birdsやパックマン、おさわり探偵 なめこ栽培キットといった無料ゲームのほか、「ズーキーパーDX」「FINAL FANTASY III」「人生ゲーム」など比較的充実した印象を受ける。

ゲームは無料・有料とも充実

 一方、アプリについてはSkypeやOfficeSuite、カレンダーといったアプリがプリインストールはされているものの、ダウンロードできるアプリはGoogle Playに比べると圧倒的に少ない。FacebookやTwitterは公式アプリが存在するものの、DropboxやSkydriveなどのストレージサービスは公式アプリが存在せず、LINEやカカオトークといった流行のチャットアプリや、Google日本語入力やATOKといったIMEも利用できない。

アプリストア一覧
プリインストールアプリ
Twitterの検索結果
Facebookの検索結果
LINEの検索結果
ATOKの検索結果

動画や音楽、写真も対応。ブラウザはクラウド連携の独自仕様

 音楽や動画、写真などのコンテンツはPCとUSB接続してファイルを転送可能。楽曲ファイルはAACやMP3、PCM/WAVE、MIDIなど幅広くサポートしており、iTunes StoreやMoraのDRMフリー楽曲も再生可能。動画はMP4、3GP、VP8に対応しており、こちらもm4v形式やmp4形式の動画が再生できる。

音楽管理画面
音楽再生画面
写真はフォルダごと表示
写真再生画面

 PCからの直接転送以外に、Amazon会員向けのクラウドサービス「Amazon Cloud Drive」経由でのファイル同期機能も搭載。Amazon.co.jpのアカウントを持っているユーザーは無料で5GBのファイル容量が割り当てられており、ここにアップロードしたファイルをKindle Fireで閲覧することができる。

電子書籍ファイルやPDFなどもクラウド経由でダウンロードできる
Facebook経由で写真をダウンロードできる

 また、音楽についてはAmazon MP3 ストアから楽曲購入が可能なほか、写真もFacebookアカウントと連携することでFacebookにアップロードした画像インポートする機能も備える。なお、ビデオに関しては海外で展開されている「Amazon Instant Video」が日本ではサービスを提供していないため、Amazon Instant Videoの機能は存在するが利用はできない状態だ。

Amazon MP3 ストア
動画は現在のところファイル転送のみ

 ブラウザ機能は独自の「Amazon Silk」を搭載。単なるアプリではなく、Amazonが提供するクラウドサービス「Amazon EC2」を利用してサイトをキャッシュすることでより高速な表示が可能という。機能面ではタブブラウザ、モバイルとデスクトップ表示の切り替えなどが可能。動作も非常に軽快で、メイン機能としても十分に使えるレベルと感じた。

独自ブラウザ「Amazon Silk」
ダブルタップで画面を拡大
リンク長押しで新規タブを開ける
検索エンジン設定
【ブラウザーの操作動画】

読書が中心、動画や音楽、Webも楽しみたいユーザー向けのタブレット

 2012年6月にamazonサイトで近日発売の予告表示が始まった。その後、10月にKindleストアの開始と同時にスマートフォンアプリをリリースし、11月には電子ペーパー搭載のKindle Paperwhiteを発売。そして、この12月にKindle Fire/Kindle Fire HDを発売と、国内では後続ながらも圧倒的なスピードで対応端末を拡充してきたKindle。他の電子書籍サービスはスマートフォンか電子書籍リーダーか、という大きく2通りの読書環境であるのに対し、Kindleの場合はここにKindle Fireが加わることで選択の幅が広がっている。

 Kindle Paperwhiteと価格面で比較すると、Kindle Paperwihteが7980円、Kindle Paperwhite 3GとKindle Fireが同額の1万2800円、Kindle Fire HDは16GBモデルが15800円、32GBモデルが19800円。モノクロの電子ペーパーでバッテリーの駆動時間も長く持ち運びやすいKindle Paperwhiteと、カラー液晶で豊富なコンテンツが楽しめるタブレット端末のKindle Fireは位置付けが大きく異なるため、選択で迷うことはないだろう。

 むしろKindle Fireと競合するのはAndroid搭載タブレット、その中でも同じ7インチサイズで価格帯も近いNexus 7だろう。Nexus 7は16GBモデルが1万9800円、32GBモデルが2万4800円と、内蔵ストレージの容量で比較すると4000~5000円ほどNexus 7が高いものの、アプリの自由度ではNexus 7が上。

 スペック面でも、Nexus 7はクアッドコアだがKindle Fire HDはデュアルコア、本体サイズもNexus 7のほうが小型かつ軽量になっている。16GBモデルでKindle Fire HDが1万5800円、Nexus 7が1万9800円と4000円の差があるが、価格差に見合うだけの機能差は存在すると言って良いだろう。ただし、CPUスペックについては、数値こそ異なるものの、実際にKindle FIre HDを使ってみて十分に快適と感じた。カタログ値の差ほどは気にならないだろう。

Kindle Fire HDとNexus 7のスペック比較
Kindle Fire HDNexus 7
画面サイズ7インチ7インチ
解像度1280x8001280x800
オーディオドルビーオーディオ
デュアルドライバ
ステレオスピーカー
ステレオスピーカー
内蔵ストレージ16GB/32GB8GB/16GB/32GB
本体サイズ193×137×10.3mm198.5×120×10.45mm
重量395 g340g
プロセッサデュアルコア1.2GHz OMAP4460クアッドコアTegra 3
無線LANIEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11b/g/n
バッテリー連続11時間連続8時間

 読書機能については、シェア機能や読了後の機能などでKindle Fireが優れるが、読書そのものの機能についてはさほど大きな使用感の差があるわけではない。また、Android アプリストアもAndroid向けに広く提供されているため、Androidタブレットでも同様に利用することはできる。

 とはいえ、Amazon Cloud Driveとの連携やAmazon各種サービスに最適化された画面インターフェイスなど、Kindleを中心としたAmazonのサービスを利用するのであれば、やはりKindleのほうが便利だ。

 利用の中心があくまで読書であればKindle Fire、電子書籍よりもアプリによるカスタマイズを重視したいのであればNexus 7、という当然の結論にはなるが、Kindle Fire HDは音楽や動画、写真表示も基本機能が充実しており操作も快適。価格も安価なため、手に取りやすくコストパフォーマンスの高いタブレットとしてお勧めできる1台だ。

甲斐 祐樹