電子書籍特集2013

電子出版ビジネスの現状と、電子書籍の未来は?
~OnDeck編集長 井芹 昌信氏に聞く

 7月3日(水)~6日(土)に、「東京国際ブックフェア2013」および「第17回国際電子出版EXPO」が東京ビッグサイトで開催される。本に関わる企業の商談・展示を中心としたビジネスイベントで、過去最大規模となる1360社が出展、来場者も7万5000人を見込んでおり、Amazon KindleやApple iBookstoreといった電子出版の盛り上がりが注目度を押し上げる1つの要因になっていることは間違いないだろう。

 この電子出版ビジネスは現在どのような状況にあるのか、電子書籍の未来はどうなっていくのかなど、業界の潮流を俯瞰する視点で、長年出版や電子書籍事業に携わっている株式会社インプレスR&D OnDeck編集長 兼 NextPublishing発行人である井芹昌信氏に話を伺った。

電子書籍の主戦場はフィーチャーフォンからスマートデバイスに

OnDeck編集長 インプレスR&D NextPublishing発行人 井芹 昌信氏

――さっそくですが、電子書籍市場は順調に拡大しているのか、教えていただけますか。

井芹氏:
 インプレスビジネスメディアでは、2012年度の電子書籍ビジネス市場レポート「電子書籍ビジネス調査報告書2013」(http://r.impressrd.jp/iil/ebook2013)を7月18日に発行する予定ですが、そのハイライトをプレスリリースとして6月27日に発表しました。

 電子出版の売上は2012年度は729億円で、2011年度の629億円から100億円伸び、前年度比では15.9%増となっています。2011年度はフィーチャーフォン向けのデジタルコンテンツが480億円と市場の4分の3を占めていましたが、2012年度にはフィーチャーフォン向け市場は351億円と、対前年26.9%減と大幅に縮小しました。

 逆に、スマートフォンやタブレット、専用リーダー端末などのいわゆる新プラットフォームの売上は対前年比228.6%増の368億円と新プラットフォームの落ち込みを打ち消してあまりある伸びとなっていて、市場全体の50.5%を占めるようになっています。

 新プラットフォームは確実に成長しているのを実感しています。2012年の夏に楽天のkobo、秋にAmazon Kindle、年明けの2013年にはApple iBookstoreがスタートして、世界的なメジャーが3つ出揃いました。その3つのマーケットが純粋にプラスで推移しているのも市場拡大に貢献していますね。2017年度には、電子書籍市場は2012年度の約3.3倍となる2390億円に拡大すると予測しています。

――2012年に新規参入した3社の中でも、やはりAmazonの存在が大きいのでしょうか。

井芹氏:
 大きいです。Amazonがナンバーワンですね。どこの出版社の人も口を揃えて、Amazonがすごいと、AmazonのKindleが始まってから売上がはっきり目に見えて上がっているとおっしゃっています。インプレスビジネスメディアの調査でも、6月10日にリリースを出しました(http://www.impressrd.jp/news/130610/NP)が、Kindleストアの利用者が49.4%と圧倒的な数値になっています。

電子書籍市場規模の推移
電子書籍市場の内訳と電子出版市場規模の推移

紙を前提にしてきた本づくりの現場が変わるには時間がかかる

――日本の出版社は電子書籍に対して保守的に見えるところもありました。最新刊が紙の本で発売されても、すぐに電子書籍化されなかったりする場合もありましたが、最近の傾向としてはいかがでしょうか。

井芹氏:
 電子化に対するネガティブ思考は、今はだいぶ変わってきています。電子化はやらなければいけないし、その売上も期待している、という意識にはなっている。ほとんどの出版社が前向きに考えていて、電子化を渋るようなことはもうないですね。

 ただし、最新刊を紙と電子書籍で同時発売するということや、電子書籍を紙よりできるだけ割安にするといった値段設定に関しては、まだちょっと改善に時間がかかりそうです。というのは、基本的には今までずっと紙の本を作るための制作プロセスでやってきていて、それがまずありきということになっているから。その後に電子化、という発想になるので、どうしても一度に電子化までして売る、ということにはならないわけです。

――一般消費者としては、流通や印刷が絡まない分もっと安価にできないのだろうか、と思ってしまうのですが。

井芹氏:
 今言ったように、制作から販売の過程における全体の設計が紙の本を中心にできています。紙の本での制作をベースに、原価管理や売上の見積もりなどが算定されていて、それに対して電子書籍も作られるので、電子書籍だけ大幅に安価に出す、という発想にはならないんですね。

 たとえば取次業者や書店といった部分での根本に、再販売価格維持制度というものがあって、それによって紙の本は定価販売になっている。ところが電子書籍の場合は再販売価格維持制度の範疇にない。だから電子書籍はどんな値段設定にもできるんだけれども、紙の本を中心に全ての設計ができていると、本の定価をそこでどうしても意識せざるをえないわけです。

 そのため、本の定価に対して何割引きにするか、全体の原価設定の中でどれだけ値段を下げられるか、という考えの中で電子書籍の価格を決めることしかできないので、少しは安くできても、消費者が望むほど劇的に安くするには至らない、ということになります。電子書籍だけ出すものであればまた違ってきますが。

――Adobeなどから低コストで電子書籍を制作できるツールも提供されていますが、そういった電子出版ツールはまだ制作現場には浸透していませんか?

井芹氏:
 まだですね。出版社の場合、本の制作自体は外注に出すことも多いじゃないですか。全部が全部、編集者がコントロールしているわけではないし、会社全体で制作プロセスを統一していることも少ない。編集部によっても違うし、人によっても違う。そういう意味で、制作プロセスを全体的に切り替えていくというのは、そんなに簡単なことではなく、相当時間がかかるものだと思います。

 それがうまくいっているところは電子版も同時発売ができ始めていたりもしますが、大方は紙の本の後に発売、ということになっています。値段に関しても紙の本が最初について、電子版についてはその後に紙の本の値段をベースに決めることになります。今のところは紙の本が“ファースト”で、電子書籍が“セカンド”という感じなんですね。

 ちなみに、電子出版の専門誌「OnDeck」とNextPublishingでは創刊号からデジタルファーストでやっており、その方式だと紙との同時発売ができ、価格も柔軟に対応できるようになりました。

タブレットがあれば不要? 専用リーダー端末の今後

井芹氏「専用リーダー端末にこだわらなくても、スマートデバイスなどの全プラットフォームにソフトウェアビューワーを揃えていけば、十分ビジネスになる」

――スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスが多数発売される中、電子書籍の専用リーダー端末は今後どうなっていくのでしょう。

井芹氏
 OnDeckの調査で言うと、OnDeckのユーザーはの多くがタブレット。その次が専用リーダー端末、次がスマートフォンという順になっています。特に日本のユーザーはタブレットが好き、というところがありますね。雑誌などの写真が多いビジュアル重視のものになると、やはり電子ペーパーだと厳しいので、タブレットかスマートフォンに流れる、というのもあるんだと思います。

 文芸などの文字ベースのものをゆっくり、安心して読みたいという人は電子ペーパーを選ぶようで、50~60代の高い年齢層のユーザーには電子ペーパーの専用リーダー端末を使っている方が多い。米国でもそうですし、国内でも凸版印刷が出した「BookLive!」の電子書籍リーダー「Lideo」も、聞いたところでは50~60代の利用者が多いとのことです。ですから、電子書籍はまず年齢とコンテンツの種類で棲み分けができる、というのが1つの見方ですよね。

 ただ、電子ペーパー技術の進化は停滞している感がある。一方で、スマートフォンやタブレットはどんどん画面がきれいになり、省電力化も進み、安価にもなってきている。そういう環境もあって、特に日本においてはスマートデバイスの利用が主流になるんじゃないか、という見立てもあります。

――専用リーダー端末のみではビジネスになりにくい、ということでしょうか?

井芹氏;
 Kindleは、日本ではソフトウェアのビューワーから先にリリースして、専用リーダー端末は後から遅れて発売されました。楽天koboは逆に、先に専用リーダー端末を出して、ソフトウェアのビューワーはiPad向けについ最近リリースしましたが、このiPad版を出したら売上がすごく上がったという話なんです。

 ということは、専用リーダー端末にこだわらなくても、スマートデバイスなどの全プラットフォームにソフトウェアビューワーを揃えていけば、十分ビジネスになるということだと思います。

パソコンで電子書籍を読めないストアが多いのは大きな問題

――日本の電子書籍市場はマンガが主体で、それ以外のジャンルはなかなか広がっていないイメージもあります。

井芹氏:
 そもそもパソコンで電子書籍を見られないのは問題だと思うんですよね。シャープの運営するGALAPAGOS STOREはWindows OS対応の電子書籍ビューワーを提供していますが、多くのストアがパソコンで読む手段を提供していません。

 電子出版業界ではあまり話題に上らないのですが、我々IT業界の人間にとっては、本当はパソコンでちゃんとしたビューワーを出してほしいという気持ちがある。パソコンユーザーでリフロー型(ページサイズに合わせて文字組等が変化する形式)のコンテンツを見ている人はまだ少ないと思います。パソコンでリフロー型のコンテンツをきれいに見られるなら、電子書籍を買いたい、と思う人ってけっこういるはずです。

 米国ではKindleのビューワーはパソコンでも動くのに、日本では利用できない。パソコンのウェブブラウザーでコンテンツを買っても、パソコンでは読めないという状態に多くのストアでなっています。これが1つの問題で、うまく解決できれば市場はもっと広がるでしょう。

――電子書籍のフォーマットはEPUB形式に収束していくのでしょうか。

井芹氏:
 私はそう見ています。が、日本の出版業界ではまだ他のフォーマットも使われています。EPUBもいまだできないことがいろいろあり、環境不備もあって、少なくとも日本のマーケットでは今のところEPUB全盛という風にはなっていません。

 とはいえ、OnDeckの調査では電子書籍のシェア1位がKindle、2位がiBookstoreとなっていて、EPUBをベースとしたフォーマットを採用しているところが上位に来ています。ということは、今後、EPUBに対応しないとコスト高になってくることが考えられます。たとえば日本独自のフォーマットからKindleの形式に変換しようとするとコストがかかります。そのコストは最終的に消費者に転換されることになるわけです。直接EPUBを使っているところとそうでないところでコスト差が生まれるので、結局EPUBあるいはEPUBから簡単に変換できる形式が有利という状況になるでしょう。

“自炊派”はたくさん本を買っている消費者。その声は大事にするべき

――電子書籍からは少しはずれますが、自分の持っている本をスキャンして電子化する“自炊派”もいますが、これについてはどうお考えですか。

井芹氏:
 自炊の人たちって実際に本を買ってる人ですからね。たいていは本好きで、たくさん本を持っているから自炊するわけです。自炊というとやや後ろ暗いイメージもありますが、冷静に考えると、一番本を買っている消費者だったりするので、その声は大事にしないといけないと思います。

 今お話しした、「パソコンで読めない」というのもけっこう大きいんですよね。大量の電子書籍をアーカイブして検索できるようにしたいとか、自分なりにきれいに分類・整理しておきたい、というニーズがあるのだけれど、購入した電子書籍だとストアの機能に依存してしまい、好きなように管理できません。

 自分でスキャンした電子書籍のデータをパソコンでファイル管理できるようにする、という部分って、日本では実はけっこう大きいマーケットだと思うんです。日本の電子出版のビジネスとしては、そこにすごく大きなヒントがあるような気がしているんですよね。

サービス終了で読めなくなる問題から、DRM解除の機運が高まるか

井芹氏「サービス終了で読めなくなる可能性は、消費者マインドに少なからず影響を与えている」

――電子書籍の場合、購入したストアがサービス撤退したら読めなくなってしまう、という問題があります。他で購入したコンテンツを別のマーケットで読めるようにしよう、というような業界的な動きはあるのでしょうか。

井芹氏:
 そういう動きはまだないですね。海外のAmazonでは過去にユーザーからそういったクレームが上がったという経緯もあって、一度提供したものに関しては、たとえば販売中止となったコンテンツについても今後も提供し続けられるような契約にしています。そういった面での意識は海外の方が高いですね。

 OnDeckのユーザーアンケートでは、購入先を選ぶ時の判断基準は何だったか、という質問に、「途中でコンテンツが読めなくならないよう、メジャーなところにした」と回答している例も多いんです。消費者マインドに少なからず影響を与えているということで、今後大きな問題として現れてくるのは間違いないと思います。ただし、現時点では市場の拡大が急務ですから、これについてはまださほど重要視していない事業者も多いのではないでしょうか。

――サービス終了で読めなくなる、という問題を将来的に解決する方法はないでしょうか。

井芹氏:
 1つの手段としては、権利関係とサービスの仕組みをかなりクリアにして、業界を挙げて取り組むということ。もう1つは、DRMなしのダウンロード型にしてしまう方法も考えられます。

 後者については、DRMを今すぐ外すということにはならないと思いますが、音楽業界ではDRMについての考え方がだんだん変わってきたという例もありますから、所有したい、手元に置いておきたい、といったニーズが強まってきた時にDRM解除の機運が高まる可能性はあるでしょうね。

――音楽は、時代とともにユーザーの“消費するコンテンツ”という意識が強くなってきたように思います。それと同じように、本についても、いずれ電子版は“消費するもの”、紙の本は“保存するもの”といったように、ユーザーの意識の変化も生まれてきたりはしないでしょうか。

井芹氏:
 それはあるかもしれないですね。“ショート”とか“シングル”と呼ばれる短い電子書籍コンテンツが最近注目されています。ページ数が少ない代わりに100円や1ドル程度で売られているものも多くなってきています。それらも全部紙の本で読みたいと思うかというと、そうではないかもしれません。

 そういった、週刊雑誌のように読んだら捨ててしまう、というようなフロー型、もしくは読み捨て型のコンテンツも十分考えられると思います。特に、電子出版メインで短編を作る場合は、制作コストや制作期間を小さくできるので、1週間に1回発行する、みたいなこともやろうと思えば不可能ではないでしょう。

「プリントオンデマンド」が可能にするイノベーションとは?

――電子出版とは少し形は異なりますが、「プリントオンデマンド」という新しい技術・概念も登場しました。

井芹氏:
 プリントオンデマンドは、みんなが使いやすいイノベーションだと考えています。ただし、これを“少部数印刷機”と思ってはいけません。注文したその時、その場で、紙の本になる、というところがポイントなんです。

 今までは出版社が本を作る時に、印刷所に発注して、出版社の負担で印刷し、取り次ぎを経由して市場に流していた。つまり、発行側が印刷・製本までしていました。これに対して、印刷所にあった印刷機がストアの中にある、というのがプリントオンデマンドのイメージです。

 印刷機がストアにあるのというのがどういうことなのかというと、ユーザーがカタログを見て、ほしい本を見つけて注文した瞬間に、ストアの中でデジタルデータの“版”から印刷され、そのまま倉庫経由で直送されます。ここで重要なのは、出版社からストアまでは電子出版であって、ストアからお客様の間は物流になっていること。つまり、ストアが電子データをリアルの本に変えている。ここが非常に大きなイノベーションで、印刷という行為の主体が今まで出版社だったものが、ユーザーに変わっているんです。そういう意味で“革命”なんです。

――それだけ聞くと、これまで印刷を担っていた印刷会社の役割がなくなってしまいそうにも思うのですが。

井芹氏:
 そうです。ただ、今はプリントオンデマンドで印刷できるクオリティの問題や、コストの問題などがあります。プリントオンデマンドでは、輪転機のように1日で何万部も刷るということはできません。カラー印刷もまだ値段が高く、完全に印刷会社を置き換えられるほどの品質にも達していません。Amazon.co.jpも現在は本文ページについてはモノクロしか対応していません。ですから、全ての出版物にプリントオンデマンドが有効、ということではないわけです。

 しかし、ペーパーバックと呼ばれる小説をはじめ、モノクロで事足りる内容の本については、十分実用になるところまできています。まだ限定されたマーケットではあるけれども、それが現実に利益を生み出しているということは、知っておいたほうがいいと思います。技術革新というのはご存じの通り毎年毎年続くもので、プリントオンデマンドが印刷所に匹敵するクオリティになるのも時間の問題でしょう。

 ちなみに、三省堂書店の本店にもプリントオンデマンドの設備があります。実際に本店まで行かなければいけないという手間はありますが、今すぐ、今日ほしい、といった時に今確実に手に入るのはここしかないんですよ。

電子書籍プラットフォームの勝負は、まだ始まったばかり

インプレスR&Dのポスター。「デジタルファースト」を掲げ、紙と電子出版の同時発行やオンデマンドパブリッシングに積極的に取り組んでいる

――出版社ではAmazonの参入で電子書籍の売上が伸びたと聞きます。AmazonやAppleという大きな市場を抱えるグローバル企業と競っていく立場となる、日本のプラットフォーム事業者はこれから電子書籍に対してどう取り組んでいくべきなのでしょうか。

井芹氏:
 電子書籍プラットフォームの勝負は、まだ始まったばかりです。電子書籍を日常的に利用している人が今日本に何%いるのかと考えると、まだごく一部というのが実情でしょう。“出版”といえば紙の本だと思うのが普通であって、大都市圏以外では電子書籍は全然流行っていないと思いますよ。

 2012年が電子書籍元年だったとすれば、第1段階としてはワールドワイドのプレーヤーは強かった、ということになります。AmazonやAppleでは元からあるユーザーIDをそのまま利用できるようになっていて、そのコンビネーションを活用されるとやっぱり強いですよね。

 でも、日本の紀伊國屋書店のKinoppyも頑張っていますし、日本ローカルの本における特殊性というのもあります。日本的な部分や、出版としてのサービスがどうあるべきか、というところをしっかり考えてやっていくことで、今後挽回は可能だと思います。

 あとはデバイスが課題でしょうか。先ほども言ったように電子ペーパーにしても進化が滞っているように思えますし。日本は小型デバイスが得意だと思うので、デバイス開発についても日本のメーカーがリーダーシップをとってほしいですね。

――電子出版に踏み出せずにいる出版社やコンテンツホルダーには何と伝えたいですか?

井芹氏:
 電子出版は絶対にやったほうがいいですよ、と言いたいですね。2012年度の電子書籍ビジネス市場レポート「電子書籍ビジネス調査報告書2013」を7月18日に発行する予定ですが、電子出版の売上は2012年度は729億円で、前年度比15.9%の増加となっています。私どもインプレスグループの電子出版売上も間違いなく上がっています。電子出版に対しては今まで懐疑的な意見を言う人もいましたけれども、きちんと電子出版に向き合うべき状況になってきていますし、これからも売上は伸びていくでしょう。

 それと、これが一番重要なんですが、電子書籍を本気でやってみると、今まで考えつかなかったいろいろな新しい企画、連動、ビジネスモデルがどんどん思いつくようになりますから、そういう方向に早く頭を転換していった方がいいと思います。

 ピュアデジタルの考え方になれば可能性が広がるんだけれど、今はまだそういう段階にないんですね。紙をデジタルにしたら儲かるか、儲からないか、みたいな話をしている。そういったマインドの部分を別としても、実際問題として、出版の制作現場では外注のデザイナーさんや編集プロダクションなど多くの人と一緒に仕事をしているため、社外も含めた制作システムを変えていくには時間がかかるということがまずあります。紙とデジタルを同時に出せないことが多いのも、まず紙を作るというシステムが出来上がっているからという理由がいちばん大きいと思います。

 しかし、1回電子にしてしまえば、物品とコンテンツ、教育とコンテンツなど、いろいろなコンテンツをネットワーク上で組み合わせられるわけです。その広大なマーケットを考えると、ものすごく大きな可能性があります。

 出版社やコンテンツプロバイダーの人たちが、電子化によってインターネット上の大きなマーケットに打って出られる。コンテンツを持っていれば、出版界からインターネットサービス界に正式に入って来られて、そこで1つの主導権を持てる可能性があるわけです。そういう魅力的なマーケットであると捉えていただければと考えています。

――本日はありがとうございました。

日沼 諭史