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第6回 実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(中)

TEXT:佐々木 俊尚
 インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)

福岡県在住の女性会社員の場合は……

 福岡県在住の女性会社員(32歳)は、2003年12月中旬から違法CD-Rの販売を始めた。動機をこう語る。

 「自分がほしいと思っていたソフトのコピーがオークションで安く売られているのを見て、落札して購入したのがきっかけでした。でもその時の出品者がすごく良くない対応だったので、『こんな人からこんな高い値段で買わされる人がかわいそう』と思ったんです。」

 女性会社員は「わたしならもっと安く提供できる」と思い、違法CD-Rの値段をさらに下げ、オマケもつけて出品するようになったという。「もちろんそれだけではなく、これでオカネを儲けようという気持ちもありました」。

 出品の際、説明に「CD-Rとシリアルのみの商品になります。ご理解頂ける方のみご落札ください」と記載した程度で、小細工などはほとんど使っていない。出品期間を短くして目にとまりやすくするなど、通常の出品者と同様の手だてを行なっている程度だ。

 これまで約100人と取引し、売り上げは20万円弱。15万円前後の利益を得ている。



違法CD-Rは非常に損益分岐点の低い、きわめて利益率の高いビジネス

ACCSが実際にYahoo!オークションで購入した海賊版の例。この場合、見た目も同じように印刷しているため、一見での判別は難しい

 この数字からは、違法CD-Rの販売がきわめて利益率の高い“商い”であることがわかる。原価が低いのだから当然だ。商品自体は、たとえば別の違法出品者からオフィススイートなどのCD-Rを5,000円程度で購入しておけばいくらでも複製が可能だ。裏稼業としての万全を期すのであれば、前回取り上げた元証券マンの男性のように架空名義口座や秘書代行センターを利用するケースもあるだろう。だがすべて合わせても、初期投資は数万円。多く見積もっても10万円は越えない。一方、運転資金はほとんど不要だ。CD-Rメディア代とオークションの参加費用程度だろうか。

 女性会社員のように本業の片手間に手を染めたケースでも、わずか1カ月の間に20万円を売り上げている。さらに大量に販売し、時間をかければ、利益はかなりの額に上ることが予想される。非常に損益分岐点の低いビジネスなのである。



摘発されるリスクは「スピード違反やゴミのポイ捨て程度にしか考えていない」

 もっとも、常に警察に摘発されるリスクはついて回る。逮捕されれば職を失い、社会的制裁を受けることになるだろう。しかし女性会社員は「スピード違反やゴミのポイ捨て程度にしか考えていません。わたしはゴミのポイ捨ては絶対にしませんが……」とあっけらかんと話し、摘発リスクに対する認識は薄いように見える。

 実際、摘発逃れ対策も取っていない。「数が多すぎて摘発されないでしょうから、対策は。なので対策は何もしていません。他にもっと派手に販売している人がいますから、そうした人がいなくなったら撤退しようかと考えています。私なんて取るに足らない存在だから……」と話す。そして「警察には過去、ストーカーの相談や交通事故の被害者として何度かお世話になりました。その時の経験で、警察は本当に何もしてくれないことがよくわかりましたから」と言うのだ。



出品者が語る主張とは……

ACCSが実際にYahoo!オークションで購入した海賊版の例。これは「認証破壊」を推奨している悪質な例だ

 さらに言えば、彼女は違法CD-R販売を倫理的に反した行為だとは考えていない。

 「個人を狙った犯罪を起こす人は最低だと思いますが、CD-Rの販売は企業に損害を与えるだけで、個人を狙っているわけではない。わたしは個人を狙う犯罪を起こすようなことは絶対にしないし、逆に個人の客からはとても満足していただいているので、罪悪感もまったくない。」

 そう主張するのである。

 「2ちゃんねる」などの匿名掲示板では、違法CD-Rをオークションで販売する人々の実名を晒し、私的制裁を加えようとする書き込みも頻発している。オークション運営会社の動きが鈍いことに対して、正義感の強いネットユーザーたちは苛立っている。「実名晒し」の背景には、そうした苛立ちがあるように見える。女性会社員も、取引した相手と見られる人物に実名と住所、銀行口座などを書き込みで暴露されたことがある。

 そして女性会社員は、そうした行為についてこう非難するのだ。

 「違法CD-Rを販売している人間より、逆に正義感ぶって匿名で個人情報をネットに晒す輩の方が、意地悪く思えて悲しい。正しいことをしているつもりで強気なのかもしれないが、個人を公の場に引きずり出し、『罪人だからいいんだ』と姿を見せず、物陰から石を投げているのと同じような行為じゃないですか。」

 彼女は実名が晒された掲示板の管理者に削除依頼を出したが、まったく相手にされなかったという。「あまりにも悪意を持ったいたずらが多いので、出品はしばらく見合わせようかと思います。あるいはこのままやめてしまうかもしれません」という。



出品者自身でさえも指摘する、運営会社の規制の甘さ

 違法CD-Rの販売が野放しになっている状況については、運営会社が事実上放置してしまっていることが最大の原因だというのは、以前から指摘されてきた。前回取り上げた元証券マンも「出品削除はあっても、IDを停止されることは滅多にない。運営会社は怖い存在ではない」と明言していた。

 女性会社員も、こんなふうに話すのである。

 「違法CD-Rの出品が後を絶たないのは、運営会社が悪いからじゃないでしょうか? 私のような出品者が自分で言うのも何ですが、オークション運営会社の規制は甘すぎると思います。売春まで行なわれているぐらいなんですから……。1度でも違法な出品をしたら、IDを即刻停止させるぐらいの処分が必要なのでは。」

(次回に続く)

(2004/2/12)

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佐々木 俊尚
 元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら

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