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第10回 ヤフオク「海賊版せん滅作戦」がついに始動!

TEXT:佐々木 俊尚
 インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)

ヤフーとACCSの海賊版撲滅作戦が3月15日午後3時に始動

違法CD-Rが収められていた梱包。通常のヤフオクでのやりとりと変わらない

 もう気づいた人もいるだろう。Yahoo!オークションから、ソフトの海賊版販売が消滅しつつある。そう、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)とヤフージャパンが共同で開始した海賊版撲滅作戦(以下、オペレーション)がついに始動したのである。

 オペレーションは、3月15日午後3時に開始された。この段階で、海賊版と判断された出品は1,000件余りにも上っていた。「まずこの違法出品物の山を、いったんゼロにするのが最初の目標だ」。作戦開始と同時に、ACCSのスタッフが3交代制で24時間待機。ACCSとヤフーが共同作成したガイドラインに基づき、ACCSの会員企業であるマイクロソフトやアドビシステムズ(アドビ)などが違法出品のリスト作成を行なう。そして、ACCSがそのリストに基づき、定められたフォームに記入。100件前後にまとめられた時点で随時、ヤフー側に送信された。ヤフー側はリストの内容を確認し、2~3時間のうちにリストにある違法出品物を削除したのである。

 オペレーションは事前の周到な準備の末に実施され、手続き自体は流れ作業のようにスムーズに行なわれたという。削除された出品数は最初の3日間で2,303件に上った。9日後の23日には計2,608件に達し、この時点でガイドラインに引っかかる海賊版の出品はほぼゼロの状態になった。

 海賊版を出品する側は、作戦が始動したことに気づいているようだ。筆者の取材に応じた違法出品者の1人は、「3月中旬になって急に出品を削除されるようになったので、何かが行なわれているという認識はあった。さまざまな手だてを使って今も出品を続けているが、すぐに削除されてしまう」と話している。



海賊版を出品しているのは、ほぼ全員が確信犯なのではないだろうか

 ACCSの側は、違法出品者から反発や非難など、何らかのリアクションがあることも予測していた。このため想定問答集を念入りに作り上げ、オペレーションの開始に備えた。作戦の指揮を執った葛山博志・ACCS戦略法務室長は「開始当日はさまざまな対応を迫られる可能性もあり、朝まで寝ないで待機していた」と話す。だが結果的には、違法出品者からの批判や反発は皆無だった。ACCSにもヤフーにも、何の問い合わせも来なかったのである。

 葛山室長は話す。

 「海賊版を出品しているのは、ほぼ全員が確信犯なのではないだろうか。だから削除されても『仕方ない』という受け止め方だったに違いない。違法出品者はいずれこういう事態になることは予想していたのだろう。」

 現在もオペレーションは継続している。「違法出品者の側から見ると、いったいどのようにして自分の出品が発見され、削除処分になったのかが理解できないでいる。試行錯誤でさまざまな手を使って出品を繰り返している状態だろう」(葛山室長)。新たな違法出品は今も1日20~30件のペースで続いているが、その日のうちにオペレーションによって削除されるという繰り返しになっている。この状態が続けば、Yahoo!オークションにおける海賊版出品はいずれ終息に向かう可能性が高そうだ。



ACCSと著作権企業、ヤフーがオペレーションに至るまでの道のり

 しかしACCSと著作権企業、そしてヤフーにとっては、ここに至る道のりは平坦ではなかった。

 ご存じのように、Yahoo!オークション上では、マイクロソフトやアドビなどが販売している高額なアプリケーションをCD-Rに違法コピーした海賊版が多数販売され、事実上野放しになってきた。違法であることが明白でありながら、ここまで放置されてきた理由は、出品を見ただけではその出品物が著作権を侵害した海賊版かどうかを確認することができなかったからだ。出品の説明に「違法」「海賊版」などと書いてあるケースは、当たり前だがほとんどない。いずれもオブラートにくるんだ曖昧な書き方で、わかる人にはそれとなく海賊版であることが伝わるような説明をしているケースが圧倒的だった。わかっている人間にはそれが海賊版であることは察しがつくが、しかし、ACCSやヤフーの側にとっては、それを海賊版であると決めつける根拠には至らなかった。



ACCSは実際に165件を落札し、違法出品であることを確認

 そこでACCSが取った手段は、違法出品物を実際に落札し、購入するというサンプリング調査だったのである。このオペレーションは2004年2月に行なわれた。ACCSが独自に編み出したガイドラインによって、海賊版であることが明らかな出品物を特定。とある個人名を使って203件を落札し、うち179件に対して代金を振り込んだ。代金を振り込んでいない24件は、落札後のやりとりで出品者への連絡が取れなくなったりしたケースである。ACCSのにおいを嗅ぎ取った出品者もいたのかもしれない。さらにこの179件のうち、実際に品物を送ってきたのは165件だった。全体の1割弱、14件は代金を振り込んでも品物を送ってこなかったのである。オークション詐欺だったのだろう。

 ACCSはこの方法で165件のサンプルを入手。そしていずれも、著作権を持っているソフト会社の許諾を得ていない海賊版であることを確認した。これによって、ACCSのガイドラインに基づいて絞り込まれた出品物は、100%海賊版であることが実証されたのである。この結果に基づいて、ガイドラインに適合した出品物は即座に削除できる準備がようやく整うことになった。そして3月15日のオペレーション開始を迎えたのである。

ACCSがサンプリング調査のために買い集めた海賊版は165枚に上った 海賊版CD-Rのラベルは、手書きのものから本物そっくりに印刷したものまでさまざま


今後もイタチゴッコの世界は続く

 今後、海賊版はどうなるのだろうか。

 ACCSとヤフーが精巧に作り上げたガイドラインの内容は、もちろん公開されていない。だがいずれそのガイドラインをかいくぐる手だてを編み出し、海賊版を売る出品者は現われてくるだろう。しょせんはイタチゴッコの世界なのだ。しかし、葛山室長は「ガイドラインの確かさが証明されただけではない。このサンプリング調査によって、出品者側の出品の仕方についてのある種の認識を得ることができたことが大きい」と話している。仮に葛山室長の言う通り、Yahoo!オークションから海賊版が完全に閉め出される状況になれば、違法出品者は他のオークションサイトなどに流れていく可能性もある。あるいはオークションが難しいとなれば、オークションサイトはあくまで玄関(Doorway)としてだけに利用し、他の方法での販売を行なっていくといった手法も生まれてくるに違いない。

 今後も、著作権ホルダーと違法出品者の間で、戦いは続いていくのである。

(2004/4/1)

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佐々木 俊尚
 元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら

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