「日本の健全な発展のためにP2Pを禁止すべきではない」
～苫米地英人氏が、ファイルローグ裁判で意見書を提出

■URL
http://www.crl.co.jp/company/ikensho.pdf

　コグニティブリサーチラボ株式会社の苫米地英人代表取締役社長が、有限会社日本エム・エム・オー(日本MMO)が提供していたP2P型ファイル交換サービス「ファイルローグ」に対するサービス差止仮処分命令に対して意見書を提出した。苫米地氏は、著書『洗脳原論』で知られる認知科学の研究者だ。

　「ファイルローグ」は現在、東京地方裁判所が4月9日に出した仮処分命令に従い、サービスを休止中だ。この仮処分命令とは、社団法人日本レコード協会(RIAJ)に所属する会員19社および社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が要求していた「音楽CDから作成されたMP3ファイルの内容等を示すファイル情報を、『ファイルローグ』利用者に提供してはならない」とするもの。これに対して、日本MMOでは該当ファイルをフィルタリングする技術は存在しないとして、事実上サービス終了に追い込まれていた。同社では、第4回尋問のための第2回準備書面を12月2日までに提出する予定だ。

　今回提出された意見書は大きく3部分に分かれており、それぞれ東京地裁の差止仮処分決定が不当であると主張している。まず、P2Pによるファイル交換サービスは、ブロードバンド化が進み、大量のアクセスが1ヵ所に集中した結果引き起こされるであろう「ブロードバンドエクスチェンジボトルネック」を解決する唯一の方法であり、今後のデファクトスタンダードになると主張している。また、今日の日本においてP2P技術は「萌芽の段階であり、今後経済の起爆剤となり得る」として、「日本の健全な発展のためにP2Pを禁止すべきではない」としている。

　次に、市販されている楽曲をフィルタリングする技術について、ファイルローグが運用されていた期間の技術では不可能であった点を改めて指摘している。

　さらに、2002年2月から3月にかけて、日本MMOが苫米地氏の開発した特殊なDRM技術をファイルローグに組み込むために交渉を行なっていた事実を報告している。意見書では、DRM技術導入のために「1億円オーダの技術開発となるため、その資金を調達している矢先に、今回の仮処分決定により、資金調達に失敗し、対策技術が導入できないこととなったのが現状」とされ、仮処分決定が日本MMOの健全化を妨げたことを問題としている。

　また、「P2Pにおける中央サーバは、キャッシュであり、通信経路の一部の機能に過ぎない。したがって、この通信経路における違法行為の全責任を、違法行為者、すなわち違法P2Pユーザと共同で追及することには、問題があると考える。電話を使って、犯罪が起こった場合に、電話会社に共同責任を追及することに似ている」とも言及している。

　編集部では、苫米地氏に対して取材を行ない、いくつかの点に関して更なる意見を聞いた。

　まず、今回の仮処分命令の問題点に関して、「命令の理由として、利用者によるレコード複製物の送信可能化が中央サーバ運営会社による送信可能化と評価され、MMO社それ自体が著作権侵害をしている、と判じられた点」を挙げている。他のP2Pベースのファイル交換サービスに対して同様の禁止命令は出されていないが、「仮に、動画や他の形式のファイルの権利者から同様の訴訟が起きた場合にも同様に交換を禁止する命令がでる可能性が非常に高い」としている。

　仮処分命令は、ファイルローグ上での市販CDから複製した楽曲MP3の交換の停止という限定的なものであり、P2Pベースのファイル交換サービスの禁止ではなかった。だが苫米地氏は、「裁判所が、中央サーバ運営会社そのものが著作権侵害をしていると判じており、権利者から損害賠償請求訴訟まで提起されているのであるから、違法な交換が完全に防げないこの種のサービスそれ自体が禁止された決定だ」と危惧している。

　さらに、「あるサービスを停止させようと思えば、悪意のあるユーザは、実際のデータ如何に関わらず、市販CDのタイトルと演奏家名をアップロードするだけで、そのサービスを全面停止に追い込むことができるという意味で、違法なP2P交換を停止するという裁判所の意図と異なり、『日本国内で、P2Pサービスそのものを違法化する』という効果のある誤った処分であると考えている」とのことだ。

　意見書では、日本MMOが健全な経営を再開できるようにすべきだとして、「例として、1年間の猶予期間を設け、通常のファイル交換サービスを再開させた上で、1年以内に、『ファイルローグ』にDRM処理技術を導入し、違法ユーザーを追放するという方法が適切であると考える」と提案している。この点に関して、「レコード協会側のファイル名、演奏家名のデータを供与する協力」と、ファイル名を1文字変えるなどして隠蔽を図った場合でも「かな漢字変換技術におけるスペルチェック技術の応用」で、リアルタイムに違法ファイルの確認が可能になるという。また苫米地氏が通産省予算(当時)で開発した「DRM-MP3」技術と、総務省予算で現在開発中の次世代DRM技術「V2P方式」を組み合わせることで、「P2Pから違法ユーザを100％締め出すことが、可能となる」としている。この他、「スペクトル分析と離散数理的手法を用いて、楽曲そのものの内容を比較し、P2Pネットワークに存在する違法ファイルを見つけ出すロボット検索エンジンの設計、試作フェーズも終わっており、こちらの商用開発は予算次第」との回答も得た。

　最後に、このタイミングで意見書を提出された意図については、3つの回答を得た。まず、「このままでは前回の仮処分決定が正式に判例として確立してしまう恐れがある」こと、次に「違法ファイルをシャットアウトする当社の次世代P2P方式の開発予算が、総務省に正式に採択され、総務省との契約が終了したから」、最後に「P2Pの社会的重要性が、仮処分の判決があった4月時とは桁違いに大きくなったから」とのことだった。

　苫米地氏は、「疑わしきは、罰せず」であるはずの法の精神とは、正反対の「疑わしきは、罰する」処分は、「良心的なP2P運営の全てを停止させる効果があり、日本におけるブロードバンド社会でのP2Pの将来性と経済波及効果を考えて、深く憂慮している」と締めた。

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(2002/11/26)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]