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Illustation:青木光恵
小形克宏の「文字の海、ビットの舟」――文字コードが私たちに問いかけるもの


特別編18
JIS X 0213の改正は、文字コードにどんな未来をもたらすか(1) 改正の概要1:そのポイントを整理する

現実的な影響は未知数、JIS文字コードの社会的な位置は大きく変質

 2004年2月20日、日本語文字コード規格の1つであるJIS X 0213を改正する「追補1」が官報で公示された。今回の改正は、従来から比べて非常に大きなものとなっている。

 その変化はすぐには目立たない。たくさんの人々の目に触れるような動きは、マイクロソフトの次期クライアント用Windows(Longhorn、以下、新Windows)にバンドルされるMS明朝やMSゴシック等(以下、MS書体)のデザイン変更・追加であり、その発売は2006年以降と思われる[*1]。ほとんどのフォントベンダーの対応は、新Windowsの発売後、世間が新しいMS書体をどう受け入れるかを見極めた後になるはず。[訂正1]

 一方で新しい文字セットを完成させたばかりのアップルコンピュータとアドビシステムズは、今回の改正で変更・追加されたものはすでに収録済みとして、新たにフォントを変更することはない。

 この結果、たとえば新Windows上で入力した文字の形が、古いWindows XP上で変わってしまうという現象が発生しうる。あるいは編集部門の新Windows上のWordで入力した文字の形が、制作部門のMacintosh上のInDesignで変わるということが起こりうる。ただしこうした現象が発生する範囲は、比較的頻度の低い180字以下の漢字で、しかもその多くは、かなり大きくしないと変わったことがわからない程度のものだ。いずれにせよ、多くの人々がこれらの現象を目にするのは新Windows発売後だ。今回の改正の結果は、この時以降、少しずつ明かになっていくことになろう。

 もっともJIS文字コードの立ち位置ならば、改正の今年2月20日をもって明確に変わった。一言でいうと国語施策とJIS文字コードは背中合わせの関係になった。もちろん今までも連携はとっていたが、一段と親密な、運命共同体的なものとなった。そして、これが善悪どちらの結果をもたらすか、行政当局も含めまだ誰にもわからない。

 これから何回かにかけて、まず概要、そしてその影響、最後にこれらをふまえた評価というような流れで、今回の改正の全体像をお伝えしたい。全体ではおそらく7回程度になるだろう。MS書体のあたりは興味を持たれる方も多いかもしれないが、これは5回目で書かれる予定だ。どうか、よろしくおつきあいください。



まずは事実経過を整理しよう

 今回改正されたJIS X 0213とは、日本語を電子機器で使うために現在もひろく実装されている日本語文字コードJIS X 0208を拡張する規格で、初版は2000年発行。改正により規格名は「JIS X 0213:2004」と表記されるようになる。

 改正は「追補」(amendment)という手法をとる。原案作成委員会を傍聴した限りでは、これは初版時542ページ、販売価格11,000円、厚さ2.8センチという重厚長大な規格票を刷り直すコストを嫌ったことによる。実際に追補の規格票は、その半分を占める解説を含めても68ページ、3,200円という軽い仕上がりだ。内容も変更部分だけを並べた、いわば大きな正誤一覧表のようなもので、初版を横に置きながら読まないと、JIS X 0213:2004は読み取れない仕組みになっている。

 なお、JIS規格票は日本規格協会(http://www.jsa.or.jp/)のWebショップからもPDF版、冊子版を購入できる。また、公文書であるJISは、日本工業標準調査会のWebサイト(http://www.jisc.go.jp/)の「JIS検索」で全文閲覧が可能だ。「X0213」と入力して表示される表示されるページにある複数のファイルがJIS X 0213の規格本文や附属書だ。このうち「X0213_20」とあるのが追補だが[*2]、これは日本規格協会のPDFファイルと違い、印刷ができず、解説も含まれず(解説部分は原案作成をした日本規格協会が著作権を持つ)、文字通り閲覧のみ可能なもの[*3]。また、ページを画像として取り込んでいるため検索もできない。

 この追補1は、2000年12月8日に発行された国語審議会の答申『表外漢字字体表』[*4]に対し、JIS文字コードを対応させるのを主目的とする。国語審議会答申から数えれば、今回の改正まで足かけ4年の長期戦となったことになる。同答申のパブリックコメントからレポートを続けてきた私としても、感慨は深いものがある。

 原案作成委員会である「符号化文字集合(JCS)調査研究委員会」(以下、新JCS委員会)は、2001年5月22日に第1回委員会を開いて以来検討を続けてきた。2003年3月12日に2002年度としては第3回になる委員会を開催、公開レビュー応募者への回答の後に改正原案を可決した[*5]

 原案は工業標準化法に従って日本工業標準調査会(JISC)情報技術専門委員会に送られ、同年10月22日に可決された[*6]。経済産業大臣名による改正の官報公示は、冒頭に書いたように翌2004年2月20日付けだ。

 なお、追補規格票にはいくつか間違いがあり、日本規格協会では現在、正誤票を準備中という。引き続き注意が必要だろう。



今回の改正のポイントは?

 以上、追補をめぐる事実経過を述べた。次にその内容をかいつまんで説明しよう。もし手軽にこれを知りたい人は、経済産業省のプレス発表資料(http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004964/)を参照するとよい[*7]。また、符号化方法という側面では、矢野啓介氏のWebページ『JIS X 0213の代表的な符号化方式』(http://www.asahi-net.or.jp/~wq6k-yn/code/enc-x0213)が簡にして要を得ている。

 ただし追補だけからは、その背景にある大きな流れは読み取れないのも確かだ。前述したとおり、改正の目的は「表外漢字字体表にJIS文字コードを対応させること」にあった。JIS文字コードは漢字を含むものだけを挙げても、以下の4つがある。

  • JIS X 0208:1997(ほとんどの機器で共通して使える文字セットを持つ規格)
  • JIS X 0213:2000(上記を拡張する規格)
  • JIS X 0212:1990(JIS X 0208を拡張。Windowsに実装されるが使用率は低い)
  • JIS X 0221-1:2001(通称UCS。国際規格ISO/IEC 10646-1の翻訳JIS。≒Unicode)

 これらの関係を図にすると、以下のようになる。それぞれが関連し合っていることがわかるだろう。

■図1 JIS文字コードの関係[訂正2]
・JIS X 0221-1はとても大きく、他の規格を包含する
・JIS X 0208はJIS文字コードの中心に位置する
・JIS X 0212もJIS X 0213も、JIS X 0208の拡張を目的とする
・JIS X 0213はJIS X 0208部分と拡張部分の二層構造
・JIS X 0212は、JIS X 0208を含まない
・JIS X 0213とJIS X 0212は、文字セットが半分以上だぶっている

 この入り組んだ関係をもつJIS文字コードの中で、どうしてJIS X 0213:2000(以下、JIS X 0213)だけが改正となったのだろう? そうした疑問も含めつつ、ここで「表外漢字字体表へのJIS文字コードの対応」という視点で追補をながめると、ポイントは以下の3つにしぼられる。

 (1)JIS X 0208を変更せず、JIS X 0213だけを変更した。
 (2)JIS X 0213の例示字体のうち168字を変更した。
 (3)JIS X 0213に「表外漢字UCS互換」として10字を追加した。

 4つの規格のうち、ここではJIS X 0208とJIS X 0213だけしか挙げていないが、追補規格票の「解説」(以下、単に解説とした時はこれを指す)によれば、JIS X 0212は改正してもしなくても影響が少ないとして対応の対象外となったからだ[*8]。また、JIS X 0221-1が改正されなかったのは、解説では記述が見あたらないものの、これがすでに表外漢字字体表のすべての文字を含んでいるからだろう。

 では、どうしてJIS X 0208を改正の対象としないことが問題になるのだろう。もちろん、それが文字セットとしては最も多く実装され、パソコンのみならず携帯電話から街角の電光ニュース板まで、多種多様な電子機器に使われている日本語の基本的な文字コード規格だからということもある。しかし、それ以上に重要なのはこの連載でも幾度も触れているが、この規格が1983年に改正された際(以下、この時のJIS X 0208を83JISと呼ぶ)大混乱をまきおこしたからだ。

 そもそも、今回の改正の根拠となった表外漢字字体表こそは、この83JISの混乱を国語施策の側から是正しようとする動きだった。今回の改正が「表外漢字字体表にJIS文字コードをどう対応させるか」を検討した結果なのは前述のとおりだが、それ以前に表外漢字字体表の方が、JIS文字コードへの対応を大きな目的のひとつにするという循環関係になっている。

 ただし、83JISへの動きはこれが初めてではない。1997年にJIS X 0208が改正され(以下、97JIS)、そして2000年にJIS X 0213が制定されているが、これらはJISみずからの手によって83JISによる混乱を正そうとしたものだった。

 97JISの手法はJISの明確化であった。明確化? それを説明する前に、まず文字コードとはなんなのだろう。一言でいえば文字と符号(コード)を一対一に関係付けたものだ。ところが漢字をここに入れようとすると厄介な問題が起きる。それが異体字の問題だ。(つづく)


[*1]……たとえば『PC Watch』の「後藤弘茂のWeekly海外ニュース IA-32eのイネーブルはLonghorn世代で」(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0226/kaigai068.htm)などを参照。ただし、マイクロソフトへの取材を通じて、「新しいMS書体を搭載するのは次期クライアント用OS」という回答は得られたが、これを直ちにLonghornと結びつけるのは早計かもしれない。同じく『PC Watch』の「元麻布春男の週刊PCホットライン 2004年のPC業界を予想する【ソフトウェア編】」(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0116/hot297.htm)のように、開発の遅れるLonghornの中継ぎとして、Windows XPセカンドエディション発売を予測する向きもある。もしこれが正しいなら、新しいMS書体はLonghornではなく、2006年より早く発売されるはずのセカンドエディションに搭載されることになる。ただ、現時点でこれについて続報がない以上、可能性は低いと思うのだが。

[*2]……実際にダウンロードページに行けばわかるが、ここではどのファイルが規格のどの部分にあたるか判別できない。追補だからきっと最後の方だろうと思ったが、どれも違う。JIS X 0213に関するメーリングリスト「0213ML」(http://wakaba-web.hp.infoseek.co.jp/jisx0213-ml.ja.html)の内田明さんの投稿により、ようやく先頭の「X0213_01」が追補だとわかった。ところがこの原稿を脱稿した直後、同ML狩野宏樹さんの投稿により、これがなぜか「X0213_20」に移動したことを教えられた。まことに慌ただしいことである。

[追補]矢野啓介さんに、この問題を考察したWebページがあることを教えていただいた(JIS X 0213MLでの投稿による)。

『日本工業規格の著作権(第二版)』
http://www.geocities.com/mogukun/jis/copyright2.html

このページを読む限り、JISが著作権法13条「権利の目的とならない著作物」にあたるかについて明確な判断は出ていない一方で、規格票や日本工業調査会のJIS検索などの場所で、著作権保護を名目にした様々な制限が進んでいることがわかる。利用者にとっては、あまり愉快でない事態が進行中なのは確かなようだ。

[*3]……私は、当然JISは「国または地方公共団体が作成する法令等や公文書に著作権なし」と定めた著作権法13条「権利の目的とならない著作物」にあたると考えていたが、日本工業標準調査会のサイトでダウンロードをする際、〈当該JISは著作権で保護されているため、本サイトではJISの閲覧のみ可能となっております。本件を承諾し、閲覧を行う場合はOKを選択してください。〉という表示が出る。どうやら同調査会ではJISの中には著作権をもつものもあるとしているようだ。
 法令や公文書に著作権がないのに、なぜ国の定める工業標準が著作権で保護されるのか、あるいは本来工業標準は国民にビジネスチャンスを広げるもののはずだが、それを保護することで国民にどんなメリットが生じるのか、こういった問題はもっと議論されてもよいように思う。

[*4]……表外漢字字体表の全文は『国語施策情報システム』(http://www.bunka.go.jp/kokugo/)から「参考資料」を選択するか、『新JCS委員会平成13年度成果報告書』(http://www.jsa.or.jp/domestic/instac/h13reports/jcs_houkoku.htm)から「附属資料1 表外漢字字体表」を選択すると見られる。なお、表外漢字字体表は法的な裏付けをもたない「答申」に過ぎないことに注意。国語審議会を担当する文化庁国語課は、当然これを内閣告示訓令にしようと動いたが、文教当局の内外で国語施策の範囲を常用漢字表以上に広げることを懸念する声があり、不首尾に終わったと聞く。

[*5]……新JCS委員会での原案可決から情報技術専門委員会の承認まで約10カ月の時間がかかっている。その理由を新JCS委員会の小林龍生幹事に聞いたところ、解説の執筆に時間がかかったとのこと。なお、追補規格票の解説「委員会構成表」からもわかるとおり、年度区切りで編制される新JCS委員会は、2002年度を最後として活動停止状態。つまり小林幹事をはじめとする数人の委員は、完全な手弁当で解説の執筆にあたったことになる。そのご苦労には頭が下がるが、経済産業省は〈今回の見直し作業では(略)早期に結論を出すことを目指した〉(p.40 解説)のが本当なら、委員会幹部の「サービス残業」に頼らず、適切な予算を確保するのが筋ではなかっただろうか。

[*6]……経済産業省のWebページ「審議会・研究会」(http://www.meti.go.jp/kohosys/committee/gizi_0000003.html)では、傘下のさまざまな委員会の議事要旨が公開されているが、情報技術専門委員会は2003年3月17日が最後で、2004年度分以降は未掲載。多くの委員会は2004年度も当然のように掲載しており、同委員会についても一刻も早い公開を望みたい。

[*7]……もっとも、よく見ると最初の「ポイント」でいきなり「葛」の変更された例示字体が追補通りの「L」+「人」形ではなく、「L」+「メ」形になっていたりして、標準行政への信頼を疑わせるような仕上がりではある。これは前出の0213MLにおける狩野宏樹さんの指摘。

[*8]……解説「2.10 JIS X 0212への対応」

加筆修正履歴

[訂正1]……『Office 2004 for Mac』について(2004/3/30)

 この原稿には当初、近くマイクロソフトがリリースを予定している『Office 2004 for Mac』付属のMS書体において、改正されたJIS X 0213:2004のサポートが行なわれるという表現があった。しかし、これは私の誤解にも とづく誤報であり、この部分をそっくり削除したいと思う。マイクロソフト株式会社の皆さまには、親切に質問に答えてくださったにもかかわらず多大なご迷惑をおかけしたことを、ここで深くお詫びします。

◎訂正前
 その変化はすぐには目立たない。最初はマイクロソフトが数カ月中にバージョンアップを予定しているMacintosh用Officeパッケージ『Office 2004 for Mac』にバンドルされるMS明朝やMSゴシック等(以下、MS書体)のデザイン変更という形で登場する(ただし文字の追加はない)。
 しかし、たくさんの人々の目に触れるような動きは、同社の次期クライアント用Windows(Longhorn、以下、新Windows)にバンドルされるMS書体のデザイン変更・追加であり、その発売は2006年以降と思われる。

◎訂正後
 その変化はすぐには目立たない。たくさんの人々の目に触れるような動きは、マイクロソフトの次期クライアント用Windows(Longhorn、以下、新Windows)にバンドルされるMS明朝やMSゴシック等(以下、MS書体)のデザイン変更・追加であり、その発売は2006年以降と思われる。

[加筆]……注2に追補(2004/4/2)

[訂正2]……図1を差し替え(2005/8/29)

 図1のいくつかの数値に間違いがあることがわかった。ご指摘くださったMasatoshi Kimuraさんに感謝いたします。

◎訂正前
JIS X 0213(当初漢字10,693文字、今回の改正で10字追加して10,703文字)
JIS X 0208(漢字6,349文字)

◎訂正後
JIS X 0213(当初漢字10,040文字、今回の改正で10字追加して10,050文字)
JIS X 0208(漢字6,355文字)


( 小形克宏 )
2004/3/30

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