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Illustation:青木光恵
小形克宏の「文字の海、ビットの舟」――文字コードが私たちに問いかけるもの


特別編27
JIS X 0213の改正は、文字コードにどんな未来をもたらすか(10)
改正の影響:フォントデザインを変更しないアップルコンピュータの真意(中)

ヒラギノフォントにおける改正JIS X 0213の実装を検証してみる

 今回はアップルコンピュータの木田泰夫氏が「対応済み」とした改正JIS X 0213について、ヒラギノフォントは具体的にどのように実装しているのか検証してみよう。ここで現行バージョンを取り上げても、あまり意味はない。対象にするのは初めてJIS X 0213に対応した2001年発売の10.1搭載のものと、より対応を進化させた2002年の10.2搭載のものだ。ヒラギノフォントの文字セットは、10.2.4で完成形になったが、現行バージョンはここで取り上げる10.2とほぼ同じ結果になると考えてよいだろう。

 その前にヒラギノフォントの文字セット構造図を再掲しておこう。この図に当てはめながら考えるとわかりやすい。

■図1 ヒラギノフォントにおける文字セットのピラミッド構造

 表外漢字字体表の眼目の1つが、97JISの互換規準29字(特別編19の表1を参照)に、印刷標準字体のお墨付きを与えることだった。まず小手調べとして、印刷標準字体として掲げられているのと同じ文字が入力できるか見てみよう。

 これら互換規準29字は、JIS X 0213が制定当初から収録している文字であり、図1に当てはめると上から2番目の階層、JIS X 0213差分に収録されている。したがって、純正の日本語入力プログラム『ことえり』により入力できる(図2)。これらの文字は改正ではノータッチだったので、改正JIS X 0213の例示字体と同じだ。

 次に追加10字(特別編21の表1を参照)について。Mac OS X 10.1では『文字パレット』を使うことにより、2字を除いて改正JIS X 0213の例示字体と同じ文字が入力できた(図2、画面下)。これらはJIS X 0213制定以前からUCS(≒Unicode)に収録されていた文字であり、図1では上から3番目、Unicode差分に収まる。したがってこれらは、10.1では文字パレットでだけ入力が可能だ。

 互換規準29字と追加10字は符号位置を持っているので、他のプラットフォームとの情報交換も可能だ。もちろんUnicodeの文字だから、これを入出力できるOSやアプリケーション同士ならばという条件がつく。例えばWindows XPのように(図3)。

 ところで追加10字のうち、改正JIS X 0213例示字体と同じ文字として入力できなかったのは「叱」「痩」の異体字だが、これらがヒラギノフォントにないわけではなく、図1では最下層のAdobe-Japan1-5差分に収録されている。つまり符号位置を与えられていないだけだ。これらは2001年当時、『InDesign 1.0J』だけで入力が可能だった(図4)。

■図2
Mac OS X 10.1で、改正JIS X 0213における互換規準29字と追加10字の例示字体と同じ文字を、純正エディタ『テキストエディット』へ入力してみた。「〓」で表わした「叱」「痩」の異体字を除き、画面右上に出ている文字パレットから入力できた。文字パレットではJIS X 0208とJIS X 0213にある文字が「関連文字」として関連付けられているのがわかる。また、ことえりはこのバージョンからJIS X 0213の文字をサポートしており、互換規準29字は「関連文字に変換」という機能を使って入力可能だ(ウィンドウ中段の「攅」)。ただし、文字パレット下端のアラートでもわかる通り、JIS X 0208以外の文字の入力には注意が促される。ウィンドウバーの表示でわかる通り、これらの文字はファイル名としても使用可能だ

■図3
先の図2のファイルをWindows XP SP1にインストールされた『Word 2003』で読み込んでみた。Windows XPにはJIS X 0213:2004をサポートするUnicode対応フリーフォント、XANO明朝(http://www.asahi-net.or.jp/~sd5a-ucd/freefonts/XANO-mincho/)をインストールしてある。Windows XPにおいても、適切なフォントさえあれば、これらUnicodeに符号位置を持った文字は問題なく表示できることがわかる。ウィンドウ上端を見てわかる通り、ファイル名も化けてない

 次に例示字体が変更された168文字(特別編20参照)はどうだろう。これらは、InDesign 1.0J[*1]の「字形パレット」により、改正JIS X 0213の例示字体と同じ文字が入力できた(図4)。ただしAdobe-Japan1-5差分の文字なので、符号位置は持たない[*2]

■図4
Mac OS X 10.1上のInDesign 1.0Jで、「字形パレット」を使って図2で入力できなかった2字(緑色)、及び例示字体を変更された168字について、例示字体とできるだけ同じ字を探して入力してみた(※現在InDesign 1.0Jのサポートは終了しています。このバージョンについてアドビシズテムズに問い合わせるのはおやめください)

バージョン10.2でさらにサポートを進化

 このようにして、2001年時点のMac OS X 10.1において、改正JIS X 0213で追加・変更された文字について、例示字体と同じものが入力・表示可能であったことが確認できた。ただしこのバージョンでは、図1最下層のAdobe-Japan1-5差分の文字はInDesign 1.0Jでだけ入力・表示が可能だった。しかし、翌2002年8月のMac OS X 10.2(Jaguar)以降は、Unicodeの読み書きと関連文字の入力をサポートするアプリケーションならば、すべての文字を入力・表示できるように進化している。以下の互換規準29字と追加10字(図5)と例示字体変更168字(図6)を、文字パレットでテキストエディットに入力した画面を見てもらおう。

■図5
Mac OS X 10.2の文字パレットを使って、互換規準29字と追加10字の例示字体と同じ文字を、純正エディタのテキストエディットへ入力してみた。10.1の時(図2)は2字が入れられなかったが、10.2ではすべて入力できた

■図6
同様に例示字体を変更された168文字について、例示字体と同じ字を探して入力してみた。ヒラギノフォントの文字デザインは図4とまったく変わっていない。青はUnicodeの符号位置を持つ文字

 ここまでの検証により、Mac OS Xのバージョン10.1以降において、改正JIS X 0213にある例示字体と同じ文字を、確かに扱うことができることがわかった。ここで前回の疑問を、再度投げかけよう。改正が決まらない前から、アップルはどうして改正に対応することができたのか? 答えは簡単だ、JIS X 0213の改正以前からヒラギノフォントが表外漢字字体表に対応していたからだ。

 ヒラギノフォントの作られ方については前回詳説した。まず最初に「これだけあれば需要は満たせる」というだけの「文字の形=字形」を集めてしまい、これに「グリフ番号」というものを割り当てておく。そうしてJIS X 0208やJIS X 0213(もちろん改正前の初版)と突き合わせ、同じ文字があればその符号位置を割り当てる(図1の上から1、2番目までの階層)。その次にUnicodeを付け合わせ、同様に符号位置を与える(図1の3番目の階層)。最後にJIS X 0213ともUnicodeとも対応づけられなかった文字を、グリフ番号だけを使って表示・印刷することにする(図1の一番下の階層)。

 この「最初に集めた文字の形」の中に、表外漢字字体表で掲げられているものもあった。であればこそ、ヒラギノフォントは印刷標準字体と同じ字を収録しているのだし、結果的に、表外漢字字体表に対応した改正JIS X 0213の例示字体と同じ字も収録することになったというわけだ。

 ただし、これら改正JIS X 0213の例示字体と同じ文字は、そこで規定されている通りの符号位置を与えられているわけではない。図5にある互換規準29字と追加10字は改正JIS X 0213にあるUCS符号位置と一致する。しかし、図6にある例示字体を変更した168文字は、すべて図1では赤で示したAdobe-Japan1-5差分に属するもので、改正JIS X 0213にある符号位置は与えられていない。

 それも当然で、先に引用したMac OS X 10.1発売当時のパンフレットにあったように、アップル自身がMac OS Xでサポートを意図したのは、当然ながら開発当時のJIS X 0213:2000、つまり改正前の版なのだ。

 なのに、改正後のJIS X 0213もサポートしたと言えるのだろうか? これについては次回考えてみよう。この回に限って、少ししつこいくらい「例示字体と同じ字」にこだわったが、これについても次回説明することになるだろう。

[*1]……InDesign 1.0JはWindows版も用意されているので、これとヒラギノフォントやXANO明朝などUnicodeをサポートしたフォントを使うことで、Windows上でもMac OS X版と変わりなく表示・印刷することが可能だ。
[*2]……この原稿ではフォントをヒラギノフォントに限定する形で説明しているが、実際にはヒラギノフォントでなくとも図1の最下段の階層の文字が入力可能だ。アドビシズテムズはAdobe-Japan1-4(15,444文字)という規格を策定しており、これはAdobe-Japan1-5とは下位互換の関係にあたり、図1最下段の文字も多く含んでいる。フォント名の最後に「Pro」が付くのが目印で(Adobe-Japan1-5をサポートするPro版フォントは、現在のところヒラギノフォントのみ)、モリサワなどの多くのフォントベンダーから発売されている。なお、Adobe-Japan1-4とAdobe-Japan1-3(Std版)を図1に重ね合わせると、以下のような関係になる。

■注図 Adobe-Japan1-3~5の相互関係
Adobe-Japan1-5は、Adobe-Japan1-3や1-4から上位互換になる。3者に共通するのは、最上位にあるJIS X 0208の階層だ

 なお、Mac OS X初めての製品版であるPublic Betaと次の10.0において、ヒラギノフォントがサポートした文字セットは、このAdobe-Japan1-4であった。つまり10.1以降のアップルパブリッシンググリフセット(APGS)やAdobe-Japan1-5は、最初にサポートされた1-4の上に積み増ししたものと言える。1-4の仕様書公開は2000年3月。Public Betaの発売は、そのわずか7カ月後の同年10月。上述したどのPro版フォントよりもヒラギノの1-4対応は早かった。

 Adobe-Japan1はアドビシステムズが制定する仕様だが、このタイミングを考えれば、1-4の開発にはアップルの関与や協議があったことは想像に難くない。さらには、Public Betaや10.0の時点から、アップルは「1-4の先」を見据えていたように思える。

 このように、Mac OS Xの文字セットを考える上で1-4の存在は抜きにできないのだが、本文ではわかりやすさを優先して、これには触れていない。この部分については他日を期したいと思う(この項、特別編26の注1注4も参照のこと)。

( 小形克宏 )
2004/11/30

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