東京ビッグサイトで開催中の「WPC EXPO 2004」では、20日から21日にかけてワイヤレスUSBに関するセッションが行なわれている。初日の20日はワイヤレスUSBの概要や、なぜワイヤレスUSBが携帯機器に向いているのか、またワイヤレスUSB向けのアンテナ設計などに関する講演が行なわれた。
● ホスト~デバイス間の認証には赤外線を使用する案が有力に
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IntelのJeff Ravencraft氏
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IntelのBrad Hosler氏
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セッションの冒頭には、IntelのJeff Ravencraft氏とBrad Hosler氏からワイヤレスUSBの概要について説明があった。内容としては7月に行なわれたWireless JapanにおけるRavencraft氏の講演内容をなぞるものとなっていたが、主にHosler氏から現在の開発状況を受けた情報のアップデートが行なわれた。
Hosler氏はワイヤレスUSBにおけるデータ伝送について、パケットサイズは1個につき最大4KBとなるが、最大8個までのパケットのバースト転送をサポートすることになったことを明らかにし、「パケットを4個、または8個単位でバースト転送すると速度が大きく向上する」と述べた。また、ストリーミング映像などの伝送に使われるアイソクロナス伝送については「無線による転送のためバッファリングは不可欠」と語り、BER(Bit Error Rate)が10のマイナス3乗ぐらいという比較的低い値でも問題なく映像伝送が可能になるような形のバッファを確保するよう現在議論を進めていることを示した。
ワイヤレスUSBを搭載したPC(ホスト)とデバイスとの間の通信に関するセキュリティについては、初回の接続時にワイヤレスUSB以外の手段で互いのホスト/デバイスIDと接続時に使用する暗号鍵を交換する必要があるが、これについてHosler氏は「以前はUSBケーブルでホストとデバイスを接続し情報を交換するというアイデアが有力だったが、せっかくの無線プロトコルなのに接続にケーブルが必要だというのはおかしいという意見がここに来て大勢を占めるようになった」と解説。そのため、ケーブル接続やUSBメモリなどを利用したID・暗号鍵の交換の手法も引き続き検討は行なわれるものの、「おそらくはIrDA(赤外線通信)を使った情報交換が最も低コストであり、一般に広く普及するのではないか」との見通しを語った。
規格の標準化の状況についてもHosler氏は触れ、MBOA(Multimedia OFDM Alliance)が担当する物理層とMAC層の標準化については、物理層の標準化はすでに完了し、MAC層の標準化も今年中に完了する見込みであると述べた。ワイヤレスUSB自体の標準化も今年中に完了する見込みであるほか、ワイヤレスUSBを推進する「Wireless USB Promoter Group」の公式Webサイトも年内に開設し、事前に契約書にサインしているユーザーが規格書などをダウンロードできるようにする方向で準備を進めている方針も明らかにした。
● 携帯機器にこそワイヤレスUSBが向いている理由
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Texas InstrumentsのYoram Solomon氏
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続いて登場したTexas InstrumentsのYoram Solomon氏は、特に携帯機器にワイヤレスUSBが必要とされる理由と、他の無線LAN等のプロトコルと比較した場合のワイヤレスUSBの強みを解説した。
Solomon氏はワイヤレスUSBが特に携帯機器で必要とされる理由について「テクノロジーのトレンド、そして利用形態のトレンドの両方が背景にある」と語った。技術面からはHDDやフラッシュメモリなどの集積が進んだほか、CMOS SoC(System on Chip)が発達したことにより、携帯機器の記憶容量が大幅に増加したこと、利用形態として従来は携帯電話やPDA、デジタルカメラなど別々の機器に分かれていたものがスマートビデオフォンのような形で1つの筐体に統合されてきていることを背景に、「今やギガバイト単位のデータをPCから携帯型の音楽プレーヤーに転送したり、デジカメからPCに転送するニーズがある」と述べた。
さらにSolomon氏は、「普通ワイヤレスUSBは『ケーブルを無線に置き換える』と説明されることが多いが、私はあえて『コネクタを置き換える』と呼びたい」と述べた上で、デジタルカメラの例を挙げて、テレビやPC、プリンタなど接続先のデバイスによってそれぞれ接続用のケーブルが異なり、多くのケーブルを持ち歩かなければならない場合があることを指摘。このためSolomon氏の妻などは「どのケーブルをどこの端子に挿せばいいのかわからない」と言ってせっかく買ったデジタルカメラを使いたがらないと語った。
このような状況において、ワイヤレスUSBが普及すれば無線でシンプルにPCとデジタルカメラを接続できるようになる。「DVDプレーヤーとテレビであれば一度接続してしまえばそれを外すことはほとんどないが、モバイル機器とPCの間は頻繁に接続がオン・オフされるため、そのような状況ではワイヤレスUSBのメリットは大きい」と、携帯機器では特にワイヤレスUSBにおいてユーザーの利便性が向上するとの見解を示した。
他の無線プロトコルとワイヤレスUSBを比較した場合、ワイヤレスUSBの強みは「接続可能な範囲は狭いが、低コストかつ省電力で高速伝送が可能」であることだとSolomon氏は語った。そのため高速性よりも省電力が優先されるような状況ではBluetoothが、広い接続範囲が要求される状況では家庭向けとしてはIEEE 802.11b、ビジネス向けではIEEE 802.11a/nが有利だと述べたが、携帯機器との接続においては今のところワイヤレスUSBが最も適しているとした。また、同じUWBを使用するFireWireless(Wireless 1394)とワイヤレスUSBの関係については、「Wireless 1394はどちらかといえばメディアストリームの配信がメインだが、ワイヤレスUSBは確実にデータ伝送を行なう用途に向いている」と述べ、住み分けが可能だとの考えを示していた。
● ワイヤレスUSB用のアンテナ設計はかなり難しい
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Samsungの長谷川実氏
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TDKの三沢宣貴氏
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午後からは具体的な個別技術の解説に移り、ワイヤレスUSBで使用されるアンテナの設計についてSamsungの長谷川実氏、TDKの三沢宣貴氏の2人が現状と今後の課題を語ったほか、横河電機の島田修作氏がワイヤレスUSBの信号特性について説明した。
現在、ワイヤレスUSBのアンテナとしては、米FCC(連邦通信委員会)がUWB用の帯域として定めている3.1~10.6GHzをフルカバーするタイプのものと、ワイヤレスUSBが利用するMBOAの規格で「Band Group #1」とされている3.1~4.7GHzの範囲のみをカバーするタイプ(ローバンドタイプと呼ばれる)の2種類の開発が進められているとのこと。ただローバンドタイプでも1.6GHzの帯域幅、フルバンドタイプでは7.5GHzの帯域をカバーしなければならない上、「可能な限り帯域内の特性を均一にしなければならない」(三沢氏)とのことで、非常に難しい設計を強いられるようだ。
特に三沢氏は「(ワイヤレスUSBの)特性を考えるとディスコーンアンテナ(円錐の上に円盤が乗った形状のアンテナ)が最も有利だが小型化が難しい」「携帯機器向けの小型アンテナは、アンテナサイズもさることながら、それが接続される基盤サイズによって大きく特性が変化する」と語り、ワイヤレスUSBを搭載する機器によって搭載するアンテナが変わる可能性が高いこと、また携帯機器の場合はPDAやノートPCなどそのサイズによってアンテナのチューニングが異なってくることなどについて詳細な説明を行なった。長谷川氏も主に携帯機器向けのアンテナについて「板状モノポールアンテナの場合、円盤形状が適しているのではないか」などと語ったが、今のところまだワイヤレスUSBに対応したチップセットが存在しないこともあり設計に苦慮している様子がうかがえた。
関連情報
■URL
WPC EXPO 2004
http://expo.nikkeibp.co.jp/wpc/
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( 松林庵洋風 )
2004/10/21 13:32
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