ドメイン名やIPアドレスの割り当てなどを統括する国際組織であるICANNと、インターネットガバナンスに関する議論を行なう国内組織であるIGTF(Internet Governance Task Force)における最近の議論の状況を報告する「第12回ICANN報告会・第2回IGTF報告会」が、18日に都内で開催された。
● 削除ドメインの再登録、ドメイン名乗っ取りなどが主な議題として浮上
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ICANNの理事を務める伊藤穣一氏
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ICANNについては、「.net」ドメインの管理を行なうレジストリの再選定に関する話題や、4月にアルゼンチンのマルデルプラタで開催されたICANN総会などに関する報告が行なわれた。ICANN総会での決定事項としては、アフリカ地域を管轄する地域インターネットレジストリとして「AfriNIC」が承認されたことや、新たなgTLDとして「.jobs」「.travel」の追加が承認されたことなどが挙げられた。
.netドメインのレジストリ選定問題では、総会の直前に第三者機関(米Telcordia)から出された候補レジストリに関する評価レポートの内容について「公平性に疑問がある」などの意見が多数出された。これを受けて、ICANNのVint Cerf理事長から「同レポートで1位に挙げられたVeriSignとの契約交渉そのものは続行するものの、評価プロセスに対する疑問などを評価した結果、理事会として最終的に他のレジストリと契約することもあり得る」との異例の声明が出されたという。ただし、この点について国内の関係者の間では、「契約の関係でレジストリの移行は6月30日までに行なわなければならないため、今から.netをVeriSign以外のレジストリに移行するのは物理的に困難だろう」との見方が支配的だ。
報告では、契約が更新されずに削除されたドメインの一部について、レジストラ間でのドメインの奪い合いが激化している問題への対応が挙げられた。この問題は2001年ごろから話題となっていたが、近年ではレジストリに対し多数の登録コマンドが発行されDoS攻撃のようになっていたり、争奪戦を有利に運ぶためダミーのレジストリを多数設立したりと、状況がさらに悪化しているという。こうした問題を解決するために、レジストリ側で削除直前のドメインに対するオークションを行ない、落札額の1割をレジストリ、9割をドメインの旧保有者と旧レジストリで分ける、という提案が出されているという。
また、もう1つの話題としては、「ドメイン名乗っ取り」に関する話題が挙げられた。特に2005年に入ってから、レジストラを騙すことでドメイン保有者の知らないうちにドメイン名を乗っ取るという事例が増えているということで、対策が話し合われたという。一部では「2004年11月にレジストラ間でドメイン名を移転する場合のポリシーを改訂したことが影響しているのではないか」との意見も出ているとのことだが、いずれにしても現時点で対策としての決定打は無い状況だ。早期に有効な対策が打ち出されることが望まれる。
新規ドメインの追加に関しては、ICANN理事を務める伊藤穣一氏によれば、現在のところ「.asia」「.xxx」の2つが審議対象として残っているとのこと。特にアダルトサイト向けTLDとして提案されている「.xxx」を巡っては、「ドメイン登録料収入の数%を児童ポルノ撲滅などの活動を行なうNPOへの補助金に使う」「クレジットカード会社と提携し、.xxxドメインを利用するサイトに対しては決済手数料を割り引く」などのビジネスモデルは非常によくできているとの意見が多いという。一方で、アダルトサイト用に新たなTLDを設けることに対する感情的な反発が根強く、最終的な決定に至っていないとの説明がなされた。
● 年末のWSISに向けて一般から広くコメントを募集
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IGTFの事務局長を務める会津泉氏
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IGTF報告会では、国連の世界情報通信サミット(WSIS)およびその下部組織として2004年に設立されたWGIG(Working Group for Internet Governance)の動き、そしてWGIGに対応するための国内組織であるIGTFについての解説が行なわれた。
インターネットガバナンスに関しては、以前から発展途上国を中心に、ICANNではなくITUや国連主導でのガバナンスを求める声が根強い一方で、先進国は現行のICANN主導の体制を支持するという状況が続いている。WSIS並びにWGIGでは、この状況に対し具体的にどのような点が問題なのかをピックアップ・分類し、それに対する今後の方向性を打ち出すべく議論が続けられている状況だという。
その中でIGTFは、WGIGに対し主にルートDNSサーバーやそのレコード内容の管理、IPアドレスの割り当て等の問題を中心に度々意見書を提出している。IGTFの事務局長を務める会津泉氏によれば、それらの意見はWGIGにおいても概ね受け入れられているという。ただそれでも、WGIGから会合の度に出されるレポートは、以前に比べると大きく減ったとはいえ依然として記述ミスや事実誤認が目立つとのことで、会津氏は今後もIGTFとしてWGIGに対しさまざまな指摘・提言を行ないたいとの考えを示した。
また、WGIGでは現在、インターネットガバナンスについて一般向けのアンケートを行なっているほか、予定では7月18日には報告書が提出され、8月15日まで報告書に対するコメントを受け付ける計画になっているとのこと。ただし、元となる報告書は英語である上、コメントも英語で書かなければならない。また、コメントをWGIGに送るためのWebインターフェイスがわかりにくい等の問題があるため、会津氏はIGTFとして一般ユーザーがコメントしやすくするための何らかの支援策を用意したいとの考えも示した。
関連情報
■URL
ICANN
http://www.icann.org/
IGTF
http://www.igtf.jp/
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( 松林庵洋風 )
2005/05/19 15:16
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