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慶應大学環境情報学部の村井純教授
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5月24日と25日の2日間、東京・ホテル日航東京で「POWEREDCOM FORUM 2005」が開催される。24日、慶應義塾大学環境情報学部の村井純教授が、インターネットを用いた技術の現状について講演した。
1992年からインターネットのデザインに携わってきた村井氏は、1990年代と比較してインターネットに5つの新しい動きが出てきたという。具体的には、インターネットがPC以外の通信機器と接続するようになったこと、ワイヤレス環境が整ったことでさまざまな空間が情報化されつつあること、音声や動画を大人数向けに配信する技術が進んできたこと、光ファイバに光の波長を取り入れる超広帯域光ネットワーク技術のラムダネットワーク技術が発達したこと、ラムダネットワークを用いて大容量データを配信する際に生じる遅延を克服することを挙げた。
● 日本のIPv6の開発力は、世界と比べて5年間のリードタイムがある
村井氏はまず、インターネットに見られる新たな動きの1つとして、インターネットがPC以外の通信機器とつながるようになったことを指摘。インターネットの当初のデザインでは、PCとつなげることに焦点が当てられていたが、今後はPC以外の通信機器との接続を考慮したデザインが必要だとした。
インターネットとPC以外の通信機器との接続例として、学生寮にIP電話を20,000台導入したケースを紹介。これまでIP電話では、現在主流のインターネットプロトコル「IPv4」を用いて電話機の導入を行なっていた。この場合、作業者が出向いて1台1台の電話番号や機器の設定をする必要があった。
しかし、今回学生寮に導入したIP電話では、グローバルIPを設定できる次世代インターネットプロトコル「IPv6」を採用。これにより、リモートによる設定が可能となり、作業者が現場に出向いて1台1台設定する手間が省けたため、予定の工期の半分以下で作業が終了したという。
村井氏は「PC以外の通信機器との接続が行なわれる時代では、IPv6の技術が必要となってくる。IPv6の技術は、かねてから日本で開発してきたもので、海外に比べて5年間のリードタイムがある。IPv6を注目している世界中の人々が、日本に視察に来るほど」と語り、日本のIPv6技術が有望であることを訴えた。
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次世代インターネットプロトコル「IPv6」を用いてIP電話を導入
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「IPv6」を採用したことで、リモートによる設定が可能に
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慶應大学SFCでもEdyを利用
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また、通信機器がワイヤレス化したことで空間が情報化されるようになったことを述べた。具体例として「FeliCa」などに採用される非接触ICカード技術について触れ、「電源が不要で、ライターやリーダー、メモリを搭載している非接触ICカード機器が広まっている国は日本のほかにはない。これらの機器にはプライバシー情報が含まれていることから、落としたらどうなるか? という懸念もあるが、これを使って覚えていく子供たちがたくさん出てきたということは、将来の日本のユーザーの力につながる」とコメントした。
なお、村井氏が教授を務める慶應大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)でも、大学生協や職員食堂、学内のサンドイッチ店などで、非接触型ICカードを利用したプリペイド式電子マネー「Edy」が利用可能だという。
[お詫びと訂正]
初出時、学生寮に導入したIP電話の台数を200台としましたが、正しくは20,000台の誤りです。お詫びして訂正いたします。
● 講演の模様を1.5Gbpsのハイビジョン映像で非圧縮配信
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日本とヨーロッパの間で、光ケーブルを直線的に設置することで遅延を克服できる
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これまでインターネットが最も苦手な分野だったという動画や音声の配信については、、近年十分な帯域が確保されるようになったことで克服されたとした。今後は「1対多」を意味するマルチキャスト技術が求められるとして、テレビ会議や遠隔授業など配信可能な範囲を超えたマルチキャスト配信を可能にすることを課題として掲げた。
このほか、光の波長を光ファイバに取り入れることで、超高速通信を可能にするラムダインターネット技術についても触れた。現在、光ファイバ技術は、ラムダインターネット技術によって、これまでの100倍以上の機能を発揮できるほど有効な社会基盤になりつつある。
今後は、この光ファイバのインフラを使ってデータを届ける際に生じる遅延を克服することがラムダインターネット技術の鍵になるという。これについては、「日本とヨーロッパなどの間で、光ケーブルをいかにまっすぐに張るか」によって遅延時間を縮小することができるという。
マルチキャスティング技術とラムダインターネット技術を用いた実験を紹介した。村井氏は、研究開発用に用意した10Gbpsイーサネットを用いて、基調講演の模様を1.5Gbpsのハイビジョン非圧縮映像でインタラクティブ配信。「このときの講演は内容そっちのけで、聴衆はハイビジョン映像で対話をすることに夢中だった。講演する私の後ろを走ってい高校生の顔がわかった、ということが話題になって誰も私の話を聞いていなかった」と会場を沸かせた。
村井氏が代表を務めるWIDEプロジェクトでは、「アジア全域に広域イーサネットがあるような感覚」で遠隔授業を行なっている。2004年12月に発生したスマトラ沖地震で113名の教授が死亡したというアチェ島の大学においても、授業を共有できる体制が整っている。
「インターネット技術は1995年までは日本が最先端だったが、2000年頃にはその魅力が薄れていた」と村井氏は振り返る。その理由として、経済や教育、行政などの場にインターネットが利用されていなかったことを指摘。しかし、日本では2005年に世界最先端のIT国家を目指すことで準備してきたこともあり、インターネットの環境は世界最先端の国家になったという。その中でも、「新しい情報技術に対して、時には辛抱強く我慢してまで一生懸命使う日本のユーザーは、情報を使いこなす能力に長けている」ことは、世界に誇れるものだとした。
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衛星を使ったマルチキャスト配信
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スマトラ沖地震で113人の教授が死亡したというアチェ島にも遠隔授業を行なう
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関連情報
■URL
POWEREDCOM FORUM 2005
http://www.poweredcomforum.net/forum/
WIDE PROJECT
http://www.wide.ad.jp/index-j.html
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( 増田 覚 )
2005/05/25 14:24
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