社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は28日、「知的財産権の本質と今日における課題」をテーマにしたイベント「JASRACシンポジウム2006」を開催した。第1部の講演に続いて行なわれたパネルディスカッションでは、著作権保護期間の延長に関する問題や、著作物を円滑に利用するための仕組みなどについて議論が交わされた。
● 著作権保護期間の延長をめぐって三田氏と津田氏が論戦
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三田誠広氏
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今回のパネルディスカッションには、著作権保護期間の延長を求めている「著作権問題を考える創作者団体協議会」の議長を務める三田誠広氏と、保護期間の延長については十分な議論を尽くすべきであるとする「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」の発起人の1人である津田大介氏が参加。パネルディスカッションでも延長問題が話題の中心となった。
三田氏は、現行では著作者の死後50年となっている保護期間を70年への延長を求める立場から意見を表明。70年は長すぎるのではないかという意見に対しては「作家も長生きするようになり、孫や曾孫の代まで権利を与えるのかという議論もある。たしかに100歳まで生きる人もいるだろうし、そこから70年となると長いように思うかも知れない。一方では若くして亡くなる作家もいる。著作権は私権であり、個人の権利を保護するもの。保護期間については平均を取るということではなく、一番短くなってしまう人のことを考えて、そこに合わせたいと思う」と述べた。
また、慎重に議論してほしいという意見については、「慎重に議論すべきという意見には賛同するが、いったん著作権の保護期間が切れてしまうと、後で期間が延長になったとしても、過去の作品の保護期間は復活しない。慎重な議論もいいが、議論が長引くとその間にも保護期間が切れる作品が増えてしまう」として、なるべく早く結論を出してもらいたいと訴えた。
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津田大介氏
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これに対して津田氏は、「保護期間は50年で十分ではないかと思う」として、「日本は著作権保護の面で遅れているという主張があるが、公衆送信可能化権など世界に先駆けて導入した制度などもあり、その上でベルヌ条約で定められた50年という保護期間を守っており、保護が不十分であるとは思わない。さらに欧米に合わせるためという理由で保護期間を延長する必要があるのか」と主張する。
また、欧米の保護期間についても、「米国ではハリウッドやディズニーの強い働きかけで保護期間が延びたと言われている。ヨーロッパも同じような事情で延びて、EU統合の際に最も長かったドイツに合わせて70年になった」として、こうした事情に日本が合わせる必要があるのかと問いかけた。
三田氏は、「映画については既に保護期間が切れてしまったものもあるが、その結果何が起こったかというと、古い傷だらけのフィルムから作った安いDVDなどが売られるようになった。映画の保護期間は日本でも公開後50年から70年に延ばすという改正があり、自分も賛成した。それは、映画というのは映画会社には一番きれいなオリジナルのフィルムが残っており、そういうものを皆さんに見ていただきたいから」と訴えた。
一方津田氏は、「それは70年に延びたとしても同じことが起きるのではないか。むしろ50年の時よりも、もっとすり切れたフィルムを使ったものが出ることになる」と反論。「50年で切れてしまっても、映画会社はそれで50年間収入を得てきたのだから十分ではないのかといった議論は、経済的合理性を基に話す必要があると思う。米国でも保護期間の延長の際には、経済学者が最適な保護期間はどれくらいかといった検証を行なっている。日本ではそういったことすらまだ行なわれていない状況」として、様々な検証を踏まえた上での議論が必要だと主張した。
● 利用促進のためのシステム整備が重要
三田氏は、著作権保護期間の延長と合わせて、著作物を利用するための制度の整備が必要であると訴える。「文学のことについて言えば、財産として生きている著作物は限られている。私の作品でも絶版になっているものがたくさんある。もしも青空文庫のようなボランティアの方から、絶版になっている作品を公開したいと言われれば、私としてはお願いしたいと答えると思う。絶版になっているものはネットに公開して多くの人に評価していただいて、面白いということになれば、復刊ドットコムのような形でまた本として流通させることもできる。現在のように、著作権が切れたから、さあなんでもできるぞという形の方がいびつだと思う」として、著作権者のデータベースの整備などにより、著作物を利用するための制度を早急に作る必要があるとした。
津田氏は、利用促進のための整備については大賛成としながらも、「現実的には、たとえば書籍や出版の世界で、これからデータベースを作って利用許諾を促進できるような集中管理ができるのかというと、なかなか難しいのではないか。音楽ではJASRACが集中管理をしており、うまくいっているとは思うが、細かいところでは実務レベルの問題があれこれと出ている」として、データベースや許諾システムを作って利用を促進するのは重要だが、システムが現実的に有効なものになるかという点が疑問であるとした。
これに対して三田氏は、「著作権法が壁になって、利用を妨げてはいけない。保護期間が50年で切れるから著作物が使えるということではなく、保護期間内でも利用できるようなシステムを作っていけばいい。その上で、保護期間について諸外国と肩を並べるということが最良の方法ではないかと思う」と述べた。
他のパネリストからは、共同通信社の宮武久佳氏が「70年が本当に世界標準であるかについては、きちんと調べたほうがいい。また、著作権は作家へのリスペクトであるという話もあった。鴎外や漱石はすでにパブリックドメインになっているが、作家へのリスペクトという意味では変わらないと思う。それは著作権とはまた別の議論ではないのか」と疑問が寄せられた。
実演家著作権隣接センターの運営委員を務める椎名和夫氏は、「実演家の権利は固定後50年、つまり演奏や出演した時点から50年となっている。そのため、ベテランの方だと存命中に権利が切れるということも起こっている。海外でも実演家については50年となっており、我々は海外並みにという主張はできない。実演家の思いとしては、せめて死ぬまでは権利を持たせて欲しいなと思う」と訴えた。これに対して三田氏は、「国際標準ということを言い過ぎたかも知れないが、外国に合わせる必要はない。隣接権については日本が世界に率先して長くするということでいいと思う」と述べた。
弁護士の末吉亙氏は、「たとえば最後の20年は報酬請求権だけにするといった方法もあるかも知れない。許諾の仕組みであるとか利用活用の仕組みについては、お役所主導ではなく著作権者や利用者が一体となって考えていくことが一番重要なポイント。そうすれば世界標準以上の良いものができ、日本の文化のためになるのではないか」と述べた。
津田氏は最後に「12月11日に、著作権保護期間の延長問題を考える国民会議のシンポジウムを開催する。三田先生も出席していただくので、ぜひそこで議論の続きをやりたい」として、来場者にシンポジウムへの参加を呼びかけてパネルディスカッションは終了した。
関連情報
■URL
JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/
著作権保護期間の延長問題を考える国民会議
http://thinkcopyright.org/
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( 三柳英樹 )
2006/11/29 12:31
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