“インターネット社会の論客が、Webの未来を語る”をキャッチフレーズとしたカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」が25日・26日の両日、東京都内で開催中だ。25日には講演者の1人として、日本法人の設立を発表したばかりの米BitTorrentのAshwin Navin社長兼共同創業者も登場した。
● BitTorrentがハリウッドの参加を取り付けた背景
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米BitTorrentのAshwin Navin社長兼共同創業者
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BitTorrentの歴史
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Navin社長は「変わるハリウッド~P2Pの可能性と未来~」と題して講演。まず、同社の歴史を簡単に振り返った後、2月に開始したデジタルコンテンツストア「BitTorrent Entertainment Network」について説明した。
BitTorrent Entertainment Networkでは、ハリウッドの大手映画スタジオのコンテンツを配信している。当初は35社でスタートしたが、現在では55社/1万タイトルをラインナップしているという。
Navin社長は、P2Pは海賊版流通との関わりが深いとして当時は誰も映画スタジオが提携するとは思っていなかった状況の中で、いかにして同社がハリウッドを説得したかを語った。まず、かつて音楽業界がNapsterに対して起こした訴訟を取り上げ、訴訟後もCDの売上が伸び悩んでいる点から、結果として訴訟はうまくいかなかったと指摘。一方、DVDの売上も2005年以降は停滞気味であり、ハリウッドが音楽業界より6年遅れて伸び悩みを体験していると説明する。
これに対して、P2Pのトラフィックはインターネット全体の71%を占めるまでに増加。また、BitTorrentクライアントのインストール数も1億4,000万を超えるまでに増加している状況があり、ハリウッドにとってP2Pを無視するのか、あるいは活用するのかという岐路にあったと説明する。そこで上記のようなデータを映画スタジオに示し、「ハリウッドは、これをチャンスとして生かすべき」と説得したのだという。Navin社長は「P2Pはすでに、HD DVDとブルーレイに次ぐ3つ目の映像フォーマット」とも表現した。
特に動画のデータ配信については、クライアント/サーバーアーキテクチャでは配信コストが大きいとして、新しいアーキテクチャが必要だということも強調した。ここでは「YouTube」と並んで、「ニコニコ動画」の名前も挙げられた。
なお、Navin社長によれば、クライアント/サーバーアーキテクチャで1時間の番組をオンデマンド配信しても利益はあがらないという。一方、BitTorrentプロトコルを拡張した商用版コンテンツ配信プラットフォームの「BitTorrent DNA(Delivery Network Accelerator)」を採用すれば、コストがその半分もかからず、ビデオオンデマンドの設備投資もかからないとして、動画配信の利益をあげるビジネスモデルを実現していると強調した。
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CDとDVDの売上の推移を6年ずらして重ねたグラフ
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BitTorrentクライアントソフトのインストール数の推移
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● P2Pアーキテクチャは「ニコニコ動画」にも向いている?
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BitTorrentの配信プラットフォーム、コンテンツストア、クライアントソフトの相互関係
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Navin社長は、25日に設立が発表された日本法人「BitTorrent株式会社」についても言及した。日本では、デジタルコンテンツストアのBitTorrent Entertainment Networkではなく、配信プラットフォームのBitTorrent DNAに特化して展開していくという。コンテンツ配信の帯域コストが高いと感じている企業はぜひ検討して欲しいとアピールした。また、BitTorrent SDKも日本向けに提供していく。
なお、BitTorrentにとって米国以外での現地法人設立は日本が初めてとなる。日本を選んだ理由としてNavin社長は、日本のインターネット環境が最も先進的であり、上下100Mbpsのブロードバンド回線が普及している点を挙げた。同じ100Mbps接続であれば、データセンターではなくユーザー側にコンテンツをキャッシュするP2Pアーキテクチャにより、そのコスト差を活用したビジネス展開が有効との考えだ。
会場からの質疑応答では、Navin社長の講演の中でも名前が挙がったニコニコ動画についてのコメントを求める質問もあった。これに対してNavin社長は「私もニコニコ動画は大好きです」と述べた後、成功しているサイトは創造性やユーザーの活力を活用しているところだと回答した。また、メディアファイルに加えてユーザーらが作ったコンテンツがあるという意味で、メディアと編集を区別しているとも指摘。P2Pに適しているとして、「P2Pを使うことによってニコニコ動画のようなサイトを守ることができると思う」とも述べた。
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007は、デジタルガレージの共同創業者で取締役の伊藤穰一氏がコーディネーターと総合司会を務めている。伊藤氏はNavin社長の講演の終わりに、BitTorrentはいわば敵だったハリウッドに堂々と乗り込んで交渉したという点について、「比較的、ほかの真似をしてビジネスを創ってきた日本のインターネットにとっては重要な教訓だと思う」とコメントした。
関連情報
■URL
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007
http://www.garage.co.jp/ncc2007/
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( 永沢 茂 )
2007/09/25 20:24
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