日本音楽著作権協会(JASRAC)は25日、「動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」をテーマにしたイベント「JASRACシンポジウム」を開催した。パネルディスカッションでは、「ニコニコ動画」を運営するニワンゴの親会社であるドワンゴの代表取締役会長・川上量生氏らが、映像コンテンツの二次利用を促すための課題などについて語った。
● ドワンゴ川上会長「我々は『ならず者の集団』ではなく『話が通じる会社』」
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ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏
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「ニコニコ動画を手がけていることから『ならず者の集団』と思われがちだが、今日は『話が通じる会社』であることをアピールしたい」と切り出した川上氏は、ニコニコ動画における著作権侵害コンテンツと対策状況を紹介。川上氏によれば、ニコニコ動画で流行しているのは映像コンテンツのパロディ作品をはじめとする二次利用が中心で、テレビ番組や音楽プロモーションビデオをそのままアップロードされるケースは少ないという。
「世間で思われている著作権侵害と、ニコニコ動画の実状は少々違う。YouTubeではテレビ番組や音楽プロモーションビデオの『丸上げ』が見られるが、これらの動画はニコニコ動画のランキングでも上位に入らず、投稿動画全体に占める割合も少ない。むしろニコニコ動画では、コンテンツの二次利用、マッシュアップ、パロディ作品が人気を集めている。」
著作権侵害コンテンツへの対応については、「著作権者が望まないような著作物がアップロードされた場合、丸上げでも二次利用でも削除するのが大前提」と強調したが、その一方で、削除対応の遅れを非難されるケースもあると認めた。
削除対応が遅れてしまう点に関して川上氏は、「現実的な回答は模索中だが、多くの人が納得する削除ルールを考えなければならない。誤削除があるとユーザーから叩かれる板挟みの状況だが、現在は著作権侵害と指摘されたものはすぐに対応している」と胸の内を明かす。今後については「自動的に著作権侵害動画を検知する仕組みについても取り組んでいる」と述べ、著作権侵害に対応する姿勢をアピールした。
なお、ニワンゴでは現在、JASRACが提示する動画投稿サービスにおける音楽著作物の利用許諾条件に同意し、暫定許諾に向けた協議を進めている。
● コンテンツのネット流通が進まないのは著作権法のせい?
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慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏
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過去に小泉政権で経済財政政策担当大臣を務め、現在はエイベックス非常勤取締役を兼任する慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏は、日本が世界で存在価値を示すには、文化で構成される『ソフトパワー』が不可欠と語る。「ネット配信というと、政府はデジタル流通がああだこうだと言う。しかし先日、権利者団体らが『Culture First』を掲げたように、コンテンツの重要性を忘れてはいけない」。
岸氏によれば、ソフトパワーを広めるにはインターネットが重要だが、流通ルールが整備されていないため進展していないと指摘。また、インターネット上の二次利用が進まない点については「必ず著作権法が悪者にされる」と憂いを見せ、まずは関係者同士が交渉をした上で、ビジネスモデルを構築する必要性を訴えた。
「現行の著作権制度のままでも、契約体系を変えたり、実演家や関係者のギャラを増やせば解消できる部分はある。デジタル流通の話になると、日本ではすぐに議論が曲がることを懸念している。最近でも『ネット法』が提言されたが、これはコンテンツの作り手を考えていない。政治レベルでも携帯電話のフィルタリングが議論されているが、この法律ができれば、欧米では成長産業として位置づけられているソーシャルメディアが殺される。本質から外れたとんちんかんな提案が多い中、JASRACなどの権利者団体が地道な調整をしているのが評価されないのは、どんなものかなあと思う。こうした調整をもとにビジネスとして儲かるスキームを作った上で、コンテンツが出ていかないと厳しいことになる。」
インターネット上の二次利用に関連して著作権法が批判される理由については、ホリプロ代表取締役社長COOの堀義貴氏も、「不透明に金が生まれて誰かが儲かっていると思われているから」と指摘。コンテンツや出演者へのリスペクトが低いと苦言を呈した。
● 悪者探しからは何も生まれない、当事者の話し合いが解決
「悪者探しからは何も生まれない。話し合いにこそ解決策がある」と主張するのは、日本民間放送連盟で著作権やコンテンツ政策などを担当した経験を持つ立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏。
「こうしたシンポジウムでは、だいたい誰かを悪者にして『だよね』となる。『番組を提供しない放送局が悪い』『(利用許諾をしない)実演家に問題がある』など、欠点を探しても議論は前に進まない。そうではなく、話し合いで落としどころを見つけるべき。JASRACと放送事業者でも、当事者が夢に出てくるくらいすさまじい議論をやった上で放送権を交渉した。話を進めれば必ず解決はある。」
さらに砂川氏は、インターネット上のコンテンツ流通において、放送番組の二次利用ばかりが話題に上る状況についても疑問を呈示。テレビが独自の文化を創造したように、インターネットの動画でも「ブロードバンドならでは」のヒットコンテンツを生み出すべきだと訴えた。
「テレビ番組には多くの権利者が出ていて、二次利用するにはそれぞれ許諾が必要となる。最初から二次利用の権利処理をすればよいと言うが、テレビ番組はある種、水ものの世界。ヒットするかわからない番組に、出演料を(余分に)かけるのは難しい。確かにネットでテレビ番組が見られるのはメリットだが、こうした『流通』だけでなく、ブロードバンドならではの『創造』が必要なのでは。かつて放送は、映画産業から『電子紙芝居』などと言われていたが、力道山のプロレス中継など放送ならではのものを生み出してユーザーに受け入れられた。ぜひ、ブロードバンドでも新しい文化を創造してほしい。」
また、放送番組のインターネット上での二次利用については、堀氏も「死蔵している番組を流通しないことを非難されるが、コンテンツを流通させれば何となく儲かるというのは幻想」と批判。「これまでにBSやCSなど様々なプラットフォームに対応してきたが、増えたのは仕事ではなく設備投資」。テレビ局側が収益を得る仕組みが整わない状況で、放送番組の同時再送信やアーカイブの公開を政府が認めても、制作者側が疲弊するだけだと訴えた。
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立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏
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ホリプロ代表取締役社長COOの堀義貴氏
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● ネット流通で儲かるビジネスモデルが必要
テレビ局側が番組の二次利用に消極的になる点については、ドワンゴの川上氏も「自分がテレビ局の立場でも、ニコニコ動画に番組を提供する理由がない」と理解を示す。ニコニコ動画では、コンテンツが公開されることで宣伝効果につながる事例も一部で見られるというが、「テレビ局側が儲かる仕組み」を提案できていないと指摘。ちなみに、2007年に大ブレイクしたニコニコ動画でも、「現時点の売上は月間1億円程度。ここまでヒットしても広告収入ではその程度にしかならない。現状の広告マーケットは狭いというのが事実だ」。
「儲かる仕組み」について川上氏は、「インターネット業界ではこれまで答えが出ていない」と語るが、次のようなアイディアを示した。
「デジタルコンテンツで収入を得る場合、現在はコピーに対して課金している。そこにはDRMをかけているが、何らかの方法でデジタルコピーを入手できる。そうすると、昔はCDやゲームを買った人が『ヒーロー』だったが、今の中高生は、どこかからコピーを持ってきた人が『ヒーロー』。一方、お金を払った人は自慢できず、探しても見つからなかったから買ったという『負け組』の扱い。このユーザーの満足度を解決しない限り、デジタルで購入する習慣は根付かない。解決のヒントになると思うのは、サーバー型のオンラインゲーム。サーバーで課金するので、サーバー上のデータをコピーできない。たぶん、デジタルコンテンツもサーバー上の権利に対して課金することが重要なのでは。購入したコンテンツをいろんな場所で使える環境が整えば、お金を払った人が『勝ち組』になれるのではないか。」
関連情報
■URL
JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/
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( 増田 覚 )
2008/03/26 12:33
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