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プライバシーか利便性か~佐々木俊尚氏が「ITのリアル化」解説


ITジャーナリストの佐々木俊尚氏
 ハイパーネットワーク社会研究所は、ネットいじめや闇サイトなどの「情報公害」問題を考えるワークショップを大分県別府市で19日・20日に開催した。

 19日は「今、ネット社会で起きている問題」と題したセッションが開かれ、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏が「ITがリアルに進出していく」と題する講演を行った。Googleマップの「ストリートビュー」やライフログサービスを引き合いに出し、現実世界の情報がネット上に反映されることに伴うプライバシーの問題について語った。


ストリートビューとプライバシーと利便性

Google マップの「ストリートビュー」画像
 ストリートビューは、道路上で撮影した360度のパノラマ写真を地図上で見ることができる機能で、Googleマップで「ストリートビュー」ボタンを押すと、対応地点では道路が青く縁取りされ、見たい地点を指定するとその場所の道路沿いの写真が閲覧できる。この機能について佐々木氏は「リアル空間をインターネットに取り込む試み」とした上で、「自宅の表札が勝手に写されている」などとプライバシーを懸念するユーザーからの猛烈な批判を受けていると説明した。

 「私の知り合いの教授は、ストリートビューのせいで『年賀状に住所が書けなくなった』と言っていた。学生が年賀状の住所をもとにストリートビューで検索することで、自分の家が見られてしまうのが嫌だからだという。」

 その半面、ストリートビューには無視できない利便性もあると佐々木氏は指摘する。「例えば、『日本3大がっかり観光地』のひとつとされる札幌の時計台は、旅行会社のパンフレットでは幻想的に描かれているが、実際には周辺がビルだらけの殺風景であることがストリートビューでわかる。つまり、ストリートビューには、『風景』というあいまいなものを標準化するという意味がある」。


風景の標準化~現実世界とバーチャルの融合

 「風景の標準化」が進んだ例として佐々木氏は、米国の「Earthmine」というサービスを紹介。同サービスは、現実世界の光景を撮影した3Dパノラマ画像をインデックス化した上で、建物に対して名称や特徴、評価などのタグを付与する。これにより、現実世界をパノラマ写真で検索可能となる「AR(Augmented Reality、現実拡張)」が現実化されつつあるとした。

 ARとは、現実世界にコンピュータの情報を融合させるもので、ウェアラブルコンピュータや携帯電話などで現実世界の風景を写すと、その中にバーチャルの画像が重ね合わされるという。「典型的な例は、NHKでも放映されたアニメ『電脳コイル』。アニメでは、眼鏡型のウェアラブルコンピュータ「電脳メガネ」を装着して現実世界を見ることで、バーチャルなペットや道具などを見ることができた」。

 これはあくまでもアニメの話だが、2008年10月には、バーチャルなフィギュアを現実世界に登場させる「電脳フィギュア」が一般発売されている。芸者東京エンターテインメントが開発した電脳フィギュアは、「電脳キューブ」をWebカメラで撮影すると、PCの画面上にバーチャルなフィギュアが登場して動き回る。「電脳スティック」で実際のフィギュアに触ると、画面上でいろいろな反応を見せる。


Earthmineの概要 拡張現実(AR)の典型例という「電脳メガネ」の説明

プライバシーと産業振興のバランスをどう取るか

NTTドコモのライフログサービスの概要
 また佐々木氏は、ARを実際の人間に適用する試みもあるとして、経済産業省が立ち上げた「情報大航海プロジェクト」に採択された、NTTドコモのライフログサービス「マイ・ライフ・アシストサービス」を紹介。同サービスは、携帯電話を介してユーザーの行動情報を集めて分析することで、個人に適した情報を配信する仕組みだ。佐々木氏は、大航海プロジェクトでARを推進した理由をこう分析する。

 「インターネットの世界は、Webから音声、音声から動画、動画からリアルという方向で進んでいる。しかし日本は、WebについてはGoogleやAmazon、音声についてはAppleの牙城を崩せなかった。動画かリアルかという判断のもと、日本はリアルな空間をデジタル化して取り込もうとしたのではないか。」

 しかし、ユーザーのライフログを収集するにはプライバシーの障壁があると佐々木氏は指摘。NTTドコモは、ユーザー情報の収集にあたり、A4用紙で20枚程度相当の利用許諾書に同意してもらう必要があったという。「経産省の関係者によれば、20枚の壁を突破した人は5人しかいないと聞いている」。

 最後に佐々木氏は、「プライバシーと産業振興のバランスをどう取るのかが問題」と指摘。現在の日本は、「プライバシーの保護かサービスの進化のどちらを取るのか、という大変な岐路に立ちつつある」として講演を締めくくった。


関連情報

URL
  ハイパーネットワーク2009ワークショップin別府
  http://www.hyper.or.jp/staticpages/index.php/ws2009

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( 増田 覚 )
2009/02/19 22:52

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