ハイパーネットワーク社会研究所が開催中のワークショップで19日、韓国ITジャーナリストの趙章恩(チョウ・チャンウン)氏が、韓国におけるインターネットの違法・有害情報対策の取り組みを紹介した。
● 誹謗中傷から自殺に至る原因
|
韓国ITジャーナリストの趙章恩(チョウ・チャンウン)氏
|
|
2008年に韓国の放送通信審議委員会へ寄せられたインターネット違法・有害情報の届出数
|
趙氏によれば、2008年に韓国の放送通信審議委員会へ寄せられたインターネット違法・有害情報の届出数は、「名誉毀損」が1万647件で最も多い。以下はオンラインゲームの換金などを含む「博打・射幸」が7719件、アダルトコンテンツ関連が2865件などが続く。
最も届出が多かった「名誉毀損」にはネット上の誹謗中傷も含まれるが、韓国では誹謗中傷が原因とされる自殺も多いと指摘。趙氏は、ネット上の誹謗中傷から自殺に至ってしまう理由のひとつとして、ニュースサイトなどのコメント欄(デッグルと呼ぶ)の存在を挙げる。
「日本では、目立たないケータイサイトに誹謗中傷が掲載されるため、中傷する人とされる人の当事者間の問題で終わることが多い。一方、韓国では、誰でも見られるニュースサイトなどのコメント欄に誹謗中傷が書き込まれるため、第三者が観察することになる。被害者はそれに耐えられずに自殺する傾向がある。」
ニュースサイトなどのコメント欄では、誹謗中傷への反論が続くことで、当事者ではない人まで巻き込まれ、ますます誹謗中傷がヒートアップすることも多いという。こうした状況を新聞が報じることで、問題はさらに大きくなる。「ネットに無関心な人にまで誹謗中傷の噂が広まり、それに耐えられずに自殺するケースがあった」。
“国民総背番号制”を導入している韓国では、ニュースサイトなどのコメント欄に書き込むには、実名と住民登録番号を入力して会員登録を行う必要がある。にもかかわらず、誹謗中傷がなくならないのはなぜか。その理由について趙氏は、「言いたいことを言って何が悪い」という傾向があるためだという。
「早期からパソコン通信が発達していた韓国では、意見を言う場所といえばパソコン通信で、今ではその場所がネットに変わっている。もう一つの理由としては、一般市民が記事を投稿する市民記者制度があるため、自分の発言が特別に思えるような環境があるのではないか。」
● なくならない悪質な書き込みに規制強化の動きも
韓国では、悪質な書き込みがなくならないことから、ポータルサイトへの規制や実名制度を強化する動きも出てきているという。例えば、1日の訪問者が10万人以上のすべてのサイトに対して本人確認を行わせたり、違法コピーファイルの掲載で3回以上の処分を受けたサイトを処分できる“スリーアウト制度”を導入する著作権法改正案、誹謗中傷を非親告罪化する「サイバー侮辱罪」などが検討されているという。
特にサイバー侮辱罪をめぐっては、ネット上の誹謗中傷に悩んでいたとされる韓国の人気女優、崔真実(チェ・ジンシル)さんが2008年10月に自殺したことなどをきっかけに、賛成する人の割合は2008年10月の54.9%から12月には62.3%へ増えたとしている。
その反面、政府の行きすぎた規制も問題になっていると趙氏は指摘。政府の経済政策を批判した人物が逮捕され、1カ月近く身柄を拘束される事例が起こったことから、政府に不都合な内容を書き込むことで処罰される恐れもあるといった声も上がっているという。
最後に趙氏は、「日本で韓国の事例を紹介すると、『韓国は進んでいるね』で終わってしまうが、韓国で起こることは日本でも必ず起こる。今、日本の中高生はケータイでネットをやっているが、大人になればPCでも韓国と同じ問題が起こると思うので、韓国の事例を参考にしてほしい」と呼びかけた。
関連情報
■URL
ワークショップの概要
http://www.hyper.or.jp/staticpages/index.php/ws2009
■関連記事
・ 「情報公害」解決の糸口は? 別府で1泊2日のワークショップ開催(2009/01/22)
( 増田 覚 )
2009/02/20 17:08
- ページの先頭へ-
|