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Children's Charities' Coalition on Internet Safety(CHIS)のJohn Carr氏
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国際電気通信連合(ITU)と総務省が開催したシンポジウム「ITU/MIC Strategic Dialogue on Safer Internet Environment for Children(安心・安全なインターネット環境整備に関する戦略対話プログラム)」で2日、インターネット上で青少年を守り、“ICTのスマートユーザー”としての能力を与えるための多様なアプローチの事例が報告された。
司会を務めたのは、Children's Charities' Coalition on Internet Safety(CHIS)のJohn Carr氏だ。Carr氏はまず、掲示板で出会った50代の男性に強姦されてしまった少女の事例を紹介。両親ともにPCに関する技術に精通しており、自宅のPCにもフィルタリングやブロッキングなどがかけられていたが、隣家でインターネットを利用していたという。「技術は重要だが、それ以上に、子供に危険性を教えることが大切」と強調した。
● マレーシアのサイバー政府は、万人のための“セキュリティ組織”
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Cybersecurity Malaysia取締役・最高責任者のNoor Iskandar Hashim氏
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Cybersecurity Malaysia取締役・最高責任者のNoor Iskandar Hashim氏は、サイバー政府について解説した。マレーシアでは、24歳以下のネットユーザーは全体の40%程度を占め、近年増加傾向にあるが、セキュリティ対策は追いついていないため、課題となっている。サイバー政府は、万人のための“セキュリティ組織”を意味する。
Hashim氏らは、まず課題や目標を明らかにしたという。その際に判明したのは、子供はネット上でトラブルに遭っても、どこに相談すればいいかがわからないということだった。もう1つの目的はネット犯罪を減らすことであり、そのための調査を行っている。また、ネットの安全を促進するため、専用ツールを配布したり、教師向けにわかりやすい教材も用意している。
「安全のためには、子供には自動車の鍵は渡さないべきだとわかっているのに、コンピュータは渡しっぱなしになっていないか。自動車も、ただ鍵を渡すのではなく安全な乗り方を教えるが、それと同様であるべき」とHashim氏は語る。「安全性を促進させるためには、飴と鞭が必要」。自動車で言えば、自動車事故の恐ろしい写真を見せることは鞭であり、ドライブをして楽しいのは飴にあたる。インターネットにも飴と鞭に当たるものが必要だとした。
● IMに「レポートボタン」導入、危害が及ぶ前の積極策を
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Child Exploitation and Online Protection Centre(CEOP)代表のGabrielle Shaw氏
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Child Exploitation and Online Protection Centre(CEOP)代表のGabrielle Shaw氏は、同組織が2006年に発足し、すでに346人の子供たちを虐待から保護し、714人の加害者を摘発していること、また、166の有害なサイトを閉鎖し、7880人の児童カウンセラーを導入していることを紹介した。
情報収集部門では、危害に対して何らかの行動をとるのではなく、危害が加えられる前に積極的な対策を行っている。CEOPでは業界や警察とパートナーシップをとり、マスコミも活用している。例えばMicrosoftのインスタントメッセンジャーに導入した「レポートボタン」だ。メッセンジャーを使用中に問題があった場合、このボタンをクリックするとCEOPを介して問題が解決できるようになっている。
CEOPは、この仕組みを介して虐待やネットいじめ、フィッシング詐欺などの情報を集めている。例えばネットいじめに関する相談があれば、オンラインで相談に乗り、その後適切な部署に連絡をとる。CEOP自体は逮捕などはできないので、警察と連携し、警察当局が被害者の保護と加害者の逮捕を行っているのだ。
● P2Pでやりとりされる子供の写真を同定識別
CEOPは、児童ポルノに関する活動も行っている。かつての児童ポルノは金儲けを目的として掲載されることが多かったのに対して、今の児童ポルノはP2Pでの写真の交換自体を目的としており、常に新しい子供の写真がやりとりされているという。そのほかにも子供を虐待するチャットルームや掲示板を通しての写真のアップロード/ダウンロードも横行し、多くの国をまたがってやりとりが行われている。CEOPは、これを識別することで子供を虐待のリスクから守ることに成功しており、警察とのパートナーシップも良い結果をもたらしているという。
例えば、秘密裏にネットでリサーチし、おとり捜査するのだ。12~13歳の男の子や女の子のふりをしてネットで接触を図ったり、児童ポルノをビジネスにするグループを解体に持ち込んだこともある。子供の写真は膨大なデータから同定識別し、新しい子供か、それとも以前に保護した子供かも履歴から確認しているという。そのような作業を繰り返して、子供が虐待される前に対策に動いているとした。
学校まで出向き、ネットでの安全について説くこともあるという。ポイントは「ネットは安全に使おう、虐待は報告しよう」ということ。「ネットは悪いものだから使わない」のではなく、子供が使うことが前提となっている。また、警察や専門家の研修も行っており、なぜ加害者が犯罪を繰り返すのか理解しようというチームも存在する。さらにソフトを設計する際は、最初から安全性を考慮することを推奨している。
● 有害情報対策、日本のトライアルは世界に生かせるか
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慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏
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慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏は、日本の状況を事例を挙げながら説明し、「子供には、情報の選択、危ない場所の判別などのスキルを身に付けさせることが大事」と指摘する。日本は、携帯電話利用者が7500万人とPC利用者に並ぶほど多いことが特徴。特に若者に携帯電話利用者が多く、16~18歳はPCよりも携帯電話を利用することが多い。一方、学校での活動はPCに偏っており、PCとは異なる実態に合わせたアプローチが必要とされている。海外では、学校の授業の中で携帯電話を利用する例もあり、今後、学校でも携帯電話が取り入れられる可能性は高い。
「携帯電話の利用が進んでいる日本が今苦労していることが、今後、海外に有益な情報として伝えられるかもしれない」と中村氏は語る。日本では2009年4月、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(青少年インターネット環境整備法、いわゆる“青少年ネット規制法”)」が施行された。この法律のポイントは2つ。未成年者が有害な情報にさらされる確率を減らすこと、未成年のネットリテラシー教育や民間の取り組みを重視していることだ。
現在までにさまざまな対策がとられており、SNSを運営する3社が青少年の利用に関しての協業を発表したほか、政府などはICTリテラシー教育に力を入れ、携帯電話会社は子供用に機能を絞った携帯電話を出している。健全サイト認定をする「EMA」「I-ROI」といった機関が生まれたり、「安心ネットづくり促進協議会」も設立されたという動きもある。
ネットリテラシーというと、これまで日本では、ネットの暗い側面に焦点を当てた取り組みを行ってきた。「子供にデジタルテクノロジーを使わせようという活動と有害情報から守ろうという活動は日本では分断されており、それが問題の1つ」と中村氏はまとめた。
● 権利と危険を理解し、よきデジタル市民に
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Save the ChildrenプロジェクトマネージャのDieter Carstensen氏
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Save the ChildrenのプロジェクトマネージャであるDieter Carstensen氏は、「子供たちは、オンラインとオフラインの区別ができなくなってきている」と述べ、「よきデジタル市民となるためには、権利と危険を理解すべき」と指摘する。
青少年はさまざまなオンラインサービスにアクセスする可能性があるが、“ICTスマートユーザー”になることで、いろいろなものを作り出したり、新しい友達と出会ったりできるようになる。さらに子供たちに対するアドバイスとして、「どういう情報ならオンライン上で伝えてもいいか気を付けること。オフラインではオンライン通りの人ではない可能性があるので、会いに行く場合は大人に伝えること。出した情報は見知らぬ人まで伝わってしまうかもしれないので注意すること。問題があったら大人やヘルプサポートなどに相談すること。違法コンテンツはサイトオーナーに伝えること」などを挙げた。
最後に、「子供たち自身が責任を持ってオンライン上の行動をとり、よきデジタル市民になってほしいし、ネットにもっと精通してほしい。若い人たちは良い能力を持っているので、彼らの言うことに耳を傾けたい」とした。
関連情報
■URL
シンポジウム概要(英文)
http://www.itu.int/osg/csd/cybersecurity/gca/cop/meetings/june-tokyo/index.html
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( 高橋暁子 )
2009/06/03 20:34
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