イベントレポート

JANOG32 Meeting

「10年後のインターネットを支える人にぜひ参加してほしい」JANOG川村氏

 日本のネットワークオペレーターのグループであるJANOG(JApan Network Operator's Group)は、7月4日と5日に渡り、大阪市の大阪国際交流センターで「JANOG32 Meeting」を開催した。

 JANOGは、インターネットにおける技術的事項およびそれにまつわるオペレーションに関する事項を議論、検討、紹介することで、日本のインターネット技術者および利用者に貢献することを目的としたグループ。主にネットワークの運用に携わる技術者を中心とした関係者が参加し、メーリングリストで議論などを行うとともに、年2~3回のミーティングを開催している。

 今回のJANOG32 Meetingには約600人が参加し、災害時に無線LANアクセスを開放する方式の共通化の提案や、運用チームの作り方についての情報共有、SPDY/HTTP 2.0がネットワーク運用に与える影響、ロードバランスに関する議論など、さまざまなプログラムが催された。

 これだけの規模の人数が集まるミーティングを定期的に開催しているJANOGとは、どのような団体なのか。JANOG運営委員会の会長を務めるNECビッグローブ株式会社の川村聖一氏と、今回のJANOG32 Meetingの開催ホストとなったさくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕氏に話を伺った。

運用に関わるさまざまな話題を議論

JANOG運営委員会の会長を務めるNECビッグローブ株式会社の川村聖一氏

――JANOGはどのような経緯で誕生したのでしょうか。

川村氏:
 1997年にJANOGはスタートしたので、もう16年になります。最初は100~200人ぐらいのメンバーが集まって、年に2回ぐらいミーティングを開催していたのですが、最初はINTERNET Weekなど他のイベントに併催という形でした。その後参加者も増えていきまして、今回のミーティングですと参加者は約600人、東京で開催すると800人ぐらいの規模になるのですが、メーリングリストの登録数では約6600という大きな団体に成長してきました。

 それを支えていただいているのが、今回のさくらインターネットさんのようなホストで、ミーティングごとに違う方にホストをやっていただいているのですが、ホストとスポンサーさんにはとても感謝しています。おかげさまで、JANOGのミーティングには無料で参加できる形で開催できています。JANOGは法人格のある団体ではないので、そういう意味でもホストがいることで安心してこういうイベントを開催できるという面もありますし。

――今回のミーティングのプログラムを見ると、運用面以外の話題も多いようですが。

川村氏:
 毎回、プログラムも悩みながら作っていますが、なるべく幅を広く持たせたいとは思っています。たとえば今回で言えばHTTP 2.0の話もそうですが、あまり運用とは関係ないように思えるかもしれませんが、実はネットワークを運用する人にとってもHTTP 2.0はかなりのインパクトになるだろうということで、プログラムに入っています。あるいは最初のプログラム、緊急時の無線LAN開放の話も、当然ネットワーク運用にもインパクトのある話ですし、技術だけでは解決できる問題でもないので。本質とはずれないようにしつつも、なるべく広い範囲の方に議論に参加していただきたいと思っています。

――参加されている方も、普段は競合どうしの方がフランクに話されていますね。

田中氏:
 インターネットの場合は市場がまだ大きくないので、これが建設業者だと集まっただけで談合だとか言われるのではないかと思うのですが(笑)。インターネットは基本的にみんなで作っていくというところがあるので、集まらないとなかなか次の世界が話せないということはありますよね。みんなで作って、使いやすくなってから勝負しようと。特にニューテクノロジーの領域では。あとはこうして発表できる場があることで、その人のモチベーションが上がるということもありますし。

川村氏:
 そういう場としても、JANOGを使ってもらえるといいなとは思っています。やはり会社の中だけで閉じていると、アイディアの財源は限られてしまうんですよね。他社の経験を聞いておくことも、こういう解決方法があるんだというのがヒントにもなりますし、本当にいいことだと思います。

――今回で32回目のミーティングですが、プログラムの内容は変化してきているのでしょうか。

川村氏:
 ネットワーク運用に特化した話以外の部分も増えているとは思います。数えたことはないので正確なところはわかりませんが。プログラムについては公募していて、毎回だいたい実施するプログラムの倍ぐらいの応募があります。残念ながら全部はできないので、今回これはやりたいなといった話をスタッフとしながら決めています。

 今回で言えば「運用チームの作り方」がそうですね。2日目の「いろんな角度からインターネットを眺めてみる」は、ISPやモバイル、サービス提供企業、それぞれの角度から見ると意外と違うインターネットの形が見えているのではないかということで、かなり突っ込んだ話になると思います。こうした話も言いあえる雰囲気というのが、JANOGの面白いところだと思います。

個人でも参加でき、対等に話し合える場を提供

さくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕氏

――企業側から見た場合には、JANOGはどういう位置付けになりますか。

田中氏:
 インターネット業界とよく言いますけど、実際にはすごく範囲は広くて、作る人もいれば、使う人もいれば、運用する人もいます。そうした人たちが、インフラについて話し合うことで集まれる場は意外と少ないですよね。サービス提供企業の方々が「インフラ勉強会」を開くといったことはありますけど、我々のような企業からすると物足りないといったように。そういう意味では、ベンダーの方や、サービスを提供する側、利用する側が一緒になってインフラの話ができる大事な場ですね。

 ミーティングも、東京以外での開催も多いので、今回は大阪ですが、地方とかですとオープンマインドになってさらにいろいろな話も聞けたり。そういうところもいいですね。

――初めて参加される方は、どのような方が多いのでしょうか。

川村氏:
 毎回、一番最初に「ニューカマーオリエンテーション」という初参加の方向けのプログラムを行なっていますが、だいたいいつも80~100人ぐらいでしょうか。来られたきっかけは、上司の方に行ってこいと言われたりであるとか、先輩からオススメされたりとか、やはり人に勧められることが多いみたいですね。そうしてここで知り合いができて、次のミーティングもまた来ようという感じになっていく方が多いですかね。

田中氏:
 ミーティングに来る人は増えているんですか?

川村氏:
 少しずつは増えてますね。ただ、増やしたいという思いもないというか、数にはこだわっていないのですが、あまり大きくなりすぎるとホスト企業もたいへんですし、会場の問題もありますので。ただ、数についてはこだわりはないので、必要に応じた規模になっていればと。巨大な会場を借りなければならなくなって、高い入場料を取るようになって、大手企業の方しか来れなくなったりするのは不本意ですが。

田中氏:
 小さな会社や個人的に来れるというのもいいですよね。

川村氏:
 会社は小さくてもすごい技術を持った方とか、そういう出会いがあるのが一番いいですよね。私自身も、JANOGで出会った人たちにはいろんな場面で助けられています。そういう、お互いに助けあってネットワークを運用していくというのがインターネットのいいところですし。IPv6などでもありますが、JANOGをきっかけに始まったプロジェクトも多いですね。こういう場で現場の意見を交わして、そうした議論がオフィシャルの場にも反映されるようになることはいいことだと思いますね。

――こうした雰囲気はあまり変えていきたくないと。

川村氏:
 変えたくないと思ったことはないですね。場の雰囲気がこうなるのは、こうしたいと思っているわけではなく、参加するみなさんの思いなのだろうなと。インターネットは変化しているので、変化は嫌だとは思いません。ただ、JANOGのポリシーにもある、インターネットとそれを運用する人、使う人たちの役に立つということ、そこは変えたくないですが。そのために必要なことはどんどんやっていきたいです。

田中氏:
 川村さんがおっしゃるように、変わっていいところと悪いところがあると思いますが、会の雰囲気があまり厳粛になるのはよくないと思うので、自由に対等に話ができるという部分はあまり変えないでほしいなとは思います。

10年後のインフラを支える人たちの参加を

――これから参加したいという方へのメッセージを。

田中氏:
 メーリングリストには気軽に参加してもらいたいですね。

川村氏:
 お互い言いたいことが言い合える業界というのはすごく健全だなと思いますし、なにかハイレベルで意識の高い人たちだけが言い合ってるなというのを眺めるだけの場ではないと思うんですよね。そういう意味では、この業界に入って1~2年という人でも、気軽に質問できたりとか、最近こういう失敗してしまったとか、そういう相談ができる場になるといいなと思っています。

――自分のような初心者が参加してはいけないのでは、と思われたくはないと。

川村氏:
 放っておくと、そう思われるようになってしまうのでしょうね。

田中氏:
 怖いというか、投稿すると叩かれるのではとか、レベルの高い話をしないといけないのではとか。

川村氏:
 一時期そうなってたかなと感じる部分もあって、いまでもあるかもしれませんが、自分がそういうのは嫌なので、最近ではあまり真面目な話をメーリングリストに投稿したことがないのですが(笑)。僕らもボランティアでやっているので、どうせやるなら楽しくやれればいいなと思っています。

 ここで出会った人たちが、10年後の日本のインフラを支えていくような人たちになると思いますし。ミーティングにもぜひ参加していただければとおもいます。今回は、ミーティング中のプログラムの録画も、期間限定ですが公開していますので、ぜひそちらも見ていただけたらと思います。

――ありがとうございました。

(三柳 英樹)