Internet Watch logo
記事検索
バックナンバー
第17回 突如出現したフィッシング詐欺メールの謎を追う
[2004/12/7]
第16回 Winny開発者の真意が見えない「世紀の裁判」
[2004/9/10]
第15回 恐るべきロシアマフィアvs日本の幼稚なネット犯罪者
~急増するフィッシング詐欺の実態
[2004/8/18]
第14回 捜査書類「サルベージ」に執念を燃やす京都府警
~Winny事件の捜査手法とAntinnyの後始末
[2004/7/7]
第13回 「ぼったくり」「氏ね」はどこまでが表現の自由? あるネット掲示板の中傷事件を追う
[2004/6/9]
第12回 Winnyのもうひとつの脅威 個人情報暴露の実態
[2004/5/27]
第11回 伝説のネット詐欺師「ハギオギ」の真相
[2004/4/15]
第10回 ヤフオク「海賊版せん滅作戦」がついに始動!
[2004/4/1]
第9回 主犯の「完黙」で難航? Yahoo! BB漏洩事件第1ルートの捜査
[2004/3/17]
第8回 裏名簿業者が証言! Yahoo! BB事件にみる「流出名簿」の恐るべき実態
[2004/3/3]
第7回 実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(下)
[2004/2/19]
第6回 実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(中)
[2004/2/12]
第5回:実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(上)
[2004/2/4]
第4回:「住基ネット侵入実験」をめぐる総務省と長野県の知られざる暗闘
[2004/1/21]
第3回:京都府警がWinnyに叩きつけた挑戦状―「われわれはすべてを解き明かした」
[2004/1/7]
第2回:「セキュリティ架空請求」に見るインターネットのけものみち
[2003/12/9]
第1回:廃棄パソコンへの知識不足が招いた事件を追う
[2003/11/25]
インターネット事件簿ロゴ
第7回 実録! ネットオークションで違法出品物を売る人々(下)

TEXT:佐々木 俊尚
 インターネットが社会の基盤インフラとなりつつある一方、アナログ社会にはなかった新たな危険や落とし穴も増え続けている。この連載では、IT化が進む中で起こるさまざまな事件を、元全国紙記者が独自の取材によりお伝えします。(編集部)

オークションの仕組みを巧妙にあざむく手口とは……

 あらゆるオークションテクニックを駆使し、運営会社や警察当局の目をくぐり抜ける――オークションの違法CD-R出品者には、そんなイメージがついてまわる。だが何人かの違法出品者たちに取材してみると、その多くが「たいしたノウハウは使っていない。ただひたすら大量に出品し、顧客が素早く落札できるように体制を整えるだけ」と答えた。組織化されているケースも決して少なくはないが、多くはこうした“個人事業主”である。ごく普通の人たちが、簡単にカネを儲けられる手段として、安易に海賊版販売に手を染めている。

 もちろん中には、オークションの仕組みを巧妙にあざむくために小細工している人物もいる。たとえば東京都在住の男性会社員(27歳)は、「オークションでの評価が少ないと客がつきにくい。しかし長期間にわたって同じIDを使い、海賊版を販売し続けて評価を稼ぐというのはリスクが大きすぎる」と話す。そこで彼は、こんな手口を使った。

 まず最初に、架空の商品を出品する。数量を数十~100個と大きくするのがポイント。そして希望落札価格を1円に設定し、出品説明に「評価を稼ぎたいので、協力してください! かわりに高価な商品を抽選でプレゼントします」などと、掲載するのだという。落札者は1円でこのオークションを落札し、「非常に良い」という評価をつける。もちろん、金銭のやりとりは発生させない。これで、あっという間に100の「非常に良い」評価を得ることができるというわけだ。単純といえば単純、しかし運営会社や他の一般オークションユーザーを欺いた行為であるのは間違いないだろう。

 さらに男性会社員は当初は実際に賞品を用意し、落札してくれた人の中から1人選んで賞品を発送していたというが、途中からは別IDを用意し、そのIDが当選したことにして、協力者たちへのプレゼントは止めてしまったという。運営会社を欺いているだけでなく、プレゼントにつられてやってきた協力者たちをも二重に欺いていることになる。だが会社員は、「そもそも、賞品を期待して根拠のない評価を与えるような行為に荷担する方が間違っている。わたしのやっていることは犯罪かもしれませんが、他の人だって似たり寄ったりじゃないでしょうか」と突き放すのである。



なぜ、違法出品者がこれほど野放しになっているのか

1月15日の記者会見で説明を行なうヤフー法務部長の別所直哉氏

 そもそもこうした違法出品者たちは、なぜこれほどまでに野放しになっているのだろうか。インターネットオークション最大手のヤフーは1月15日、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)との間で海賊版販売を防止していくことで合意し、記者会見を行なった。

 この際、ヤフー法務部長の別所直哉氏は「これまでもできうる限り、さまざまな対策をとってきた」とコメントしている。Yahoo!オークションは1999年9月にスタートし、早くも翌2000年8月にヤフーは違法出品物を見つけるためのパトロールチームを発足させている。この人員は現在も強化され続けており、違法出品物の発見そのものにそれほどの時間がかかっているわけではない。

 ハードルは、ヤフー側が対策を怠っているからではない。むしろ、「どう対策を採るべきか」というポリシーを考えあぐねているところに問題があるようにも見える。あるオークション運営会社の社員は、匿名を条件にこう語った。「違法CD-Rを見つけても、簡単に削除するわけにはいかない。相手が本当に違法物を出品しているのかどうかという法的根拠がないまま削除すれば、足下をすくわれる可能性だってあるんです」。

 足下をすくわれる、とは何のことだろうか。その意味を社員に問うと、彼は「たとえば、暴力団関係者などから『なぜ法的に問題がない出品物を削除したのか』と指弾される可能性だってある。暴力団ではなくても、そうした点を突かれ、法的手段に訴えられることは十分に考えられるわけです。運営側としては、できる限りそうしたリスクは避けたい」と説明した。

 オークション会社社員が続ける。

 「ID削除にまでなかなか踏み切れないのもそのためです。有料会員制にしている以上、オークションの利用者はあくまで顧客。顧客のIDを停止するというのは、相当な覚悟が必要だと考えています。」

 実際、前出の会見で別所氏もそうした苦渋を、言外ににじませるような発言を行なってる。別所氏はこのとき、次のように話した。

 「われわれはパトロールチームで発見できるものを見つければ削除し、あわせてIDの停止措置もとっている。だがそれは海賊版であることがわかるもの、つまり海賊版であることを自認しているものに限られている。媒体がCD-Rであると明記しているものは、削除できるケースもあるが……。」



顧客の保護と著作権違反物の削除を両立させることの難しさとは

 顧客の保護と、著作権違反物の削除――その2つは決して対立する概念ではないと思うが、しかし両立させるのは意外と難しい。実際、海賊版販売防止に関するヤフーの対応については、憤りを感じている著作権ホルダーも少なくない。

 ある企業の担当者は、自社の著作物である写真が勝手にYahoo!オークションで出品物の商品説明写真として無断転載されているのを見つけ、同社に連絡を取った。ヤフー法務部から受け取った返信には、以下のように書いてあった。

 「弊社と致しましては、ユーザー様との契約がございますので合理的な理由も無く出品物の削除措置を行なうことはできません。今後出品物の削除等の要請をいただく場合は、措置検討にあたりその材料とさせていただきますので、削除要請の法的根拠についてご説明いただきますようお願い申し上げます。」

 そして、「申告者の適否を判断するために必要な下記の書面(該当するものは全て)」というかたちで、次のような書類を提出するように求められたのである。

 ・住民票か会社の登記簿謄本
 ・侵害されている権利の正当な保有者であることを証明する書面
 ・侵害行為が行なわれていると判断している鑑定書2通(本人、代理人以外の第三者である専門家によるものであること)

 企業担当者は「これをすべての相手に要求しているのでしょうか。ヤフーが要求している書面は、個人でそろえるのはまず無理では。これでは権利侵害があっても、真剣に対応する気がないと言っているのと同じことだと思うんです」と憤然とする。

 ソフトウェア会社を中心とする大手の著作権ホルダーの間でも、ヤフーに対してどのような対応をとるか、という問題はここ最近の大きな懸案となっていたという。ある関係者が内幕を話す。

 「海賊版の放置に腹を立て、オークションを運営しているヤフーを訴える寸前にまでいった大手企業もあります。だがヤフーに責任を認めさせるという判決が出る可能性はあっても、ヤフーに海賊版の監視義務を負わせるという判決になる可能性は期待できない。それで結果的に、民事提訴は取りやめたようです。」

 この関係者によれば、ソフト業界の中ではヤフーに何らかの対応義務を負わせ、責任をきちんととらせるべきだ、と主張する企業も少なからずあった。「海賊版をオークションで売らせて、結果的にそれで利益を上げている。そうした責任をとらないのは無責任はなはだしい」という強硬な意見も少なくなかったとされる。だがそうした意見に対しては、抜本的な解決にはならないという批判も多く、最終的には「著作権ホルダーが歩み寄れる部分は歩み寄り、ヤフーに協力してもらう」という方向に大勢の意見は進んでいったという。



ヤフーとACCSの提携により、何が変わるのか

ACCSの葛山博志氏

 その結実が、先のACCSとヤフーの提携発表ということになったようだ。ACCSは著作権ホルダーであるソフト業界の代弁者の役割を務めているからだ。この提携で、ヤフーは、ACCSとの間でソフトウェアの違法著作物を削除する際のガイドラインを定め、ACCS側が海賊版を発見した際に迅速にヤフー側が対応し、出品物削除などの対応をとることなどが決められた。

 会見で別所氏は、「ACCSと合意できたのは、著作権ホルダーが持っているいろいろな情報をもとに一緒に判断し、ベースを作っていこうということだ。出品画面を見て判断するといったシンプルなケースだけではなく、実際に海賊版を落札して入手し、そうした活動によって蓄積された知見や特定の出品形態などに何らかの蓋然性があれば、それを両社で協議して判断基準を策定していこうというものだ」と述べている。

 ACCS戦略法務室長の葛山博志氏は筆者の取材に対し、「ヤフー側でできること、ACCSの側でできることをきちんと切り分ける必要がある。海賊版の発見はヤフーの側もACCSの側も行なえるが、出品物の削除はヤフーにしかできない。そうしたオペレーションの分担をきちんと行ない、それぞれが最善を尽くそうというのが今回の提携の主な目的だ」と語っている。

 この海賊版排除のスキームは、遅くとも2月末までにはスタートするという。果たして、海賊版がYahoo!オークション上から消え去ることになるのだろうか。推移を見守りたい。

(2004/2/19)

関連記事
ヤフーとACCS、Yahoo!オークションの著作権侵害出品の削除で提携(2004/1/15)
ヤフオク詐欺容疑の男性、海賊版ソフトの販売で追送検(2004/1/21)
ACCS、Yahoo!オークションのソフト出品者に“質問”を送る活動(2003/8/4)


佐々木 俊尚
 元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら

- ページの先頭へ-

INTERNET Watch ホームページ
Copyright (c) 2004 impress corporation All rights reserved.