「BBフォン」を始めとして、IP(Internet Protocol)を利用した電話サービスが注目を集めている。パブリックなインターネット網を介してPCから通話できる、所謂“インターネット電話”は従来から提供されているが、現在では、独自のIPネットワークを利用した電話サービスも含め「IP電話」と呼ばれる傾向にある。今回の特集では、そんな「IP電話」の現状と課題を探ってみた。
「IPネットワーク技術に関する研究会」の報告書 |
IP電話に対する行政の動きも活発になっている。総務省は、2001年6月より「IPネットワーク技術に関する研究会」としてIP電話に関する技術的な課題を検討しており、2001年12月には報告書(案)として公表している。報告書では、サービス選定の基準について触れており、特に通話品質については「ベストエフォートのサービスから固定電話と同等の品質を提供するサービスまで、多様な品質(マルチグレード)でのサービス提供が想定される」として、各業者が通話品質を明らかにすることは利用者がIP電話サービスを選ぶ上で重要な要素になるとしている。ここでは、数値で表現するのではなく、「携帯電話並み」「固定電話並み」「固定電話以上」などといった、従来の電話サービスとの比較が効果的だとしている。
また、今年9月には、IP電話に番号が割り当てられる予定だ。番号は“050-XXXX-YYYY”形式の11桁で、XXXXの部分は通信事業者の種別(第1種、第2種)を問わず事業者ごとに割り当てるとしている。これにより、公衆電話網からIP電話への発信が可能になる。
IP電話に番号が割り当てられると、番号とIPアドレスを結びつける仕組みが必要となってくる。現在、有力な技術としては、ITUとIETFが共同で開発・導入を検討している「ENUM(Telephone Number Mapping)」がある。ENUMの特徴は、従来のDNSの機能を用いて、電話番号を基に電話やメールなどさまざまなアプリケーションに接続させることだ。また、多くのブロードバンドサービスは接続するたびにIPアドレスが変わるため、ダイナミックDNSのような仕組みなども、今後必要となってくるだろう。
IP電話におけるプロトコルとしては、「H.323」と「SIP(Session InitiationProtcol)」が多く使われている。この2つは、策定された団体が違うため、性質も大きく異なり、H.323は電気通信全般の標準化を定める団体「ITU(国際電気通信連合)」によって策定され、一方のSIPはインターネットにおけるプロトコルの標準化団体「IETF」によって策定されたため、インターネットにおけるアプリケーションと親和性の高い仕様となっている。
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さらに、輻輳に対しても弱い。公衆電話網では、地震や水害などが発生した地域への発信制限が緊急的に実施されることがあるが、IP電話サービスにおいては、これらの仕組みが完成していないほか、現状のIPネットワークそのものが輻輳に対して弱いという点がある。実際に、ソフトバンクが展開するIP電話サービス「BBフォン」では、FIFAワールドカップチケットの電話受付の時間帯は、公衆電話網に通話を迂回させる措置を取った(http://www.bbtec.net/information.php?mode=Show&code=44)。そのためIP電話においては、QoSや発信制限のためのゲートキーパーなどを導入する必要があるだろう。
また、IP電話と携帯電話やPHS間での通話においても課題が残っている。1つは複数の電話会社をまたいで通話する際に発生する「アクセス・チャージ(通信業者間の接続料金)」の問題だ。例えば、KDDIの固定電話からドコモの携帯電話へ発信する場合、KDDIがドコモへ支払う通信料がアクセス・ジャージにあたる。NTT地域会社が保有する市内網のアクセスチャージ料金は厳密に決まっているが、携帯電話については各通信会社間で個別に料金が決められているため公表されていない。実際に、固定電話(NTT地域会社)からの発信は、接続先の携帯電話によって1分/30円~1分/40円となり、違いが見られるなど、現状で、IP電話業者は携帯電話会社との接続になかなか踏み切れないようだ。また、BBフォンでは、1分/25円(昼間)となり固定電話との通話と比較した場合、大幅な割引は期待できない。
もう1つの課題は音声品質だ。圧縮された音声のやり取りとなるため、携帯電話と同様にIP電話でも音声の劣化が発生する。しかし、現在では広帯域網の普及により無圧縮の音声を無理なく通せる環境が整ってきている。
ほかの問題点としては、IPアドレスによる認識のため電話番号が改ざんされる恐れがあったり、メールと同様に迷惑電話などが増加する恐れなどセキュリティーに関連する問題もある。
ヤマハのNetvolante「RTA55i」 | ソフトフロントが試作したIP電話機。イーサーネットケーブルを電話機に直接さして利用する |
現在は、ADSLやFTTHなど有線接続がメインだが、IP電話は固定網にとどまらない。無線LANを用いたIP電話サービスを展開するのは株式会社鷹山(ようざん)だ。鷹山はまず、2001年12月に日本テレコムから1都3県カバーするポケットベルネットワークを、さらに2002年4月には東京通信ネットワークからPHS事業「東京電話アステル」を買収した。
その上で鷹山では、繁華街を中心にPHSの基地局に無線LANアクセスポイントを設置して、PHSを用いた32kbpsの接続サービス「Magic Mobile」と、最大2Mbpsの無線LAN接続サービス「Bit Stand」を提供する。着信にはポケットベルが用いられ、PHSまたは無線LANで電波状況が良い方を自動的に選択して接続する仕組みだ。端末がどのような形になるかまだ分からないが、他のIP電話と同様に、加入者同士は無料になるとしている。サービスは東京23区を中心に今秋から開始。2003年秋以降は全国主要都市に拡大していくとしている。
また、ブロードバンドルーターにIP電話アダプターを内蔵したのはヤマハの「NetVolante」だ。先日発表された新製品「RTA55i」と「RT56v」をはじめとして、それ以前の「RTA54i」「RT60w」「RTW65b」「RTW65i」などもファームウェアのバージョンアップによりIP電話アダプターの機能が利用できる。これらの製品は、ブロードバンドルーターと共にダイアルアップルーターの機能も兼ね備えているため、電話機を接続するポートも用意されている。IP電話アダプター機能では、このポートで電話機とインターネットを接続して、NetVolante同士で通話できるようになる。さらにヤマハでは、ルーターに割り当てられるIPアドレスが動的でもIP電話が利用できるように、各NetVolanteに独自の番号を割り当てる「ネットボランチDNSサービス」を提供している。音声プロトコルには、SIPを採用しているのでWindows Messengerとの通話も可能だ。
IPv6によるIP電話製品を開発しているのは株式会社ソフトフロントだ。ソフトフロントでは、SIPを基に開発したIP電話エンジン「NOSIK」を採用したソフトウェア「KISARA Office」や、PCに接続するUSB電話機を販売している。さらに、「IPv6普及・高度化推進協議会」で進められているIPv6実証実験では、IPv6に対応したIP電話機を提供。相互接続性や、分散型電子電話帳の開発を進めている。
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○BBフォン
Yahoo!BBのコンボモデム |
○WAKWAKコール・ゴーゴー
http://www.ntt-me.co.jp/call55/
NTT-MEが運営するISP「WAKWAK」のオプションサービス。フレッツ・ADSL接続サービスに対応しており、加入者同士の通話はそれぞれ割り当てられた「内線番号」を用いる。また、グループコールサービス「ゴーゴー代表サービス」(月額500円)や、ダイヤルインサービス「ゴーゴーダイヤルインサービス」(月額300円)などのオプションサービスも用意されている。基本料金は、個人やSOHO向けの「ファミリープラン」(内線番号1つ)と、法人向けの「ビジネスプラン」(内線番号5つ)が用意されている。 また、加入者以外との通話は、相手先の都市(規模などにより3つに分類)によって異なってくる。さらに、佐野ケーブルテレビと共同でCATVインターネットを用いたIP電話サービスの実験も進めている。
初期費用:WAKWAK加入の有無などにより異なる
基本料金:月額2,200円(ファミリープラン)、月額5,000円(ビジネスプラン)
加入者以外との通話:地域により90秒/10円、90秒/15円、90秒/20円
携帯電話との通話:不可
PHSとの通話:不可
国際通話:1分/16円(米国)など、240か国が対象
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○Mライン
http://www.mediakk.com/web/mline/
「Mライン」は株式会社メディアが提供する法人向けIP電話サービス。最大100Mbpsのベストエフォート型または1~100Mbpsの帯域保証型のインターネット接続サービスと組み合わせて提供される。同社は、バックボーンのみにIPを用いたIP電話サービス「えむ電」にて市内通話を2分/6円で提供しているが、Mラインの場合は従来の固定電話の50%程度だ。初期費用や基本料金は利用形態によって大きく異なる。
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○gate call
http://www.usen.com/gatecall/
USENが提供するFTTHサービス「BROAD-GATE」のオプション。Mラインの再販という形で提供される。Gate call加入者のほか、Mラインの加入者との通話も無料だ。また、サービスに必要な「ゲートターミナル」は、買い取り(15,000円)またはレンタル(月額380円)が選べる。また、通常の固定電話や携帯電話、PHSからの着信も可能だ。
初期費用:18,000円(IP電話アダプター買い取りの場合)+レンタルの場合3,000円
基本料金:月額500円(個人ユーザー)、月額700円(法人ユーザー)、月額380円(IP電話アダプターをレンタルする場合)
加入者以外との通話:市内2分/4円、市外90秒/4円~23秒/4円(100km超)
携帯電話との通話:1分/30円(ドコモへの発信・平日昼間同一営業地域内)、1分/40円(そのほか・平日昼間同一営業地域内)
PHSとの通話:1通話10円+1分/10円
国際通話:3分/41円(米国)など
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しかし、ブロードバンドの普及と料金の安さによりIP電話サービスの利用者は増え続けている。さらに、IP電話に対して消極的だと言われていたNTTグループだが、2002年4月に発表した経営3か年計画の中では、現行の固定電話網投資を停止すると共に、固定電話の通話トラフィックをIP通信へ移行させる事が必至だと発表した。2002年9月には、電話番号も割り当てられ今まで以上に利便性が向上する。いよいよIP電話の普及が加速的に進みそうだ。
(2002/6/24)
[Reported by adachi@impress.co.jp]