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同人誌の“性表現”めぐるシンポ開催、自主規制策の対外アピール積極化へ


 同人誌即売会の主催者らで構成される「同人誌と表現を考える会」は都内で19日、「同人誌と表現を考えるシンポジウム」を開催した。マンガ評論家や印刷業者、表現をめぐる裁判の弁護人、専門書店の関係者など13名がパネリストとして参加。インターネットの普及によって変貌しつつある同人誌の現状と、その性表現のあり方について議論した。


警察庁の諮問機関の報告書に「同人誌」の文字

シンポジウムの開催概要を説明するガタケット事務局の坂田文彦氏
 シンポジウムを開催する契機の1つに、携帯電話やインターネットがもたらす弊害について検討していた警察庁の諮問機関「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」が、2006年12月に発表した最終報告書内で同人誌に言及したことがある。

 報告書では18歳未満の児童を性行為対象としたアニメやゲーム、漫画全般に関する表現の自主規制を促す一方、一部のオンライン通販サイトが年齢認証を設けずに成人向け漫画を販売していることなどを新たな問題として掲げている。

 同人誌についても直接的な言及がなされており、同人誌即売会の主催者に対し、18歳未満の者へ、子供を性行為の対象とする同人誌の販売をしないための対策強化を求めている。

 同人誌と表現を考える会では「公的機関の報告書に同人誌が取り上げられるのはきわめて異例」としており、この背景に同人誌を専門的に取り扱う書店の台頭、インターネット通販によって同人誌の取引が容易になっていることを改めて指摘している。

 その上で「これまで同人誌即売会へ足を運ばなければ目に触れることのなかった同人誌が一般社会に浸透しつつあることを踏まえ、現状へどのように対処すべきか検討する必要がある」とし、シンポジウム開催に至ったという。なお、今回は同人誌が抱える課題の1つ「二次創作」については議論の対象としていない。


印刷業者、即売会主催者、専門書店らが自主規制を実施済み

開演直後の様子。1階席はほぼ満席となった
 シンポジウムの第1部は「今、どうなっているのか? 〜現場からの発言〜」。同人誌の印刷業者、即売会主催者、書店の関係者が登壇し、同人誌流通の現場を紹介した。

 日本同人誌印刷業組合の武川優氏は、同人誌制作サークルから注文を請けて印刷する前段階で、露骨なわいせつ表現に関する自主規制を行なっていると説明。「同人誌は印刷所を通過しなければ日の目を見ることができない。誤解を恐れずに言えば、印刷所の自主規制を通過しなければ発行されない。いわば関所だ。それだけに重い立場とも言える」と語るように、印刷業者の介在が自主規制機関として一定の効果を与えていると解説する。また、組合に属していない新規業者に対しても、個別に自主規制の尊重を訴えているという。

 具体的に運用中の自主規制ルールについて武川氏は、同人誌即売会では最大手である「コミックマーケット」(以下、コミケ)の自主ルールが1つの判断基準になっていると語った。また、判断基準にそぐわない案件でも印刷注文そのものを断わることは基本的にしない。武川氏は「コミケのルールを知らない印刷業者に持ち込まれては(自主規制の)意味がない。具体的な修正提案を行なうといった対応もしている」と付け加えている。

 同人誌販売書店を展開する「虎の穴」から参加した鮎澤慎二郎氏、「メロンブックス」の川島国喜氏は小売店の立場から自主規制の現状を解説。両社とも同人誌の販売委託をサークルから請け負う段階で、独自ガイドラインにしたがって販売可能であるかどうかを判断しているという。

 メロンブックスの川島氏は、「性器に“ぼかし”や“消し”があればOK」との具体的な判断例を明かすと同時に、「印刷業者による対応がしっかりしており、書店に届く段階ではほぼ(表現が)整っている」と印刷業者への信頼感を示した。その上で「もちろん、この状況に甘んじるのではなく、社会の動きを見てガイドラインを定めていく必要がある」と補足している。

 即売会主催者側であるコミックマーケット準備会/COMIC1準備会の市川孝一氏は、コミケへ参加を申し込んだすべてのユーザーに「コミケットアピール」と呼ばれる手引き書を配布している現状を説明。印刷業組合による自主規制ルールの源泉ともなっている文章で、作品制作者に向けて特に「性器の露骨な描写」に注意する旨を訴えている。さらに18歳未満の参加者に、成年マークや18禁などを明示した作品を頒布しないよう、現段階でも求めている。

 コミティア実行委員会の中村公彦氏は「私どもの即売会はオリジナル作品のみを頒布対象としていることもあってアダルト作品がもともと少ない。しかし、わずかずつではあるがサークル側へ性表現の修正を求める機会が増えているように感じる。個人的には、印刷所でのチェックが甘くなっているように思う」と所感を語った。


コミケの自主規制ルールと、その運用実態

 コミケ準備会の市川氏からは、コミケ開催当日に行なっている自主規制対策の実像が説明された。「まず、参加全サークルから見本誌をもらう。その上で600〜700人程度のスタッフで誌面上の表現をチェックしている」とし、その作業の中から当日の頒布停止処置につながるケースも実際にあると市川氏は語る。

 さらに具体的には、性器の特定部分を黒ベタ・白ヌキなどなんらかの手段で修正しているかを判断基準にしていることが示された。加えて「作品の形態」も判定材料になっているという。具体的には、表紙にマークを入れるなどして成人指定作品か明確にわかる「ゾーニング」された作品であるかどうかが重要となる。

 販売場所も表現規制を左右する要因の1つだ。「商業誌では、コンビニエンスストアで売る書籍か書店で販売する書籍かによって、同じ出版社であっても自主規制ルールが異なっている」(市川氏)現状もある。そのため、1日ないしごく短期間の開催となる即売会の性質もまた考慮する必要があるという。市川氏によるとコミケでは修正の度合い、作品の形態、販売場所のこれら3要素を複合的に勘案し、判定作業を行なっている。


同人誌の性器表現、商業誌よりも自主規制が厳しいくらい

 印刷業組合で修正するか迷う印刷依頼があった場合にコミケ準備会へ判断を仰ぐといった、業者間の連携による自主規制の取り組みも行なわれている。コミケ開催日当日の判断で頒布停止措置となった作品について、イベント終了後に同人誌販売店へ流れてそのまま販売されることのないよう、搬入を止めた事例もあるという。

 これらの努力もあり、性器表現の具体的な修正度合いについても同人誌は一定のレベルを確保できているというのがパネリストの一致した見解だ。一部の商業誌が半ば確信犯的に修正を緩めている現状があるとされる一方、メロンブックスの川島氏は「商業誌よりも同人誌の方が(自主規制が)厳しいくらい」と指摘する。各サークルも表現の程度で迷うようであれば、印刷業者や主催者、同人誌販売店へ積極的に相談すべきとアドバイスした。


女性向け作品の自主規制と奥付が課題?

 今後の課題となりそうなのが、女性向け作品を頒布するサークルの表現意識だ。女性向け即売会を主催している赤ブーブー通信社の武田圭史氏は「近年、表紙に『18禁』や『成人指定』と表示していない成年向け作品が多くなっている」と感じているという。

 コミケ準備会の市川氏も「2006年末のコミケで、女性向けサークルへの修正依頼件数が男性向けサークルのそれを超えてしまった」と明かす。具体的件数は示さなかったものの、その数は「2ケタ」に到達したという。当該サークルと準備会の間で修正の程度をめぐってトラブルになるケースもあるとし、苦慮する実態を伺わせた。

 赤ブーブー通信社の武田氏は「女性向け同人誌の作者はわいせつ表現にまつわる諸問題を、(男性向け作品特有の)対岸の火事と思っているフシがある」との心配から、直近の即売会では成人指定表示の必要性を訴えるため、啓蒙文書の配布も始めた。

 パネリストからは「奥付」の重要性を指摘する声も上がった。奥付とは主に巻末にある発行元や連絡先、発行日などを明示した部分のことで、同人誌においてはこのページの有無自体が「責任所在を明確化する意志があるかどうか」の判断基準として機能しているという。コミケ準備会でも、奥付の有無を自主規制判断に利用している。

 近年は個人情報保護意識の高まりを受けてか、奥付にサークルの住所を入れるケースが減ってきているという。コミケ準備会の市川氏は「最低でもサークル名、メールアドレスなどの連絡先、発行日を入れてもらえれば」とコメント。また印刷業組合の武川氏が「印刷業者名を奥付に入れてくれることが減った」とボヤいた際には会場から爆笑が起こったが、印刷業者自体が一定の自主規制機関として機能しているだけに残念な状況ともいえそうだ。


現状の自主規制に評価の声、対外アピール不足が課題

マンガ評論家の永山薫氏(左)と、同人誌生活文化総合研究所主宰でライターの三崎尚人氏(右)
 シンポジウムの第2部は「どうすべきなのか〜有識者討論〜」 。第1部での現場の声を受けてパネリストが意見を語ったが、その冒頭では第1部で明らかになった現状の自主規制ルールに一定の評価を寄せる発言が目立った。また、自主規制の取り組みを初めて知ったというパネリストも複数いた。

 マンガ評論家の永山薫氏は「自主規制を何重にも行なっていると聞き、正直よくやっているという印象。むしろ、この取り組みをアピールしていなかったことが問題だ」とコメント。「同人誌やコミケが決して野放しではないことを理解してもらえれば、表現規制しようとする層と同人誌界の対決構図も薄まっていくのでは」と続けた。

 マンガ評論家で武蔵野美術大学芸術文化学科講師の伊藤剛氏も、現状の自主規制を評価した。また、同人誌制作側に良識が必要なのはもちろんだが、いたずらに規制推進側を誹謗中傷するようなことを避けるべきと話す。「『バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会』が当初の規制推進の立場から、会が進ごとにトーンダウンしていった感がある。これは研究会側にもマナーや理性があった証拠だ」と安堵の声を漏らすとともに、感情論の応報ではなく冷静な対話が双方に必要だと言明する。

 性表現をめぐって争われた「松文館裁判」で被告側弁護人を務めた望月克也弁護士は「裁判に関わる前は同人誌というと、ゲリラ的な、ネガティブな印象しかなかった。しかし第1部の議論を聞いてもわかるように、関係者が誠心誠意努力されている。この状況が外部に周知されていないのは事実だろう」と指摘する。


編集者・評論家の藤本由香里氏(左)と、マンガ評論家で武蔵野美術大学芸術文化学科講師の伊藤剛氏(道)
 現役編集者で評論家としても活動する藤本由香里氏からは、1991年2月に起こった同人誌販売をめぐる刑事事件が、現在の自主規制のルーツになったことが紹介された。同人誌生活文化総合研究所主宰でライターの三崎尚人氏の補足によると、この事件では無修正同人誌を販売委託されていた書店の関係者ら5人がわいせつ図画販売目的所持の疑いで逮捕。そのほか作家・印刷業者らなど70人前後が書類送検されたという。

 また1991年当時、コミケは千葉・幕張メッセで開催されていたが、「無修正同人誌が頒布されている」と千葉県警などから問題視され、会場を借りることが不可能になるという事態に直面。もともとの開催地であった東京・晴海に会場を戻してもいる。第1部で語られた見本誌チェックは、この事態が契機になっていると三崎氏は振り返る。

 藤本氏は、表現の自由について「表現によっては人を傷つける可能性がある以上、何をしてもいいわけではない。表現する者としての責任感を見せる必要がある」と、その定義に1つの見解を示した。

 一方、性表現規制の最大の目的となるのは、18歳未満の児童に対する悪影響を払拭することにある。この点について精神科医の斎藤環氏は「わいせつ表現がわいせつ行動を促進したり、暴力表現が暴力行為を助長するという論拠は、なきに等しいというのが現状だ」と説明。「インターネットを通じていくらでもわいせつな画像が見られるにもかかわらず、犯罪件数が減少傾向にあることからも明らか」と続け、一定の自主規制などは必要だが、メディアが青少年に与える悪影響はごく限定的なものだろうと分析する。


政府規制による表現の萎縮は誰の利益にもならない

弁護士の望月克也氏(左)と、精神科医の斎藤環氏(右)
 弁護士の望月克也氏からは、表現の自由が憲法などで強力に保護される理由について「表現規制は一度始まってしまうと、表現者の行動を少しずつ萎縮させていく。表現は悪いが“表現者を殺していく”可能性があるため、保護しようという考えがある」と解説する。伊藤氏も政府規制による表現の萎縮を「表現がやせる」と表わし、誰の利益にもならないと強調する。

 藤本氏は「性表現の規制が進むと、悲惨な体験を訴えるための性表現もアウトになってしまう。18歳未満の児童への性的虐待を禁じた児童ポルノ禁止法が、仮にアニメや漫画にも規制対象を拡大してしまったなら、例えば手塚治虫文化賞を受賞した『舞姫 テレプシコーラ』のようなすばらしい作品も見てはいけないことになる」とその危険性を訴える。

 三崎氏は5万サークル近くが参加申し込みするコミケの規模を引き合いに出し、「これほどまでの人々が紙メディアで表現をしているところはどこにもない」と世界でも希有な文化であると指摘する。この裾野の広さこそが日本のコンテンツ競争力を生み出していると述べ、一般社会からのより広範な理解を求めるべきとしている。

 ガタケット事務局の坂田文彦氏はシンポジウム最後のまとめで「同人出版業界による自主努力は以前から継続して行なっている」と振り返る一方、「大人と子供の境界線がどこにあるのか冷静に考える必要があるのではないか。日本でも成人とされるのは20歳だが、青少年健全育成条例では18歳が境目。このように非常に曖昧だ」と別の問題提起も行なった。さらに、同人誌を取り巻く社会状況に変化がある場合は、今回のようなシンポジウムを再び開催していきたいとコメントしている。

 なお、同人誌と表現を考える会では今後、夏に開催されるコミケの参加者向けカタログで現状の自主規制ルールをアピールするとともに、全国同人誌即売会連絡会のWebサイトを通じて本シンポジウムの要旨を掲載する予定という。


関連情報

URL
  同人誌と表現を考えるシンポジウム
  http://sokubaikairenrakukai.com/news070330.html
  バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会
  http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen29/Virtual.htm

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( 森田秀一 )
2007/05/21 12:09

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