5分でわかるブロックチェーン講座

リップル社を米証券取引委員会が提訴、「暗号資産の証券性」がブロックチェーンに与える影響とは

キーワードは「ブロックチェーンの分散性」

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

(Image: Shutterstock.com)

米証券取引委員会がリップル社を提訴

 今週は米証券取引委員会(SEC)による、リップル社およびCEOのBrad Garlinghouse氏、共同創業者のChris Larsen氏を相手方に取った訴訟に関する話題で持ち切りとなった。

 今回の訴訟では、リップル社が独占的に発行を行なっている暗号資産XRPの証券性に関するものだ。暗号資産はデジタル資産としての性質上、証券に該当するか否かという論争が常に付いて回る。

 XRPの証券性がなぜ問題になるかというと、リップル社は2013年から7年にわたり、XRPを独占的に販売することで1300億円以上の売上を出していたことに起因する。仮にXRPが証券であると判断された場合、リップル社は届け出の済んでいない証券を不当に販売したことになるのだ。

 金融資産の証券性を取り締まっているSECとしては、ビットコインとイーサリアムのみを現時点では証券ではない暗号資産として正式に認定している。今回の論点は、XRPが証券に該当するかどうかだ。

 SECが暗号資産に対して証券性を有しているかどうかを判断する根拠としては、発行体が十分に分散化されているかどうかという点だ。ビットコインとイーサリアムは、およそ1万を超えるマイナーによって管理され、マイニングによって発行されている。これに対してXRPは、リップル社が独占的に発行しているというのがSECの見解だ。

 リップル社の反論としては、XRPは既に金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)をはじめ複数の規制当局より、通貨としての認定を受けているというものである。そのため、SECの管轄下からは外れるというのだ。

 これには一理あるものの、SECの主張としては、他はどう言っているか知らないが証券法の観点からはXRPは証券に該当する可能性が高い、というものである。以上を踏まえて今週の後半パートでは、暗号資産の証券性が与えるブロックチェーンへの影響について考察していく。

参照ソース


    SEC Charges Ripple and Two Executives with Conducting $1.3 Billion Unregistered Securities Offering
    [SEC]
    SEC Files $1.3 Billion Lawsuit against XRP Creator Ripple
    [Decrypt]

米証券取引委員会がデジタル証券の枠組みを規定

 リップル社への提訴に終わらず、今週はSECの動きが非常に活発な1週間となった。デジタル証券の管理に関する枠組みを整備すると声明を出している。

 今回の枠組みで規定されるデジタル証券には、各プロジェクトの発行している独自トークンを含む暗号資産が含まれる。先述の通り、現時点でSECはビットコインとイーサリアムのみを証券ではないと言及しているため、要はそれ以外の暗号資産全てが対象だ。

 今回の声明は暗号資産の証券性を定義するものではなく、暗号資産を含むデジタル証券の管理を行う事業者に対する規定の整備となっている。以下の条件を満たした場合に、暗号資産が仮に証券であると判断された場合でも、正式に取り扱うことが許されることになるという。

・事業者は、デジタル証券を対象にした事業を取引および管理に限定している
・事業者は、デジタル証券を取り扱うためにブロックチェーン上で価値の移転ができる機能を有している
・事業者は、デジタル証券を正式な登録明細書に基づいて取り扱い、証券法に遵守した上で取り扱い記録を保管している
・事業者は、秘密鍵の紛失や盗難を防ぐために最大限の運用体制を整備している
・事業者は、証券法に基づく顧客保護を優先し、デジタル証券の有する潜在的なリスクについて顧客に説明している

参照ソース


    SEC Issues Statement and Requests Comment Regarding the Custody of Digital Asset Securities by Special Purpose Broker-Dealers
    [SEC]
    米SEC、デジタル資産証券のカストディ規制声明を発表
    [CoinPost]

今週の「なぜ」ブロックチェーンにとって暗号資産の証券性はなぜ重要か

 今週は、SECによるリップル社への訴訟とデジタル証券の管理規制に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

証券は暗号資産取引所で取り扱えず、トークン価格の上昇が期待できなくなる
十分に分散管理された暗号資産であれば証券とは認定されない
遅かれ早かれトークンの独占販売は消滅する

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

暗号資産の証券性とシニョリッジ

 一見すると、暗号資産の証券性に関する議論はブロックチェーンとは関係がないものに見えるだろう。しかしながら、ブロックチェーンを動かすために必要な暗号資産が証券として認定されてしまうことによる弊害は、実はとてつもなく大きい。

 まず、暗号資産が証券であると見做された場合、暗号資産取引所で暗号資産を取り扱うことができなくなってしまう。なぜなら、証券を取り扱うには証券取引所としてのライセンスが必要であり、日本では資金決済法ではなく金融商品取引法の範疇となるからだ。

 これは、独自トークンを発行するプロジェクト側にとっても非常に大きな意味を持つ。基本的に、ブロックチェーンプロジェクトは独自トークンの発行によるシニョリッジ(通貨発行益)を前提にロードマップを描いている。

 トークンにインフレが起きないことには、ICOによる資金調達もうまくいかずその後の運営費用を賄うこともできないだろう。今回のXRPの証券性は、ブロックチェーン業界全体にとって無視できない問題なのだ。

キーワードはブロックチェーンの分散性

 先述の通り、SECは現時点でビットコインとイーサリアムは証券ではないと公式に見解を表明している。この二つの暗号資産と、XRPを含むその他の暗号資産との違いについて、SECが出したデジタル証券の管理に関する声明を踏まえて考察しよう。

 SECが出したデジタル資産の管理に関する声明では、事業者が扱うことのできるデジタル証券について触れている。つまり、先述のデジタル証券を管理する際の条件を満たした上で取り扱える暗号資産は、通貨ではなく証券として認定されることになるのだ。

 ここで重要なことは、事業者が管理できるデジタル証券は暗号資産とはいわないということである。SECが正式に定義しているわけではないが、ここから読み取れることは、特定の事業者が管理できない暗号資産であれば証券としては認定されない可能性が高いということだ。

 ビットコインとイーサリアムが既に証券ではないと認められている根拠も、これで説明がつくだろう。先述の通り、両者は十分な数のマイナーによってブロックチェーンが管理されているため、特定の事業者による影響を受けないのだ。

遅かれ早かれトークンの独占販売は消滅する

 SECによるリップル社への提訴に話を戻すが、仮に訴訟が認められた場合、暗号資産・ブロックチェーン業界全体への影響は必至だと考えている。今回は影響力の高さからリップル社が対象になったが、他のプロジェクトも同じこと(トークンの独占販売)をやっている可能性が極めて高いからだ。

 そもそも論になってしまうが、トークンの独占販売を行なっているようなプロジェクトは、ブロックチェーンの実現するWeb 3.0の世界では生き残っていけないだろう。そのため、個々の問題としては決して大きくはないものの、暗号資産が証券に該当する可能性が高いという側面は、プロジェクトの運営体制に少なからず影響を与えるはずだ。

 2021年中に結果が出るであろう今回の問題については、引き続きの注目トピックとして情報を追っていきたい。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami