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視覚障がい者向けの“触地図”、OpenStreetMapを使って自動作成するシステム

国際年次カンファレンス「SotM2017」@会津若松レポート<その3>

 オープンでフリーな地理空間情報を市民の手で作る世界的なプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の国際年次カンファレンス「State of the Map 2017(SotM2017)」が8月18~20日の3日間、会津若松市文化センター(福島県会津若松市)で開催された。Mapboxのスタッフによる基調講演、AIを活用した地図作りを追求するFacebookによる講演、日本人による発表の1つとして、OSMを使った“触地図”の自動作成システムに関する講演を、3本の記事に分けてそれぞれ紹介する。

 バリアフリー関連の発表として興味深かったのが、新潟大学大学院の馬場千晴氏による「OpenStreetMapデータを用いた触地図自動作成システムの開発」という講演だ。

新潟大学大学院の馬場千晴氏

 触地図とは、視覚障がい者でも使える触覚により情報を読み取ることが可能な地図のこと。触地図の作成にはいくつかの方法があるが、個人利用の場合は立体コピーという方法がよく用いられる。立体コピーは、一般のプリンターを使って特殊な用紙(マイクロカプセルペーパー)に印刷したあとに、立体コピー機にかけることで、黒い部分を凸として表現できる。

 立体コピー機で屋外の触地図を作る際には、道路などの情報を黒で描いた触地図画像が必要となる。触地図画像は、地図の道路の部分を黒くトレースするとともに、地図上の信号機や川などの道路以外の要素を触地記号で表現する過程が発生する。そのために通常は大きな手間が必要で、専門知識も必要だ。

立体コピー機で処理したあとの触地図

 馬場氏はこのような課題を解決するため、OSMを使って触地図画像を自動的に作成するシステムを開発した。同システムはウェブアプリケーションで、住所や地点から任意の触地図画像を作成することが可能。縮尺や背景の濃さも自由に変えられる。点字ブロックや障害物、音声装置付き信号機、道路変化など、触地図に視覚障がい者に役立つ情報を記載することも可能で、このような情報は一般の地図には載っていないが、OSMにはこれらの情報を登録できるため、従来は難しかったこれらの情報を掲載できるようになった。

 また、広い範囲の地図を作成しても情報が混み合わないことも特徴の1つとして挙げられる。触地図において、1つの独立した要素を表す際には、周囲に3mm以上の空白を設ける必要があるため、道路に付けられたタグによって道路の大きさを4段階に分けて、縮尺によって表示する道路を絞り込むことにした。

触地図作成システム

 馬場氏は今後の展望として、OSMにおいて点字ブロックや障害物などの情報が充実すれば、触地図がより正確になり、視覚障がい者の経路設計に役立てることができると語った。また、今後は触地図上に建物の形や入り口を表示することも検討している。馬場氏は、「今後、マッピングをする際には、少しでも視覚障がい者の方向けの情報を気にかけてもらえると幸いです」と参加者に呼び掛けけた。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。