趣味のインターネット地図ウォッチ

第170回

月額945円で全国見放題、ゼンリン「住宅地図」スマホ版の詳しい話

 ゼンリンの「住宅地図」といえば、建物名称や居住者名まで分かる詳細地図として、古くから幅広く利用されている地図である。今年に入り、この住宅地図をスマートフォン上から見られるサービスが、従来よりも利用料金の安い新サービス「ゼンリン住宅地図スマートフォン」としてリニューアルした。この新サービスは7月にNTTドコモのスマートフォン向けに提供開始され、9月からはauおよびソフトバンクモバイルのスマートフォンからも利用可能になり、プラットフォームもAndroidだけでなくiPhoneに対応した。今回はこの「ゼンリン住宅地図スマートフォン」について、開発担当者である株式会社ゼンリンの真砂浩一氏と平林道大氏(両氏ともに第一事業本部GIS事業部GIS企画課)に、開発経緯や機能などについて詳しくお聞きした。

真砂氏(右)と平林氏(左)。背後の書棚に並んでいるのは全国の住宅地図帳

長い歴史を持つ「住宅地図」がスマートフォンで閲覧可能に

 ゼンリンの「住宅地図」は、同社の創業時(1948年)から4年後の1952年から発行されている長い歴史を持つ地図だ。創業当時、同社が大分県別府市の観光ガイド「年刊別府」という冊子を作ったところ、その冊子の付録だった地図が好評となった。この地図には現在の住宅地図と同様に、道路沿いの店舗や目印になるような施設が細かく載っており、地図を見た人から「うちの店もぜひ載せてほしい」という要望が多数寄せられたという。「これはビジネスになる」と判断した同社は各地の住宅地図の作成に取り組み、以後、一軒一軒、一戸一戸の建物名称・居住者名や番地を地図上に詳しく表示した住宅地図が、日本全国のエリアをほぼ網羅する形で整備されていった。

 現在、住宅地図はさまざまな形で提供されており、紙の地図としてはB4判やA4判、ファイル版などで提供されている。また、2001年にはセブン-イレブンのマルチコピー機で必要なエリアだけを選んで1枚300円で出力できる、現在の「ゼンリン住宅地図プリントサービス」を開始。2002年にはPC用にエリア別のCD-ROMパッケージ「電子住宅地図デジタウン」も発売された。さらに2008年11月からはフィーチャーフォン(従来型携帯電話)向けのサービスも提供されている。

住宅地図の紹介サイト
CD-ROMパッケージ「電子住宅地図デジタウン」

 このような中、2012年10月にゼンリンはスマートフォン向けの住宅地図サービスとして、「ゼンリン住宅地図 配送パック」と「ゼンリン住宅地図 建設パック」をドコモのスマートフォン向けに提供開始し、11月にはauおよびSoftBankのユーザーも利用可能となった。この2つのサービスは配送業および建設業の業者を対象としたもので、月額利用料は1端末あたり2100円で提供された。そして2013年の7月、新たなサービス「ゼンリン住宅地図スマートフォン」がドコモ向けに月額945円で提供開始され、9月にauとソフトバンクも同様のサービスが利用できるようになった。

 決済方法はドコモの「spモードコンテンツ決済サービス」、auの「auかんたん決済」、ソフトバンクの「ソフトバンクまとめて支払い」を利用する。なお、先行リリースされた「配送パック」および「建設パック」は、2013年11月29日以降、順次サービス提供を終了し、今後は月額945円の「ゼンリン住宅地図スマートフォン」に一本化される。これにより、従来よりも安価な「ゼンリン住宅地図スマートフォン」のサービスが携帯3キャリアにおいて、iPhone/Androidの両プラットフォームで利用可能となり、幅広いスマートフォンユーザーが利用しやすい環境が整ったことになる。ちなみにドコモおよびauについては、2週間の無料お試し期間も設けられている。

「ゼンリン住宅地図スマートフォン」のウェブサイト
キャリア決済で申し込みを行う

ビル内のテナントのリストをフロアごとに一覧表示

 「ゼンリン住宅地図スマートフォン」はネイティブアプリではなく、ブラウザーアプリとして提供されるため、利用にあたってダウンロードやインストールの必要はない。iPhone/Androidの標準ブラウザーを利用して住宅地図スマートフォンのサイトにアクセスし、キャリア決済を利用して申し込み手続きをすると、すぐに地図画面が表示される。

 「ブラウザーでの提供にした理由の1つは、携帯電話版の住宅地図サービスを使っていた人がスマートフォンに乗り換えた場合に『スマートフォンでも住宅地図サービスを使いたいのに使えない』という声が多数寄せられて、それに早急に応える必要があったということです。そのため、当時に並行して開発を進めていた法人向けの住宅地図サービス開発ツール『ZNET TOWN mobile API』を応用することにしました。このツールがブラウザーアプリを開発するためのものだったのです。ブラウザーアプリでも、性能的に十分、顧客のニーズに応えられると判断しました。」(真砂氏)

 開発に使用された「ZNET TOWN mobile API」は、配送業や金融系、営業支援、調査業などに向けたもので、法人がアプリケーションを独自開発するためのパッケージとして提供されている。同ツールを利用し、より汎用性の高い「ゼンリン住宅地図スマートフォン」を開発するにあたって、スタッフはどのような点にこだわったのだろうか。

 「事前にさまざまな業種の方にヒアリングをして、ニーズの洗い出しを行ったのですが、携帯電話版の住宅地図サービスのユーザーには年配の方や操作に不慣れな方も多かったので、シンプルで誰でも簡単に使えるような操作性を目指しました。具体的には、押し間違えの心配がないようにほかの地図サービスに比べてボタンを大きくするとともに、トップの画面だけでほとんどすべての操作が終わるUIを意識しました。」(真砂氏)

 地図の拡大・縮小はピンチイン・ピンチアウトによる操作のほか、画面横の「+」「−」ボタンでも行える。また、地図上を連続2回タップすることで拡大操作を行うことも可能だ。調べたい施設を画面中心に移動させて地図上をタップするか、または下部メニューから「中心住所」をタップするとピンがドロップされ、吹き出しがポップアップしてその地点の住所が表示される。さらにピンをタップすると、ビルの場合はテナント情報が表示される。テナント情報はフロア別に会社名や施設が表示されるので、どのビルの何階にどのような会社が入っているのか一目瞭然だ。ちなみに地図上にも、建物名称とともに、そのビルに入っている主要な会社の名が記載されているので分かりやすい。

「ゼンリン住宅地図スマートフォン」の画面
地図上にピンをドロップ
テナントのリスト
ビル名とともに主要な会社名も記載

「ドコモ地図ナビ」や「いつもNAVI」との連携機能を搭載

 さらに今回、新機能として追加されたのが、別の地図アプリや地図サービスとの連携だ。「ゼンリン住宅地図スマートフォン」の地図上で指定した場所へのルート案内が必要な場合は、下部メニューの中から「ルート確認」を選ぶと、ドコモのユーザーの場合は地図アプリ「ドコモ地図ナビ」が、auやソフトバンクの場合はウェブ版の「いつもNAVI」が立ち上がり、それらの地図上でルートを確認できる。「ドコモ地図ナビ」ならばそこから直接ナビ機能が利用可能で、auやソフトバンクの場合もアプリ版の「いつもNAVI」にルート情報が転送されてナビ機能を利用できる。

 「ユーザー様へのヒアリングを通じて分かったのですが、住宅地図サービスというのは、ほかの地図アプリやナビアプリを使っていて、それでも位置を特定できない場合に、より詳しい情報を確認するために使われる場合が圧倒的に多いです。それならばサービス間の連携機能を強化しようということで、テナント情報を見た後にすぐに地図画面に戻って、そこから『ドコモ地図ナビ』や『いつもNAVI』でルートを確認できるようにしました。また、ドコモさんや『いつもNAVI』の提供元であるグループ会社のゼンリンデータコムとも調整を重ねて、逆にそれらのアプリやサービスから住宅地図を呼び出すことも可能になっています。」(平林氏)

auの場合は「ルート確認」を選ぶと「いつもNAVI」のウェブサービスに切り替わる
ルートを表示
「ナビ開始」を選ぶと「いつもNAVI」のアプリが起動する
「いつもNAVI」のナビ画面

 一方で、従来の「配送パック」や「建設パック」には搭載されていたが、「ゼンリン住宅地図スマートフォン」となって削られた機能もある。「配送パック」では半径500mの建物名や居住者名で検索できる「表札検索」機能、「建設パック」では指定場所をアイコンで位置登録してメールで送信して共有できる機能が搭載されていたが、「住宅地図スマートフォン」ではいずれも利用できない。

 「最初にスマートフォン向けサービスを提供するにあたって調査したところ、やはり配送業と建設業の顧客がかなり多かったので、まずは業種向けに出していくということになりました。ただ、実際にサービスを開始してみたところ、意外とさまざまな業種の方が使われていることが分かり、それならば汎用サービスを出していきましょうという話になりました。もう少し幅広くニーズを捉えて、使う頻度が少なくても使っていただける低価格のサービスを提供しようということですね。『ゼンリン住宅地図スマートフォン』は建設・配送パックよりも低価格になり、機能的には少し落ちた部分もありますが、ナビアプリとの連携など進化している部分もあります。」(真砂氏)

「配送パック」と「建設パック」、新サービスの機能比較

ピンを落とした後に場所を移動すると「戻る」ボタン表示

 このほか筆者が便利だと思ったのは、地図上にピンを落とした後に別の場所にスクロールすると、自動的に画面右上に「戻る」ボタンが表示される点だ。このボタンをタップすれば、どんなに離れた場所に移動させていてもすぐに元の位置に戻れる。ウェブの地図サービスで「戻る」という操作方法が用意されているのは珍しい。

 「住宅地図の場合、場所を見つけた後に地図をスクロールさせて最寄りの駅を確認したり、周囲の立地を確認したりする方が多いです。紙の住宅地図ではもともとのサイズが大きいので分かりやすいですが、スマートフォンの小さな画面では『元の位置はどこだったんだろう』と見返すのが大変になるということで、『戻る』ボタンを設けました。」(真砂氏)

 縮尺レベルについては、住宅地図レベルでは3段階で、道路地図を含めると10段階となっている。

 「当初は縮尺レベルが細かく分かれていた方が便利だと思っていて、住宅地図レベルでは6段階、道路地図を含めると18段階も縮尺レベルを設けていたのですが、Android端末の中にはピンチ操作が不可のものもあって、そうすると『+』『−』ボタンでしか拡大・縮小ができず、レベルが多いと自分が目的にしているレベルにたどり着くのに時間がかかってしまうという問題が起きました。そこでもう少しシンプルな区分けにしようということで、現在の10段階という区分けに落ち着きました。」(真砂氏)

 地図のデザインについては、紙の住宅地図の色合いに近いが、全く同じというわけではない。建物がクリーム色になっていたり、一方通行表示が青かったりと微妙に異なっている。紙の住宅地図は、地図に書き込みがされることが多いので、シンプルな配色になっているが、デジタル版では少し見やすさを意識したデザインになっているとのこと。都道府県界や市区町村界などの線がマゼンタ色で分かりやすくなっているのは紙と同じだ。

 このほか、一般的なインターネットの地図サービスと異なるのは、住宅地図レベルにおいてはコンビニやファミリーレストランのチェーン店のアイコンなどが使われておらず、その代わりに国土地理院の地形図などでおなじみの「地図記号」が多用されていること。ただし住宅地図以外の縮尺レベルでは、一般の地図サービスと同様に主要な店のアイコンが使われている。また、書体についてはPC向けの「電子住宅地図デジタウン」に使われているものと同じで、紙の地図よりも角張った独特の書体が使われている。

 道路には国道や県道の番号のほかに「江戸通り」「京葉道路」「浜町河岸通り」などの通りの名や、バス停なども細かく書かれている点も住宅地図ならではで、これは街歩きの際にとても役立つ。通りの名が看板に書かれている場合は住宅地図にも記載されることになっている。また、ビルなどが建設中の場合は建物名の代わりに「(建)」という表記も掲載されている。建物名や居住者名のほかにも、一般的な地図サービスには収録されていない情報が数多く収録されていて、地図を眺めているだけでも実に面白い。

ピンを立てた後に動かすと右上に「戻る」ボタンが表示される
住宅地図レベルで最も小縮尺の地図
住宅地図レベルで2番目の縮尺レベル
最も拡大した状態
住宅地図レベルから外れるとコンビニなどのアイコンが登場する
さらに縮尺レベルを小さくした状態
通りの名やバス停が細かく記載されている
建設中の建物には「(建)」と記載されている

市街地のほとんどは年に1回更新

 このような住宅地図のデータは全国各地のゼンリンの調査スタッフが、毎日、全国の市街地を歩き回り収集してきた情報を基に作成されている。調査スタッフの数は1日あたり平均1000人で、一軒一軒くまなく調べて、一市区町村ごとに更新状況を日々確認しているという。

 そうして収集してきたデータは、北九州にあるゼンリンのテクノセンターに集められ、そこで人海戦術で入力作業が行われる。データ入力はハンドデジタイザと呼ばれる端末で地図の変更部分をなぞり、情報が書き込まれる。ゼンリンが保有する地図のデータベースはおよそ1000枚のレイヤーで構成されており、住宅地図はその中から、建物の形や名称、交差点の種類など必要なレイヤーを選ぶことで作成される。

 ちなみに住宅地図サービスの中で最初に世に出るのは、紙版の住宅地図とのこと。紙版の住宅地図の刊行後に法人向けのデータベースに反映され、さらにその後に携帯電話向けの住宅地図サービスや「ゼンリン住宅地図スマートフォン」の配信サーバーに更新データが反映される。データの更新ペースは都市部ではほとんどが1年に1回で、その他の地域では2〜5年ごとの更新となるエリアもあるという。

 例えば、現在ゼンリンの東京本社がある神田の「ワテラスタワー」は2013年4月に完成したばかりのビルだが、9月16日現在、「ゼンリン住宅地図スマートフォン」を見るとまだ建設中となっている。しかし紙の住宅地図ではすでに竣工後の状況が反映されたものが8月に発売済みで、「ゼンリン住宅地図スマートフォン」でも近々更新される予定だ。

 また、意外なのが地下街などの屋内地図(インドアマップ)を収録していないこと。地下の情報については、地下階のあるビルについてはどのようなテナントが入っているかを建物ごとに確認することが可能だが、地下街の状況を一覧できるような屋内地図は用意されていない。これについてはPC向けの「電子住宅地図デジタウン」には付録として用意されているとのことなので、いずれは「ゼンリン住宅地図スマートフォン」でも見られるようになるかもしれない。

 なお、今回「ゼンリン住宅地図スマートフォン」を提供するにあたって、月額945円という価格に決まるまでには社内でもかなり議論が尽くされたという。地区によって価格差はあるが、紙の住宅地図は、市区町村ごとに1エリアあたり平均で1万円台の価格となっており、「電子住宅地図デジタウン」では1エリアあたり平均2万円前後する。これが月額945円で全国くまなく見られるのだから、住宅地図の情報が必要な人にとってはかなりお得だとも言える。

 「紙の住宅地図は会社で部署ごとに購入して、スタッフ皆で共有するという使い方が多いと思いますが、『住宅地図スマートフォン』の場合は1端末につき1契約となることを前提とした価格設定になっています。今まで住宅地図を使ってみたかったけど、価格面で難しかったというお客様もいらっしゃると思いますが、ぜひこの機会に一度、住宅地図とはどういうものなのか、どれだけ業務に便利に使っていただけるのかを体験していただきたいと思います。ドコモとauのユーザーさんについては2週間のお試し期間を設けていますので、その間でしたらお金もかかりません。住宅地図というのは、我々としてはすばらしい商品だと思っていますので、そのすばらしさをぜひ実感していただければと思います。」(真砂氏)

ヘルプの提供地区一覧を見ると、エリアごとの更新年月が分かる

全国各地の住所を一括検索可能

 「ゼンリン住宅地図スマートフォン」で建物名や居住者名、住居番号、通りの名などが細かく記載されているのを見ると、まるで情報の“解像度”が一段階上がったような新鮮な驚きを味わえる。訪問先の会社が入るビルのテナント情報を確認できることに加えて、街区がないエリアや字丁目がないエリアの住所も簡単に探すことも可能で、これらの機能はビジネスユーザーが持てば実用的なツールとして大いに役立つだろう。

 また、住所の検索機能についても、「ゼンリン住宅地図スマートフォン」の検索窓に「神田」というキーワードを入力して検索すると、全国各地の「神田」と名の付く住所が一覧となって抽出される。神田といえば東京の神田が有名だが、それ以外にも全国にはさまざまなエリアに「神田」があり、その数に驚かされる。もちろん検索結果からエリアを限定して絞り込むこともできる。さらに居住者名が記載されているということで、同じ名字が数多く住んでいる町や、「北」「南」「東」など方角に関係する姓の方が数多く住んでいる町の状況なども住宅地図を見ればすぐに分かる。

字丁目がないエリアの住所も細かく記載
字丁目がないエリアの住所検索
「神田」で全国を検索
エリアで絞り込める
スキー場のレストハウスの住所も分かる

 今後の機能強化については、具体的な話はまだ決まっていないとのことだが、「よりユーザーの利便性が高まるようなビジネス、サービスとの連携も、今後検討していきたいですね」(真砂氏)とのこと。「ゼンリン住宅地図スマートフォン」の主なターゲットはビジネスユーザーだが、月額945円という価格は個人レベルでも決して手の届かない価格ではない。月ごとの契約が可能ということで、必要な期間だけ契約するという方法もある。

 住宅地図が登場してから60年以上が経つが、こんな風に誰もが安価に全国の住宅地図をいつでも見られる状況になったのは初めてであり、もしかしたらこの先、趣味や研究、社会貢献のツールとして意外な使い方をする人も現れるかもしれない。そのためにも「ゼンリン住宅地図スマートフォン」は今後着実に進化を重ねていってほしいものである。

山間部には等高線を記載
凡例表示

片岡 義明

地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。