趣味のインターネット地図ウォッチ

第100回:猫ひろしさん共同開発のGPSウォッチ「ARES GPS」を使ってみました


赤い線がデザインのアクセントになっている
ランニングやサイクリング用途をイメージしたパッケージ

 マラソン人気が高まる中、注目を集めているのがGPSを搭載したランニング用腕時計、いわゆる“GPSウォッチ”だ。一般道路では走行距離がわからないしペースも正確には把握できないが、GPSウォッチを使えば衛星測位によって走行距離やスピードがリアルタイムにわかる。いわば自動車やバイクのようにスピードメーターを付けたのと同じ状態になるわけだ。GPS搭載といってもカーナビのように地図が見られるわけではないが、トラック(軌跡)ログをPCに転送してデジタル地図上で見るのは楽しいし、走行データを分析することで練習が効率よく行える。見知らぬ土地でも走行距離がわかるし、コースの距離表示が不十分なマラソン大会でも役立つだろう。

 この手のアイテムとしては、ハンディGPSやPNDで有名な米GARMIN社の「Forrunner」(日本では「ForAthlete」)シリーズが人気で、ほかにはほとんど選択肢はなかったが、ここに来て気になる製品が発売された。トランステクノロジー株式会社の「ARES GPS」だ。このGPSウォッチ、記者発表会でタレントの猫ひろしさんが登場したことで新聞などに取り上げられた製品である。猫ひろしさんは芸能人でありながらサブスリー(フルマラソンを3時間以内で走ること)を達成した実力派ランナーとして知られており、ARES GPSの開発段階から加わったという。市民ランナーの視点から提案されたさまざまな機能や工夫が盛り込まれているということで要注目なのだ。今回は発売されたばかりのARES GPSを借りることができたので、詳しくレビューしよう。

3気圧防水の本体に6個のボタンを搭載

 まずは外観を見てみよう。サイズは50×65×18mmで、重さは64g。GPSウォッチはどうしても大きくなりがちだが、この製品も一般の時計よりはかなり大きめだ。筆者の手持ちの「Forrunner405」(英語版)の48×71×16mmと比べると、2mmほど厚みがある。重量はForrunner405の60gに比べてわずかにARES GPSのほうが重い。ただ、バンドがForrunner405に比べて柔軟性があるせいか、巻き心地はARES GPSのほうが楽に感じた。走っているときもそれほど邪魔には感じない。

 Forrunner405との最大の違いは操作性にある。Forrunner405にはボタンが2つしかなく、主にベゼルのタッチ操作で使うのに対して、ARES GPSは左右に3つずつ、計6個ものボタンがある。6個もボタンがあると複雑な印象を受けるが、個人的にはこちらのほうが操作しやすいと感じた。例えば表示モードを切り替えるとき、Forrunner405だとベゼルの一部分を長押しする必要があり、切り替えに時間がかかるが、ボタン操作なら押すだけですぐに切り替わるからだ。また、雨が降ったときにタッチセンサーが水に濡れて誤動作を起こす心配もない。ちなみにARES GPSは3気圧防水となっており、多少の雨なら濡れても大丈夫だ。

「ARES GPS」(左)と「Forrunner405」(右)厚みは2つともほぼ同じ普通の時計より厚みがあるが、走っているときはそれほど気にならない

GPSが使用不可でも時計とタイム計測だけは可能

 液晶画面の表示部は大きく視認性はいい。表示モードは時計表示の「TIMEモード」に加えて、走行時に使う「RUNモード」と「CHRONOGRAPHモード」、走行データ表示用の「RUN DATAモード」、現在地を登録できる「WAY POINTモード」、心拍センサーとの接続に使う「HR SENSOR LINKモード」、設定用の「SETモード」と、計7モードが用意されている。

 ARES GPSには、心拍センサーが付属する「AR-1080C」と、付属しない「AR-1080」の2種類がある。心拍センサーは別売り品を追加することも可能だが、セットで購入したほうが少し割安だ。オプションでサイクル用バイクマウントも用意されており、これを使えば自転車のハンドルバーにも取り付けられる。今回借りたのは心拍センサーが付属しないAR-1080で、パッケージには本体のほかに、充電およびデータ通信用のUSB PC接続ケーブル、さらにACアダプターが付属する。バッテリーは充電式リチウムイオン電池で、クリップのような形をしたUSB PC接続ケーブルを挟み込んで電極を接触させて充電する。この充電方法はForrunner405と同様だが、データ通信はForrunner405が無線でやりとりするのに対して、ARES GPSはケーブル経由で直接データを送信する。

 充電時間は4時間。GPSを使った場合の駆動時間は約8時間と、一般の時計に比べると段違いに短い。ただ、時計のみの使用なら充電しなくても約1年間は使用できるそうだ。また、バッテリーの残りが少なくなってGPSが使用できなくなっても、時計およびタイム計測の機能だけなら約2週間利用できる。仮に充電するのを忘れてマラソン大会の朝を迎えてしまった場合でも、最悪、普通のランニングウォッチのような使い方はできるわけだ。走行データは最大50件を保存可能で、1件につき300件までのラップタイムを記録できる。

本体の裏側に充電用の電極があるUSB PC接続ケーブルとACアダプター本体をクリップのように挟むと充電開始

モードごとに複数の表示方法を用意

 同じモードでも表示方法は複数の種類が用意されており、各モードで「VIEW」ボタンを押せば簡単に切り替えられる。例えば「TIMEモード」では2つのタイムゾーンを片方ずつ表示できるほか、両方のタイムゾーンを同一画面で表示したり、アラーム画面にしたりできる。海外の都市の時間を表示させる場合は、説明書に掲載されている都市コードの一覧表から選んで設定する。アラーム時刻は5つまで登録可能だ。

 「RUNモード」の場合は3行で情報が表示されて、最上段には「EXER TIME(経過時間)」、中段には「DISTANCE(走行距離)」が表示される。表示モードを変えると最下段だけが切り替わり、「CLOCK(現在時刻)」「SPEED(走行速度)」「PACE(1km走るのにかかる時間)」「CALORIE(消費カロリー)」の4種類から選べる。さらに心拍センサーが付いている場合は「HR(心拍数)」を表示させることも可能だ。

 「CHRONOGRAPHモード」では、「LAP(ラップタイム)」「DISTANCE」「EXER TIME」を3行で表示するほか、「LAP」と「EXER TIME」の2行表示、「LAP」のみの表示と3種類から選択できる。「LAP」だけにした場合はラップタイムを取った回数が上部に表示される。なお、「RUNモード」および「CHRONOGRAPHモード」で計測したデータは、「RUN DATAモード」で過去の情報を閲覧できる。

「RUNモード」の画面(最下段は時計表示)「RUMモード」の画面(最下段は消費カロリー表示)「RUMモード」の画面(最下段はスピード表示)
「RUMモード」の画面(最下段はペース表示)「CHRONOGRAPHモード」の画面(2行表示)「CHRONOGRAPHモード」の画面(1行表示)

猫ひろしさんの提案で搭載、オートラップ時のアラームと点灯機能

 走るときには、まず「GPS ON」ボタンを押してGPSを起動させてから、測位が完了するまで待つ。衛星測位中は「LOCATING SATELLITES」のメッセージとともに横バーが伸びていき、バーが右端にたどり着くと完了する。説明書では、ランニングを行う5分前にはGPSを起動しておくことを勧めている。実際に都心の交差点でウォームスタート(概略軌道情報を持つ場合の軌道)させてみたが、2~3分くらいで測位が完了した。測位にかかる時間はForrunner405と同じくらいだと感じた。

 走行時には、設定した走行距離に到達するたびに自動的にラップタイムを測る「オートラップ」という機能を搭載している。ランニングでは一定の距離を何分何秒で走ったかを目安にペースを考えるので、オートラップ機能はとても重宝する。「RUNモード」にすればリアルタイムにペースを表示させることも可能だが、瞬間的な速度表示は誤差が大きいので、オートラップで計測したペースを基準にスピードを調整するほうが正確だ。オートラップを刻む距離は0.5km、1.0km、2.0km、3.0km、4.0km、5.0kmの6段階から選択可能で、設定した距離になると「ピッピッピッ」という電子音とともにラップタイムが表示されて、画面がライトアップされる。このアラーム音とライトアップは、夜の練習が多いという猫ひろしさんの提案によって搭載された機能だそうだ。

 ただ、せっかくこの機能を搭載するならば、足を止めたときに自動的に時間計測が中止される「オートストップ」機能も搭載してほしかったと思う。信号などで立ち止まったときに、オートストップがあればいちいち手動でタイム計測を止める必要がないからだ。Forrunner405にはオートラップもオートストップも両方搭載しているだけに残念である。また、どのボタンに触れてもバックライトが発光する「ナイトモード」もあり、これはこれで便利なのだが、走行中、常にバックライトを点灯し続けられるようなモードも用意してほしかった。筆者は夜走るときにForrunner405のバックライトを点灯させっぱなしで走るのが好みなのだが、これができないのは不便に感じる。

 このほか、現在地を登録する「WAY POINT」モードも搭載する。このモードでは、後で登録地点に戻ったときに到着を確認できる。目標地点の約100mまで近づくと、画面に「ARRIVED DEST」と表示される。ランニングのスタート時に登録しておけば、戻ってきたときに目印がなくても出発地点がわかるので便利だ。

【お詫びと訂正 2012/4/9 14:45】
 記事初出時、オートラップを刻む距離を「1.0km、2.0km、3.0km、5.0kmの4段階」と記載しておりましたが、正しくは「0.5km、1.0km、2.0km、3.0km、4.0km、5.0kmの6段階」です。お詫びして訂正いたします。

オートラップが働いて自動的にラップタイムを記録したときの画面記録したタイムを確認できる「RUN DATA」モード登録した「WAY POINT」も緯度・経度・高度も確認できる

日本や世界の踏破を目指すトラベルチャレンジ

 次は軌跡ログを見てみよう。ARES GPSでログをPCに転送するには、まず専用ソフト「Enjoy ARES」(現時点ではWindows用のみ)を同社サイトからダウンロードしてPCにインストールする。Enjoy ARESを起動させたらアカウントを設定してログインし、USB PC接続ケーブルをARES GPSに接続する。「GPS時計のデータをダウンロードしますか?」と表示が出るので、「ダウンロード」を押すとPCにデータが転送される。ダウンロード後に時計内のデータは削除することも残すことも可能だ。ちなみにARES GPSに保存できるデータは最大60時間までだ。

 走行データはスピード・高度・脈拍の3つの要素を折れ線グラフで表示するほか、30回分の過去の走行履歴を棒グラフで見比べられる。カレンダー上で走行距離を管理することも可能で、月間の累計走行距離も表示される。また、「トラベルチャレンジ」ボタンをクリックすると「日本縦断チャレンジ!」という画面になる。これは札幌をスタートして距離換算でどこまで走ったのかを日本地図上に示すもので、鹿児島まで到達すると次は自動的に舞台が世界になり、今度は世界一周を目指すこととなる。このような演出はランニングへのモチベーションを高めるのに有効だし、GARMINのソフトにはない機能だ。ソフトウェア全体の使い勝手もシンプルでわかりやすく、PCに不慣れな人も簡単に使いこなせるだろう。

 「MAP表示」を押すと地図画面になり、走行軌跡が赤線で表示される。地図にはGoogle Maps APIが使われており、航空写真上でもログを閲覧できる。ただしこのログをファイルの形で出力することができないのは残念だ。走行軌跡をkmlファイルなどに出力できれば、地図ソフトやGoogleマップのマイマップなどで読み込んでほかのログと比較したり、ブログに貼り付けたりと、さまざまな活用法が考えられる。これについてはぜひソフトウェアのアップデートで改良してほしいと思う。

「Enjoy ARES」の日次記録画面ラップ情報を確認できる
走行履歴を棒グラフで表示累計走行距離がわかるカレンダー画面
「日本縦断チャレンジ!」の画面

測位精度はGARMINと互角

 ログの記録は、今回は隅田川沿いの遊歩道および皇居周回コースにて行った。まず隅田川沿いのほうだが、このコースは首都高の高架が横を通っているために、衛星電波の状態がかなり悪い。Forrunner405で記録すると、日によってはログの線が川の中にずれたりすることもあるくらいだ。今回の測定でも同じようにログが荒れたが、軌跡の描き方はARES GPSとForrunner405とで少し異なる。以下に示すログは、ARES GPSとForrunner405を両腕に付けて一度の走行で同時に取得したもので、赤線がARES GPSで、青線がForrunner405の軌跡となっている。

 まず「新大橋通り」付近のログを見ると、浜町公園の脇を通る首都高の高架下を走ったときのずれ方が、Forrunner405のほうが大きく、公園の中まで入り込んでしまっている。この地点についてはARES GPSのほうが優秀だが、次の「両国国技館」付近のログでは、隅田川沿いの遊歩道を走ったときの軌跡を見るとARES GPSのほうが誤差が大きく、川のほうに入り込んでしまっている。

「新大橋通り」付近(ARES GPS)「新大橋通り」付近(Forrunner405)
「両国国技館」付近(ARES GPS)「両国国技館」付近(Forrunner405)

 次に「皇居外周」を走ったときのログを見比べてみよう。全体のログを見るとそれほど大きな違いは見られないが、細かい部分で描き方が異なる。例えば「憲政記念館」付近のログを見ると、Forrunner405のほうが車道への飛び出し方が大きく、ARES GPSのほうが実際に通ったルートに近い。しかし、「千鳥ヶ淵公園」付近を見るとForrunner405のほうが正確だ。なお、皇居外周の距離は4.9777kmと言われているが、このときの計測ではARES GPSで4.99km、Forrunner405で4.94kmという結果になった。総合的には両者甲乙付けがたい印象で、どちらも実用上は問題ないと思う。

「皇居外周」(ARES GPS)「皇居外周」(Forrunner405)
「憲政記念館」付近(ARES GPS)「憲政記念館」付近(Forrunner405)
「千鳥ヶ淵公園」付近(ARES GPS)「千鳥ヶ淵公園」付近(Forrunner405)

シンプルな操作方法や遊び心を持ったソフトウェアが魅力

 以上、GPSウォッチの定番であるForrunner405と比較しながら紹介してきたが、最後に価格について考えてみよう。日本語版の実売価格が4万円台のForrunner405と比べて、ARES GPSはトランステクノロジーの直販サイトにて3万円を切る低価格を実現しており、ハートレートセンサーやバイクマウントなどのオプション品もGARMINより安い。ただし、Forrunner405は英語版だと日本でも3万円程度で手に入るので、本体だけではほとんど価格差は無くなってしまう。

トランステクノロジーの直販サイト

 機能面ではForrunner405のほうが、オートストップやバーチャルトレーナー(仮想の相手を作って競走できる機能)、インターバルトレーニング機能などを搭載しておりずっと豊富だ。また、Forrunner405は室内でトレッドミル(ランニングマシン)を走るときにも距離を計測できる「フットポッド(加速度センサー)」や、自転車用の「ケイデンス/スピードセンサー」を追加することが可能だが、ARES GPSには用意されていない。ソフトウェアの自由度もGARMINのほうが上だが、前述したように使い勝手となると話は違ってくる。Enjoy ARESはほとんどマニュアル不要で使えるほど操作が簡単で、できることが限られてはいるものの、「日本縦断チャレンジ」のような遊び心を持っている点は新しい。また、本体も6ボタンによる操作は明快で、モードや表示の切り替えがすばやく行える点も魅力だ。ただ、現時点ではMac OS版がリリースされていないのでMacユーザーは使えない。

 もうひとつ気になるのは、内蔵リチウムイオン電池が劣化した場合の交換料金である。バッテリー寿命は公称では約500回となっており、それほど長くはない。トランステクノロジーによると、交換料金は1万円前後となる予定とのことだが、GARMINとの差別化を図るためにも、ぜひ1万円を切るリーズナブルな価格でお願いしたいものである。また、今年9月に打ち上げられた準天頂衛星「みちびき」にもファームアップで対応してもらえるとありがたい。いずれにしても、GARMINのほぼ一人勝ちだったこれまでのGPSランニングウォッチ市場に、新たな選択肢が生まれたのはランナーとして喜ばしいことである。今後もファームウェアの改良やEnjoy ARESのアップデートによる完成度の向上を期待したい。


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2010/12/9 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。