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第141回:GPS・山岳地図搭載、耐衝撃・防水の山歩き向けメディアプレーヤー
パナソニック「UN-MT300」レビュー
パナソニック株式会社が7月25日に発売したデジタルメディアプレーヤー「UN-MT300」(オープンプライス)は、GPSおよび電子コンパスを搭載したAndroid端末だ。簡単に言うとAndroidスマートフォンから3G機能を省いたような製品だが、3G通信を行わなくても地図を見られるオリジナルアプリが用意されており、スマートフォンとは違った使い方が想定されている。今回は同製品の地図関連の機能を中心に使い心地をレビューしよう。
UN-MT300 |
●耐衝撃・防水性能を実現したボディ
UN-MT300の特徴の1つはボディのタフ性能だ。1.2m耐衝撃・JIS防水保護等級IPX6/IPX7相当を実現しており、アウトドアでの使用が可能になっている。
液晶ディスプレイは4.0v型(800×480ピクセル)と、メディアプレーヤーとしては大きめだ。本体のサイズは68.0×138.0×13.5mm(幅×高さ×厚さ)で、質量は約168g。紐などを引っかけられるスリットが設けられたデザインが特徴的で、アウトドアでの使用が強く意識されている。また、感圧式タッチパネルを採用しており、手袋をはめた状態でもタッチ操作が可能だ。
ボタンは前面にメニューボタンおよびホームボタン、戻るボタンの3つが配置されており、側面には音量ボタン(-、+)と電源ボタンの3つが設けられている。内蔵カメラはフロントが約30万画素で、バックが約200万画素。バックの画素数が200万画素というのはちょっと物足りず、この点は残念だ。
縦型にした場合に上部に位置する個所にUSB端子および3.5mmステレオミニジャック、microSDカードスロットが設けられており、防水用のフタが被さっている。多くのAndroidスマートフォンは電源ボタンを上部に搭載するが、UN-MT300の場合は縦位置で持ったときに右サイドに電源ボタンがあるため、慣れるまで少し違和感があった。
ワンセグ機能やFMラジオ機能も付いていて、録画することも可能。使用する場合はアンテナを引き出して使う。ラジオは山で気象通報などを聞く用途なども考えて、できればAMラジオも搭載してほしかったと思う。
通信機能は無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)およびBluetoothを搭載。さらにGPSや加速度センサー、照度センサー、地磁気センサーも搭載している。メディアプレーヤーにGPSが搭載されている例は珍しく、GPSを使った位置情報系アプリが利用可能だ。
付属品はACアダプター、ステレオインサイドホン、ソフトケース、固定バンドで、ステレオインサイドホンには付け替え用のイヤーピースが付属する。PCと接続するためのUSBケーブルは同梱されていない。
4.0v型ディスプレイを搭載 | 左からメニューボタン、ホームボタン、戻るボタン |
ボディ横の電源ボタンと音声調整ボタン | バックカメラは約200万画素 |
上部にUSB端子やmicroSDカードスロットを搭載 | ワンセグやFMラジオを視聴可能 |
感圧式のタッチパネルを採用 | ベルトに取り付けられるソフトケースが付属 |
固定バンドを使えばリュックにも装着可能 | ACアダプター |
ステレオインサイドホン |
●オフラインで利用可能な地図アプリをプリインストール
ホーム画面は「ワンセグ」「ビデオプレーヤー」「音楽プレーヤー」などメディアプレーヤー関連のショートカットが並べられた画面と、「山歩きパートナー」「全国地図」「GPS情報」「コンパス」など地図関連アプリのショートカットが並べられた画面、そして「Sky Shot 2 Single!」「スイングチェッカーPlus」「ゴルフダイジェスト・アプリ」などゴルフ関連のショートカットを集めた画面の3つが用意されており、このほかにGoogle検索ウィジェットだけが配置された何もない画面が1つ用意されていて、ここに好きなアプリのショートカットを置ける。
「山歩きパートナー」と「全国地図」の2つは地図データが共通で、地図検索のメニューも同じだ。違いは、「全国地図」が現在地確認や地図データの閲覧しかできないのに対して、「山歩きパートナー」はプランの作成や軌跡ログを記録する機能を搭載していること。「山歩きパートナー」とは言いながらも、市街地でのログ記録も可能だ。なお、「山歩きパートナー」と「全国地図」は同時に起動することはできない。
地図データは昭文社の「MAPPLEデジタル地図データ」(2011年9月時点)を収録しており、山岳エリアについても1/25000相当・等高線間隔20mの地図を収録。地図データはローカルストレージに収録されているため、オフラインでも閲覧可能だ。
市街地の地図については、建物の形状が描かれた詳細図が少なく、施設名の表記も乏しいのでモバイルGoogleマップに比べると見劣りする。さらに、モバイルGoogleマップのほうは無線LANによる測位でだいたいの現在地は表示されるのに対して、「全国地図」のほうは頭上に障害物がありGPS衛星を捕捉できない時は現在地の表示ができないのも不満だ。
また、3G通信によるA-GPSが使えずGPSのみで測位するため、「山歩きパートナー」「全国地図」ともにコールドスタート時の測位には時間がかかる。衛星の状況にもよるが、頭上が開けた場所でコールドスタートさせた場合、現在地が表示されるまで約3分かかった。
ホーム画面 | 「山歩きパートナー」のメニュー | エリア選択画面 |
山域リストから登りたいエリアを選択 | 高尾山付近の地図(山歩きガイドデータを購入していない状態) | 「全国地図」のメニュー |
小縮尺図 | 東京駅周辺の地図 | 都庁周辺の地図 |
●山歩きガイドデータの購入でコースタイムやスポット情報を表示
山岳エリアの地図については別途「山歩きガイドデータ」を購入することにより、登山コースや参考コースタイム、展望スポットなどの情報が地図に追加される。ガイドデータは昭文社の「山と高原地図」(2012年度版)のデータで、全国58地域が用意されている。データの内容はコースタイムや展望ポイント、休憩所、水場、危険個所、温泉など。さらに百名山・二百名山のコース説明や季節の見どころ情報(収録されていないエリアもあり)も用意されている。
ガイドデータは1エリアにつき1050円~1260円。iPhoneアプリ「山と高原地図」が1エリア450円で購入できることを考えると割高に思えるが、「山と高原地図」がラスター地図なのに対して、「山歩きパートナー」のほうは見やすいベクトル地図上でコースタイムなどを見られる点が魅力だ。ただ、個人的には1000円以下にしてもっと買いやすくしてほしかったとは思う。
「山歩きガイドデータ」を購入するとコース情報もインストールされて、コースをタップで選んでいくだけでプランを作成できる。「山歩きガイドデータ」を買わない状態でプランを作成する場合はフリー入力となり、コースが掲載されていない地図上で細かく位置を刻んでいかなければならない。
実際に「山歩きガイドデータ」を購入してプランを作成してみたが、最初はタッチパネルの反応が鈍いせいかタップでのコース選択がうまくいかず、完成させるのに苦労した。ただし何回か使っていくうちにタッチパネルの挙動に慣れて、簡単にコースを設定できるようになった。なお、あらかじめ用意されている「おすすめコース」を選べば、プラン作成の手間をかけずに簡単にコースを登録できる。
登録済みの山歩きプランは別のUN-MT300とメールやBluetoohで共有できるが、PC上で作成したkml/gpxファイルやほかのGPSで記録した軌跡ログなどを読み込んでプラン作成に活用するといったことはできず、この点は残念だ。
山歩きガイドデータの購入画面 | パナセンスのサイトで購入手続きを行う | 山岳ガイドデータを購入すると地図上にアイコンやコースタイムが表示される |
ルート作成画面。分岐点でどちらに進むのかを選択する | 作成したルートは黒線で描かれる |
●撮影した写真を地図上に表示
軌跡ログを記録する場合は、メニューの「ガイド」を選んで作成したプランを読み込み、「山歩き開始」ボタンをタップすると記録がスタートする。なお、プランを立てずにログ記録することも可能だ。保存の開始時には、「連続使用時間を延ばすために、Wi-FiやBluetoothを停止することをお勧めします。」という表示が出て、停止するための設定画面を呼び出せるようになっており、このような配慮は助かる。
軌跡の保存は設定した距離を移動するごとに記録が行われ、保存間隔はモード1(25m間隔)とモード2(100m間隔)の2モードが用意されている。単体のハンディGPSや高機能ロガーアプリでは時間ごとの記録と距離ごとの記録とで選べるものが多いが、「山歩きパートナー」の場合は距離ごとの記録しかできない。できれば記録方式や記録間隔はもう少し細かく選べるようにしてほしかった。
保存中は地図上に軌跡がドットで表示される。下部には勾配図の「表示/非表示」ボタンが表示され、勾配図のあるプランの場合はこれをタップすることで閲覧できる。フリー入力やプランを立てずに記録する場合は表示されない。また、地図の向きをヘディングアップとノースアップで切り替えることも可能だ。
さらに、記録中に写真撮影することも可能で、左上のカメラアイコンをタップすると撮影画面が起動する。撮影を終えると地図上の撮影地点にアイコンが表示されて、アイコンをタップすると写真のサムネイルやコメントが表示される。
記録したログはメールまたはBluetoothで共有することが可能で、kmz/gpz形式のファイルで転送される。kmz/gpzはkml/gpxを圧縮した形式で、kmzはGoogle Earthでそのまま読み込める。両ファイルともにZIPツールなどで展開するとgpxファイルおよび写真が生成される。また、専用プラグインアプリ「ヤマレコプラグイン」を使えば、山歩き記録共有サイト「ヤマレコ」へ記録データを簡単にアップロードできる。
プランにコースタイムを設定 | 作成したプランの勾配図 | ノースアップの画面 |
ヘディングアップの画面 | 写真アイコンをタップすると撮影した写真を見られる | コンパス画面 |
GPS情報 | 記録した軌跡を表示 |
「ヤマレコ」に転送したログと写真 |
●ゴルフ関連アプリも用意
このほかメディアプレーヤーとしての機能は、ワンセグチューナーやFMラジオを搭載するほか、「お部屋ジャンプリンク」に対応したテレビ「ディーガ」との接続機能なども搭載。ディーガに録画した番組や放送中のテレビ番組をワイヤレスでUN-MT300に転送して持ち出すこともできる。また、Google Playから音楽プレーヤーアプリをダウンロードして自分好みのメディアプレーヤーとしてカスタマイズすることも可能だ。
一方、「Sky Shot 2 Single!」「スイングチェッカーPlus」などゴルフ関連のアプリについてはプリインストールされておらず、初回アクセス時はGoogle Playのインストール画面が表示されて、ここからダウンロードする必要がある。「Sky Shot 2 Single!」は全世界3万以上のゴルフコースの衛星写真やカラーコースレイアウトに対応したアプリで、無償版では1コースのみダウンロード可能。メンバーシップのアップグレード(3900円)を行うことにより、すべてのコースをダウンロード可能となる。
音楽プレーヤーの再生画面 | ゴルフコースを収録した「Sky Shot 2 Single!」 |
●iPhone 4SおよびGARMIN eTrex20Jとのログ比較
それでは実際に高尾山で歩いてみた結果のログを見てみよう。今回は「iPhone 4S」とGARMINのハンディGPS「eTrex20J」と比べてみた。軌跡の赤線がUN-MT300、黄色の線がeTrex20J、青色がiPhone 4Sとなっている。iPhone 4Sのロガーアプリは「GPS-Trk」を使用。記録間隔はUN-MT300とiPhone 4Sは25mで設定。eTrex20Jは10m刻みでしか設定できないので、20m間隔で計測した。
高尾山では、テストに使用する3機をRAMマウントでパイプフレーム付きザック(イスパック)に固定(左からiPhone 4S、eTrex20J、UN-MT300) |
高尾山でのログ |
山麓付近 |
中腹付近 |
山頂付近 |
図の右端が山麓で、左端が山頂となっており、往路は上側の軌跡で、沢沿いを歩く琵琶滝コース。復路は下側の軌跡で、尾根を歩く稲荷山コースとなっている。復路の稲荷山コースは尾根歩きのため衛星電波を受信しやすく、3機ともほとんど差がないログとなった。ただし山麓付近に1カ所だけUN-MT300が大きく外れた地点がある。
一方、見通しの悪い沢沿いの往路では、中腹付近での違いが激しい。UN-MT300はコース右側に外れる傾向が強く、山頂付近の大きな切り返しの地点でもUN-MT300だけ折れ曲がり方が少し大きくなっている。
市街地のログ |
上野駅付近 |
ゴール付近 |
市街地では上野駅付近での誤差がUN-MT300は激しく、ほかの2機と比べるとカーブが大きく膨れている。ゴール付近でも、全体的に進行方向右側に外れることが多かった。iPhone 4SとeTrex20JはGPSに加えてロシアの衛星測位システム「GLONASS」に対応(eTrex20Jは準天頂衛星「みちびき」にも対応)していることもあり、これらと比べるとGPSのみのUN-MT300は誤差が大きめだが、GPSのみの機器としては軌跡が大きく破綻することも少なく安定しているほうだと思う。
●使えないモバイル電源もあるので注意
この手の製品で気になるのがバッテリー寿命だが、今回テストした結果を報告しておこう。スタート時、100%の状態で使用開始して、頂上に到着した時点でUN-MT300は72%、iPhone4Sは78%だった。ゴール(スタートから約2時間30分経過)の時点でUN-MT300は53%、iPhone4Sは61%だった。
ただしUN-MT300は登山中に何回か地図画面を確認したり、カメラで写真を撮影したり、スクリーンショットを撮りながらの使用だったので、その分だけ差し引いて考える必要がある。ただ、UN-MT300のカタログでは「山歩きパートナー」でアプリ位置情報連続記録した場合、ディスプレイOFFの状態でバッテリー寿命は約12時間とあるが、現在地の確認や写真撮影、そのほかのアプリを使用することを考えると、実際の使用環境ではバッテリー寿命はもっと短いと思ったほうがいい。
ちなみにUN-MT300をUSBモバイル電源で充電しようとしたところ、エネループのKBC-L2BおよびHyperJuice(60Wh)では充電できなかった。筆者手持ちのUSBモバイル電源で唯一使用できたのは、NTTドコモの「FOMA充電アダプタ02」。カタログにはパナソニック製のUSBモバイル電源「QE-QL101」と「QE-QL201」が推奨されている。
●豊富なAndroidアプリを追加できるのが魅力
UN-MT300は、iOSで言えばiPod touchのような位置付けの端末だが、UN-MT300にはiPod touchにはないGPSが搭載されており、オフライン環境で使うことを前提とした地図アプリがプリインストールされているほか、山歩きガイドデータなども追加できる。Wi-Fiルーターと組み合わせればスマートフォンと変わらない環境も手に入り、Googleマップなども普通に利用可能だ。
さらに、豊富なAndroidアプリの中から、好きな登山関連アプリや地図アプリ、位置情報アプリなどをインストールできる汎用性の高さも魅力だ。Android用のオフラインカーナビアプリと組み合わせれば、カーナビやサイクリングナビとしても使えるだろう。
1つ気になったのが、OSや専用アプリが少し不安定だったこと。「山歩きパートナー」を使用中にアプリが落ちてしまうことが何回かあり、システムごと起動しなくなりリセットボタンを押さなければならないこともあった。今後ファームウェアが更新されるにつれてこのような問題は解消されていくと思うが、現時点では少しストレスを感じた。
実売3万円台でベクトルの全国山岳地図データを収録したAndroid端末が手に入るのは魅力だし、有料とはいえ昭文社の山歩きガイドデータが用意されているのも便利だが、それだけに細かい点で「惜しい!」と思われる点も前述した通りいくつかあった。ただ、その多くはソフトウェアの問題なので、ファームウェアやアプリのアップデートで解決する問題ではある。購入を検討する際には、このような長所と課題を見極めた上で考えるといいだろう。
関連情報
2012/8/9 06:00
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