進化するインターネット技術/IETFトピックス2016-17

IPv4をどのように終わらせるか――IPv6普及拡大の前に片づけなければならない課題

インターネット技術の普及に向け、IPv6、DNS、HTTPなど基本となるプロトコルを定めてきたIETF(The Internet Engineering Task Force)。今年11月には、100回目の会合(IETF 100)がシンガポールにて開催される予定である。IETFがこれまで手がけてきたインターネット技術も、技術の進歩と普及により、現在も多くの分野において議論が継続され、まだまだ目が離せない状況が続いている。本連載では、インターネットの普及と発展を目的に日ごろIETFを中心に活動を行っているISOC-JP(Internet Society Japan chapter)メンバー有志が、ここ最近のIETFでの活動状況について紹介していく。

 IPv6は、最初のRFC(RFC1883: IPv6 Specification)が発行されてから、2015年12月に20周年を迎えた。そして2016年には、Googleによる統計で普及率が10%を超え(「Celebrating New Year 2016 with 10% IPv6!」)、Apple StoreにおいてIPv6対応がiOSアプリの必須要件(「Supporting IPv6-only Networks」)になるなど、IPv6に関する話題が多く取り上げられた。

 また、日本におけるIPv6の普及率については、先日、IPv6普及・高度化推進協議会により更新された情報(「アクセス網におけるIPv6の普及状況調査」)によると、GoogleサービスへのIPv6アクセスでは、総じて10%を超える結果となっている。

IPv6普及・高度化推進協議会のウェブサイト

 IPv6の普及が着々と進む一方、IETFではIPv6のコアな仕様を「Draft Standard(DS)」から最上位の「Internet Standard(STD)」に位置付けるための整理が行われており、IPv6の最新仕様についての議論が終盤を迎えている。

 前回に引き続き、IPv6の現状について紹介する。

IPv6の普及状況

 v6ops WGでは、IPv6の普及状況について紹介するような発表が続いている。

 2015年のIETF 92(ダラス)では、日本ネットワークイネイブラー株式会社(JPNE)の中川あきら氏が、日本におけるIPv4 over IPv6サービスの実際の状況についての報告を行った。これは、softwire WGにて策定された「MAP-E」というプロトコルがコンシューマー向けの商用サービスで使われ始めている実例であり、会場の関心を大きく引いた。

 また、初めての南米開催となった2016年のIETF 95(ブエノスアイレス)では、ラテンアメリカおよびカリブ地域の国々のIPv6普及状況についての報告がLACNICからあり、発展途上国においてはIPv4枯渇状況が深刻であり、インターネットの普及が遅れた国ほど逆にIPv6利用が進んでいる、というものであった。

LACNICのIPv6ポータルサイト

 IPv6の普及率についてはさまざまな統計方法があり一概に言うことは難しいが、2015~2016年は確実にIPv6普及の歩みが進んでいたと言えるだろう。

IPv6、残された課題

 約20年のIPv6の歴史を経て、インターネットの利用状況も大きく変わり、IPv6の元の仕様と現実がうまく合わない事情も現れてきた。IPv6のより広範な普及の前に、片付けなければいけない課題を、最後に3つ紹介する。

マルチホーム問題

 IPv6が普及すると、家庭や小規模なオフィスにおいて、2つのISPから別のIPv6アドレス帯の割り当てを受け、冗長化をするようなケースも考えられる。IPv6はIPv4と異なり、1つのインターフェースに複数のアドレスを持つことができるため、そのときに発生するのが、いわゆるマルチプレフィックス問題であり、ホストの挙動、ルーティング、DNSなど、多くの要素が複雑に絡んでいる。プロトコルでの解決方法について、6man WGのほか、homenet WGにて活発に議論が進められている。

有線から無線へ。メディア/端末の変化への対応

 IPv6が提案された当時は、加入者回線は固定回線がほとんどであったが、今やモバイルやWi-Fiが中心に移行しつつある。しかし、無線中心の新しい端末においてIPv6を利用するにあたり、問題が現れるようになってきた。

 例えば、IPv6はマルチキャスト通信を多用するプロトコル設計になっているが、マルチキャスト通信は貴重な無線帯域を無駄遣いしてしまう。特にモバイル端末においては、スリープしてしまうと重複アドレス検出(DAD)に答えられないという問題や、不必要にスリープから復帰して電力を不要に消費してしまう問題が指摘されている。これらの問題を解決するためのND(neighbor discovery)プロトコルの修正や、運用上の対処方法などが、6man WGおよびv6ops WGで議論されている。

 また、“IPv6 over foo”という名前で総称されるイーサネットを含むさまざまなメディアでIPv6を使用するケースも増えている。Bluetoothなどのパーソナルエリアネットワーク(PAN)技術や、産業用無線ネットワークなどにおけるIPv6の利用が、6lo WGや6tisch WGで議論されている。

 今後、数多くのIoTデバイスがネットワークに繋がる時に、IPv6対応が一つの鍵となると考えられる。

IPv4をどのように終わらせるか

 sunset4 WGはあまり活発ではないが、IPv6への完全な移行に向けて、アプリケーション・ホスト・ネットワークがIPv4への依存無しに機能することを目指すWGである。

 2016年3月、「IPv4 Declared Historic」と題されたインターネットドラフトがsunset4 WGに提出されて注目を集めた。IPv4 は、IPv6に取って代わられているので、IPv4の仕様を定めているRFC791を“Historic(歴史的)”というステータスにしようという提案だ。当然、時期尚早という意見が多数であったが、IPv6/IPv4のデュアルスタックをいつまでも続けるのは無駄だろうという考えがあり、いかにして完全にIPv6に移行するか、というテーマを考える上で、象徴的な出来事であったと言えよう。

2016年3月、sunset4 WGに提出されたインターネットドラフト「IPv4 Declared Historic」

 IPv6の歴史の長さもあり、かなりの駆け足になってしまったが、以上、2回にわたり、2016年時点でのIPv6の仕様と普及の状況、残された課題について概要を紹介した。